【社説②】:芸能界と薬物 根絶につなげる契機に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:芸能界と薬物 根絶につなげる契機に
覚醒剤など違法薬物の所持などで、逮捕・起訴される歌手や俳優ら著名人が後を絶たない。
東京地検はおととい、シンガー・ソングライターの槙原敬之容疑者を覚せい剤取締法違反などで起訴。仙台地裁は同法違反などに問われたタレントの田代まさし被告に有罪判決を言い渡した。
著名人の薬物事件は、社会的影響も大きい。近年、若年層を中心に大麻など違法薬物に対する抵抗感が薄れる傾向が顕著なだけに、啓発と摘発の強化で事態の悪化を避けたいところだ。
芸能界などの著名人の摘発でみられる特徴の一つが、番組降板など社会的制裁を受けやすい点だ。
これを一時のバッシングで終わらせてはならない。いかに薬物への依存を断ち切り、薬物を売買する反社会的勢力などを取り締まるかが肝心だ。
薬物依存や中毒は病気であるという認識が定着した。刑罰と治療の両立が何より重要だ。著名人の事件を単なる興味の対象とするのではなく、薬物根絶を社会全体で考える機会とすべきだ。
財務省が発表した昨年の関税法違反事件の取り締まり状況によると、覚醒剤や大麻などの押収量は前年の約2・2倍の3318キロと過去最多を記録した。
不正薬物の国内流入に歯止めがかかっていない。誰もが手軽に入手できる現実を直視し、水際対策を強化する必要がある。
薬物事件は依存との戦いだ。犯罪白書によると、一昨年の覚せい剤取締法違反の再犯者率は66・6%とずぬけていた。治療と更生を支える環境整備が欠かせない。
近年、認知行動療法で更生する取り組みも広がるが、対応できる医療機関は限られる。人的、財政的措置の拡充も検討するべきだ。
田代被告の判決でも適用された一部執行猶予制度も活用したい。刑期途中から社会で治療や更生の機会を与えるものだ。
猶予中の再犯をいかに防ぐか。治療や支援の内容について不断の検証を図りたい。
気がかりなのは、芸能人らの摘発後に見られる番組撮り直しや助成金取り消しなどの動きだ。
薬物犯罪には毅然(きぜん)とした姿勢で臨む必要があるが、過度な自粛が表現や制作活動を制限する側面もある。慎重な判断が必要だ。
薬物を断ち、しっかりと更生した姿を示すことで社会に貢献することもできよう。一時しのぎの批判回避で済ませることのないよう、一層の努力が求められる。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2020年03月06日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。