【社説①・03.31】:【AI法案】:悪用防ぐ実効性高めよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.31】:【AI法案】:悪用防ぐ実効性高めよ
技術革新や利便性をもたらす一方でリスクも顕在化している人工知能(AI)と、日本はどう向き合っていくか。その基本姿勢を盛り込んだ法案を政府が閣議決定し、今国会での成立を目指している。
特徴は、規制はするものの踏み込むことは控え、AIの「開発・活用推進」と「安全性確保」の両立を目指したことだ。世界的には規制重視か、推進重視かで対応が分かれており、その中で日本は中間的な独自のスタンスを示したと言ってよい。
一方で、悪用を防止するには規制が不十分だとの指摘もある。なお手探りの部分があるのが実情だろう。国内でAIに特化した法案は今回が初めてだ。国会での審議も含めて、継続的に検討していくことが求められる。
さまざまな場面で使われることが増えるAIだが、偽情報の拡散、個人情報の漏えい、人権や著作権の侵害などのリスクがあり、実際に著名人を利用した詐欺広告など悪用事例も多発している。
これまで政府は、法的な拘束力がない指針に沿って事業者に悪用対策などを求めてきたが、生成AIで犯罪が巧妙化し、深刻化もしていることなどから法整備による規制強化に乗り出した。
ただ、今回の規制は「適正利用を促すための規制」という色合いが濃い。正式な法案名の「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が示す通り、軸足は従来通り開発・活用に置かれた。
法案は「AIは社会経済の発展の基盤」と明記。安全性や透明性を高めるための取り組みは事業者側に委ねた。規制に関しては、国民の権利侵害などがあれば事業者に調査などへの協力を義務づけ、悪質な場合は事業者名を公表するとしたが、罰則は設けていない。
先行して2024年に発効した欧州連合(EU)のAI規制法との違いは明らかだ。EUでは、AIのリスクを分類した上でそれに応じた規制をかけ、違反した事業者には巨額の制裁金を科す。
日本が規制を緩くした背景には、AI分野への投資などで世界から大きく立ち遅れてきた状況がある。
それに加えて、米国ではトランプ大統領がさらに規制緩和に転じ、中国も新興企業「DeepSe(ディープシーク)ek」が台頭するなどAIの開発競争は激化し、利用も普及している。こうした中、日本もAI関連産業の足かせをなるべく少なくしたかったのだろう。
だが前のめりになりすぎると、安全性がおろそかになる可能性がある。技術の悪用が確認された際、罰則を背景にしない政府の指導に事業者が従わないことも考えられる。
規制の実効性をどう確保していくかが大きな課題になる。法案では、政府内にAI政策を束ねる「AI戦略本部」を創設し、開発投資の拡大に向けた方策などを議論して「AI基本計画」をまとめるとした。安全性、適切な利用についても機動的に対応していく必要がある。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月31日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます