たんぽぽの心の旅のアルバム

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『東北歴史紀行』より‐いざたどらまし〈会津嶺の国〉(3)

2024年05月05日 20時07分13秒 | 本あれこれ

『東北歴史紀行』より‐いざたどらまし〈会津嶺の国〉(2)

 

「鶴ヶ城の六百年‐

 鶴ヶ城は、昭和59年、築城六百年を盛大に祝いました。南北朝も終わりに近い至徳元(1384年)、芦名直盛(あしななおもり)という武将がここに築城したのが、鶴ヶ城のはじまりとされているからです。そのころの鶴ヶ城は黒川城とよばれていました。芦名氏は、相模国(神奈川県)の三浦氏一族、佐原善連(さはらよしつら)を祖とします。戦国時代には、伊達氏とならぶ名家でしたが、天正17(1589)年、伊達政宗によって滅ぼされます。政宗は、山形県の米沢城からここに移って、奥羽から北関東にかけて覇を唱えようとしたのですが、豊臣秀吉の天下統一にはばまれて、また米沢にもどされ、さらに北に追いやられます。かわって、秀吉の有力な武将蒲生氏郷(がもううじさと)が93万石の大名として会津に入部、黒川を若松に改め、新城を築き、東北一の名城としたのです。これが今日残る若松城です。ただ、天守閣は氏郷時代は七層でしたが、のち、城主加藤明成のときに五層に改められたのです。この天守閣は明治にとりこわされてしまいましたが、戦後、旧により再建、今日にいたっております。

 江戸城を覗き、関東以北、これ以上の名城はありません。要害に兼ねて、王者の城の風格を備え、戊辰(ぼしん)の役(えき)の感動的な歴史とあいまって、日本史上、屈指の名城と称することができるものです。

 蒲生氏郷は、大器を惜しまれながら40歳で亡くなりました。

   限りあれば吹かねど花は散るものを 心短かき春の山風

 はその辞世です。京都大徳寺の墓のほか、若松市内栄町興徳寺にもその遺髪を葬り、墓が営まれました。「限りあれば」の辞世の歌碑がかたわらに建てられ、英雄無念のあとをとむらっています。

 蒲生のあとには、越後から上杉景勝が入部して、120万石、蒲生よりもさらに巨大な大名になりました。そして、かの天下への挑戦、関ヶ原の大戦を、この会津から開くことになります。景勝の謀臣・直江兼続(なおえかねつぐ)という人はたいへんな謀略家で、石田三成と東西しめしあわせて、まず家康をあ会津におびき出す、その間に三成が大阪で兵をあげる、右往左往するところを東西からはさみうちにする-そういう作戦だったというのです。家康がそれに乗せられたか、乗せられたようにして乗じたかは別として、会津からの挑戦が発端になっていたことは、たしかです。政宗-氏郷-景勝。秀吉から家康へ、天下人の座が交代する過程で、会津はなにかキャスティングヴォート(決定権)を行使するようなところがあって、男の歴史を考える上で、まことに興味深いものがあります。

 会津に運命的な最後の英雄の座をもたらしたもの。それは、寛永20(1643)年の保科正之の入部でした。正之は、二代将軍秀忠の子、三代将軍家光の弟。家光の遺命により、幼い四代将軍家綱の後見役となり、徳川の治世を、初期の強権政治から、安定期の文治政治へと編成がえをしていくうえで、指導的役割を果たす政治家です。家格としても、尾張・紀伊・水戸の御三家に次ぐ親藩の筆頭として重んぜられました。禄高は23万石でしたが、南山(みなみやま)とよばれました奥会津五万石の天領(幕府直轄領)もだいたいは預か地として準領(幕末正式領)でしたから、事実上28万石となり、東北では、仙台藩62万石に次ぐ大藩でした。

 この威望のある会津松平藩祖(正之ののちの保科家は、松平姓となる)は、厳重な家訓を残したのです。「大君(たいくん・将軍)の儀、一心大切に忠勤を存すべし。列国(並の諸藩)の例を以て、自ら処(お)るべからず。もし、二心を懐(いだ)かば、即ち、我が子孫に非ず。面々決して従うべからず」。会津藩は、この藩祖の遺訓を、藩政の基準とし、藩校日新館はこの精神を武士道の根本として、幼児教育から、徳川と運命をともにする忠誠心をつちかってきました。幕末になって、徳川氏の命運が大きく傾き、親藩や譜代でも二の足を踏んで、だれもなり手のなかった京都守護職という大役を引き受け、徳川への憎しみを一身に背負いこむことになるのも、徳川と運命をともにせよという藩祖の教えに、忠実に従ったものでした。当の徳川でさえ、恭順が認められて、江戸城攻撃をまぬがれているのに、会津藩はそれが許されず、あの会津戦争になるのは、この藩が、徳川以上に徳川武士道に徹底していた証拠です。」

(岩波ジュニア新書『東北歴史紀行』29~33頁より)

 

 

 

 

 

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