Mooの雑記帳

日々の感想などを書いていきます。

5月7日(火) 地方自治法改正案を廃案に!(その3)

2024-05-07 19:57:40 | 日記

4.この法案の問題点とねらいは・・・
(1)憲法92条に定める地方自治の本旨に反し、団体自治と住民自治を著しく歪め損なうことになる。
現行憲法は、「地方自治の本旨」として、自治体が政府から独立した機能を持つ団体自治と住民の意思に基づく住民自治を求めています。
2000年の地方自治法改正で、「国と地方の関係が上下・主従の関係から対等・協力の関係に変わり、機関委任事務制度の廃止や国の関与に係る基本ルールの確立などを実施し、地方分権型行政システム(住民主導 の個性的で総合的な行政システム)が構築された」(総務省)としている通り、多くの法定受託事務を残し、国の指示権も維持するという弱点を持ちながらも、地方自治の拡充に向かっていました。

地方自治体の扱う事務も、それまで国が包括的な指揮監督権を持ち地方の条例も及ばない機関委任事務と代執行・知事罷免制度を柱とする「国の事務」であったものが、2000年に廃止され、機関委任事務の大半は法定受託事務(国が本来果たすべき仕事を委ねる)と自治事務(法定受託事務以外)に二分されることになりました。法定受託事務は限定的に国の指示権を認めていますが、自治事務について国は要望を出すことはできても指示はできないことになりました。
しかし、今回提出された改正案では、法定受託事務と自治事務の違いを無視し、自治体のあらゆる事務に対して国が権力的に介入して指示権を行使できるようにすることが柱になっており、地方自治の発展方向に全く逆行し、地方自治を著しく侵害するものです。

(2)指示権には限定がなく、恣意的に拡大される危険がある。
これについては、まず法案の条文そのものを見ておくのが近道です。

(生命等の保護の措置に関する指示)
252条26-5 
各大臣は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の規模及び態様、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に係る地域の状況その他の当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を勘案して、その担任する事務に関し、生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため特に必要があると認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置に関し必要な指示をすることができる場合を除き、閣議の決定を経て、その必要な限度において、普通地方公共団体に対し、当該普通地方公共団体の事務の処理について当該生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。

いかがでしょうか。注意深く読まないと見逃してしまいそうですが、よく読めば大変恐いことが沢山書いてあることがわかります。
この改正案では、指示権が発動される場面として「大規模な災害、感染症のまん延その他」と書き、「その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合」としています。さらに、「特に必要があると認めるときは」「閣議の決定を経て」となっています。一体これらは何を意味するのか。

① 第1に、重大事態の「発生するおそれ」のあることも指示権発動の条件ですから、問題が発生する以前から発動される危険があることです。

② 第2に、「その他」の意味するものは何かです。すでに見たように、災害や感染症については個別法があり、そこで必要な指示ができるようになっていますから、「その他」のもつ意味が変わってきます。つまり、地域紛争、戦争、内乱・テロなどがこれに含まれてもおかしくないということです。

③ 第3に、発動の手続きとして、国会承認は必要なく「閣議決定」のみとされており、しかも、各大臣が「必要」と認めればどんなことでも指示できることになることです。

日本弁護士連合会は、1月に国に提出した意見書で次のように指摘しています。

現在の自治事務に関する国の指示権を個別法で定める場合の要件である「国民の生命、身体又は財産の保護のため緊急に自治事務の的確な処理を確保する必要がある場合等特に必要と認められる場合」と比較すると、「緊急に」との用語を使用しないことにより要件を緩和するとともに、「おそれがある場合」、「迅速な対応に課題があるなどの地域の状況その他の当該事態に関する状況を勘案して」など余りに曖昧で、「内閣が特に必要だと認めた場合」という運用となることが予想され、結局のところ、現場に混乱と、誤った対応を生じさせ、かえって、国民を危険にさらすことになる。

以上から、政府の恣意的かつ強権的な指示権の濫用に道を開くものであり、法治主義のもとでは許されるものではありません。

(3)自治事務に対する国の不当な介入を許し、地方自治体を国に従属させる。
ここまでくれば、国と地方自治体の関係を「対等・協力」から「上下・従属」に変えようとする法案の意図は明白でしょう。
 歴代自民党政権は、「地方分権改革」とうたいながら、自治体の権限や財源を抑制し続けてきました。住民の利益を守るための自治事務についても国の指示を可能にするのですから、自治体をまるごと政府の下請け、従属機関にしようとするものです。

(4)有事法制の一環としての役割を担い、自治体を戦争体制に組み込むことを可能とする。
次は、沖縄県弁護士会「会長声明」の一文です。

今回の改正案は、法定受託事務について国が指示権を行使しうる範囲を広げるとともに、より一層地方公共団体の自治が尊重されなければならない自治事務についても、国の一般的な指示権を認めるものである。辺野古新基地建設問題にみられる国の沖縄県における地方自治への向き合い方からすれば、先に指摘したような恣意的な運用や濫用のおそれ、自治事務への不当で恣意的な介入のおそれは、現実的なものといわねばならない。
 
また、「改憲問題対策法律家6団体連絡会」による、法律家団体の「声明」では、
「自治体を丸ごと戦争態勢に組み込む」「明文改憲による緊急事態条項を先取り」がこの法案の本質であることを明らかにしています。

 外部からの武力攻撃などに対処する有事法制(事態対処法、国民保護法等)では、自治体の役割は住民避難などの国民保護に限定されていて、自治体を戦争態勢に全面的に組み込むことは予定していない。そのため、国の自治体に対する指示権は、避難・誘導・救援と港湾・空港の利用に限定されており(国民保護法第52条、第56条、特定公共施設利用法第9条、第1111条)、指示や代執行に至るには、自治体を含めた総合調整と自治体の意見申し出の手続を経なければならない(事態対処法15条、16条)。 
 ここに拡大された指示権が加われば、自治体の意見も聞かないままで、有事法制が認めていない広範な指示をすることが可能になる。そうなれば、自治体や地方公務員を戦争遂行に根こそぎ動員することも不可能ではなくなり、「自衛隊のために通行路を開く指示」「施設に防護措置を施す指示」や「ミサイル攻撃に備えて職員を庁舎に待機させる指示」なども発動されかねない。しかも、危険が現実化していない「おそれ」の段階での指示も可能であるから、「台湾有事のおそれのもとで基地建設に協力する措置」すら指示できることになりかねない。

2015年に成立した安保法制や2022年に閣議決定された安保3文書のもとでは、この改正案は自治体を戦争体制に組み込み、国民を統制することにつながる危険を持つものと見做さざるを得ません。


5月7日(火) 地方自治法改正案を廃案に!(その2)

2024-05-07 15:44:39 | 日記

3.この法案に果たして立法事実はあるのか・・・

首相の諮問機関である第33次地方制度調査会は、2023年12月にポストコロナの経済社会に対応する地方制度のあり方に関する答申」(以下、答申)を岸田首相に提出。総務省を主管省庁として今国会に提出された「地方自治法の一部を改正する法案」は、この答申をベースに作られています。従って、法制定の立法事実らしきものはこの答申の中で触れられています。

答申を読むと、「第4大規模な災害、感染症のまん延等の国民の安全に重大な影響を及ぼす事態への対応」では、まず、「問題の所在」として、国と自治体との間の役割分担に関して「当時の感染症法の規定では想定されない事態に直面」したとの認識が述べられ、その一例として「令和2年2月にダイヤモンド・プリンセス号船内」で多数の新型コロナ感染症患者が発生した事例を挙げています。

答申では、「感染症法上の役割分担にかかわらず、事実上、国や都道府県が一定の役割を担わざるを得ない事態に至った」「、国と都道府県との間で考え方の相違によって調整が難航した事例もあり、一体となって対応できる仕組みの必要性が指摘されている」などと書き、その上で次のようにまとめています。

こうした課題を踏まえ、その都度、新型インフル特措法、感染症法について必要な改正が行われてきた。しかしながら、こうした困難な事態を招いたという事実は、地方自治法を含め、現行法制による国と地方公共団体の関係における国の役割、都道府県と保健所設置市区の関係における都道府県の役割が、大規模な災害、感染症のまん延等の国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に備える個別行政分野の関係法(以下「個別法」という。)が想定しない事態に対し、十分に対応していなかったことを示すものと評価しなければならない

自然災害についても同様の認識が示されています。その上で、個別法では見直しが進められてはいるが、「今般の新型コロナ対応や、近年の自然災害の発生状況は、個別法において想定されていなかった事態が生じること、こうした事態であっても国と地方が連携し、総力を挙げて取り組む必要があることを、改めて認識させるものであった」と述べています。

これらの事例を「立法事実」として挙げながら、「3 役割分担の課題と対応」で、「地方公共団体の事務処理が違法等でなくても、地方公共団体において国民の生命、身体又は財産の保護のために必要な措置が的確かつ迅速に実施されることを確保するために、国が地方公共団体に対し、地方自治法の規定を直接の根拠として、必要な指示を行うことができるようにすべきである」と提言しているのです。

客観的な評価を装いながら、都合よく「理由らしきもの」を並べているにすぎません。新型コロナについての対応で、各市町村の自治体や病院・保健所の職員にどれだけの困難と苦労を強いたのか、当時の新聞やその他の報道を調べてみればすぐにわかることです。たとえば、とくに大阪などで顕著であったように、保健所が大幅に削減され対応出来る人員が削られたために、新型の感染症に対応しきれなかったことは記憶に新しいところです。国の指示があれば、そうしたことが起こらなかったとでもいうのでしょうか。答申では、国に都合のよい事例をつまみ食いしているだけで、現場で何が起こっていたのかについては全く触れていません。

答申で引き合いに出されているダイヤモンド・プリンセス号に関わる対応について、自治体労働者でつくる自治労連は、当時の関係者の証言をまとめた書籍『新型コロナ最前線2020-2023 自治体職員の証言』のなかで、具体的な事例を紹介しながら、そもそもの立法事実が歪められたり間違ったりしていることを告発しています。

能登半島沖の地震災害についても、国の指示があれば復旧・復興や支援対策が見違えるように進んだであろうなどと信じる人は誰もいないでしょう。むしろ、国からの支援策が劣悪であることや、国による度重なる行革のために自治体の人員不足がすすんでいることが遅れの原因になっているのは明らかです。

日本弁護士連合会は意見書で次のような事例を紹介していました。

熊本地震の際に、車中生活を送っている人の窮状がマスコミで取り上げられたことから、当時の防災担当大臣が避難者を体育館に入れるようにと言ったのに対して熊本県知事が、現場の実態を踏まえてこれを拒否したことがあった。その数日後に震度7の地震が起きて、避難所になっていた体育館の屋根が落下。仮に国の指示に従っていたなら多数の死傷者が出たに違いない。

このような過去の教訓を踏まえて、意見書は次のように続けています。

答申では、大規模災害及びコロナ禍を例として取り上げて、国の指示権を認めるべきとするが、事実に基づいた分析検証が行われているとは言えない。・・・
答申では、このような災害の特性を考慮することなく、一律に国の指示権を認めるべきとするが、法制度、事実の両面において、十分な分析検証が行われたとは到底言えない。これまで、災害毎の教訓等を踏まえて緻密に積み上げられてきた現在の枠組みの意味等を考慮しないものであり、立法事実もない議論と言わざるを得ない。