監督 小栗康平
原作 宮田輝
出演 田村高廣 藤田弓子 朝原康貴
桜井稔 加賀まりこ 1981年
好き嫌い当てにならないオススメ度 ★★★★☆90点
以前からこの映画の評判を聞いていたが、テレビで初めて見ることができた。
子役と動物にはどんな名優も負けるというが、この子供たちの顔は忘れられないだろう。
田村高廣さんを久しぶりに見た。
映画は土佐堀川を舞台にしているらしい。
昭和三十年頃の戦後の日本を、庶民をこんなに丁寧に描いた映画を見るのは初めてだった。
二十年前の映画なのにモノクロで、実際に昭和三十年代の映画を見ているようだ。
大阪育ちの私には関西弁が懐かしかった。
私が小さかった頃もまだバラックが密集した地域はあった。
テレビを持つ家もまだ多くはなかった。
「戦場で、どうしても生きて日本に帰ろうと思ったが、帰って来ても日本は・・自分はこのままで終わるのかな。」
この時代の人はこんな風に思っていたのだろうか。
「信雄が生まれんかったら、わいはここできんつば焼いてえへん。」
小さなうどん屋をの一人息子(9歳)は信雄。
信雄は船上生活者の子供たち、姉銀子と弟の喜一と仲良くなる。
喜一の母親は船頭だった夫を亡くした後、郭舟と人に陰口を叩かれる商売をしている。
何もかも悟ったような優しい喜一の姉の銀子が痛々しい。
子供たちは学校にも行っていない。
信雄の父は貧しい暮らしはしていても人間としての正しさを失ってはいない。
宿舟の子供が遊びに来るというのを、母親はどうしたものかと夫に尋ねる。
父親は「子供は生まれとうて生まれてきたんやない、子供は親を選ばれへん。」と子供たちを歓待する。
立派な人だと思った。
或る日、ふとしたことから信雄はきっちゃんの母親の見てはいけない姿を見てしまう。
銀子と男の子二人の目に涙が光る。
母親も決して好き好んでしている商売ではないだろうが、酷いなあ。
その後すぐ、きっちゃんの船は舫いを解いてどこかに越して行く。
父親が目顔で頷くのを見て、信雄はきっちゃんの船をどこまでも追いかけるが。
狭い船の中で、映画雑誌などを前にした加賀まり子は場違いのように美しかった。
そんなお金があるんなら、きっちゃんの破れた運動靴の新品でも買ってやれば良いのにと思った。
これもまた商売道具なのだろうか。
「きっちゃ~ん!」信雄のいつまでも船を追いかける姿が印象的であった。