理想国家日本の条件 さんより転載です。
©2019『長いお別れ』製作委員会
認知症になった父と家族の7年間を描く映画「長いお別れ」
2019.05.25
https://the-liberty.com/article.php?item_id=15817
父の70歳の誕生日。久しぶりに帰省した2人の娘に母が告げたのは、中学校の校長を勤めた厳格な父が半年前に認知症になったという事実だった――。
それぞれの人生の岐路に立ち、悩みながらもその事実を受け止め、父とともに前に進む娘たちとその母、ゆっくり記憶を失う父・昇平との7年間を描いた映画「長いお別れ」が、5月31日から全国公開される。
長女・麻里は、夫の転勤で息子の崇とともにアメリカに住んでいるが、英語は不得手で、異文化になかなか慣れることができない。夫ともすれ違いを感じ、さらに崇が成長するにつれ、どう息子に接していいか悩み続けている。
「カフェを開く」という夢を持ちながら、スーパーの総菜コーナーで働く二女・芙美は、移動ワゴン車でランチ販売を始めるも、売り上げは伸びず、恋愛もうまくいかない。
アメリカと日本で、それぞれ悩み、壁にぶつかりながらも、認知症になった父に向き合い、1人で介護する母を支えようとする姉妹。母・曜子も、記憶を失う夫を明るく献身的に支え続ける。
©2019『長いお別れ』製作委員会
豪華キャストが贈る現代日本の家族の姿
認知症と介護という、現代日本の問題をリアルに、あたたかく、どこかユーモラスに描く本作。最初は記憶があやふやだったり、すぐに忘れてしまったりする程度だった父の認知症が、歳月を重ねるにつれて少しずつ症状が進行する姿は胸に迫る。
かつては厳格で読書家だった父が、だんだんと記憶を失っていく姿を圧巻のリアリティで演じたのは、紫綬褒章や旭日小綬章を受章した、日本を代表する名優・山﨑努。
そんな父に寄り添う二女・芙美役には、映画「彼女がその名を知らない鳥たち」で第41回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得するなど、2017年度の主演女優賞を総なめにした蒼井優。
長女・麻里役には、日本アカデミー賞を4度受賞し、映画やドラマ、舞台やCMなどで活躍する竹内結子。母・曜子役には、かつて日活三人娘の1人として一世を風靡した松原智恵子。
日本を代表する豪華キャストが贈る、現代を象徴する家族の姿は、観る人一人ひとりの心に染み入ってくる。
©2019『長いお別れ』製作委員会
つらい経験から得られるもの
「だいじょうぶ。記憶は消えても、愛は消えない。」
映画のキャッチコピーの通り、記憶が少しずつ失われ、一見すれば意味不明な言動が増えても、父の姿や言葉の節々には、家族への限りない愛がにじむ。たとえ認知症になっても、その心には永遠に消えない愛があると、この作品は教えてくれる。
認知症患者のつらさや家族の悲しみ、介護の大変さを描きながらも、登場人物たちは決して希望を捨てない。涙と笑顔で彩られたそれぞれの7年は、つらい経験から得られるものの大きさを伝えてくれる。
大切な人が認知症になり、悲観に暮れた経験のある人、現在介護に追われている人──全ての人に見てほしい、笑って泣ける感動作。
(駒井春香)