『生物と無生物のあいだ』 福岡伸一 講談社現代新書
ウイルスというものは、当然、生物だと、いままで何の疑いもなく思っていました。しかし、作者の考えは違います。ウイルスは、栄養も摂取せず、呼吸もしていない。皆同じ大きさ形で、個性がなく、特殊な条件で濃縮すると結晶化するといいます。そんなウイルスが唯一生物であるとする証拠は、自己を複製する能力があることだけなのです。では、自己を複製できれば生物と言えるのか、それが、この本のテーマです。
私は文系の人間ですが、かなり理系も好きで、この種の本はよく読みます。その中でも、この本は出色ですね。まず、大変わかりやすい。次に、作者自身の体験が素晴らしい文体で書かれています。アオスジアゲハのさなぎをとって忘れていたこと、孵化前のトカゲの卵を覗いてしまったこと、これら少年の日の体験が描かれる文章は「詩」としか言いようがありません。時間軸の上で折りたたまれているもの、非可逆的なもの、そうした命の尊厳や神秘が静謐な文体でつづられています。だから、ウイルスのように生命の律動を持たないものは生物ではないのです。展開も首尾一貫しており、わかりやすいです。生物に関するもので、これほど素晴らしい本を読んだことはありませんでした。
これを読むと遺伝子の組み換えなど、バイオテクノロジーは生命に対する冒涜なのだと感じられます。作者が言うように、我々人間は、自然を畏敬し、生命を見守ること以外できないのではないか、してはならないのではないか、素直にそう感じられるようになりました。
07年刊。私にとっては新しい本です。この本、まだ新書のベストセラーに入っているのですね。当然という気がします。
ウイルスというものは、当然、生物だと、いままで何の疑いもなく思っていました。しかし、作者の考えは違います。ウイルスは、栄養も摂取せず、呼吸もしていない。皆同じ大きさ形で、個性がなく、特殊な条件で濃縮すると結晶化するといいます。そんなウイルスが唯一生物であるとする証拠は、自己を複製する能力があることだけなのです。では、自己を複製できれば生物と言えるのか、それが、この本のテーマです。
私は文系の人間ですが、かなり理系も好きで、この種の本はよく読みます。その中でも、この本は出色ですね。まず、大変わかりやすい。次に、作者自身の体験が素晴らしい文体で書かれています。アオスジアゲハのさなぎをとって忘れていたこと、孵化前のトカゲの卵を覗いてしまったこと、これら少年の日の体験が描かれる文章は「詩」としか言いようがありません。時間軸の上で折りたたまれているもの、非可逆的なもの、そうした命の尊厳や神秘が静謐な文体でつづられています。だから、ウイルスのように生命の律動を持たないものは生物ではないのです。展開も首尾一貫しており、わかりやすいです。生物に関するもので、これほど素晴らしい本を読んだことはありませんでした。
これを読むと遺伝子の組み換えなど、バイオテクノロジーは生命に対する冒涜なのだと感じられます。作者が言うように、我々人間は、自然を畏敬し、生命を見守ること以外できないのではないか、してはならないのではないか、素直にそう感じられるようになりました。
07年刊。私にとっては新しい本です。この本、まだ新書のベストセラーに入っているのですね。当然という気がします。