【追跡!】:安倍元首相の旧統一教会カネ疑惑を報じた毎日新聞「匂わせスクープ」にモヤモヤするワケ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【追跡!】:安倍元首相の旧統一教会カネ疑惑を報じた毎日新聞「匂わせスクープ」にモヤモヤするワケ
● 旧統一教会から「講演料」? 安倍元首相に疑惑向ける記事にモヤモヤ
「安倍さんが無料で出演は考えづらい。最低でも数千万はもらっているのではないでしょうか!もし金をもらっていなければ信者に近いことになり、これは大きな問題となってしまいます。長期に政権を担った方が統一教会の信者だった事になります」<button class="sc-bhSgdM cLScX" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="26"></button><button class="sc-bhSgdM cLScX" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="26">
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Photo:Pool/gettyimages((c)diamond)
「びっくりですね。講演料が三億円!他も数千万円、日本の議員連中ももらってないということは、あり得ない」
ネットでは、そんな「死人にむち打つような言葉」で埋め尽くされた。
10月25日、毎日新聞が、昨年亡くなった安倍晋三元首相の政治家としての評価を地におとしめるような「疑惑」(「旧統一教会関連団体、トランプ氏出演に3億円 安倍元首相は…」毎日新聞、10月25日)を報じたからだ。
毎日新聞が今月12日にも報じたこの記事によれば、トランプ前大統領が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連団体「UPF」からビデオ出演3回の講演料として計250万ドル(当時の為替レートで約3億円)を受け取り、ペンス前副大統領も講演1回で55万ドル(約6000万円)の報酬を得ていたという。
そこに加えて、タイトルの「安倍元首相は…」というあおり文句からもわかるように記事では以下のように、安倍元首相へかなり強い疑いの目を向けている。
《UPFは21年9月にビデオ出演した安倍晋三元首相について「報酬は払っていない」と主張する。事実なら、安倍氏はなぜ無償で引き受けたのか疑念が浮かぶ》 この思わせぶりたっぷりな言い方を聞けば、冒頭のような感想になるのは当然だろう。要するに、「どうせトランプみたいにカネをもらったとか、見返りがあったんだろ」と間接的に疑惑を指摘しているのだ。
ただ、毎日新聞の立派な調査報道にけちをつける気は毛頭ないが、これまで政治の現場を取材してきた立場で言わせていただくと正直、これはかなりモヤモヤする記事だ。
● 日本の政治家は選挙のため イベントに「無償」で出るのが当たり前
日本の政治家は、日頃から世話になっている支持団体、派閥の関係者、政治信条を同じくする政治団体、地元企業、選挙区内の学校、高齢者施設、そして宗教団体などのイベントに「無償」で挨拶をしに行ったり、祝辞を送ったりする。
筆者の知り合いの国会議員は、複数の宗教団体から支持を受けているので、何かイベントがあるたびに数珠をもったり、十字架も首から下げて、「無償」で参加をしてスピーチをしている。節操がないとあきれるだろうが、政治家とはこういう全方位外交をしないと選挙に勝てない。
もっと言ってしまえば、政治家が政治的なイベントに「無償」でビデオメッセージを送るくらいのことは、ちっともおかしくないし「当たり前」だ。
マスコミ報道ではほとんどちゃんと報じられないが、安倍元首相がビデオメッセージを送ったのは「世界平和統一家庭連合信者の集い」というようなゴリゴリの宗教団体のイベントなどではなく、「まっとうな政治イベント」なのだ。
筆者は銃撃事件のあった後、このイベントを主催したUPFの日本支部「UPF ジャパン」の梶栗正義会長にインタビューをして、このあたりを詳細に聞いている。以下に引用しよう。
<安倍元首相がビデオメッセージを送ってくれたUPFのイベントというのは、朝鮮戦争勃発から70年のタイミングで立ち上がった「シンクタンク2022」という朝鮮半島の平和的統一を目指す専門家のプロジェクトです。
この活動に関しては、世界で多くのVIPが賛意を示してくれておりフン・セン・カンボジア首相、マイク・ペンス元米国副大統領、潘基文(パン・ギムン)前国連事務総長なども基調講演を行ってくれています>(プレジデントオンライン、22年8月12日)
日本の報道で我々が受ける印象では、「反日カルト組織のイベントに、カネ目当てのトランプと仲良しの安倍元首相が参加しました」という話になっているが、実はそれなりの国際的な政治家が賛同をしたプロジェクトにまつわる「政治イベント」なのだ。
「地球儀を俯瞰する外交」を展開していた安倍元首相はトランプ元大統領とともに、「朝鮮半島の安定」にも力を入れていた。そして、UPFもそれに力を入れていた。先ほども申し上げたように、日本の政治家は政治信条を同じくする団体に「無償」でビデオメッセージくらいは送ってやるものだ。
そう聞いても「それは普通の政治イベントの話だ。トランプに3億払う団体が安倍元首相をタダで呼ぶわけがない」と思うかもしれないが、これも普通にある。日米では「政治とカネ」の感覚がまったく違うからだ。
● アメリカの政治家は「お金を要求」できる 日本とは桁違い
アメリカで生活をした人ならばわかると思うが、アメリカの選挙は日本とは桁違いに金がかかる。わかりやすいのは、NHKの特設サイト「アメリカ大統領選挙2020」内の「政治に最も必要なのは金」(2019年11月15日)というコラムだ。
《前回のアメリカ大統領選挙で、共和党のトランプ陣営と民主党のクリントン陣営が集めた選挙資金の総額は、およそ9億3620万ドル、日本円にしておよそ1013億7520万円にのぼる》(同上)
なぜこんなにアメリカの選挙はカネがかかるのかというと、選挙は国民参加の巨大イベントなので、宣伝広告費がバカみたいにかかるのだ。
《以前は、テレビなどの広告は候補者陣営の政治団体が制作し、団体への献金は個人からに限定され、その上限は年間5000ドルに限られていた。しかし、2010年に、連邦高等裁判所は候補者から独立した政治団体への献金に金額の上限を設けるのは自由を尊重するアメリカの建国精神に反するなどとして、憲法違反だと判断。このため、資金力のある個人や大企業から政治資金をいくらでも集められるようになった》(同上)
いくらでも集められるということは、アメリカの政治家は自分を支持する企業や団体に対していくらでも「カネをよこせ」と要求できるということでもある。
一方、日本はどうか。若い人はご存じないだろうが、かつて日本でも政治家が団体に「カネ」を要求できた。しかし、リクルート事件や東京佐川急便事件など、「政治とカネ」スキャンダルが続発し、なんとも日本らしいこんな解決策が提案された。
「国民がコーヒー1杯分程度の税金を払って、それで政治家を食わしてやれば、政治家はカネの心配がなくなって汚職がなくなるのでは」
今思えば「旧ソ連か」とあきれるような狂気の沙汰だが、当時の日本人はみんなピュアで、「それはナイスアイデアだ!」と大賛成。こうして今、我々が政党に「みんなで好きに使ってね」と血税315億円をプレゼントする「政党助成金」という制度が生まれたわけだ。
言うまでもなく、自由と競争の国・アメリカには、こういう社会主義的な発想はない。だから、政治家は自力で企業や団体からカネを集める。逆に言えば、カネを集められない人はどんなに優秀でも政治家になれないのが、アメリカだ。だから、トランプ氏やペンス氏はいろんな政治イベントに多額のギャラで登壇する。
こういう日米の政治家の「カネ」の感覚の違いをガン無視したまま、「トランプは3億もらっているのに、安倍元首相はタダで出演とは闇が深すぎる!」とか騒ぐのは、あまりにも強引な気がしてならないのだ。
● 毎日新聞の「におわせ記事」に 隠れた意図はないのか
取材力に定評のある毎日新聞の記者たちが、こんな常識的な話を知らないわけがない。にもかかわらず、「安倍氏はなぜ無償で引き受けたのか疑念が浮かぶ」と、あたかもこれが「異常」なことのように首を傾げている。
正直、何か別の「意図」があるのではと勘繰ってしまうほど、不自然に「向けた記事」という印象なのだ。
そこでひとつ考えられる「意図」としては、「安倍元首相と旧統一教会の間のカネ」でどでかい情報をつかんでいて、きたるべき「Xデー」に向けてそれをにおわせている、ということだ。
実は今回の毎日新聞が指摘している「疑念」については、旧統一教会を長く追及してきた「孤高のジャーナリスト」がすでに爆弾スクープをぶちまけている。
そう、鈴木エイト氏だ。
今年8月3日、世界統一平和家庭連合がホームページで鈴木エイト氏に対して、こんな怒りの文書を掲載して話題になった。少し長いが非常に大切なポイントなのでそのまま引用したい。
《2021年9月にUPFが主催して行われた大会に安倍晋三元内閣総理大臣がビデオメッセージを送ったことに関して、「安倍晋三に5000万支払われたという情報が、確たる情報があります」などと発言し、当法人のみならず、故安倍元総理の名誉をも著しく毀損しました。また貴殿は、Twitter(現在の「x」)上でも、本年7月1日付ツイートなどで同様の資金提供に関するツイートを行っています。しかしながら、当法人が安倍元総理に対して金員を支払った事実は存在せず、また、UPFをはじめとする当法人のいかなる友好団体も、上記ビデオメッセージの関係で、安倍元総理に資金提供をした事実は存在しません》 そこに加えて、当事者のUPFも10月4日にホームページにおいて、本件で鈴木エイト氏を「名誉毀損」で訴えたと表明している。
これを受けて、鈴木氏は「朝日新聞」の取材にこう答えている。
「確度が高い情報が寄せられ、教団や安倍氏の事務所に質問したが回答がなかった。その後、トランプ氏への支払いが確認されたので、安倍氏についても可能性があると伝えた」(朝日新聞デジタル、23年10月4日)
鈴木氏ほどのジャーナリストが「確度の高い情報」とおっしゃるということは、よもや「又聞き」とか「臆測」なわけがないだろう。安倍元首相にUPFから5000万円が渡ったという内部告発なり、書類なりの何かしらの根拠があるということなのだ。
筆者は、この「確度の高い情報」を「毎日新聞」の記者たちもキャッチしたのではないかと思っている。そうじゃなければ、あのような思いっきり安倍元首相の「疑惑」をあおるような記事は書けない。あおっただけで終了なんて無責任なことは、「一流報道機関」がやるわけがないのだ。
これらの「疑惑」の真相はぜひ一流の皆さんに明らかにしていただきたいと思う半面、筆者は安倍元首相という個人に対しては、今回のことで改めて「気の毒」という感情がわきあがっている。
● 安倍元首相が気の毒だと 筆者が思うワケ
森友・加計問題もそうだが、安倍元首相は明確な根拠がないまま「疑惑」を指摘されて、メディアからボロカスに叩かれてきた人だ。
「やってません」といくら反論をしても「やっていないという証拠を出せ」という警察の取り調べのように理不尽な自白強要をされて「推定有罪」扱いされていた部分もある。そのあたりは当時、筆者も以下のような記事で繰り返し指摘させていただいた。
『安倍首相もハマった、マスコミが疑惑だけで罪人を作る3つの方法』(2017年7月27日)
そして、凶弾に倒れてもなお「疑惑」が叫ばれて人々に「罪人」扱いされている。反論も釈明もできない状況で、旧統一教会と接点があったというだけで「犯罪者」扱いだ。政治家という業の深い仕事だったとはいえ、「死人にむち打ち」のような気もしてしまう。
しかも、保守の人たちは安倍元首相をあれほど持ち上げていたのに、「旧統一教会問題」が注目されてから多くの人はサッと引いてしまった。
毎日新聞の「安倍氏はなぜ無償で引き受けたのか疑念が浮かぶ」という記述に対して、「安倍さんはカネとかで動かない信念の政治家なんだよ」とか怒る人がもっといるかと思いきや、そうでもない。これまでの経緯から、「安倍元首相の名誉回復を求める会」とかできてもおかしくないはずだが、そういう動きもない。筆者のように生前、安倍政権の政策を批判的に見ていた人間が見ても、「安倍さんはもう反論できないんだから、保守の人たちはもっとかばってあげたら」と思うほど、気の毒すぎる扱いだ。
政治闘争的には「悪の権化」に見えたという一面もあるかもしれないが、国家に尽くして凶弾に倒れて亡くなった元首相でもあるのだ。国民の最低限の敬意として、公の場で「安倍」と呼び捨てにしたり、根拠のない誹謗中傷をするのはさすがに控えた方がいい、という気もするのは、筆者だけだろうか。
(ノンフィクションライター 窪田順生)
元稿:ダイヤモンド社 online 主要ニュース 社会 【話題・旧統一教会を巡る問題・担当:窪田順生 ノンフィクションライター】 2023年10月27日 05:56:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。