すれっからし手帖

「気づき」とともに私を生きる。

「良い」を言いすぎると、問題が生まれる。

2014-11-04 10:36:04 | 世の中のこと
脳腫瘍で余命半年を宣告されたアメリカの29歳の女性が、「尊厳死を選ぶ」という本人の予告通り、亡くなった。

昨日の夕方、NHKがニュース7で詳しく報じていたのを見た。

尊厳死についてあれこれ考えるというよりも、映像で見た、まだ生命力にあふれた若い女性が、この世から消えてしまったという事実に「淋しい」という感情が湧く。

でも、そんな彼女が辛い闘病と死の恐怖を超えて出した結論だから「尊い」とも思った。

彼女の選択について賛否両論あるという。

当然だと思う。

個人的には、わざわざ安楽死をメディアに予告した女性の行動と、それをセンセーショナルに扱うニュースに、なんとなく違和感を感じた。


尊厳死や安楽死の問題は良い悪いの問題ではないと思う。正しい正しくないの問題でもないと。

そうしたいと思う人と、そうしたくない人がいる、だけ。

だからわざわざ両者を対立させる必要も、もちろん妥協させる必要もない。

彼女の選択も、反対する人たちの非難のコメントも、大きく取り上げることで、対立を鮮明にすることで、かえって両者の選択や意思の尊厳に傷をつけてしまった気さえする。


こういうニュースを過剰に伝えることが、つねに問題を作る。争いを生む。


もともとは違う考えの人たちがいただけなのに、どっちのメリットとかデメリットとか、どっちがいいとか悪いとか言い出した時点で、問題が生まれる。

何かを「良い」と言いすぎることは、その何かの反対側にあるものの「悪い」につながる。反対側にある人の多くが、そうして反発したくなる。

その構図はどこにでも転がっている。


少し前、母乳の成分が子供が将来かかる生活習慣病のリスクを減らすというニュースに、とある女性漫画家が「こういうニュースがどれだけ母親に影響を及ぼすか」と怒ってツイートしていた。母乳育児推奨に大きく偏っている時代、確かにミルク派や早く断乳したお母さんは肩身が狭いかもしれない。

それに対して、「ただ客観的事実を述べているだけでは」とRTしている母乳育児のお母さんもいた。感情的とはとれなかった。

2人の間で何度かやりとりがあって、そしてもちろん和解などはなく、なんともいえない雰囲気で物別れしていた。

どっちの気持ちも言い分もわかるから、見ている私の気持ちまでもがザラついた感じになった。

何かが「良い」と言いすぎると、ましてやニュースなんかでやってしまうと自ずと「悪い」を作り出してしまうということなんだ。

そういうこと、母の世界には、もう嫌というほどある。

「母乳で育った子は幸せ」というと、
「ミルクで育った子は不幸」となる。

「幼稚園出身の子は、お行儀がいい」というと、
「保育園出身の子は、お行儀が悪い」となる。

「働いてるお母さんの子供は自立している」というと、
「専業主婦のお母さんの子供は甘えている」となる。

「兄弟がいるのは良いこと」というと、
「一人っ子は悪いこと」となる。

「女の子を産むことは勝ち組」というと、
「男の子を産むのは負け組」となる。

何かを良いと言いすぎると、傷つく人がいるということを、私も母になって学んだ。

私もたくさん傷ついたし、きっと知らず知らずのうちに誰かを傷つけてきたのだと思う。

人とともに生きる中で、何かを「良い」という時には、その反対側にあるものを傷つけてしまう可能性のあることは、知っておく必要がある。

「私は、これが良いと言っただけ。それが悪いなんて言ってない」

っていう人もいるかもしれない。

うん。わかるけど、でも、
例えば男の子の母である私に、
「女の子はいいよ。男なんて産んでも損」
って言われたら、反応もしたくなる。

だから、やっぱり他人を適度に慮る気持ちと、「良い」のはあくまで「自分にとって」という前提を忘れないでいたい。自戒もこめて。そうしたら、言い方も自ずと変わるはずだから。


反対側になった時の心構えもある。

自分の選択は、誰かの「良い」の反対側であっても、それは「悪い」を意味するものじゃないってこと。誰かの「良い」は、誰かの「良い」であって、私の「良い」「正しい」ではないのだということ。

それがきちんと腹に落ちていたら、余計に傷つかなくてもよくなるかもしれない。

「そんな言い方されると傷つく」

とピシャリとやって、あとを引かないですむかもしれない。


そもそも、人間がエゴをもとに考えること、行動することに、良い悪い、正しい正しくないなんてジャッジは、向かない。

誰かを直接的に殺したり傷つけたりするわけではないなら、どっちでもいい。

本来は、好き嫌い、するしない、したいしたくない、しかないのだよ、きっと。



最後に、やっぱり、

自らの尊厳死を選んだ女性の冥福を祈りたい。

闘病生活お疲れさまでした。安らかに、お眠りください。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿