監督:大林宣彦 リンク
原作:山中恒『おれがあいつであいつがおれで』
出演:尾美としのり(斉藤一夫)小林聡美(斉藤一美)
佐藤允(一夫の父)樹木希林(一夫の母)
宍戸錠(一美の父)入江若葉(一美の母)
志穂美悦子(大野光子)
1982年、日本
>>広島県・尾道市。
斉藤一夫は8ミリ好きの中学三年生で、悪友たちと女子更衣室をのぞいたり悪ガキぶりを発揮するごく普通の少年である。
そんな彼のクラスにある日、斉藤一美という、ちょっとキュートな少女が転校して来た。
ある事件から、ありえないことに!二人の心と体が入れ替わってしまう。
男の子の体になってしまった一美は泣き出すが、とりあえず、お互いの家族、友人の中で生活することにした。
感想を書くために、いくつかブログやホームページを拝見したところ、皆さんこの映画を絶賛していて、改めて名作であることを痛感しました。
男女の体が入れ替わるというコメディを予想していたのだけれど、それだけでは終わっていません。
本作は大林監督の「尾道三部作」の一作目だそうです。
一夫は大林監督の少年時代の投影なんでしょうね。
あとの二本『時をかける少女』は見たのに記憶は薄れているし、『さびしんぼう』はよかったけれど、『転校生』はこの二本とは別格な感じがします。
私は20の学生の頃、志賀直哉に傾倒して(笑)、わざわざ尾道まで友と二人で出かけました。
志賀直哉が『暗夜航路』を執筆したという家を見てきました。
何考えてたんだろう私?若気の至りかもしれません。笑
当然、映画のプロローグのセピア色の尾道には胸が高鳴りました。
ああ、あの坂の途中の無数の横に入る小道。あんなだった!
冒頭から(全編を通じて)流れるシューマンがのトロイメライが古いオルゴールを聞くようです。
実のところはこの映画、制作費が少なくてオリジナル曲が作れず、クラシック曲の使用とあいなったらしいです。
でも、そのほうが効果ありだったと思います。
画面が白黒からカラーに変わる瞬間は体がゾクリとする演出です。
尾道は坂と、お寺の町です。
一夫と一美が見下ろす尾道水道はあの通りに穏やに輝いています。
今も、当時と少しも変わっていないでしょう。
一夫と一美は思春期真っ只中の中学生、ある日、体が入れ替わったら?そりゃあ大変。
とまどうどころか、一美が嫌悪感を持つのも当然。
誰も事の次第を理解してくれず、彼らはお互いの家族と共に生活。
一夫が能天気なわりに、一美はかざりっけもない男の子の家で、男の子として暮らすのはむつかしい。
でも、次第に彼らは「他人として」親たちの愛情に触れ、それまでは気づかなかったであろうそれぞれの家族の愛情に気づいてもいきます。
一夫の一家団欒の家庭の暖かさがいいですね。
斉藤一夫ってのはな、そんな、やたらベチャベチャ泣かないんだからな。もっとシャンとしろよ。
一美はね、もっと、おしとやかでチャーミングなのよ。
これが男女反対に口から出る台詞だから可笑しい。
一美の命令で食べるのも控え、パックなんてして複雑な表情の一美(中身一夫)の表情が傑作。
尾美としのりさんは文句なしの名おかまちゃん演技です!笑
中身は一夫を演じた小林聡美さん(17歳!)の活き活きと勇ましい男の子ぶりが新鮮でした!
小林さんは今も魅力的だけど、この頃はピッチピチで輝いてます。
とっても可愛くて、脱ぎっぷりも潔よし!
少女も大人になってしまうのですねえ。なんか惜しい。。汗
この頃の小林さんは『さびしんぼう』の藤田弓子さんに似てませんか?
以前から、小林聡美さんには好感を持っていたけど、『かもめ食堂』のサチエはつくづく、「中身は一夫の一美」の延長なんだなあという気がしました。
ここから結末に触れています。
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一美「私、このまま一生、一夫ちゃんの体でいるとしたら、それでいいと思うの。だって・・」
「だって・・」の台詞の後には「だって、同性になっちゃったら、一夫ちゃんを愛せなくなる」が続くと思われ。笑
男女の体、性の違いを二人が身を持って知ることで、(特に一夫)理解と労わりが生まれた。
そこから、男女の愛情も芽生えたのですね。
死ぬなんて言うなよ。どうしても死にたいんなら、そん時は一緒にだ!
無事に元に戻った二人。
「私、一夫ちゃん大好き。この世の中のだれよりも一夫ちゃんが好き」
「俺だって一美が大好きだ~」
一美の存在が強烈だったから、彼女、彼?がいなくなった気さえします。
一番綺麗な白いワンピースを着て、懸命に一夫の乗るトラックを追いかけ、声を限りに叫ぶ少女一美。
愛おしい。
思いの他、寂しさがこみ上げてしまう場面です。
「さよなら、あたし!」「さよなら、あたし!」「さよなら、あたし!」
「さよなら、俺」
ひと夏の思い出よ、さよなら。
あたしだった大好きなあなた、さよなら。
それから、夏のありえない経験は二人を大人にしました。
二人がお別れしたのは二度と戻ることはできない、彼らの子供時代なのかもしれません。
一美の姿は白黒の8ミリ映像の中で、小さく小さくなって。
やがて諦めて、少女は踵をかえし、また、元気にスキップして歩いて行きます。
なんの屈託もないであろう、輝くような明日に向かって。
<映画「転校生」の挿入曲>
●「アンダンテ・カンタービレ」チャイコフスキー(演奏:ジョー・クァルテット)●「トロイメライ」シューマン●「天国と地獄 序曲」オッフェンバッハ●「タイスの瞑想曲」マスネー●「G線上のアリア」バッハ
次回は尾道のここを訪ねてみようかな。笑
御袖天満宮