茶の葉の声に耳を澄まして    Tea-literacy

数千年にわたる茶と人とのかかわりに思いを馳せ、今、目の前にある茶の声に耳を傾ける
お茶にできること、お茶の可能性とは

ポツダム看護婦

2013年08月15日 | Weblog
5つ前の夏の日のことでした。
その頃のお稽古は、先生と二人きりのことが多かったのです。
その日もとても暑い日でした。
私の点前を見てくださった後、
先生は私に一服点ててくださると言って
点前座につかれました。

お湯をとりながら、
「蛍がね、蚊柱が立つように群れて光ってたのよ」
そうおっしゃると、しばらく手を止めて
釜から立つ湯気の向こうに遠い記憶を尋ねているようでした。

「どこでご覧になったのですか?」

「ボルネオ。戦争に行っていたの」

びっくりしました。
先生が、戦地に行っていらしたなんて、初耳でした。

「お茶はいいわねえ。
 どんな気持ちも受け止めてくれる」
先生は泣いておられました。

その年の暮れ、先生はふとお稽古を終わりにされ、
お目にかかる機会も少なくなりましたが、
お家に伺うたびに
戦争の記憶の断片を文字に起こされているお姿がありました。

2009年3月14日「一碗」
2010年8月23日「生きる」
2010年9月4日「生きてこそ」

そして、この度、その貴重な物語が一冊の本になったのです。
ジャーナリストの村上和巳氏が巧みに聞き取りをなさり、
散らばる哀しみや憤りを見事にまとめてくださいました。
私はテープ起こしのお手伝いをしました。

「当時はみんな一生懸命だったの
 お国のために頑張らなくちゃならないと思ってたの
 兵隊さんを助けなくちゃいけないと必死だったのよ」

「でも、戦争なんて、けっしてあってはいけないの」

何十年も、茶が先生の胸中を引き受けてきました。
そして、今、次代へのメッセージを残すことができました。


ポツダム看護婦 (上) [Kindle版]
村上 和巳 (著)
出版社: アドレナライズ (2013/5/20)
販売: Amazon Services International, Inc.


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