ユウゴウ

　スーパーで十日町産のユガオを見つけたので、思わず買ってしまいました。ユウガオは、野球のバットくらい長い瓜。

真ん中の黄緑の瓜がユウガオ


　十日町では、「ユウガオ」ではなくて、「ユウゴウ」を呼びます。鯨の白身や豚、鶏肉と煮て食べます。冬瓜よりトロリとしていて、柔らかいけど、その割りには、意外と火が通るまで時間がかかります。

　インド人と一緒に働いていた頃、インド人上司が食べたがったので、母に頼んでわざわざ十日町から送ってもらったことがありました。ユウガオは、こんなに大きくても、せいぜい数百円…このユウガオは埼玉で買ったので少し高かったけど、それでも380円…ですが、重いし、かさばるので、送料は1000円以上かかります。それがバカバカしいし、80代の母が買ってきて送るのも大変なので、最初母はいやがったのですが、そのインド人上司の奥さんが異国の日本で入院していると話したら、考え直したようでした。上司の奥さんは、日本の病人食が合わなくて、上司は毎日インド料理を作って、病院に運んでいました。その上司は、前回来日した時、食べたユウガオのおいしさが忘れられなくて、病院食が食べられない奥さんにも食べさせたがっている…という話が、母の心を動かしたようです。

　その頃、兄は二回目の手術を控えて抗癌剤の治療を中断していました。治療中は抗癌剤の副作用による味覚異常のため、しばらくは何を食べてもおいしくないという状態でした。治療を止めても、すぐに味覚障害は治らず、体力をつけなくてはならない手術前にもかかわらず、なかなか食が進まないという状態。そんな兄と、異国の病院食が食べられないインド人患者の境遇が、母の中で重なったのかも。

　そうやって母が苦労して送ってくれたユウガオを、私も急いでインド人上司の家に送り、とても喜んでもらえました。お礼に、お裾分けで、上司手作りのユウガオカレーもタッパーに入れて持って来てくれたくらい。上司の奥さんは無事退院したけど、私が仕事を辞めた次の年も、「とーこさん、ユウガオの季節ですねー」と、上司からメールが来て苦笑いしたくらい。

　五月に帰省した時に、「インド人もユウゴウ好き」という話を十日町の友人にしたせいか、先日「ユウゴウ送ろうか？」というメールが来ました。先日形見分けで帰った時は、長兄に、ユウガオと鯨の白身の味噌汁を作ってもらいました。去年の夏も、母とユウガオとインド人の思い出話をしていたら、母が「ユウゴウの煮物、食べたい？作ってやろうか？」と言ってくれたけど、疲れるんじゃないかとか、ユウガオ１本買っても食べきれないんじゃないか、とかいろいろ考えて遠慮しちゃいました。作ってもらえばよかったなぁ。

 

　埼玉には鯨の白身は売っていなかったので、代わりに油揚げと煮て味噌汁にしました。煮物は鶏肉で代用。これから何度ユウガオを見られるかわからないけど、見る度に、あのめんどくさいインド人上司や母を思い出すでしょう。