茶の葉の声に耳を澄まして    Tea-literacy

数千年にわたる茶と人とのかかわりに思いを馳せ、今、目の前にある茶の声に耳を傾ける
お茶にできること、お茶の可能性とは

400年

2009年05月31日 | Weblog
伊藤朱子さんのアトリエで
お茶のお話をさせていただきました
お着物のきれいなお嬢様方と元お嬢様方と
楽しいお茶の時間を過ごさせていただき
お酒の時間に~
お仕事もバリバリ恋愛もバリバリお酒もバリバリ
みなさん、つよっ

お茶のお稽古をされているというお話に
お酒がますますおいしくなりました
「毎日ホントーに忙しいから
 お稽古を続けるのはホントーに大変
 でもその時間に頭をめぐるいろいろなことが
 とても大事だといつも思うから
 這ってでも通うんです」

素敵!飲んで飲んで~

「年をとってくると(って、全然お若い)
 自分だけがうれしくても
 自分だけで何かを成しても
 全然物足りない
 お茶は一座建立
 いいお茶会は
 一人一人が本当に努力して
 成る」

よし、もう一杯♪

「鏡柄杓というけれど
 ホントーに心のブレがはっきりと点前にでますね
 あ~忙しすぎだ、どうにかしなきゃとか
 やっぱり間違った選択をしたかもとか
 会いたい自分がちゃんと出てくる
 400年続くってすごいことです
 半端なしくみではない」

ん~、お酒がおいしい

私もこの400年という年月をよく思いました
数え切れない人たちが
釜の前に座り
柄杓を構え
何を思ったか、を思いました
命をかけても義を通したい
義を捨ててでも人を守りたい
そんな時代から続く
求めてやまないたくさんの人の
想いや願いが
釜の湯気の向こうに感じられるのです

人はどこから来てどこへ行くのか
幾千の旅人の声に耳を傾けたいと思う時
座りたいと私は思うのです
それにしても
日本中の、いえ世界中のあちこちで
このように若い方々が
このような思いで柄杓を構えているなんて
なんか
うれしい

茶道

2009年05月30日 | Weblog
NHKの語学番組「トラッドジャパン」で
抹茶がテーマになっていました
 「抹茶とお湯を茶筅で素早くかき混ぜます」というのを
  英語で言ってみましょう
 「Matcha powder and hot water are whisked together
  with a tea whisk.」です
 stirではなく、whipでもなく、mixでもなく
 whisk を使いましょう
などというレッスンが紹介されていました
茶道から抹茶料理から
いろいろな場面での会話がありました

ナビゲーターのアットキン氏は
オックスフォード大卒で
『日本の衣食住まるごと事典』の著者である文芸家
抹茶は大好きですが
茶道は自分にはちょっと堅苦しいとおっしゃっていました
お茶の時間というのは
もっと気楽なものなのに
日本では紅茶を飲むのにも講座があると
とってもびっくりしていました

アットキン氏は
お茶を飲むのに右だ左だと手順があることがちょっと・・・
という感じなのでしょうか
先日お茶のお稽古にみえたオランダの方も
抹茶大好き、茶道具大好き、茶室の雰囲気大好き
でも茶道はやりたくない
だってcomfortableでないでしょと言ってらした・・・

日本には
飲み物としてのお茶の他に
コミュニケーションのツールとしてのお茶があるのです
また
お茶は修行のためのツールでもあるのです
茶道は
右だ左だを覚えることが目的ではなくて
右だ左だなんて、そんなことに何もひっかからない心を見つける
そのための仕掛けだと私は思っています
そしてその仕掛けは同時に
お茶を最高においしくいただく方法でもあるところが
すごいのです
茶道は堅苦しくない
茶道はスリリングです

お茶の子さいさい

2009年05月29日 | Weblog
抹茶葛のお菓子をいただきました
たねやさんの「お茶の子」です
お茶をいただきながら
「お茶の子」って何?という話になり
「お茶の子さいさい」は何?とひろがっていきました

お茶の子は
お茶に添えて出されるお菓子のこと
それが
囃子ことばのさいさいとくっついて
「簡単にやってしまうこと」
という意味で使われるようになりました
お茶菓子はお腹にたまらないもの
→なんてことないもの
を意味しているのです

「お茶の子」は
戦国時代や江戸時代の文献に
すでに見られる言葉だそうですが
こうした茶菓子説のほかに
単に「軽く食べるもの」も指すこともあるようです
朝起き抜けに軽く食べるものを
お茶の子と呼んでいる地域もありますし
茶粥のことをそう呼ぶ地域もあるそうです

江戸の中期まで
日本の食生活は一日2食が普通でした
ですから
朝ご飯の前の時間は長かったことでしょう
お腹がすいている間にこなす仕事は簡単な仕事でなくてはなりません
「朝飯前」という言い方も納得です

でも
農業や漁業に従事する方は
朝飯前にちょっとお腹に入れるものが必要
それが茶粥であったのです
柳田国男氏は
伊豆の漁師に伝わる「まごちゃ」について
茶の子の子で孫茶と呼ぶようになったと言います
通説は
ご飯に刺身をのせて熱いお茶をかけて食べるのが
とてもおいしいので
まごまごしていると人に取られてしまうから
というものだそうですが
さて
言葉というのはどのように伝わったか
そんなことを考えながら
楽しいお茶の時間でした

『アインシュタインの目』

2009年05月28日 | Weblog
お茶の新芽が2週間かけて育つ様子が
早送りで映しだされていました
ゆっくりと芽を出し
にゅくにゅくと伸び
ういういと一芯二葉が揺れる様子
そして
適摘の日から
どんどんこわ葉になっていく様子が
葉の色の変化も堅さの変化も
しっかりくっきり見ることができました
カメラってすご~~~い

また、急須の蓋の穴が後ろの時と前の時と
抽出されるお茶にどんな違いがあるのか
急須の中で起こっていることが
ばっちり確認できて
長年の疑問が解決しました
穴は後ろの方がほんの少しですがお茶がよく出るのです
カメラってすご~~~い

さらに、お湯の温度によって
テアニンとカテキンの抽出度がどのように違うのか
撚れた葉がほどかれて栄養素が溶け出していく様が
色の違う帯になって見えました
カメラってすご~~~い

「職人のミクロ単位の技など
 人の眼や耳では通常とらえることができない世界を
 1秒間に5000コマ撮れる超ハイスピードカメラ等で映しだし
 物事の真相に迫る」という番組
NHKでお茶をやるよとメールをいただいたものの
うちのテレビでは見られない・・・
車飛ばしてみてきた甲斐がありました
なんか文化的差別を受けているようだわとひがみつつ
画面いっぱいに映しだされるお茶の姿に感動していました

でも
この天気だと茶葉はこれくらい伸びるとか
摘み時はいつかとか
お湯の温度はどのくらいがよいかとか
急須の蓋の穴はどこがいいかとか
答えは何百年も昔から
みーんなわかっていることです
人が
よく観ることで得てきた情報を
今、科学が証明をしてくれている
カメラもすごいけど
人ってやっぱり本当にすごいと思いました
そして
おいしくお茶が出るための適当な時間や温度を
巧みに手前の中に組み込んだ煎茶道に
あらためて粋だなあと感じました

2009年05月27日 | Weblog
小学校の生活科の時間です
おいしいお茶の淹れ方教室
パワーポイントを使った授業で
お茶の歴史や種類、生産・製造過程を概観した子供たちに
実際にお急須を使ってお茶を淹れてもらいます

網帯の急須と湯ざまし
お茶の入った缶とスプーン
90度のお湯の入ったポット
お湯呑茶碗が3つ
それらが用意されたお盆を前に
クラスの代表が二人座って
ほかのみんなが取り囲んでいます

ポットのお湯を湯ざましにとるのも
お茶碗に注ぎ分けるのも
とっても丁寧に
そして真摯な眼差しで
取り組んでいます
「最後の一滴まで残さないように注いでね」
という言葉に
みんなの瞳が急須の注ぎ口に集まっています
「まだ出る・・・」
「あ、これが最後の一滴かな・・」
そんな思いが
みんなの息に感じられました

お茶の葉を急須に投じる時
お湯をお茶の葉に注ぐ時
ドバッとやるとお茶がびっくりするから
「お茶が笑うように淹れてあげてね」
そう言うと
「え・・
嬉しそうな顔をします
そうそう、その顔でお茶を淹れよう

校長室で
「地域の大人が責任を持って子供を守る」
というポリシーを伺いました
急須でお茶を淹れる文化を伝えることはこれに合致すると
校長先生はとても喜んでおられました
40分はあっという間に終わってしまいましたが
自分も淹れたいという子が次から次から
きちんと座って
「加減」に気持ちを集中している姿は
守ってあげたい
そんな気持ちにさせてくれます
子供もまた
大人の背筋を正してくれるのです

「笑茶」は韓国の茶師に教えてもらった極意!
みんなの一生懸命に
お茶の葉はたしかに微笑んでいたようです

緑陰紅一点

2009年05月26日 | Weblog
「緑陰紅一点」
本日の煎茶の雅題でした
藪をイメージするように葉をこんもりと活け
その緑の中に赤がキラリと見えるという趣向
赤は芍薬(しゃくやく)の固いつぼみでした

本来は
この紅は苺なのだそうです
「新緑の季節を迎えて
 山を愛で歩いていた文人が
 その鬱蒼たる緑の中に赤い苺を見つけた」
というような説明がありました
5月に苺?と思った時に
ハッと思いだした風景がありました

先日富士宮で茶摘みをしていた時
茶畑に続く緑の中に
キラリと光る赤いものがあって
吸い寄せられるように近寄れば
それが野いちごだったのです
一つ見つけると
どんどん小さな赤が浮かび上がってきて
みどりの中に引き込まれていくようでした

甘くて甘くて
茶摘みを忘れて苺に夢中
でも
その先はまさに藪
蛇がささっと横切ったのを見ると
宝物を前にちょっとひるみました
緑は五月の若葉の鮮やかさではなく
暗く深くまさに緑陰でした

五月の山の緑の中に
小指の爪ほどの赤が
なんと際立って映っていたか
昔の人も
静かな
そして大きな命の存在に
どきっとしたのでしょう

蓋置

2009年05月25日 | Weblog
蓋置というのは
釜の蓋を置く道具です
当たり前のことでしたが
なんとなく
柄杓置きという感じがしていました
だいたい蓋をおいてしまったら見えないですし
やはり
柄杓を預けた時に
座りがいいとか、かわいいとか
そんな感じで見ていました

竹の蓋置きは
五月になって風炉をすえると
天節(てんぶし)にかわります
そもそも蓋置は
台子皆具の一つとして伝わっていますから
水指(みずさし)、杓立、建水と同様
唐銅(からかね)製のものでした
水屋用に武野紹鴎が竹を切って使っていたものを
利休さんが
大きさを一寸八分(約5㎝)とし
炉用には中節(なかぶし)
風炉用には天節と定め
点前座で使用するようにしました

本来は
青竹を切っては一点前ごとに改めるものでしたが
褐色して白竹になったものに
花押や絵を施したり
斑竹、煤竹、半枯竹なども利用するようになり
青竹は炉開きや初風炉、席披きの時に好まれています

利休好みといわれる蓋置が七種類あります
一閑人、三つ人形、三つ葉、五徳、火舎(ほや)、栄螺(さざえ)、蟹
五徳の形は合点がいきます
利休さんも竹の前はこれをよく使っていたようです
でも他の形はどんな物語があるのか
よくわかっていないようです
三つ人形というのは
三人の唐子が背中合わせに手をつないでいるのですが
湯気のたった釜の蓋をその子たちの頭に乗せるのは
ちょっとごめんねという気分になります
利休七種と言っても
利休さんが好んだという確かな記録はありません
利休さんが茶会でよく使ったのは
竹なのです

青竹をスパっと切って
たった今切ってきましたという蓋置きに
釜の蓋や柄杓を預けると
なにか竹の青い香が
移ったりするのでしょうか

横浜とお茶

2009年05月24日 | Weblog
日本茶インストラクター協会の会報です
表紙の画は
明治18年の横浜港の様子
黒煙を吐く大きな蒸気船には
茶箱が山積みになっていて
それらが艀(はしけ)に積み下ろされています
遠くには富士山
そして茶壷の絵には
「皇国製茶図会 第13号 横浜着船之図」とあります

入間市博物館所蔵のこの浮世絵は
20枚組のうちの一枚で
このシリーズは
明治時代の茶の流通の様子を知るうえで
大変貴重な資料なのだそうです

別の作品から推測すると
この箱詰めされたお茶は
山城(京都)からのお茶で
一度ここ横浜港で陸揚げされて
再度火入れをして仕上げ
長い船旅に耐えるよう梱包し直して
外国商館から輸出されていったのだそうです

1858年に日米修好通商条約が締結され
翌年1859年(安政6年)に横浜港は開港しました
今年で150周年を迎えます
当時お茶は生糸と並んで
重要な輸出品でした
横浜にある外国商館には
「お茶場」と呼ばれる再製火入れ工場があったので
山城のほか
伊勢、静岡、狭山、猿島などからのお茶が集まり
最終の仕上げがされていたのです
横浜港はまさに
製茶・輸出の最重要拠点だったのです

当時輸出されていたお茶の箱には
アルファベット文字入りの
華やかな木版多色刷りラベルが貼られていました
蘭字と呼ばれるこのラベルを制作したのは
浮世絵の職人達
欧文ロゴに花鳥や美人風俗などの絵柄を合体
まさに日本のグラフィック・デザインの先駆けでした
「Extra choicest」「Garden grown」「Fujiyama Tea」など
面白いキャッチが興味深いです





廻し飲み

2009年05月23日 | Weblog
インフルエンザの影響で
「お濃い茶は一人分を点てること」
相伴はなしという通達がお稽古の道場に届きました

でも、そもそもお濃茶も
一人一服でいただいていました
廻しのみを始めたのは利休さんです
尾張藩士近松茂矩編『茶湯故事談』には
「むかしハ濃茶を一人一服づつにたてしを、
 其間余り久しく、主客共に退屈なりとて、
 利休が吸茶に仕そめしとなん」
とあります
吸茶とは濃茶のことです
え?でも、退屈だから・・・?

『昔の茶の湯 今の茶の湯』を見ると
著者の熊倉功夫先生は「一味同心」を理由とされています
「同じ釜の飯を食う」のと同様
廻し飲みは茶の湯の一座建立に
もってこいの方法だったとも思えます
他にキリスト教のミサの方法からきているとも
禅寺で修行僧が一碗でお茶を廻し飲んでいたからとも
いろいろな説があります

「感染」に話を戻しますが
では、一人一碗ならインフルエンザ菌は
感染しないのでしょうか
お茶のお稽古では
いえ、お茶会でもそうですが
お茶碗は洗剤で洗いません
お水で清めるだけです
乾燥機もかけないですし
熱湯消毒もしません

そこで
お茶のカテキンですが
0ー157も撃退するというカテキン
お濃茶の廻しのみの際には
どんな働きをするのでしょうか
こういうことはしかるべき機関で
きちんと実験をしていただきたいなと思います





度会(わたらい)茶

2009年05月22日 | Weblog
この茶畑は三重県度会郡にある
(株)新生わたらい茶さんの畑です
ああ、この中に混ざりたい~
かえるちゃんやてんとう虫や
たーくさんの虫たちがぴょんぴょんしている感じです

画像は
生活クラブの共同購入申込情報紙「Lively」の表紙
「安全・健康・環境」が生活クラブの原則です
という組合ですから
消費材のお茶はJAS有機認証の無農薬緑茶です
おかくずや鶏糞などを発酵させた完熟堆肥や  
生活クラブの菜種油の搾り粕を入れた茶園
お茶は摘んでから一度も洗うことがないからこそ
無農薬は譲れないという理念です

日本一の清流といわれる宮川
この水域でわたらい茶は生産されています
この宮川から湧き上がる川霧が
お茶の成長に影響を与えているそうです
以前この地域を訪ねた時も
出会う村の方々がみな
この川のことを誇っておられました
本当にその地に立つと
川霧がお茶を育てているとわかるものです

わたらい茶の生産者さんは
「安全なお茶」という表現を「うり」にしません
自分たちがお茶を作るという理由で
この清流を汚していいということはない 
古代よりここにあるこの宝と
共生していこうとするなかで
お茶を育てるという仕事をするなら
どうしても無農薬になる
ということです

彼らの基本姿勢は「共生」
「大地や動植物の生態系とも共存・共生すること
 お茶をお飲みいただく消費者の方々や
 栽培する自分たちの健康を守っていくことも
 農家が持つ使命だ」
と語ります

新生わたらい茶さんのHP
「生産者紹介」のページは超かっこいいです

入間(いるま)お茶パラダンサーズ

2009年05月21日 | Weblog
最近茶畑の中継が多くてうれしいです。
そして、
あちこちから
テレビ見てる?という電話やメールが届く♪
皆様、ありがとうございます~。

今日のお昼のNHKは
埼玉県入間の茶畑に潜入!
乗用型摘採機や二人用摘採機、
それに
自走式摘採機(画像)まで
いろいろな茶摘みロボットが働いていました。
ロボットが茶刈りをした後の茶畑は
きちっ~と整然としていました。

多くの茶畑で使われているのは二人用摘採機。
畝の両方から一つの機械を抱えて進むので
体力も要りますし二人の息が合わないとなりません。
ちょっと手が下がるだけで
こわ葉や枝まで刈り込むことになります。
ところがロボット君は
確実に一芯二葉を摘むのだそうです。

こうして摘む作業は機械に任せ、
茶農家さんの力は製茶につぎ込まれています。
入間の7割の茶農家が
自分の製茶工場を持っているといいますから、
これはすごいことです!

現在多くは、
各茶園の茶が全部一つの製茶工場に持ち込まれ、
一緒に製茶されて地域のブランドになっています。
でも本来畑ごとにお茶は違います。
それぞれの個性がいかすことができるならば
茶を育てるのにも力が入るというものです。

やる気に満ちた入間の茶畑では、
畝に沿って茶農家のお嫁さんたちが並び、
軽快な音楽に合わせてパラパらを踊っていました。
21世紀の茶摘み風景、
歌って踊る茶娘です。
「女が元気な村は栄える」そうですから
入間のお茶、楽しみです!

さて、「茶摘み体験フェスタ」のご案内。
日時:2009年5月23日(土) 10:00~15:30
場所:県農林総合研究センター茶業特産研究所(入間市上谷ヶ貫244-2)
    TEL 04-2936-1351
内容:茶摘み体験、お茶づくり実演、新茶・苗木の販売、展示 など
費用:入場無料(申し込み不要)





水の音と熱いお茶

2009年05月20日 | Weblog
葉盆の上に
お茶碗を開いて
小ぶりの柄杓で清めていきます
盆に水がこぼれ
木地が濡れていきます
水を掬う音、水が茶碗に落ちる音、木地が滲みる様
あ、水がうれしい
もうすぐ夏だな~という頃のお手前です

柄杓が動き
水が何度も行ったり来たりして
ぐっと涼しさを演出したところで
いただくお茶は熱いお茶です
お茶をはかり
涼炉から急須を下ろしてすぐに
お茶を投じます
ぼこぼこっとお茶が煮えます
お茶の香が立ちます
お客様に届くまで
お茶はあつあつです

最近のお茶の袋の後ろには
低い温度で甘みを出す淹れ方が書かれていることが多いですね
こうした味わい方も素晴らしいのですが
この
ごぽごぼっという感じも
これから梅雨の季節には特に良いのではないでしょうか
部屋中がお茶のすっきりした香で満たされますし
ふーふーいいながら
熱いお茶をいただくと
目も覚めますし
体中が消毒されたような気になります
(わたしはそうですー)

お茶には
「煎れる」と「淹れる」があります
抹茶の時代(16,17世紀)以前
日本では番茶を煎じて飲んでいました
お茶を「煎れて」いたのです
抹茶以降17世紀後半に新たに伝わったリーフ茶文化は
当時の中国がすでに急須で淹れる緑茶の時代を迎えていたので
昔の「煎れ」方ではない「淹れ」方が意識的に区別され
煎茶に対して淹茶と呼ぶようになったのです
でも今は
「淹れる」でも「煎れる」でもどちらでも良いし
「入れる」は汎用性があるようです

煎茶道では
そんな歴史を語りたくて(?)
「煎茶にいれる」「淹茶にいれる」などの
お手前があるのです

急須で紅茶

2009年05月19日 | Weblog
「これが紅茶?
「まさかこれも紅茶?」
8種の紅茶を手に
たくさんの感嘆詞、疑問詞がとびかいました
白キクラゲみたいな紅茶
KISSチョコみたいな紅茶
つぶつぶの紅茶


「茶の発展はそれぞれの時代の社会風潮を反映している」
岡倉天心のこの言葉は紅茶のことを語ったわけではありませんが
並んだ8種のお茶は
人とカメリアシネンシスの
5000年にわたる旅を物語っていました

中国の岩茶で有名な武夷山の桐木が
紅茶発祥の地という説をご紹介しました
緑茶を作っていた村に軍隊が攻め入り
茶農家さんは製茶の途中で避難
村に戻ってみると大事な茶葉がすっかり酸化してしまっていた
それでも村の重要な収入源ですから
なんとか製茶してオランダに向かう船に乗せたところ
その赤いお茶の
今までにない甘い香りがヨーロッパで大うけとなり
この偶然が
「紅茶」という形を生み出したという歴史
17世紀はじめの頃のことです

その後
ヨーロッパでは緑茶から紅茶へと需要が移っていきます
小麦粉の文化
お砂糖の文化
マイセンの文化とともに
紅茶はどんどんヨーロッパの人の心をとらえ
それが
アメリカの独立戦争や
清とのアヘン戦争にもつながってもいきました

講座に参加していた学生さんが質問されました
「武力で奪い取らないで
 どうしてイギリスは自分たちでお茶をつくらないのか」
お茶の生産は植物学的に北緯45度以南といわれています
今でこそお茶の生産もしていますが
当時は気候が違いすぎると考えたことでしょう
大きな船が世界を闊歩しはじめ
北の国が南の国々の豊かな農産物に憧れた頃で
植民地化がどんどん進みました
正統な貿易の時代を迎えるには
まだ時間がかかるのでした

風林火山

2009年05月18日 | Weblog
信玄餅で有名な「ききょうや」さんが
地元山梨の「まるわ茶園」さんのお茶でつくった「風林火山」
品評会の受賞歴が連なるお茶屋さんです
急須で淹れたようなお茶
あ、信玄餅が食べたくなるかも

武田信玄と上杉謙信の12年にわたる川中島周辺の争奪戦の中で
信玄が布陣し、「風林火山」の軍旗がひるがえった場所に「茶臼山」があります
「茶臼山」という名の山は日本に200以上もあるとか
かつて戦国の武将が布陣する度に
その山をそう呼んだのでしょうか
頂上が平らで富士山型が多く
陣をしくのに都合のよい山のようです


どうしてその山が「茶臼山」なのでしょう
「茶臼は引かでは落ち申さず。
 一先引き候えば、敵は粉になし可申候えば、
 実(げ)にも実にもとて……」
布陣すればまず一服
落ち着いた証にお茶を挽いて茶会をはじめる
それが戦国の武将のお約束だったようです
茶臼を据えて侵略の証し
しかし
戦さの度に茶臼を運ぶ係りの足軽さんは気の毒
もっと早くに煎茶が伝わっていれば
急須でお茶だったかしら
いえいえそうでもないようです

戦場跡からは破壊された多くの石臼が発見されるそうです
なぜ破壊されているかといえば
臼の断面を見ると種類の違うものがあるようで
ひとつはお茶を挽くものですが
もう一つはどうも火薬を挽いていたとか
ですから敵に陣を奪われるときには
火薬を作る道具は壊してしまうということです
火薬用の石臼の精度は戦の数とともに磨かれ
同時に石を削る技術も高まり
抹茶の質も上がっていったとか

甲府市の大泉寺さんには
信玄愛用の茶臼「いぽ丸」が保管されているようです

同志社大学名誉教授 三輪茂雄先生のご研究を参照しました

揉む

2009年05月17日 | Weblog
田舎のない私が
九州で静岡で
よそ様のおうちに泊まらせていただき
よそ様の畑に入らせていただき
お茶を摘んだり揉んだり楽しませていただき
本当に感謝感激の春でした

「摘む」ところから「飲む」までを一気に体験できて
初めて気づくことがたくさんありました
朝の天気、土の温度、お茶の体温
全身が温度計になってお茶の声を聞いています
籠の中のお茶の葉が
「あ、もう揉んで欲しがっている」とか
「もう少し萎えたがっている」とか
そんな感じがなんか伝わってくるのです
シロートのくせに~
なのですが、それがいいのです

お母さんがホウレンソウを茹でる時の感じです
おみそ汁にするのか、バター炒めにするのか
しゃきしゃきが好きな子供が食べるのか
歯が悪いおじいちゃま食べるのか
その時々でゆで加減があります
一番おいしくなるように茹でる
こころはそれだけ

蒸したお茶を揉むときも全く同じ
教科書を見て
何分揉んだら何分乾かしてと数字できめてはつまらない
でもやっぱり
これはとっても難しいです
お茶を揉むというのは
壊してしまいそうで崩してしまいそうで
お茶のおいしいエキスが筵(むしろ)に行っていまいそうで
なかなか感覚がつかめません
そうしていつも揉み足りない・・・
つまりよく出ないお茶になる
「揉捻」の加減がどうもわからないです

製茶工場の揉捻機は見ていて飽きません
よくぞつくったものと感心します
人の手の仕組みの素晴らしさと
お茶の葉の性質と
おいしいお茶に仕上げたいという愛と
それらを全部引き受けたロボット
ロボットもやるもんです

でも
焼き茶は揉まずにおいしかった
碾茶も揉まずに甘い抹茶になるし
やっぱり頭がいろいろうるさくて・・