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ミステリの中の自伝要素

2023年05月16日 | ミステリ
トム・ミード『死と奇術師』
いま半ばあたり。期待しすぎるとがっかりしますが、期待していなくてもがっかり系。
章題は「三つの棺」「読者よ欺かるるなかれ」を連想させますし、
結末の袋閉じは「夜歩く」の顰にならったものでしょうか。
探偵はグレート・マーリニみたいで、謎の散らばり具合がカーというよりクレイトン・ロースンのようです。
献辞を捧げる相手はカーではなく、ロースンじゃないですかねえ。

さて、公共放送でデヴィッド・スーシェ版のポアロを再放送しているので、マメに録画しているのですが、
「メソポタミアの殺人」を観て思ったこと。
半自伝的とまでは言えないまでも、これはクリスティが自分をモデルして書いた作品ですよね。
自分自身を考古学者の美しい妻に、考古学者の秘書はさえない中年女性、という設定は有名な失踪事件の裏返しかと思わせます。
で、原作を読み返そうとしたらポケミスが見つからない。おかしい、たしかに買ったはずなんだが。

それはそれとして、ディクスン・カー『死の館の謎』(1971年 創元推理文庫1975年 刊)は、カーの自伝的要素の濃い作品です。
誰が呼んだのか「ニュー・オリンズ三部作」の最終巻であり、作中の事件は1927年におきます。
その1927年には、カーのプロデビュー作『夜歩く』でサリニー侯爵が殺害される事件がおきているわけで、
パリでバンコランとジェフ・マールが犯人を追っかけている一方、
ニュー・オリンズではもう一人のジェフである、ジェフ・コールドウェルとギルバート伯父が名家の妹墜落死事件を追います。

主人公のジェフ・コールドウェルは、『夜歩く』のジェフとは違い、ちゃんと新進歴史小説家という職業に就いています。
このジェフ・コールドウェルが、カーが夢想した「ありえたかもしれない別の時間線の自分」としてみるならば、
カーの夢は歴史小説家になることだったのかもしれません。
そう考えると作中でジェフが「トリックを考えるのが苦手だ」と白状しているのは、カー本人の吐露でもあるのでしょう。
「トリックメーカー」とか「トリック自慢」などというレッテルは、見当はずれではないでしょうか。

ところでニュー・オリンズのこの時代は売春宿が一掃されたあとですが、
カーの意見としては、どうもその政策には反対だったように読めます。(P122)
ニュー・オリンズといえばジャズなんですが、
ジェフとリン嬢が訪れた店で演奏しているのが「トミー某の楽団」で、トミー・ドーシーのことでしょうか。(P162)
『死の館の謎』のプロットは、『幽霊屋敷』『雷鳴の中でも』『ハント荘の客』の合わせ技ですね。
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