ものぐさ日記

ひとり遊びが好きな中年童女の日常

放浪者

2007年11月08日 | 映画

 「インド映画の輝き」で上映された「放浪者」(AWARA, 1951)を見ました。

 インド映画界のキング、ラージ・カプール監督・主演作品。日本語字幕は、私のヒンディー語の先生、長弘毅氏が監修です。

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 ラージの母リーラーは、裁判官を目指す判事、ラグナート(プリトヴィーラージ・カプール)の妻だった。彼女は判事と結婚する前に、前の夫に死に別れ、判事の家族は、「未亡人と結婚するなんて」と反対したが、リーラーに対するラグナートの愛は強く、家族の反対を押し切り結婚し、ふたりは幸せに暮らしていた。ところがある日、リーラがジャッガーという名の男に誘拐される。ジャガーは、ラグナートによって有罪となり、刑務所に入った盗賊だった。ジャッガーはリーラーにこう話す。
 「俺の親父は盗賊だ。親父の親父も盗賊だった。俺は違う。しかし、お前の亭主は、『盗賊の子として生まれてきたものは、必ず盗賊になる』といって、俺を有罪にしたんだ!俺が強姦をしたと!その通りにしてやる!」

 だが、リーラーが妊娠していることを知ったジャッガーは、彼女に手を出さずに、ラグナートの元に返す。
 「見届けてやろうじゃないか。紳士の子が必ず紳士になるのかどうか…」
 
 恐ろしい実験の始まりだった。

 リーラーが戻ったことを喜んだラグナートだったが、「4日も盗賊と一緒にいた女だ。腹の子の父親が誰かわかったものじゃない」という、世間の噂に苦しめられる。臨月のリーラーが苦しんでいるのに、ラグナートの家のものは、「汚らわしい子供をこの家で産むのは許さない」と、誰も面倒をみてくれない。ラグナートの、リーラーに対する懐疑心も強くなるばかりで、不義の子を身ごもっているという妻を持っている限り、出世できないと思うようになる。とうとう耐えきれずに、ラグナートは、身重のリーラーを家から追い出してしまう。行く先のないリーラーは、スラムで子供ラージを産む。

 生まれた時から、父の顔も名も知らないラージ(シャシ・カプール)は、貧しいけれど、ラージを父のような判事にしようと思う母の手によって育てられ、スラムに住んでいながら、学校に通わせてもらっていた。学校では、お金持ちのお嬢さんのリターとも仲良くなるが、家は貧しく、ラージも靴磨きをして稼ぐようになる。ある日、靴磨きをしていて、学校に遅刻してしまったラージは、教師から、「もう学校に来てはならない」と言われ、勉強を続けることができなくなってしまった。家では過労のため、寝込んだ母が、精神状態にまで異常をきたすほど、飢えていた。母に食べ物を…と思う一心で、ラージはパンを盗もうとする。

 成長したラージ(ラージ・カプール)は、刑務所に出たり入ったりするようになっていた。真面目に働いても、手に入らなかったパンが、刑務所では、当たり前のように出てくる。いつしかラージは、ラージ母子を、こんな境遇に追い込んだ張本人とも知らず、ジャッガーの手下となっていた。

 ある日、車を盗もうとしたラージは、金持ちの娘を騙そうとして近づく。なんと、それは、12歳の時から、一度もあっていなかったリター(ナルギス)だった。しかも、リターは、両親が亡くなってから、父の友人で、今や裁判官となったラグナートの保護を受け、判事になる勉強をしているところだった。

 幼なじみだったラージとリターは、たちまち恋におちる…

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 敵に誘拐された妻の不貞を疑う、という設定は、ラーマヤナー(ラーマヤン)と同じですが、むしろここでは、「盗賊の子は盗賊に、紳士の子は紳士になる」という自説を曲げない人が、法に携わる仕事に就いているということが注目点。インドには、今でも、カースト差別があります。もちろん、法律的には、平等だということになっていますが、実生活では、理由なく軽蔑されたり、交際や結婚の障害となることも多く、不利益を被るカーストの人に対する、優遇措置などもあります。この映画では、カーストではなく、親の生業についての差別をテーマにしていますが、出自という意味では、同じです。この映画ができたのは、1951年。今でこそ、異カースト間の恋愛結婚も増え、また経済力をバックグラウンドに、社会的な地位を築いている人も増えたインドですが、50数年前には、今よりさらに重い意味を持つ映画だったと思われます。

 ラグナート役は、ラージ・カプールの実父。プリトヴィーラージ・カプール、子供時代のラージは、ラージ・カプールの年の離れた弟(=プリトヴィーラージの息子)、シャシ・カプール。ハンサムな俳優一家の出演で、血縁関係も違和感ありません。

 サンジャイ・ダットのお母さん、ナルギスも、最近のボリウッド女優とは違った美しさがあります。インド人女優なのに、山本富士子とか、原節子、グレタ・ガルボなどを思い出してしまいました。


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