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霊魂の足 加賀美捜査一課長全短編

2021年10月25日 | ミステリ
クイーンの「Yの悲劇」の与えた影響がいかに大きかったか。
横溝正史作品に顕著なプロットのヒネリ方が角田作品にも見られます。
シムノンを読んでいないので、どれほど再現されているのか分かりませんが、
所収のエッセイで、角田喜久雄はメグレ警部にほれ込んで、
加賀美捜査一課長を創造した、と書いています。

つまるところ、クイーン調のロジカル風ミステリに、
人間の機微を体現しているような探偵を配しているわけで、
ミスマッチではないかという気がしないでもない。
時系列的に並んでいる作品を読んでいくと、次第に作品の基調が犯人当てから、
ホワイダニットになって、最後のほうは捕物帳風になっていきます。
それはそれで、探偵の作品の中での据わり具合が良くなっていく過程が楽しめるとはいえ、
そのあたりで書かれなくなるのは惜しいです。
角田喜久雄の、子どもに対する視線は「犯罪には縁のない愛らしい存在」であることは、
加賀美課長にも幼い娘がいる、という設定からもうかがえます。
所収の短編「Yの悲劇」は、クイーンの「Yの悲劇」のプロットを逆から描いてみせ、
クイーンの(歪んだ?)子ども観への反論を唱えたもので、
それが正しいのならば、クイーン調から離れていくのは当然なのでしょう。

時代作品を読んでいるときは、それほど気にならなかったのですが、
「むんずとつかむ」「どっかと座る」などのクリシェ的表現に、
背中がカユくなるときがあって、若干困りました。
最後の作品あたりでは苦悩する場面もあり、加賀美捜査一課長の懐の深さが味わえます。
中では「怪奇を抱く壁」のストーリーテリングのうまさが群を抜いていると思います。

「霊魂の足 加賀美捜査一課長全短編」(角田喜久雄 創元推理文庫)
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