●〔91〕戸川昌士『猟盤日記』ジャングルブック 1996 (2006.11.18読了)〈2006194〉
○内容紹介
どこどこの中古店で、こんなレコードを見つけた、ああ嬉しい、というたわいないトホホな日記。ロック思い入れ過剰マニア誌『ゴールドワックス』に連載中の「猟盤日記」7年分を収録。
厠上の書。著者が集めているレコード、CDは私の興味があるジャンルとは全くかぶりませんが、あまりの面白さについつい読み進んでしまいました。絶妙の脱力感がたまりません。著者はマニアを突き抜けたところにあるのではないかと思います。古本屋のオヤジやマニア仲間との交流もいい味が出ています。また、1989年~1995年の日記ですので、阪神淡路大震災に罹災した様子も描かれています。
○しみじみとした話
2月某日
高橋君からアイドルマニアの西島さんが急死した事を聞かされた。びっくりした。昨年、道でばったり会ったのに(いや、喫茶店だったかな)。交通事故だそうだ。西島さんはオートバイを載りまわしていた。転んで電柱に頭を強く打ったそうだ。
「かわいそうにね。ボク、葬式に行ったのよ。そのあと、お家にも行って、お母さんから形見分けにレコードを10枚ばかりいただいたのよ」
「へぇっ、よかったね」と、私はあいづちを打っただけで、どんなレコードをもらったのか、訊かなかった。西島さんはアイドルおたくだったが、フー、キンクス、ヤードバーズもたっぷり持っていたはずだ。
「形見分けをもらいに行った時ね、コレクターの人が2人来ていてね、紙袋にいっぱい詰めてもらってたよ」(中略)
電車の中で、生前の西島さんの事をあれこれ思い出してみた。よくコーヒーをおごってもらったなあ。西島さん、レコードの話しかしなかった。あっけなかったなあ、西島さん。(p.145)
3月某日
朝8時、電話に起こされた。西島さんのお母さんからだ。形見わけを受け取って欲しいとの事。(中略)
ちょっと困った。西島さんはアイドルだけでなく、ビートグループのシングル盤も相当所持していたのだが、これは西島さんが生きていたら、そう簡単に譲ってもらえるシロモノではない。死んでしまったから、ハイハイともらいに行くというのも、生前の西島さんをよく知っているだけに、何かひっかかるものがある。この正直な気持ちをお母さんに伝えると、
「そんなに堅苦しく考えなさんな。私にとってはゴミみたいなものですし。好きな人にもらっていただければ、私は嬉しいのよ。ねっ、もらって下さいね」と言われた。(中略)
こうまで言われてはしようがない。おとなしくいただく事にした。それにしても、物欲が抜けているところに次々とレコードが入ってくるなあ。物欲の旺盛なときには、欲しくても入ってこないものなのよ。おかしなものです。(pp.153~154)
本書には現在まで4冊の続編が出ています。早く入手して読みたいです。
なお、著者はリストラに遭い、現在は古本屋「ちんき堂」を営んでいるとのことです。
※ちんき堂ニュース