●〔87〕立川談四楼『石油ポンプの女』毎日新聞社 1995(2008.09.05読了)
○内容紹介
練達の技。
○内容紹介
登場いたしますは、せめて十年早く入門してりゃ…の遅れてきた落語家たち。対立候補を同時に応援させられる破目ンなるわ、お客求めてアフリカ遠征までするわ、アイドル歌手への道はきっぱりと捨てるわ、あげくにキテレツな女と運命的に遭遇しちまうわ。時流がわからネェ絶対に売れネェ、要するに談四楼の分身みたいな連中の、落後しそうに不器用な日日を、情熱的な軽妙さで語る。
練達の技。
主人公をすべて、昭和四十五年の入門としたのには理由がある。私が昭和四十五年に入門したこともあるが、私は昭和四十五年を、落語界最後の黄金期と見ているからである。
あの大阪万博と三島由紀夫割腹自殺の年、少くとも志ん生、文楽、円生は生きていた。若手落語家はテレビで活躍し、寄席もまだまだ健在であった。しかしその昭和四十五年を境に、古老も寄席もバタバタと倒れ、若手の活躍の場は、関西の芸人やタレントと称する連中によって次々と奪われていったのだ。
今や古老は小さんを残すのみとなり、後に続く談志や円楽が寄席に出ないのを、客も落語家も不思議に思わない。そして志ん朝は、ついに老人用オムツのCMに出るに至った。
二十年、いやせめて十年早く入門していれば何とかなった落語家を、書いておきたいと思った。昭和四十五年に入門した遅れてきた落語家が、前座や二つ目の頃に何を考え、今どんな真打になったか、それを書きたいと思った。(「あとがき」p.244)