観自在

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月日の残像

2015-02-07 12:42:06 | 読書
『月日の残像』 山田太一  新潮社


 あとがきによると、この本は季刊誌「考える人」に9年間36回連載されたエッセーで、1回4000字で書かれた作品を集めたもののようです。

 本屋大賞にエッセイを選んでよいのかどうか知りませんが、私が投票権を持つとしたら、この本に投票しただろうと思います。初版は2013年12月なので、今年の対象かどうかもわかりませんが……。僭越ながら、内容も文体も素晴らしいものでした。

 内容は多岐にわたり、しみじみと趣深いものでした。松竹の助監督時代の話、ご家族の話、若い頃に読書ノート的に書いていらっしゃった抜き書き帳の話、海外旅行の話、映画「アメリカの夜」にまつわる話、向田邦子さん、市川森一氏らシナリオライターの話、親友寺山修二の話、世相の話題などなど。

 どれも味わい深く読みましたが、私が最も印象に残ったのは「ビールの夜」という作品でした。大学1年の筆者が12歳年上の兄とビールを読んだ夜の会話がテーマです。仕事で社長からも評価されているという兄の話に、筆者は、読んだばかりの小説の話をしました。小説の内容は、タクシーだったかで皆で帰宅する間、誰かが車を降りると、本人がいなくなる端から、残った人たちが、その人の悪口を言うという小説で、筆者は、そんなふうにはなりたくないと批判的な感想を持ちました。しかし、聞いていた兄は、「皆が頑張って生きているんだな」という感想を持ち、筆者を戸惑わせました。その後、筆者は兄の真意を、長い間、さまざまに考えあぐねます。

 私は、このお話に、兄弟の適当な距離と、親しみを感じました。兄の心情をこれほどまでに真摯に、長時間考え続けるということはできないことだと思います。私にも10歳上の兄がいますが、今度、じっくりビールを飲みながら話したいと思いました。


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