面白草紙朝倉薫VS安達龍真

夢と現実のはざまで

甦る上海幻想

2007年06月15日 | Weblog
 目隠しをされ後ろ手に縛られ、ぬめった石の上に跪かされ、
青龍刀で首を落とされる夢を3ヶ月も続けて見た僕が、中国
大使館の武官趙宝智に掛け合い、上海に飛んだのは35歳の
夏であった。冗談ではなく、僕は1週間で日本へ強制送還され、
趙は其の責任で日本を去った。その事の顛末は「夢魔の葬列」
と題して500枚の小説に認め、僕の死後発表するよう愚息に
依頼してある。
 夜毎見る夢に比べたら、現実の苦労など甘いものだが、それは
人知れぬことなので云っても詮無いこと。例えば頚椎の痛み、
突然の歯の痛み、何事も他人には計り知れない苦痛は、独りで
耐えるしかないのだ。
 あの旅から、「ガラス工場にセレナーデ」という作品が生まれた
事も事実で、塞翁が馬ではないが、苦しみと喜びは光と影のように
表裏一体である。出来る事なら、苦しみは独りで背負い、他人には
喜びだけを見せたい、と思うのは痩せ我慢だろうか、それとも、
青臭いダンディズムだろうか。
 今日から15周年記念第二弾、7月アトリエ公演の稽古を始める。
「ミッドナイトフラワートレイン」は初演から数えて5度目の舞台。
弁天マリアも5代目となる。看板女優は塩山みさこ嬢、目の覚める
ような、弁天マリアを期待している。
 だが、先は長い、初日まで焦らずに役作りを楽しんで頂きたい。
今、いつ上演出来るかも分からないミュージカルと秋の本公演用の
新作を書いている。未発表の歌もずいぶん貯まった。
 上海から帰った後も、そう云えば創作に没頭した。そして其の後に
眩いばかりの光が射して、僕は倒れ全身不随の悪夢が待っていた。
 今度は倒れない。夢魔と刺し違える気はさらさらない。
僕は逃げ道を知った。あまり得意げに云うまい。今宵もまた、奴に
出会う。いつの日にか、夢魔の葬列を見送らん事を。