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●東京新聞《検察は袴田さんを再び収監して、死刑にすべきだと本気で考えているのだろうか。東京高裁は捜査機関による「証拠の捏造」の可能性…》

2023年07月28日 00時00分01秒 | Weblog

[↑ ※《第三者は捜査機関の者である可能性が極めて高いと思われる》(『報道特集』、2023年03月18日[土])]


(2023年07月12日[水])
袴田巖さん《いまも、死刑囚のまま》をいつまで続けるつもりなのか、検察は? 《捜査機関による証拠捏造》まで行っていたというのに…。刑事司法の原則《「疑わしきは被告の利益に」という原則》を蔑ろにした司法の罪もあまりにも重い。
 東京新聞の記事【袴田さん再審、有罪立証へ 検察、弁護側と全面対決】(https://www.tokyo-np.co.jp/article/262093)によると、《再審で無罪が言い渡される公算は大きいとみられるが、検察と弁護側が争うことになり、審理が長引く可能性が高まった》。

 立川談四楼@Dgoutokujiさんのつぶやき:

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https://twitter.com/Dgoutokuji/status/1678973947604512768

立川談四楼@Dgoutokuji

「袴田巌さん姉ひで子さん『法廷で無罪聞かせたい』検察の有罪立証方針に冷静」ひで子さん(90)は冷静かつ強い。「ここで2、3年長くなったってどうってことないですよ」ときた。闘ってきた人は違うね。検察の手口なんぞ知り抜いてるんだ。検察よ、心してかかれ。そしてこの姉弟にきっちり謝罪するんだ

午後0:45 · 2023年7月12日
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 記者会見での袴田秀子さんの対応を見ていて、本当に頭の下がる思いだ。90歳ですよ…。《袴田さんはすでに八十七歳…一刻も早く「無罪」の宣告をすべき》(東京新聞社説)。冷酷にも、検察は、袴田さんらが訴えることが出来なくなることを持っている、時間稼ぎしているとしか思えない。

   『●飯塚事件…《裁判所は…検察に証拠品のリストの開示を勧告…したが、
     検察は「裁判所に権限はない」「事案の解明に意味はない」などと拒否》
   『●大崎事件《無辜の人の救済》の理念はどこに? 《医学の専門家でない
     裁判所が十分な根拠も示さず、専門家による科学的証拠を退けた不当な判断》
   『●男性警部補「捏造ですね」…とんでもない冤罪事件・捏造事件・でっち

     上げ事件、国賠が認められても《勾留後に亡くなった1人》の命は戻らない

 東京新聞の【<社説>袴田さんの再審 審理を長引かせるな】(https://www.tokyo-np.co.jp/article/262284)によると、《検察は袴田さんを再び収監して、死刑にすべきだと本気で考えているのだろうか。東京高裁は捜査機関による「証拠の捏造(ねつぞう)」の可能性を指摘している。検察は「捏造」の言葉に拒否反応を示しているのかもしれないが、もはや検証すべきは当時の捜査の在り方を巡る問題点にほかならない袴田さんはすでに八十七歳になる。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に従って、一刻も早く「無罪」の宣告をすべきと考える》。

   『●《いまも、死刑囚のまま》な袴田巖さん、再審開始決定…せめて
    《一刻も早く「無罪」とすべく、検察は不服を唱えるべきではない》
   『●袴田巖さん、袴田秀子さん ――― 《捜査機関による証拠捏造》とまで
     言われているのだ、検察側が特別抗告を断念するのも、当然の結果だろう
   『●袴田冤罪事件: 《「…第三者がみそ漬けにした可能性がある」》《捜査
      機関による証拠捏造》《犯行着衣について捜査機関の捏造とまで…》
   『●<コラム 筆洗>《高裁は捜査機関による証拠捏造の可能性まで踏み
     込んでいる…袴田さんをただ犯人にしたいという卑劣なトリックだろう》
   『●袴田冤罪事件…袴田巖さんや袴田秀子さんらの人生をめちゃめちゃ
     にした《捜査機関による証拠捏造》に対して責任ある対応が求められる
   『●事件から五十七年。無実を訴え続けても、なぜこんなに歳月を費やしたのか。
     刑事訴訟法の再審規定(再審法)が大きな欠陥を抱えつつ放置されているからだ
   『●袴田冤罪事件…袴田巖さんや袴田秀子さんらの人生をめちゃめちゃに
     した《捜査機関による証拠捏造》に対して責任ある対応が求められる
   『●《捜査機関による証拠捏造》…無罪判決を勝ち取り《いまも、死刑囚の
     まま》から脱却できても、「拘禁反応」に苦しめられ続ける袴田巖さん

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https://www.tokyo-np.co.jp/article/262093

袴田さん再審、有罪立証へ 検察、弁護側と全面対決
2023年7月10日 18時01分 (共同通信)

     (袴田巌さんの再審公判で検察側が有罪を立証する方針を
      静岡地裁に示したことを受け、姉ひで子さん(左)と
      記者会見する弁護団事務局長の小川秀世弁護士
      =10日午後、静岡市)

 1966年に静岡県清水市(現静岡市)の一家4人が殺害された事件で死刑が確定し、釈放された袴田巌さん(87)の裁判をやり直す再審公判で、検察側は10日、袴田さんの有罪を立証する方針を静岡地裁に伝えた。弁護側は無罪を主張している。再審で無罪が言い渡される公算は大きいとみられるが、検察と弁護側が争うことになり、審理が長引く可能性が高まった

 刑事訴訟法は再審開始について「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」があった時と定める。東京高裁は今年3月、確定判決が「犯行着衣」とした衣類5点の証拠を、捜査機関側が捏造した可能性が極めて高いと指摘。「到底袴田さんを犯人と認定できない」とし、再審開始決定をした。

 検察は最高裁への特別抗告を断念し、再審開始が確定した。特別抗告は憲法違反や判例違反がある場合に限られ、理由が見いだせないとして断念したが、再審公判で主張する内容に法的な制限はない。
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https://www.tokyo-np.co.jp/article/262284

<社説>袴田さんの再審 審理を長引かせるな
2023年7月11日 07時43分

 一九六六年に起きた静岡県の四人殺害事件で犯人とされた袴田巌さんの再審公判を巡り、検察側が有罪立証すると表明た。これまで争点となっていた「衣類の血痕」について反論するというが、審理を長引かせることは避けるべきである。

 静岡地検は再審公判で五点の衣類の血痕について反論すると静岡地裁に伝えた。この衣類はあくまで犯行時に袴田さんが着ていたものとの主張である。

 衣類は袴田さんの勤務先のみそタンクから発見された。当時の捜査資料では血痕の色は「濃赤色」と記されたが、弁護側は実験や鑑定に基づいて「長期間、みそ漬けにされた血痕には赤みは残らない」と主張。東京高裁も認めて再審決定につながった。

 静岡地検は十日、赤みが残ることは不自然ではないことを法廷で立証すると明らかにした。

 確かに、同じ争点の場合、新証拠の証明力を弾劾する証拠であれば、提出可能とされている。

 しかし、既に四十年以上も裁判のやり直しを求めていた事件である。第二次の再審請求審から九年間も「色」を巡る攻防が繰り返されてきた経緯もある。

 問題の衣類は、確定判決の決め手だったが、そもそも袴田さんが着られるサイズでなかった。検察は「縮んだ」とも「袴田さんが太ったため」とも…。事件後、何と一年二カ月もたっての発見という経緯にも不自然さが残る。

 今回の検察方針は、これまで争点でなかった事実や証拠を再審公判で唐突に持ち出すことには当たらないとしても、同じ論点でこれ以上、時間をかけることが本当に正義にかなうのか

 検察は袴田さんを再び収監して、死刑にすべきだと本気で考えているのだろうか

 東京高裁は捜査機関による「証拠の捏造(ねつぞう)」の可能性を指摘している。検察は「捏造」の言葉に拒否反応を示しているのかもしれないが、もはや検証すべきは当時の捜査の在り方を巡る問題点にほかならない

 袴田さんはすでに八十七歳になる。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に従って、一刻も早く「無罪」の宣告をすべきと考える。
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●大崎事件…再審するかどうかを延々と議論し、三度にわたる再審開始決定を最「低」裁がちゃぶ台返し

2019年07月01日 00時00分15秒 | Weblog


大崎事件に対する冷酷な最「低」裁決定についての東京新聞の三つの記事【大崎事件 再審取り消し 最高裁 鑑定の証明力否定】(https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201906/CK2019062702000175.html)と、
池田悌一記者による記事【大崎事件 再審、ハードルさらに高く】(https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201906/CK2019062702000174.html)と、
蜘手美鶴記者による【大崎事件 再審の扉3度閉ざす 弁護団「最高裁の決定は横暴」】(https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201906/CK2019062702000160.html)。

 《「大崎事件」で、殺人罪などで服役した義姉の原口アヤ子さん(92)が裁判のやり直しを求めた第三次再審請求審で、最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は、再審開始を認めた福岡高裁宮崎支部と鹿児島地裁の決定を取り消し、再審請求を棄却する決定をした。再審を認めない判断が確定》。
 《第一次再審請求審を加えると、三度にわたり再審開始決定が出ながら、再審の扉は唐突に閉じられた。「疑わしきは被告の利益に」という刑事裁判の鉄則は守られたのか。新旧証拠の総合評価で確定判決に疑いが生じれば、再審を開始すべきだとする「白鳥決定」に沿ったと言えるか疑問だ》。
 《四十年間、一貫して潔白を訴え、無罪判決を法廷で聞くという原口アヤ子さん(92)の悲願は、三度目の再審請求でもかなわなかった。一九七九年に起きた「大崎事件」の第三次再審請求審をめぐる最高裁決定。弁護側の新証拠の価値を一蹴した判断に、弁護団からは「あまりにも横暴だ」と怒りの声が上がった》。

 まず、小池裕裁判長について。《小池裕氏は、NPO法人による森友学園問題で国側が持つ交渉記録等の証拠保全の申し立てについて、最高裁の裁判長として保全を認めなかった高裁判断を支持し、抗告を棄却した》方です。アベ様には寛大なるご判断、一般市民には《あまりにも横暴》、冷酷。「司法判断」としてもデタラメ。

   『●「「3.11」から2年③ 東北復興と壁」
         /『週刊金曜日』(2013年3月15日、935号)について
    「山口正紀さん【裁判長の訴訟指揮も報じるべきだ 大崎事件再審請求】、
     「冤罪は警察・検察だけで作られるものではない。…
     マスメディアにも責任…。だが、だれより責任の重いのが、
     無実の訴えに耳を貸さず、でっち上げを追認した裁判官だろう」」

   『●知らなかった冤罪事件: 鹿児島大崎事件
   『●「飯塚事件」「福岡事件」「大崎事件」
       ・・・・・・に係わる弁護士たちで『九州再審弁護連絡会』発足

   『●「あたいはやっちょらん」の叫び!…
      「だれより責任の重いのが…でっち上げを追認した裁判官」
    《「やってないものは、やってない」-。殺人罪で服役した原口アヤ子さんは
     一貫して無実を叫んだ。その願いは第三次の再審請求でやっと重い扉を
     開けた。裁判所は早く無実を認めるべきである》。
    「《あたいはやっちょらん》…《だれより責任の重いのが…
     でっち上げを追認した裁判官》、《鹿児島地裁は証拠開示を認めず、
     原口さんの無実の訴えに再審の重い扉を開くことはなかった》。
       年老いた原口アヤ子さん…。無慈悲な司法、長年月に渡る放置
     というか見殺し。司法の「」だ…《原口さんは既に九十歳。三審制でも
     過去二回の再審請求でも救えなかった。司法界の恥と刻まれる》」

   『●39年間「あたいはやっちょらん」、
     一貫して無実を訴えてきた90歳の原口アヤ子さんに早く無罪判決を

    《重い再審の扉が大きく開き、光が差し込んだ。「大崎事件」の
     第3次再審請求即時抗告審。昨年6月の鹿児島地裁決定に続き、
     福岡高裁宮崎支部も再審開始を認めた12日、弁護団や
     支援者たちは喜びに包まれた。逮捕から39年一貫して無実
     訴えてきた原口アヤ子さんも今は90歳で、残された時間は限られる。
     「命あるうちに無罪判決を」。願いは今度こそ届くのか-》

   『●冷酷な司法…【NNNドキュメント’18/
      あたいはやっちょらん 大崎事件 再審制度は誰のもの?】

 再審するかどうかを延々と議論し、《三度にわたり再審開始決定が出ながら》、最後に、ちゃぶ台返し。最「低」裁は何を怖れているのか? 誤りを潔く認めるべきだ。

   『●検察による恣意的・意図的な証拠の不開示、
      証拠の隠蔽や喪失、逆に、証拠の捏造…デタラメな行政
    《布川事件で再審無罪が確定した桜井昌司さん(72)の訴えを認めた
     二十七日の東京地裁判決は、警察官の違法な取り調べや検察官の
     証拠開示拒否などがなければ、「遅くとも控訴審判決(一九七三年)で
     無罪判決が言い渡され、釈放された可能性が高い」と捜査機関に猛省を
     促した。弁護団からは「画期的だ」との声が上がり、
     桜井さんは捜査機関の在り方を批判した》
    《桜井さんと同じ冤罪被害者も訴訟を支援した。大阪市の女児死亡火災で
     再審無罪となり、自身も国賠訴訟中の青木恵子さんは「桜井さんから
     希望をもらった」と喜んだ。いまだ再審の扉が開かれない袴田事件
     大崎事件に触れ、「順番に勝っていってもらいたい」と望んだ》

 《あたいはやっちょらん》の叫びは小池裕裁判長らによって揉消され、事件に係わった警察官や検察といった行政、裁判所といった司法は安堵した訳です。
 《白鳥決定無視の過ち》を犯し、冤罪者の〝沈黙〟を待つ裁判官らの冷酷さ…。白鳥決定を無視し、再審するかどうかの判断を延々と引き伸ばし、最後は最「低」裁がちゃぶ台返し。原口アヤ子さんがあまりに御気の毒だ。

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https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201906/CK2019062702000175.html

大崎事件 再審取り消し 最高裁 鑑定の証明力否定
2019年6月27日 朝刊

     (原口アヤ子さん)

 鹿児島県大崎町で一九七九年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」で、殺人罪などで服役した義姉の原口アヤ子さん(92)が裁判のやり直しを求めた第三次再審請求審で、最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は、再審開始を認めた福岡高裁宮崎支部と鹿児島地裁の決定を取り消し、再審請求を棄却する決定をした。再審を認めない判断が確定した。二十五日付。裁判官五人全員一致の意見。 

 一審、二審の再審開始決定を最高裁が覆したのは初めてとみられる。共犯とされた元夫(故人)の再審開始も取り消した。

 最高裁は、一、二審が重視した弁護側が新証拠として提出した法医学鑑定を検討。鑑定は、確定判決が「窒息死と推定される」とした男性の死因について、「転落事故による出血性ショックの可能性が極めて高い」と指摘していた。

 最高裁は鑑定について、写真だけでしか遺体の情報を把握できていないことなどを挙げ、「死因または死亡時期の認定に、決定的な証明力を有するとまではいえない」と判断した。

 有罪の根拠となった「タオルで首を絞めた」などとする元夫ら親族三人の自白については、「三人の知的能力や供述の変遷に問題があることを考慮しても、信用性は強固だといえる」と評価。「法医学鑑定に問題があることを踏まえると、自白に疑義が生じたというには無理がある」とした。

 最高裁は「鑑定を『無罪を言い渡すべき明らかな証拠』とした高裁支部と地裁の決定を取り消さなければ著しく正義に反する」と結論づけた。

 弁護団は二十六日、東京都内で記者会見し、「許し難い決定だ」と批判。第四次再審請求を検討するとした。

 第三次再審請求審では、鹿児島地裁が二〇一七年六月、目撃証言の信用性を否定する心理学者の鑑定や法医学鑑定を基に、再審開始を認めた。一八年三月の福岡高裁宮崎支部決定は、心理鑑定の証拠価値は認めなかったが、「法医学鑑定と整合せず不自然」などとして親族らの自白の信用性を否定し、再審開始決定を維持した。
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https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201906/CK2019062702000174.html

大崎事件 再審、ハードルさらに高く
2019年6月27日 朝刊

<解説> 確定判決に疑問を投げかけた法医学鑑定を「証明力はない」と一蹴し、大崎事件の再審開始を認めなかった最高裁決定は、再審のハードルをさらに上げかねない

 「絞殺ではなく事故死の可能性がある」と指摘したこの鑑定について、一審と二審は証明力を認めて再審開始決定を出した。これに対し、最高裁は「遺体を直接検分していない」「十二枚の写真からしか遺体の情報を得られていない」と証明力を否定した。

 だが、そもそも遺体は腐敗が進んでおり、確定判決時の鑑定も「他殺を想像させる。窒息死と推定」という程度。絞殺の根拠は、共犯者とされた親族三人の自白に依存していた。

 親族三人は、捜査段階から何度も供述を変遷させていた。「タオルで絞め殺した」と自白しながら、いまだタオルは特定されていない。

 第一次再審請求審を加えると、三度にわたり再審開始決定が出ながら、再審の扉は唐突に閉じられた。「疑わしきは被告の利益に」という刑事裁判の鉄則は守られたのか。新旧証拠の総合評価で確定判決に疑いが生じれば、再審を開始すべきだとする「白鳥決定」に沿ったと言えるか疑問だ。 (池田悌一)
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https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201906/CK2019062702000160.html

大崎事件 再審の扉3度閉ざす 弁護団「最高裁の決定は横暴」
2019年6月27日 朝刊

     (大崎事件の再審請求が棄却され、記者会見で言葉を詰まらせ、
      うつむく鴨志田祐美弁護団事務局長=26日、東京・霞が関の司法クラブで)

 四十年間、一貫して潔白を訴え、無罪判決を法廷で聞くという原口アヤ子さん(92)の悲願は、三度目の再審請求でもかなわなかった。一九七九年に起きた「大崎事件」の第三次再審請求審をめぐる最高裁決定。弁護側の新証拠の価値を一蹴した判断に、弁護団からは「あまりにも横暴だ」と怒りの声が上がった。 (蜘手美鶴

 「原口さんの人生をかけた闘いに、最高裁はちゃんと向き合っていない。五人の裁判官は何を考えているのか」。東京・霞が関の司法記者クラブで二十六日に会見した鴨志田祐美弁護団事務局長は、表情をこわばらせ語気を強めた。

 一九九五年に初めて再審請求を申し立てて以降、これまで地裁、高裁で三回の再審開始決定が出ている。「ある意味一番頼りにしていたのは最高裁。長い長い闘いにピリオドを打ってくれると信じていた」と落胆を隠さない。

 会見に同席した元裁判官の木谷明弁護士も「無実の人を救済するために裁判所はあるのではないのか。大変がっかりしている」と批判した。

 原口さんの長女京子さん(64)には、鴨志田弁護士が電話で連絡した。京子さんはしばらく絶句した後、「これは裁判所のトップが決めたことなんですか? それなら日本の恥ですよね。お母さんも私も、もうちょっとで楽になれると思ったのに…」と漏らしたという。弁護団は、原口さんには決定内容をまだ伝えていないという。

 これまで脳梗塞を二度患い、原口さんは発声もままならない状態。今月七日にあった誕生日会では、鴨志田弁護士が再審請求審について話すと、目に光が宿り、何かを言いたそうに頭を持ち上げた。「一緒に同じ法廷で裁判長の『被告人は無罪』っていうのを聞こうね」と話しかけると、大きくうなずいたという。

 

 最高裁は今回、高裁支部に審理を差し戻すことをせず、書面の審査のみで自ら再審請求棄却を判断するという異例の決定をした。

 再審制度に詳しい白鴎大法学部の村岡啓一教授(刑事訴訟法)は「原口さんの関与があったかには触れず、法律論だけで決着を付けてしまっている」と指摘。「選ぶべきは再審開始だった。事故死の可能性についても、再審公判でやるべきだった。ここで終わってしまったのは、原口さんへのものすごく冷たい仕打ちだ」と非難した。

大崎事件> 鹿児島県大崎町で1979年10月、農業中村邦夫さん=当時(42)=が酒に酔って道路脇の溝に落ちているのを住民が発見。3日後、遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、隣に住んでいた中村さんの義姉原口アヤ子さんと親族の計4人が殺人容疑などで逮捕された。原口さんは一貫して否認したが、親族3人は殺害や死体遺棄を自白。一審・鹿児島地裁は原口さんに懲役10年を言い渡し、1981年に最高裁で確定。親族3人は懲役1~8年の判決が確定し、出所後いずれも死亡した。
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●飯塚事件の闇…2008年10月16日足利事件の再鑑定で死刑停止されるべきが、10月28日に死刑執行

2018年06月18日 00時00分15秒 | Weblog


西日本新聞の二つの記事【死刑下した裁判官が関与 飯塚事件の再審請求審 識者「公正さ疑問」】(https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/390048/)と、
【飯塚事件再審認めず 福岡高裁 「目撃証言信用できる」】(https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/392137/)。

 《福岡県飯塚市で1992年に女児2人が殺害された「飯塚事件」の再審請求を巡り、久間三千年元死刑囚=執行時(70)=を死刑とした一審福岡地裁判決(99年)に関与した柴田寿宏裁判官が、福岡高裁での再審請求即時抗告審の「結審」時に裁判体裁判官3人で構成加わっていたことが分かった。一審や二審の裁判官が再審請求審に関わっても違法ではないとした最高裁判例があるが、識者は「一審判決を書いた裁判官の関与は公正さに欠け、避けるべきだった」と疑問視》。
 《「飯塚事件」で、福岡高裁は6日、殺人などの罪で死刑が確定し、執行された久間三千年(みちとし)元死刑囚=執行時(70)=の再審請求を退けた福岡地裁決定を支持し、弁護側の即時抗告を棄却した。岡田信裁判長は、DNA型鑑定の証明力を事実上否定した一方で、目撃証言など他の状況証拠の信用性を認め元死刑囚が犯人であることが重層的に絞り込まれていると判断》。

 それにしても、滅茶苦茶がまかり通っていないか? しかも、滅茶苦茶な高裁決定。《岡田信裁判長は、DNA型鑑定の証明力を事実上否定》しておきながら、《目撃証言など他の状況証拠の信用性を認め元死刑囚が犯人であることが重層的に絞り込まれていると判断》…なんてあり得ない論理。物証も無く、判決後2年で「死刑」。しかも、久間三千年さんは終始無罪を主張していた。
 2008年10月16日に足利事件のDNA再鑑定が決定された時点で、久間三千年さんの死刑は停止されるべきだったはずで…でも、彼/彼女らは知らぬ顔で、無実を主張続けていた久間三千年さんをわずか10日程の後の10月28日に死刑執行。凄い人たちです。良心の欠片も無い。

   『●袴田事件…検察=《狼は本音を明かす。
       「おまえがどんな言い訳をしても食べないわけにはいかないのだ」

 裁判官も含めて《司法》は意地でも非をを認めることはできないでしょうね、だって、「無罪の久間三千年さんを死刑」にしてしまっているのですから。「死刑のスイッチ」は既に押されてしまっています。いまや、取り返しようも無いのです。責任の取りようがない。最「低」裁というアタマも腐敗しきっています。《司法》が非を認めたとたんに、崩壊のスタートですから。決して認めないでしょうね。マスコミもダンマリ。

   『●贖罪:足利事件再鑑定から12日後の2008年10月28日朝、
               飯塚事件久間三千年元死刑囚の死刑が執行
  
    「2008年10月16日 足利事件 再鑑定へ
     2008年10月28日 飯塚事件 死刑執行
     2009年 4月20日 足利事件 再鑑定で一致せず
     ……そう、足利事件で誤鑑定であることが分かった時には、既に、
     久間さんの死刑が執行されていた。2008年10月16日
     DNA型鑑定に疑問が生じた時点で、死刑執行は停止されておくべき
     だったのに…。なぜ、急いで死刑執行したのか?、大変に大きな疑問である」

   『●NNNドキュメント’13: 
      『死刑執行は正しかったのか 飯塚事件 “切りとられた証拠”』
   『●①飯塚事件冤罪者を死刑執行:「死刑存置か? 
         廃止か?」…話題にも上らない、死刑賛成派8割なニッポン
   『●②飯塚事件冤罪者を死刑執行:「死刑存置か? 
         廃止か?」…話題にも上らない、死刑賛成派8割なニッポン
   『●飯塚事件冤罪者を国家が死刑執行、「この重すぎる現実」:
                       無惨…「死刑執行で冤罪を隠蔽」
    「リテラの伊勢崎馨さんによる記事【飯塚事件、なぜ再審を行わない?
     DNA鑑定の捏造、警察による見込み捜査の疑いも浮上…やっぱり冤罪だ!】」
    《冤罪が強く疑われながら死刑が執行されてしまったのが、1992年に
     福岡県で起こった「飯塚事件」である。そして、この飯塚事件にスポットをあて、
     冤罪疑惑に切り込んだドキュメンタリー番組が放送され、ネット上で話題を
     呼んだ。3日深夜に日本テレビで放送された
     『死刑執行は正しかったのかⅡ 飯塚事件 冤罪を訴える妻』だ》

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https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/390048/

死刑下した裁判官が関与 飯塚事件の再審請求審 識者「公正さ疑問」
2018年01月30日 06時00分

 福岡県飯塚市で1992年に女児2人が殺害された「飯塚事件」の再審請求を巡り、久間三千年(みちとし)元死刑囚=執行時(70)=を死刑とした一審福岡地裁判決(99年)に関与した柴田寿宏裁判官が、福岡高裁での再審請求即時抗告審の「結審」時に裁判体裁判官3人で構成加わっていたことが分かった。一審や二審の裁判官が再審請求審に関わっても違法ではないとした最高裁判例があるが、識者は「一審判決を書いた裁判官の関与は公正さに欠け、避けるべきだった」と疑問視している。

 即時抗告審の決定は2月6日に出される予定。

 柴田裁判官は95年2月に始まった飯塚事件の一審の審理に96年5月から加わり、99年9月に死刑判決を出した裁判官3人のうちの1人。福岡高裁によると、2017年4月に高裁に赴任し、飯塚事件の即時抗告審を担当する第2刑事部に5月末まで所属した。6月から職務代行裁判官として那覇地裁で勤務、9月にそのまま同地裁へ異動した。

 関係者によると、第2刑事部時代の昨年5月18日には検察側、弁護側との最終の3者協議に他の裁判官2人と共に出席。弁護団共同代表の徳田靖之弁護士が20分にわたり、有罪判決の根拠となった目撃証言などに信用性はないとする最後の意見陳述を行い、同日、岡田信裁判長が手続き終了を表明して事実上結審した。

 再審請求の審理は通常の公判とは違い非公開で実施。裁判体は3者協議で検察、弁護側双方から意見を聞いたり、証拠開示を勧告したりして、最終的な再審開始の可否を判断する。

 刑事訴訟法は一審や二審の公判を担当した裁判官が上級審の審理に関与することを禁じている。最高裁は59年、再審請求審はこの規定の対象外としたが、神奈川大の白取祐司教授(刑事訴訟法)は「75年の最高裁『白鳥決定』は、疑わしきは被告人の利益にという刑事裁判の鉄則は再審請求にも適用されると判断し、再審は無辜(むこ)の救済制度として生まれ変わった。59年の古い判例は見直されるべきだ」と指摘。今回のケースも「一審判決に関わった裁判官の心証は白紙でなく、再審請求審で中立公正な判断はできない」と批判した。

 福岡高裁は取材に対し、柴田裁判官の具体的な関与や審理の公正さへの影響について「個別の事件についてコメントしない」と回答。第2刑事部を2カ月で離れたことは「那覇地裁の裁判長の健康上の理由に伴うもの」と説明した。

 ◆飯塚事件 1992年、福岡県飯塚市で小学1年の女児2人=ともに当時(7)=が行方不明になり、同県甘木市(現朝倉市)の山中で遺体が見つかった。94年に殺人などの容疑で逮捕された久間三千年元死刑囚は無罪を主張。DNA型鑑定が有罪認定の根拠の一つとなり、2006年に死刑が確定、08年に執行された。元死刑囚の妻が09年に再審請求。福岡地裁は14年、DNA型鑑定は「直ちに有罪認定の根拠とすることはできない」としつつ「他の状況証拠で高度な立証がなされている」と請求を棄却。弁護側が福岡高裁に即時抗告した。

=2018/01/30付 西日本新聞朝刊=
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https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/392137/

飯塚事件再審認めず 福岡高裁 「目撃証言信用できる」
2018年02月07日 06時00分

 福岡県飯塚市で1992年に女児2人が殺害された「飯塚事件」で、福岡高裁は6日、殺人などの罪で死刑が確定し、執行された久間三千年(みちとし)元死刑囚=執行時(70)=の再審請求を退けた福岡地裁決定を支持し、弁護側の即時抗告を棄却した。岡田信裁判長は、DNA型鑑定の証明力を事実上否定した一方で、目撃証言など他の状況証拠の信用性を認め元死刑囚が犯人であることが重層的に絞り込まれていると判断した。弁護側は最高裁に特別抗告する方針。

 久間元死刑囚は捜査段階から一貫して無罪を主張。犯行を裏付ける直接的な証拠がない中、高裁は確定判決や地裁決定と同様に(1)被害者の所持品の遺棄現場で目撃された不審車と元死刑囚の車の特徴が一致(2)元死刑囚の車のシート繊維と、女児の服に付着した繊維の鑑定結果が符合(3)元死刑囚の車から被害者と同じ血液型の血痕と尿痕を検出-などの状況証拠を踏まえ「元死刑囚以外に、こうした事実関係のすべてを説明できる者が存在する可能性は抽象的なものにとどまる」とした。

 弁護側が「警察官の誘導があった」と主張した目撃証言については「誘導はうかがわれず信用性は揺るがない」と退けた。

 再審無罪となった「足利事件」と同じ「MCT118法」が使われたDNA型鑑定については「犯人と元死刑囚の型が一致したとも一致しないとも認めることはできない」と判断した上で「DNA型鑑定を除いても高度の立証がなされている」と結論付けた。


■適正、妥当な決定

 福岡高検の秋山実次席検事の話 即時抗告審においても検察官の主張が認められたもので、適正、妥当な決定であると考える。


■死刑判決の裁判官関与「憲法違反」 弁護団、特別抗告へ

 飯塚事件の再審開始を認めなかった福岡高裁決定を受け、会見した弁護団は6日、一審の死刑判決に関わった柴田寿宏裁判官が再審請求即時抗告審にも一時関与した問題について「公平な裁判を保障した憲法に違反する可能性がある」と指摘、特別抗告の理由とする方針を明らかにした。

 弁護団の徳田靖之共同代表によると、昨年5月に高裁で開かれた弁護側、検察側、高裁による最終の3者協議に柴田裁判官は名乗らずに出席したという。「公正でも適正でもない。その場で分かっていれば審理から外れるように求めていた」と批判。今回の決定について「一審の合議内容などが(柴田裁判官から)今回の高裁の裁判体に伝わっていたとすれば信用性が決定的に揺らぐ」と指摘した。

 高裁や弁護団によると、柴田裁判官は1999年の福岡地裁の死刑判決を出した裁判官3人のうちの1人。飯塚事件の再審請求を担当する福岡高裁第2刑事部に昨年4月から5月末まで所属し、9月に那覇地裁に異動した。

 飯塚事件 1992年2月、福岡県飯塚市で小学1年の女児2人=ともに当時(7)=が行方不明になり、山中で遺体が見つかった。94年に殺人などの容疑で逮捕された久間三千年元死刑囚は一貫して無罪を主張。福岡地裁は99年、DNA型鑑定などを根拠に死刑判決を言い渡し、2006年に最高裁で確定、08年に執行された。09年に妻が再審を請求。福岡地裁が14年に棄却、弁護側が即時抗告した。

=2018/02/07付 西日本新聞朝刊=
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●奥西勝冤罪死刑囚が亡くなる: 訴えることが出来なくなるのを待った司法の残酷さ!

2015年10月06日 00時00分58秒 | Weblog


東京新聞の二つの記事【名張事件の奥西死刑囚が死亡 無実の訴え、半世紀以上】(http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015100401001283.html)と、
【名張毒ぶどう酒事件 奥西死刑囚が死亡 第9次再審請求中】(http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201510/CK2015100502000125.html)。
東京新聞の社説【名張・奥西死刑囚が獄死 日本の司法は敗北した】(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015100502000128.html)と、
東京新聞のコラム【筆洗】(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015100502000127.html)。

 《「半世紀以上にわたり無実を訴え続けていた奥西勝死刑囚(89)が4日午後0時19分、収監されていた八王子医療刑務所(東京)で死亡した」》、《「無罪を訴えて第九次再審請求中だった奥西勝死刑囚が四日、収監先の八王子医療刑務所…で死亡した。八十九歳だった」》。
 《「裁判に翻弄されたまま、老死刑囚は獄死した。冤罪の疑いを消せぬまま閉じ込めておくばかりとなった長い年月は、司法の敗北と言わざるを得まい」》、《八十九歳の死刑囚の脳裏に、最後に浮かんだのは、どんな光景だったのか。名張毒ぶどう酒事件で無罪を訴え続けてきた奥西勝死刑囚の命がきのう、消えた▼あまりに多くの地獄を見てきた》。

 とうとう、奥西勝死刑囚が亡くなった。警察や検察、裁判所は「触らぬ神にたたりなし、ということなのか」?、訴えることが出来なくなるのを待った司法の残酷さ!、を痛切に感じる。のろのろと「死」を待っている様にしか見えない。特に、裁判所の酷さ。当時の《名古屋高裁刑事第2部(門野博裁判長)》、《名古屋高裁刑事第2部(下山保男裁判長)》、《名古屋高裁刑事一部(石山容示(ようじ)裁判長)》、《最高裁第1小法廷(櫻井龍子裁判長)》ら。《冤罪と同じほど罪深い司法の自殺的行為》。《「お父ちゃん、お父ちゃん」。わが子が何度も叫んでいたが、どうしてやることもできない▼…父の無実が証明される日を待ち続けてくれた子らへの思いが、生きる希望そのものだったのかもしれぬ》…無残の一言だ。

 asahi.comの記事【江川紹子さん「再審開こうとしない裁判所、罪深い」】(http://www.asahi.com/articles/ASHB46DGYHB4OIPE01S.html?iref=comtop_list_nat_n05)によると、「冤罪をはらさずに死ねないという強い思いが命を支えていたと思う。どれだけ無念だったか……再審開始決定が05年に出た時点で、裁判をやり直すべきだった。DNA型鑑定が絡む事件以外では、決して再審を開こうとしない日本の裁判所の姿勢は罪深い」。 

   『●名張毒ぶどう酒事件という冤罪
   『●「疑わしきは罰する」名張毒ぶどう酒事件、あ~っため息が・・・
   『●司法権力の〝執念〟:
           映画『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』

   『●血の通わぬ冷たい国の冷たい司法: 「奥西勝死刑囚(87)
                     ・・・・・・死刑囚の心の叫び」は届かず

   『●名張毒ぶどう酒事件第八次再審請求審:  
         検証もせずに、今度は新証拠ではないとは!
   『●「触らぬ神にたたりなし、ということなのか」?  
      訴えることが出来なくなるのを待つ司法の残酷さ!
    《「触らぬ神にたたりなし、ということなのか。検察側の倉庫に
     眠ったままの証拠は、今回も、調べられることがなかった。
     証拠開示への逃げ腰は、司法に対する国民の信頼を
     損ないはしないか」》

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http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015100401001283.html

名張事件の奥西死刑囚が死亡 無実の訴え、半世紀以上
2015年10月4日 21時41分

 三重県名張市で1961年3月に女性5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」で死刑が確定、半世紀以上にわたり無実を訴え続けていた奥西勝死刑囚(89)が4日午後0時19分、収監されていた八王子医療刑務所(東京)で死亡した。三重県出身。法務省によると、死因は肺炎だった。

 一審で無罪判決を受け、9度にわたった再審請求で1度は再審開始が認められたが、いずれも検察側の控訴や異議で覆り、司法判断に翻弄された死刑囚としての収監期間は43年に及んだ

 4日夜に医療刑務所を訪れ、遺体と対面した鈴木泉弁護団長は「誤った判断を正そうとしなかった裁判所に強い憤りを覚える」と話した。

(共同)
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201510/CK2015100502000125.html

名張毒ぶどう酒事件 奥西死刑囚が死亡 第9次再審請求中
2015年10月5日 朝刊

     (奥西勝死刑囚)

 三重県名張市で一九六一年三月、女性五人が毒殺された名張毒ぶどう酒事件で、殺人罪などで死刑が確定し、無罪を訴えて第九次再審請求中だった奥西勝死刑囚が四日、収監先の八王子医療刑務所(東京都八王子市)で死亡した。八十九歳だった。法務省によると、死因は肺炎だった。

 奥西死刑囚の再審請求は親族が引き継ぐとみられるが、第九次請求は本人の死亡で事実上終了する

 奥西死刑囚は二〇一二年に肺炎で体調を崩し、名古屋拘置所から八王子医療刑務所へ移送された。一三年には呼吸困難で二度、一時危篤状態となり、回復後も寝たきりの状態に。今年八月下旬以降は、意識が回復しない状況が続いていた。葬儀は六日に都内で親族や弁護団、支援者らの密葬で行う。

 七二年に死刑判決が確定した後、第七次再審請求で、名古屋高裁は二〇〇五年四月、犯行に使われた毒物はニッカリンTではないなどとする弁護側の新証拠を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と認め、再審開始を決定。しかし、〇六年十二月、名高裁の別の部が取り消し。最高裁の差し戻し、高裁の再度の取り消し決定を経て、最高裁は一三年十月に再審を認めない決定をした

 弁護団は同年十一月、八度目の再審請求をしたが、最高裁に特別抗告中の今年五月に取り下げた上で、毒物に関する別の「新証拠」を基に、第九次請求を申し立てた。

 <名張毒ぶどう酒事件> 1961(昭和36)年3月、三重県名張市の公民館で開かれた懇親会で、白ぶどう酒を飲んだ女性17人が中毒症状を訴え、うち5人が死亡。奥西死刑囚は妻、愛人との三角関係を清算するため、自宅から用意した農薬ニッカリンTをぶどう酒に入れたと自白し、殺人容疑などで逮捕されたが、起訴直前に否認に転じた。64年の津地裁判決は無罪、69年の名古屋高裁は逆転死刑。72年に死刑が確定したが、翌73年から再審請求を続けた。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015100502000128.html

名張・奥西死刑囚が獄死 日本の司法は敗北した
2015年10月5日

 裁判に翻弄(ほんろう)されたまま、老死刑囚は獄死した。冤罪(えんざい)の疑いを消せぬまま閉じ込めておくばかりとなった長い年月は、司法の敗北と言わざるを得まい

 冤罪が国家の罪であることは言うまでもない。

 冤罪の可能性を消せぬまま、二転三転する司法判断の末に八十九歳の奥西勝死刑囚を獄死させてしまった名張毒ぶどう酒事件は、冤罪と同じほど罪深い司法の自殺的行為ではないだろうか。

 「十人の真犯人を逃しても、一人の無辜(むこ)の人間を罰してはならない」という法格言の通り、一人の冤罪者も出さぬことが刑事司法に求められる最大の使命である


白鳥決定無視の過ち

 日本の司法は過去、死刑囚に冤罪を認めたことがある。つまり重大な誤判の歴史を持っている。その経験は生かされたのか。

 名張事件の運命の分かれ道ともいえる第七次再審請求は、十一年もの時を経て、二〇一三年に最高裁で最終的に退けられた。

 迷走した名張事件の最も大きな問題は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が無視され続けてきたことだろう。最高裁が「白鳥決定」で、この鉄則は再審でも適用されることを確認したのではなかったか。

 そもそも、津地裁の一審が無罪だった。冤罪を訴える長い歳月を経て、一度は高裁が再審開始を認めもした。つまり、有罪の立証ができていないと判断した裁判官が少なからずいたわけである

 それなのに最高裁は、判決を見直す姿勢は見せなかった。

 逸した機会の第一は、第五次再審請求である。逆転死刑判決の根拠だったぶどう酒の王冠の歯形鑑定の信用性が崩れたのに、最高裁は再審請求を棄却した。

 第七次請求では、凶器とされた農薬が実際に使われたかどうか疑わしいとして名古屋高裁が再審開始を決めたにもかかわらず、検察の異議の後、最高裁は高裁に差し戻してしまった。まさに白鳥決定の無視である

 弁護団は「弁護団が判決の誤りを実証すると、裁判所は別の理屈を持ち出してくる。『疑わしきは被告人の利益にの原則の逆だ」と訴えていた。再審の扉を重くしてきた裁判官や検察官は、明快に反論できるであろうか。


◆誤判への真摯な恐れは

 特に高裁が一二年五月、再審を開始しないとした決定では、弁護側に本来必要ないはずの「無罪の証明」まで求めた

 刑事司法の基本的な考えは、こうである。つまり「被告人が有罪であることの立証責任は検察官の側にあるのだから、『合理的な疑いを超える程度の証明』がなされていないと思えば、無罪判決をすれば足りる」。

 こうした原理に照らせば、司法が原則を大きく踏み外していたように見えてしまうのである。

 高齢の死刑囚が最後の判断を仰いだ最高裁に、私たちは「自ら速やかに判示を」(一二年五月三十一日社説)と求めた。しかし、返ってきたものは、説得的理由のない棄却決定であった。

 再審無罪となった東京電力女性社員殺害事件や静岡地裁が再審開始を決定した袴田事件では、裁判所に促されて検察側が未開示証拠の開示に踏み切り、冤罪の疑いが深まる大きな要因となった。市民の常識を反映させようという裁判員裁判の時代となったのに、冤罪の疑いがぬぐえぬ名張の事件で、司法は一体、何をしてきたのだろう

 元最高裁判事の故・団藤重光氏は退官後、死刑廃止の立場を鮮明にし、「無実の人を処刑することがいかにひどい不正義であり、どんなことがあろうとも許されるべきでない不正義であるか」と指摘している。

 この碩学(せきがく)がなぜ、死刑廃止論に転じたのか。それは、法律家として、また一人の人間としての誤判への真摯(しんし)な恐れであろう。

 奥西死刑囚は冤罪だったのか、否か。迷走した司法判断は、いわば有罪を維持した状態で幕を引くことになったが、大方の国民の感覚に照らしてみると、どうであろう。彼の獄死は裁判の権威を守ったのか、それとも損ねたのか。


◆法の正義と言えるのか

 多くの謎が残ったままの事件である。その謎に迫る可能性を秘めた未開示証拠を検察側が独占したまま二転三転した死刑判決を維持し、冤罪を訴え続けた一人の人間を獄死に追い込んでしまったことは、果たして国民の目に、司法の正義と映るだろうか。

 いったんは開かれた重い再審の扉は、「疑わしき」を覆い隠すように閉ざされた。獄中で老いることを強いられた死刑囚には、どんな軋(きし)み音が聞こえただろう。

 その獄死の無念を、社会は胸に刻みつけねばならぬ。未来のために、日本の裁判史に汚点として、深く刻みつけねばなるまい。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015100502000127.html

【コラム】
筆洗
2015年10月5日

八十九歳の死刑囚の脳裏に、最後に浮かんだのは、どんな光景だったのか。名張毒ぶどう酒事件で無罪を訴え続けてきた奥西勝死刑囚の命がきのう、消えた▼あまりに多くの地獄を見てきた。妻を事件で失い、遺(のこ)された二人の子を抱き締めなくてはならぬ時、連日連夜調べを受けた。無実を訴えたが、憔悴(しょうすい)しきったところで警察官に迫られたという。「家族の者を救うためには、お前が犯人だと自白するよりほかにないのだ」▼逮捕され、家族が住む村で現場検証に立ち会った時、険しい目で見つめる村人の中から声がした。「お父ちゃん、お父ちゃん」。わが子が何度も叫んでいたが、どうしてやることもできない▼一審で無罪判決を勝ち取ったものの、事件から十一年後に死刑判決が確定してからは、刑執行の恐怖におびえる毎日だった。就寝時間となって布団に入ると、「このまま夜が明けてくれなければ…」との思いが頭をよぎったそうだ▼そんな日々が四十年余も続き、病んで声を失ってなお、冤罪(えんざい)を訴えることはやめなかった。父の無実が証明される日を待ち続けてくれた子らへの思いが、生きる希望そのものだったのかもしれぬ▼死刑判決の根拠とされた証拠には数々の矛盾があると指摘されていた。であるのに、最高裁は再審の扉を開けぬまま、奥西死刑囚をあの世に旅立たせてしまった取り返しのつかぬこと
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●「触らぬ神にたたりなし、ということなのか」? 訴えることが出来なくなるのを待つ司法の残酷さ!

2015年01月24日 00時00分31秒 | Weblog


東京新聞のコラム【筆洗】(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015011002000114.html)と、
社説【名張・再審認めず 証拠は検察のものか】(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015011402000172.html)。

 「八十八歳のその人は病室のベッドで宙に文字を書いている。一九六一年、五人が殺された「名張毒ぶどう酒事件」で無罪を訴え続ける奥西勝死刑囚・・・・・・「ぶどう酒」を、誰も「ぶどう酒」と呼ぶことはなくなり、がっちりしていた男性を宙に文字を書く人に変える。長い歳月である▼弱々しい指で何という文字を書くのであろうか。それが「むじつ」という文字であるのならばさっと消すというわけにはいかない。十四日でもう一つ年を取る」。
 「触らぬ神にたたりなし、ということなのか。検察側の倉庫に眠ったままの証拠は、今回も、調べられることがなかった。証拠開示への逃げ腰は、司法に対する国民の信頼を損ないはしないか」。

 冷酷過ぎる司法・・・・・・奥西勝「冤罪」死刑囚が「無実」を訴えることが出来なくなるのを待っているとしか思えない。「年齢や体調を思えば、再審実現は絶望的かもしれない」・・・・・・それを待つ司法。「冤罪」を決して認めようとしない、司法の強い意志、「司法権力の強い執念」。

   ●名張毒ぶどう酒事件という冤罪
   『●「疑わしきは罰する」名張毒ぶどう酒事件、あ~っため息が・・・
   『●司法権力の〝執念〟:
           映画『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』
   『●血の通わぬ冷たい国の冷たい司法: 「奥西勝死刑囚(87)
                     ・・・・・・死刑囚の心の叫び」は届かず
   『●名張毒ぶどう酒事件第八次再審請求審:  
         検証もせずに、今度は新証拠ではないとは!


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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015011002000114.html

【コラム】
筆洗
2015年1月10日

 空間に指で字を書くということがある。「お母さん、あの漢字、どう書くんだっけ」「よく見ていてよ」。母親が空中に書いて教える。こういう字の教え方も最近は見掛けない▼宙に書いた文字を解読するのはなかなか難しい。携帯電話などで字を探し、見せた方がよほど手間がない▼「柱ってどう書くんでしたかな」。聞かれた男が「こうですよ」と宙に書いた後、その字をさっと消す。「何だって消すんですか」。男、真面目な顔で「後で誰かが柱にぶつかるといけない」。こんな小話もやがて通用しなくなるか。宙に書いた字にも実体が宿る。日本人の空想のたくましさ▼八十八歳のその人は病室のベッドで宙に文字を書いている。一九六一年、五人が殺された「名張毒ぶどう酒事件」無罪を訴え続ける奥西勝死刑囚名古屋高裁はきのう再審開始を退けた年齢や体調を思えば、再審実現は絶望的かもしれない▼気管を切開し、会話ができない。昨年秋、指で宙に字を書いて、意思を伝えるようになったという。事件から五十四年。「ぶどう酒」を、誰も「ぶどう酒」と呼ぶことはなくなり、がっちりしていた男性を宙に文字を書く人に変える。長い歳月である▼弱々しい指で何という文字を書くのであろうか。それが「むじつ」という文字であるのならばさっと消すというわけにはいかない。十四日でもう一つ年を取る。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015011402000172.html

【社説】
名張・再審認めず 証拠は検察のものか
2015年1月14日

 触らぬ神にたたりなし、ということなのか。検察側の倉庫に眠ったままの証拠は、今回も、調べられることがなかった証拠開示への逃げ腰は、司法に対する国民の信頼を損ないはしないか。

 奥西勝死刑囚(89)の再審開始を認めなかった名古屋高裁の名張毒ぶどう酒事件異議審決定は、昨年五月の請求棄却決定と同様、弁護団が新証拠として提出した三通の意見書を「再審請求の要件を満たさない」と一蹴した。弁護団は「検察官の証拠隠しを許したまま非情な決定を出したことは許し難い」と高裁の対応を非難している。

 証拠隠し、とは、裁判所にも弁護側にも見せていない検察側の手持ち証拠の存在を指す。

 検察側はかつて、裁判所と弁護団との三者協議で「証拠はまだ膨大にある」と認めていた。弁護団は、その中に奥西死刑囚の無実を明らかにする手掛かりがある可能性が高いとみて証拠の開示を求めてきたが、裁判所も検察側も応じぬまま、異議審も終結した。

 近年、証拠開示が突破口になった再審開始が相次いでいる。

 二〇一二年に再審無罪となった東京電力女性社員殺害事件では、被害女性の爪に残された皮膚片などが開示され、DNA鑑定で真犯人が別にいる可能性を示した。昨年、再審開始決定が出た袴田事件も、血痕付き衣類のカラー写真など新たに開示された六百点が確定判決への疑問を深めた。

 裁判員制度導入に際し、公判前に争点を整理するため、検察側が段階的に証拠を開示する制度が施行されたが、再審請求審の証拠開示は制度化されておらず、裁判所と検察庁の裁量任せだ。

 東電、袴田両事件では、証拠を出し渋っていた検察側が裁判所に促されて開示を決断したが、今回の名張事件では、裁判所も消極的な対応に終始した。

 公権力が公費を使って集めた証拠は、一体、だれのものだろう

 一九六四年の一審判決は無罪、〇五年に一度は再審開始決定。未開示証拠を検察側が独占したまま二転三転した死刑判決を維持することは、国民の目に、司法の正義と映るだろうか

 弁護団は十四日、特別抗告し、舞台は最高裁に移る。「再審制度においても、疑わしきは被告人の利益に、という刑事裁判の鉄則が適用される」とは、その最高裁の白鳥決定である。扱いが分かれる証拠開示の問題でも、白鳥決定に即した対応を望みたい。
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●血の通わぬ冷たい国の冷たい司法: 「奥西勝死刑囚(87)・・・・・・死刑囚の心の叫び」は届かず

2013年10月22日 00時00分07秒 | Weblog


東京新聞の記事【奥西死刑囚の再審認めず 名張毒ぶどう酒事件 7次請求】http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013101702000247.html)とコラム【筆洗】(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2013101802000136.html。asahi.comの記事【再審の壁―手続きの整備が必要だ】(http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit2、10月19日)とコラム【天声人語】http://www.asahi.com/paper/column.html?ref=com_top_tenjin10月19日)。最後に江川紹子氏のブログの記事【名張毒ぶどう酒事件・最高裁の棄却決定に思う】(http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/20131019-00029050/)。

   『●冤罪死刑囚の死を待ち、責任を逃れようとする冷酷な人々

 またしても、最高裁は再審の扉を閉じた。上記ブログの通り。血の通わぬ冷たい国の冷たい司法。

   『●名張毒ぶどう酒事件という冤罪
   『●『創(2009年5月号)』
   『●『冤罪File(No.10)』読了
   『●それは、職業裁判官の怠慢にすぎない
   『●強大な氷山の一角としての冤罪発覚
   『●冤罪: 筋弛緩剤事件の守大助氏
   『●「疑わしきは罰する」名張毒ぶどう酒事件、あ~っため息が・・・
   『●司法権力の〝執念〟: 映画『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』
   『●「希望にすがるな 絶望せよ」/
          『週刊金曜日』(2013年2月22日、932号)についてのつぶやき

   『●愚挙: 検察の異議が認められて福島事件の再審開始が取り消しに
   『●「アベノミクスに騙されないための政治経済学」
   週刊金曜日』(2013年3月29日、937号)

   『●『自然と人間』(2013年5月号、Vol.203)についてのつぶやき

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013101702000247.html

奥西死刑囚の再審認めず 名張毒ぶどう酒事件 7次請求
2013年10月17日 夕刊

 三重県名張市で一九六一年、農薬入りの白ぶどう酒を飲んだ女性五人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」の第七次再審請求特別抗告審で、最高裁第一小法廷は、殺人罪などで死刑が確定した奥西勝(まさる)死刑囚(87)=八王子医療刑務所収監中=の再審開始を認めなかった昨年五月の名古屋高裁決定を支持し、弁護団の特別抗告を棄却する決定をした。十六日付。 

 奥西死刑囚の当初の自白通り、毒物が農薬「ニッカリンT」かどうかが争点だったが、桜井龍子(りゅうこ)裁判長は「毒物は自白通りのニッカリンTであっても矛盾はなく、自白の信用性に影響はない」と判断した。

 事件から半世紀余り。犯行を裏付ける直接証拠はなく、司法判断は無罪から死刑へと揺れた。奥西死刑囚は再審請求を繰り返し、第七次再審請求ではいったん再審開始が決まったが、その後覆され、今回の最高裁決定で再審を開始しないことが確定した。あらためて再審請求するにはさらなる新証拠の提出が求められる。

 弁護側は事件当時の鑑定で、現場に残されたぶどう酒からニッカリンT特有の副生成物が検出されなかった点に着目し、「毒物は別の農薬で、自白の信用性が根底から崩れた」と主張した。だが、昨年五月の名古屋高裁は独自鑑定の結果、「鑑定方法によっては副生成物が検出されない」と再審請求を棄却した。

 第一小法廷も「高裁の鑑定は科学的根拠を示している」と判断。事件当時、一般的だった方法で鑑定すると、副生成物が検出されるという弁護側の主張にも「弁護側の指摘する方法で当時の鑑定が行われた形跡はない」と結論づけた。

 第七次再審請求は、二〇〇五年に名古屋高裁が「ニッカリンTを入れたとの自白の信用性に疑問が残る」として再審開始と死刑の執行停止を決定したが、〇六年に同高裁の別の部が取り消し。最高裁は一〇年に「毒物の審理が尽くされていないとして審理を差し戻したが、同高裁は昨年五月、再審開始を認めなかった。奥西死刑囚は肺炎にかかり、昨年六月に名古屋拘置所(名古屋市)から八王子医療刑務所(東京都八王子市)に移送された。その後は寝たきりの状態が続き、今年に入り一時、呼吸困難で危篤状態に陥った。

 決定は、第一小法廷の四裁判官全員一致の意見。検察官出身の横田尤孝(ともゆき)判事は審理の参加を辞退した。

 <名張毒ぶどう酒事件> 1961年3月28日夜、三重県名張市葛尾の公民館で開かれた地元の生活改善グループ「三奈の会」の懇親会で、白ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡、12人が中毒症状を訴えた。奥西死刑囚は「妻、愛人との三角関係を清算するため」、自宅から用意した有機リン系の農薬ニッカリンTをぶどう酒に入れたと自白し、翌月3日、殺人容疑で逮捕された。64年の津地裁判決は無罪、69年の名古屋高裁は逆転死刑。72年に死刑が確定したが、翌73年から再審請求を続けた。確定判決によると、奥西死刑囚は事件当日、会場で偶然1人になった10分間に、ぶどう酒の王冠を歯でかんで開け、竹筒に入れたニッカリンTを混入した。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2013101802000136.html

筆洗
2013年10月18日

 その映画は、三十五歳の男が川岸を家族と散策する場面で始まる。妻と二人の子と。男は上機嫌で歌いだす。♪母は来ました 今日も来た この岸壁に 今日も来た とどかぬ願いと 知りながら▼幸せな時。だが、それは夢だ。老いた男は、四十年以上すごしてきた三畳一間で目覚める。一九六一年に三重県名張市で起きた毒ぶどう酒事件で犯人とされた奥西勝死刑囚(87)は、拘置所の独房から冤罪(えんざい)だと訴え続けている▼その生涯を描いた東海テレビ製作の映画『約束』で、仲代達矢さん演じる死刑囚は、拘置所の屋上の運動場で叫ぶ。「死んでたまるか、生きてやる」。それは無実を信じ続けた家族の心の叫びでもある▼母タツノさんは、貧しい暮らしに耐えながら面会に通い、手紙で励まし続けた。「してない事はしたというな。しんでもしないというてけ」「ほしいものがあれば母ははだかになってもかってやるから手紙でおしえてくれ」▼タツノさんは一九八八年に世を去り、親類に引き取られ育った長男も六十二歳で病に倒れた。高齢の父を気遣い「おやじには、(無罪を勝ち取り)出てきてから知らせてくれ」と言い残して▼証拠の多くは弁護団の根気強い調査で突き崩されてきた。だが、最高裁は固い扉を開けようとせず、七度目の再審請求も棄却した。死刑囚の心の叫びが、ひときわ高く聞こえるようだ
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http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit2、10月19日】

2013年10月19日(土)付
再審の壁―手続きの整備が必要だ

 裁判で有罪が確定したあとでも、その結論を覆すような新証拠が見つかれば、改めて審理する。それが再審である。

 三重県で52年前に起きた名張毒ブドウ酒事件で、最高裁は死刑囚の再審を認めなかった。

 もともと自白と状況証拠で有罪となった事件である。一審は無罪。名古屋高裁もいったんは再審の開始を認めた。複数の裁判官が有罪に疑いをもった。

 弁護側が出した新証拠は、犯行に使われた農薬は、死刑囚が自白したものとは別だった可能性がある、というものだった。

 だが、最高裁は、再審を開くほどの証拠ではないと判断した。一方で、農薬が別物だった可能性は依然残る。再審を始めるのに必要な新証拠のハードルはどこまで高くすべきなのか、すっきりしない結論だ。

 最高裁は1975年、「疑わしきは被告人の利益」とする原則が、再審開始の判断にも適用されるとの決定を出した。その理念に立ち返り、再審のあり方を再考すべきではないか。

 確定判決は尊重されるべきだが、誤りだった場合は救済されねばならない。まして死刑になれば、取り返しがつかない。

 そもそも再審を始めるかどうかの審理は事実上、有罪か無罪かの判断に結びついている。だが、その手続きには具体的な規定が乏しく、裁判所の裁量が大きい。証拠の取り扱いや被告人の権利をめぐる公判のようなルールがなく、非公開のなかで判断されている。

 刑事訴訟法ができた当時、再審は例外的と考えられていた。だが75年の決定をうけ80年代、4件の死刑確定事件が再審で無罪となった。近年も、足利事件布川事件東電社員殺害事件など、再審無罪が相次いでいる。再審の可否をめぐる手続きについて整備すべきだろう。

 さらに、再審の可能性を見すえた証拠の保存や開示のあり方についても議論が必要だ。

 今回は、重要な証拠だった毒ブドウ酒が保存されていなかったため再鑑定できず、当時の鑑定方法も分からなかった。

 事件から時間がたつほど新証拠を見つけるのは難しくなる。一方で、DNA鑑定など技術の進歩により、証拠の価値は時とともに重みを変える。

 重要な証拠が検察側の手に埋もれていることもある。これまでの再審請求審では、裁判所が検察側に促して出てきた証拠が大きな役割を果たした。

 とりわけ死刑事件については、求められた証拠を確実に開示しない限り、刑の執行への理解は得られまい。
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http://www.asahi.com/paper/column.html?ref=com_top_tenjin、10月19日】

2013年10月19日(土)付
天声人語

 事件につけられた名称が、その時代と、流れた歳月を物語ることがある。たとえば「徳島ラジオ商殺し事件」はテレビ時代の到来前に起きた。「名張毒ブドウ酒事件」もブドウ酒という言葉が時代がかって響く。どちらも戦後の事件・裁判史に太字で刻まれるできごとだ▼ラジオ商事件では、故・富士茂子さんが夫殺しの汚名を着せられて懲役刑に服した。無実を叫び、事件から32年後に再審無罪が言い渡されたのは、富士さんが69歳で他界した後だった▼毒ブドウ酒事件の奥西勝死刑囚は87歳になり、人工呼吸器をつけた病床から無実を訴えている。事件はガガーリンが人類初の宇宙飛行をした1961(昭和36)年に三重県名張市で起きた。一審無罪、二審有罪をへて、死刑確定後の収容は41年におよぶ▼ようやく開きかけた再審の扉も、16日の最高裁の棄却で、また固く閉じられた。後になって証言者の偽りが分かったラジオ商事件とは状況は違う。しかし自白を軸に状況証拠と心証で下された裁きは、冤罪(えんざい)を生んできた一つの「型」といえる▼裁判官には専門家としての判断があろう。とはいえ、確定判決を守り抜くことで裁判の威厳が保たれるとは思えない。「疑わしきは被告人の利益にに徹してこそ、司法の高潔は保たれるのではないか▼弁護団は8次となる再審請求をするという。残された時間との戦いにもなろう。真実を知る身ではないけれど、「遅れた正義は無いに等しい」という言葉が、胸に浮かんでは消える。
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http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/20131019-00029050/

名張毒ぶどう酒事件・最高裁の棄却決定に思う
江川紹子
2013年10月19日 16時27分

なぜ?今?

名張毒ぶどう酒事件で、最高裁が棄却決定を出したとの速報を見て、頭の中に大きな疑問符が浮かんだ。弁護団が最高裁に書面を出した、と聞いたばかりだったからだ。

  (小池義夫弁護士が描いた元気な頃の奥西勝さんの似顔絵。よく似ている)

検察官の主張に対する反論と、科学者3人の意見書や資料など、合わせて100ページほどを弁護団が投函したのは、9月30日という。最高裁に届いたのは10月1日だろう。再審請求棄却の決定は10月16日付。時間的に、弁護団の書面を吟味したり、議論したうえで判断した、とは思えない。

決定の内容を読んで、あ然とした。

焦点となっている毒物に関して、弁護側主張を検討した形跡がまったくないのだ。単に、検察側意見書によれば再審不開始の名古屋高裁決定は正しい、と言っているだけで、弁護側主張のどこが、なぜ違うのか、という理由にまったく言及していない。

そして、弁護人から決定が出るまでの経緯を聞いて、今度は呆然とした。

弁護団は書面を送付する際、裁判官と調査官の面会を求める上申書を提出していた。調査官とは、最高裁裁判官の仕事を補佐する役割で、地裁などで裁判官として実務経験豊富な判事が務める。

ところが何の音沙汰もないので、弁護団長の鈴木泉弁護士が10月11日に最高裁の担当書記官に電話をした。「調査官と裁判官に聞いて連絡します」と言われ受話器を置くと、わずか15分後に電話がかかってきた。「調査官、裁判官とも面会しないとのことです」という断りだった。

第7次再審請求で1回目の特別抗告審(最高裁第3小法廷・堀籠幸男裁判長)の時には、調査官が何度も面会に応じ、弁護団は難しい科学鑑定の中身を口頭で補足説明する機会を得ていた。ところが、今回の第1小法廷(櫻井龍子裁判長)では、調査官の面会も、ただの一度も実現していない、という。


裁判所の都合が優先

しばし呆然とした後、ようやく働き始めた私の頭でこれらの事実を咀嚼し、冒頭の疑問に自ら出した答えは、次の2つだった。

(1)最高裁にとっては、とにかく奥西勝さんが生きているうちに裁判所の結論を出すことが最優先だった。

(2)その結論、すなわち再審を開始しないという結果は、あらかじめ決まっていた。

奥西さんは昨年5月に名古屋高裁刑事第2部(下山保男裁判長)で再審開始を取り消す決定が出されてから体調が急激に悪化。6月に八王子医療刑務所に移されたが、今年5月には2度も危篤状態に陥った。第7次再審請求審は、以下のような経過を経て、すでに11年以上が経過していた。


2002年4月 第7次再審請求
  ↓
2005年4月 名古屋高裁刑事第1部(小出ジュン一裁判長)の再審開始決定
          注:「ジュン」はかねへんに、つくりは亨
  ↓
2006年12月 同高裁刑事第2部(門野博裁判長)の再審開始取消決定
  ↓
2010年4月 最高裁第3小法廷(堀籠幸男裁判長)の差し戻し決定
  ↓
2012年5月 名古屋高裁刑事第2部(下山保男裁判長)で再度の再審開始取消決定
  ↓
最高裁第1小法廷(櫻井龍子裁判長)


最初に再審開始決定が出ており、最高裁第3小法廷の判断も「科学的知見」を重視するものだっただけに、本人や弁護団が期待しているだけでなく、マスメディアからも島田事件以来の死刑再審かと大いに注目されていた。最高裁の結論が出る前に、奥西さんが亡くなるようなことがあれば、裁判所が批判にさらされるのは必至だ。

そんな事態を防ぐため、とにかく生きているうちに、再審を開くつもりはないという結論を示して第7次再審請求審を終わらせるーー明示的か暗黙のうちかは分からないが、これが、最高裁第一小法廷の基本方針だったのではないか。それでも、検察側主張に対する弁護側反論を待たずに結論を出すわけにはいかない。なので、弁護側の書面が届くのを待って、(「これでよろしいですね」という形ばかりの確認くらいはしたかもしれないが)あらかじめ用意してあった決定文を印刷し、発送したのだろう。

つまり、事案の真相解明とか、人の命や尊厳などより、裁判所の都合が優先された、ということだ。


結論ありき、が「普通」

再審は開かせないーー名張毒ぶどう酒事件の再審請求は、こうした裁判所の結論ありきの姿勢との戦いだった。

  (2012年5月、名古屋高裁の差し戻し抗告審の「不当決定」に憤る鈴木弁護士に)

たとえば、第5次再審請求審で、唯一の物証であったぶどう酒の王冠についた傷が奥西さんの歯型と一致するという有罪判決の認定は、木っ端みじんに打ち砕かれた。それでも名古屋高裁は、王冠の傷は奥西さんの歯型に類似しているという旧鑑定にも「それなりの証明力が認められる」とか「自白の補強証拠の一つとなりえないとはいえない」などと有罪方向での評価を与え続けた。

そもそも、証拠とされた王冠が、本当に事件に使われたぶどう酒のものだったかどうかも、疑わしいところがある。事件の現場となった公民館からは、証拠として出されている王冠以外にも、たくさんの酒類の王冠がみつかり、警察が押収し、検察に保管されている。再審弁護団の初代弁護団長は、「(王冠が)ざくざくあった」と述べていた。だが、それは未だに開示されていない。

第7次請求審で再審開始決定を取り消した門野決定は、「…ではないかと考えられる」「…のようにも思われる」「…も無視できないように思われる」「…としてもおかしくないように思われる」などと想像や推理、推測、憶測を幾重にも重ねて、科学者の意見を退けた。そして、「当然極刑が予想される重大犯罪であり、そう易々とうその自白をするとは考えられない」と、「自白」に寄りかかって判断をした。無実の人の虚偽「自白」や目撃者が虚偽や誤解に基づいた「証言」によって、これまでたくさんの冤罪が作られてきた教訓は、そこでは全く忘れ去られていた。

どれだけ有罪の事実認定が疑わしくなっても、とにかく確定判決を死守するという結論は動かないのだ。これが、多くの裁判官の対応だった。私には異常に思えたが、裁判所の世界では、これが「普通」なのだろう。


「普通」につぶされる「まとも」な判断

それでも、時々まともな裁判官は現れる

ここで私が言う「まとも」とは、

1)再審請求審においても、「疑わしきは被告人の利益にという刑事裁判の鉄則が適用される、とした白鳥決定を意識する

2)自白などの供述に頼るより、客観的な証拠、とりわけ科学的知見を重視する

という姿勢を意味している。

第7次再審請求審で再審開始を決定した小出コートは、1)の意味で「まとも」だったし、科学的知見を重視して判断をやり直すように求めた最高裁第3小法廷は、2)の意味で「まとも」だった。もちろん、いずれも弁護側の主張を丸飲みしたわけではない。たとえば小出決定は、それぞれの証拠の意味するところを的確に把握し、事実認定のうえで新たな視点を提供しているかどうかで採用不採用をきっぱり分別。そのうえで、確定判決に合理的な疑問が生じている以上、再審を開くべき、という明解な論旨だった。

ところが、そういう「まとも」な判断が出るたびに、それを他の「普通の」裁判官たちが潰しにかかる。その繰り返しだった。門野コートは自白に依存し、下山コートに至っては、検察官が主張もしていない化学反応を自ら考え出して、せっかく開きかけた再審開始の扉を、再び閉ざした。

その挙げ句の果ての、今回の最高裁の決定だ。

再審は、過去の裁判を見直す作業でもある。裁判所の判断が誤っていたかもしれない。見逃した事実があるかもしれない。そんな謙虚な姿勢で証拠を見直し、様々な意見に耳を傾けるのでなければ、間違った裁判は正せない。

残念ながら、今回の最高裁にそうした謙虚さは欠片も見られなかった。無辜を救済する使命感も全く感じられなかった。伝わってきたのは、「裁判所は間違わない」との無謬神話を維持する強固な意志と、裁判所の対面や都合を優先する姿勢ばかりだ。


裁判官は選べない。ならば…

   (毒ぶどう酒事件被害者の霊を慰める観音像)

私が名張事件と関わって、もう20年以上になる。その間、他の再審請求事件についても、取材をしたり、関心を持って見てきた。

確かに、足利事件、氷見事件(富山強姦・同未遂事件)、東電OL殺害事件などで再審無罪判決は出ている。ただ、これらの事件は、DNA鑑定や真犯人の逮捕によって、犯人が別人であることが明らかになったケースだ。そうでもなければ再審が開かれないのでは、冤罪の犠牲者を救うことは難しい。実際、冤罪と思われる事件でも、再審の扉はなかなか開かれず、いったん開かれた扉も、すぐにまた閉じられてしまう。

圧倒的多くの「普通」の裁判官が過去の裁判所の判断を見直したがらない中、時折「まとも」な裁判官が現れたり、「まとも」な判断がなされたりする。それは他の事件でも同じだ。

けれども、被告人も再審請求人も、裁判官を選ぶことはできない。格別に幸運で、「まとも」な裁判官や「まとも」な判断に続けて出くわせば、雪冤を果たせるかもしれない。けれども、そうでない多くの場合は、救われない。これが今の日本の司法の現状だ。

その結果、奥西さんは名古屋高裁の逆転死刑判決以来、44年間も獄につながれている。

かといって、裁判所が自ら変わっていく、ということは全く期待できない。ならば、これ以上「運」に任せるのではなく、こんな事態がまかり通っている仕組みを変えていくべきだ。

そこで提案が3つある。

1)現在の裁判で認められている程度の証拠開示を認める

今なら、名張毒ぶどう酒事件は、裁判員裁判対象事件となり、公判前整理手続きの過程で検察側の証拠が幅広く開示される。過去の冤罪事件では、検察側はしばしば、自分たちの筋書きに反する証拠を隠していきた。たとえば、東電OL事件では、被害者の口や胸部にゴビンダさんとは異なる血液型の唾液が付着していたことを、検察側は長く伏せてきた。布川事件では、犯人とされた2人とは違う男を被害者宅付近で見たという女性の証言が、やはり長く隠されてきた。

名張毒ぶどう酒事件は、検察側が証拠提出した関係者の調書類だけでも、不自然極まりない変遷がある。それ以外の調書や王冠の”発見”過程などが明らかになれば、事件の真相に近づくことができるかもしれない。

最近は、証拠開示に前向きな裁判官も出てきている。しかし、そういう裁判官に当たるかどうかは運次第。それではいけない。どんな裁判官に当たってもいいように、現在、裁判を行うのであれば認められる程度の証拠開示は、再審請求審でも認められるよう、制度として定めるべきだ。


2)検察官による異議申し立ては認めない

今回の最高裁決定は否定したが、「疑わしきは被告人の利益に」の原則を再審請求審でも適用するとした「白鳥決定」は、維持すべきだと思う。

名張毒ぶどう酒事件については、一審の津地裁は明解な無罪判決を書いている。そして、第7次再審請求審の名古屋高裁小出コートは、いくつもの論点を検討して、有罪判決に「合理的疑い」を抱いた。少なくとも、6人の裁判官が関わった2つの裁判体で、奥西さんを犯人とする検察主張や有罪判決に対し、「合理的疑い」を抱いた事実は大きい。

ましてや、死刑判決である。「合理的疑い」をさしはさむ余地が少しもないほどに有罪立証が固められていなければならないはずだ。それに対し、再審請求審において、3人の裁判官が「合理的疑い」を抱いた。この時点で、検察側の異議申し立ては認めず、すぐに再審を開いたらどうか。

現状では、事実上「再審開始=無罪判決」となっているため、いったん再審開始決定が出ても、検察官は異議を申し立てて、それを阻止しようと努める。その発想を変え、「再審開始=起訴時に戻って裁判をやり直す」として、検察側の主張はそのやり直し審で十分主張すればよい。裁判のやり方も、事件当時の訴訟法ではなく、現在の法律に基づいて行う。法制度は「改正」、つまりよりよく改められてきたはずで、何も以前の悪い制度で行うことはないだろう。

このようにすると、再審で有罪判決が出されることもありうる。それを承知の上で、検察側異議申し立てを認めずに、再審開始のハードルを少し下げることが必要だと思う。


3)再審請求審に市民が参加する

前述したように、「普通」の裁判官たちは、過去の裁判所、すなわち先輩たちがなした判断の間違いを正すことに、非常に消極的である。間違いを認めると、裁判所の権威に関わるとでも思っているらしい。

そうであるならば、過去の裁判所の間違いを正す機会を作る役割を、職業裁判官たちに任せたままにしておくことは、間違いなのではないか。

裁判をやり直すかどうかの判断には、過去の裁判所に何のしがらみもない市民が関わるべきだ、と私は思う。市民だけで判断をする検察審査会方式にするのか、裁判官により多くの市民が加わる裁判員方式がいいのかは議論すればよい。いずれにしても、再審の扉を開く鍵を、裁判所だけに託しておくことは、人の道に反している、とすら思う。


大きくうなずいた奥西さん

奥西さんには、17日のうちに弁護士2人が結果を伝えた。気管を切開していて、言葉を語ることはできないが、この日の意識は清明で、右手をやや上げて弁護士を迎えた、という。2弁護士によると、状況は次のようなものだった。

伊藤和子弁護士が、奥西さんの右手を握った。野嶋真人弁護士が、こう切り出した。

「最高裁の決定が届きました」「僕らの力が及ばず、ごめんなさい」

これで全てを察した奥西さんは、石のように固まって、うつろな表情で天上を見つめた。「僕らは絶対諦めません」「弁護団はこれからも今まで以上にがんばる」「次の準備をしています」…

2弁護士がそう繰り返し呼びかけると、奥西さんはうなずいた。

「8次(再審請求)をやりますよね」

野嶋弁護士の声に、2度、うなずく奥西さん。

   (八王子医療刑務所に移ってからの奥西さんの似顔絵。小池義夫弁護士が描いた)

「僕らを選任してくれますか」

さらに大きなうなずきが返ってきた。そして、必死に何か喋ろうと口を動かす。しかし、声にはならない。野嶋弁護士が口元に耳を寄せたが、聞きとることはできなかった。

以前は、面会のたびに、「皆さん、ありがとう。がんばります」と言葉が返ってきた。野嶋弁護士が「『ありがとう。がんばります』と言ってくれているのですか?」と聞いた。奥西さんは、やはり大きくうなずいた。

裁判所や法務当局は、奥西さんの獄中死を待っているのかもしれない。それに抗うかのように、奥西さんは懸命に命の灯火をともし続けている。

制度を変えるには時間がかかるだろう。

だが、奥西さんの命の時間はそう長くない。

本当に、なんとかならないものだろうか。

弁護団は、急ピッチで第8次再審請求の準備を進めている、という。
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●犯罪を犯さず冤罪を訴える者がなぜ反省などする必要があるのか?

2013年02月04日 00時00分07秒 | Weblog


asahi.comの記事(http://www.asahi.com/national/update/0130/TKY201301300195.html)。

 裁判官の論理や如何に? 「「反省の態度が見られない」として懲役1年10カ月の実刑判決を言い渡した」そうだが、無茶苦茶すぎないか? 罪を認めた上で、「反省の態度が見られない」と云うのであれば、分かる。でも、この場合、一貫して冤罪を訴えているのに、なんで反省の態度を見せる必要があるのか? 裁判官は、頭から犯罪者と決めつけて裁判を進行しているとしか思えないではないか!? 訴えた者、訴えられた者のそれぞれの声を公平に聞こうという気が裁判官にはあるのか。第一、「疑わしきは被告人の利益に」、ではないのか? 刑事裁判の鉄則ではないのか? 高裁も、最高裁も、裁判官の目は節穴か!

   『●『冤罪File(No.06、2009年6月号)』
   『●『冤罪File(2009年12月号)』読了(2/2)
   『●『美談の男』読了
   『●『冤罪法廷 ~特捜検察の落日~』読了
   『●それは、職業裁判官の怠慢にすぎない
   『●何度書いても書き足りない裁判員制度
   『●日刊ゲンダイへの嫌がらせ ~宮崎学氏の「推認」~
   『●「疑わしきは罰する」名張毒ぶどう酒事件、あ~っため息が・・・
   『●東電OL殺人事件元被告マイナリさん、冤罪15年間への償いはできるのか?
   『●忘れられた最高裁国民審査

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http://www.asahi.com/national/update/0130/TKY201301300195.html

痴漢冤罪訴え再審請求 異例の本人質問へ 東京地裁
2013年1月30日19時12分

【田村剛】痴漢事件で実刑判決を受けた東京都練馬区の男性(70)が冤罪(えんざい)を訴える再審請求審で、東京地裁(細田啓介裁判長)が31日、男性から事情を直接聴くことになった。書面のやりとりが中心の再審請求審で、裁判所がこうした手続きをとるのは異例。弁護団は「救済の道が開かれるかも知れない」と期待する。

 男性は30年以上、小学校の教師だったが、1999年ごろから指の痛みでチョークが持てなくなり、2001年に退職した。教育施設の嘱託職員として働いていた05年3月、西武池袋線の満員電車内で当時19歳の女性のスカートに右手を入れ、約4分間にわたって下半身を触ったとして逮捕され、強制わいせつ罪で起訴された。62歳の時だった。

 男性は一貫して否認し、「指の痛みで犯行はできなかった」と訴えたが、一審・東京地裁は事件直後に警察が撮った写真から「人さし指が曲げられなくても中指は動かせた」と指摘。男性を取り押さえた乗客と女性の証言を重視し、「反省の態度が見られない」として懲役1年10カ月の実刑判決を言い渡した。高裁、最高裁もこの判断を維持し、有罪が確定。男性は服役中の11年2月に再審を申し立てた。
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●「疑わしきは罰する」名張毒ぶどう酒事件、あ~っため息が・・・

2012年05月31日 03時37分55秒 | Weblog


東京新聞の記事(http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012052502000260.html)と社説(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012052602000131.html)。裁判員制度への過剰な期待らしきものがうかがえる点は残念ですが、優れた社説だと思いました。

 名張毒ぶどう酒冤罪事件の第7次再審請求差戻審で、またしても、名古屋高裁は開きかけた扉をあっさりと閉じてしまった。本当にまじめに新証拠の審査を行っているのか? 奥西勝死刑囚は無実の罪で囚われ、すでに86歳だそうだ。警察や裁判所の罪を糊塗したままで、冤罪は続いていく。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012052502000260.html

名張毒ぶどう酒事件 奥西死刑囚の再審認めず
2012年5月25日 夕刊

 三重県名張市で一九六一年、農薬入り白ぶどう酒を飲んだ五人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」の第七次再審請求差し戻し審で、名古屋高裁刑事二部(下山保男裁判長)は二十五日午前、弁護側が提出した新証拠は「毒物がニッカリンTではないことを示すほどの証明力はなく、確定判決に合理的な疑いは生じない」として、検察側の異議を認め、奥西勝死刑囚(86)の再審を開始しないと決定した。いったんは再審を開始すると判断した名古屋高裁刑事一部の決定(二〇〇五年)を取り消した。 

 今回の決定により、死刑執行の停止は取り消された。弁護団は決定を不服として五日以内に最高裁に特別抗告する。棄却されれば第八次再審請求も検討するが、奥西死刑囚の年齢から今回が事実上「最後の再審請求」と位置付けている。事件発生から五十一年、再審の扉が開かれるのは相当難しくなった。

 差し戻し審の争点は、毒物が当初の自白通りニッカリンTか否かだった。高裁はニッカリンTを再製造し、最新機器で鑑定した。

 決定は、ニッカリンTなら含まれるはずの副生成物が「エーテル抽出」という工程の後には検出されなかった点を重視した。

 弁護側は、エーテル抽出の前段階では、副生成物が検出されたことから「毒物はニッカリンTではなく別の農薬だ。自白が根底から崩れた」と主張していた。しかし、下山裁判長は、飲み残しのぶどう酒から副生成物が出なかったのは、「(水と化学反応する)加水分解の結果、検出されなかった余地がある」とし、検察側の主張通り「毒物がニッカリンTでなかったとまでは言えない」と認めた。

 ただ「加水分解した」との理由は、検察側も主張していない。それでも下山裁判長は、当時の鑑定は事件から二日が過ぎ、出るはずの副生成物が加水分解してほとんど残らなかった、と推論した。

 奥西死刑囚は逮捕後、全面的に自白を翻したが、下山裁判長は「請求人以外に毒物を混入した者はいないとの判断はいささかも動かず、自白は十分信用できる」と判断した。

 刑事裁判の原則「疑わしきは被告人の利益に」が再審にも適用されるべきだとした最高裁「白鳥決定」(一九七五年)以降、死刑囚の再審が開始されたのは財田川、免田、松山、島田事件の四件。開始決定がいったん取り消された免田事件も含め、いずれも再審で無罪となっている。

 第七次再審請求は、〇五年に名古屋高裁刑事一部が「ニッカリンTを入れたとの自白の信用性に疑問が残る」として再審開始を決定したが、〇六年に高裁二部が取り消し。最高裁は一〇年に「毒物の審理が尽くされていない」として、高裁に審理を差し戻した。

<名張毒ぶどう酒事件> 三重県名張市葛尾の公民館で1961年3月28日夜、地元の生活改善グループの懇親会で、白ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡、12人が中毒症状を訴えた。死亡の5人は奥西チエ子(34)、北浦ヤス子(36)、奥西フミ子(30)、新矢好(25)、中島登代子(36)=敬称略、年齢は当時。奥西勝死刑囚は「妻(チエ子)、愛人(北浦)との三角関係を清算しようと、農薬を入れた」と自白し、翌月3日、殺人容疑で逮捕された。その後、否認、自白を繰り返し、公判では完全否認した。
 64年の津地裁は無罪、69年の名古屋高裁は死刑。一審無罪から二審の逆転死刑は前例がなかった。72年、最高裁が上告を棄却し、死刑が確定した
 確定判決では、奥西死刑囚は公民館で1人になった10分間にぶどう酒のふた(王冠)を歯で開け、茶畑で使うために買ってあった農薬「ニッカリンT」を混入したとされた。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012052602000131.html

【社説】
名張毒ぶどう酒事件 再審認めず 疑わしきは罰するなのか
2012年5月26日

 名張毒ぶどう酒事件の再審を認めなかった決定には、深い疑問が残る。証拠を並べてなお分からないのなら、推定無罪の原則に従うべきではないか。
 奥西勝死刑囚を最初に裁いたのは津地裁だった。
 裁判員になって法廷にのぞんだつもりで証拠を見てみると、こんなふうになる。

裁判員の目で見れば
 ▽ぶどう酒の王冠に付いた歯形は、鑑定では誰のものかはっきり分からない。
 ▽その王冠自体、事件当時のものとは違うらしい。
 ▽農薬を混入する機会は、奥西死刑囚以外の人にもあった。
 ▽「自白」はある。動機は妻と愛人の三角関係を清算するためという(その後、全面否認)。
 ▽自白にあった、農薬を入れてきた竹筒は見つかっていない。

 証拠をこうしてずらりと並べてみると、裁判員はその中身の乏しさ、あいまいさに、もちろん気づくだろう。
 いくら、捜査段階の詳細な「自白」があろうとも、有罪にはできまい。
 合理性をもって、彼以外に真犯人はありえないとは言えない。ましてや、死刑事件でもある。一審の津地裁は、当然ながら無罪判決を下した
 捜査が甘かったのである。当時は、まだ自白が「証拠の女王」などと呼ばれていた。自白は極めて重視されていた。
 だが、二審の名古屋高裁は一転、有罪とした。王冠について新たな鑑定をしたが決定的な知見はなく、一審とほぼ同じ証拠を見て、有罪とした
 迷走の始まりである。
 死刑囚は判決の前の日、前祝いの赤飯を食べた。家庭で最後に口にした母親の手料理となった。
 死刑囚はひとりぼっちで再審の請求を繰り返した。途中からは弁護団もでき、七度目に名古屋高裁は再審の開始を認めた
 毒物について、自供したニッカリンTではなかった疑いがあるとした。何と、凶器が違っていたかもしれない、ということだ。
 裁判を見直す大きなチャンスだった。しかし、扉はまた閉じられた。同じ高裁の別の部が、同じ証拠を見て検察の異議を認めた

冤罪生む自白の偏重
 事件から四十六年もたって、裁判は最高裁にもちこまれた。だが自ら判断せず、農薬について「科学的な検討をしたとはいえない」と言って、高裁にさし戻した。
 そして、再審を開始しないという昨日の決定となる。「毒物はニッカリンTでなかったとまでは言えない」とし、検察の主張を支持した。
 死刑判決以降の裁判を振り返ると、検察側の物証を弁護側が何度崩そうとしても、裁判所は結局、有罪としてきた。頼りにしたのは、いつも「自白」である。
 だが、自白の偏重が数々の冤罪(えんざい)を生んできたのは、苦い歴史の教えるところだ
 刑事裁判では、検察が有罪を証明できないかぎり、無罪となる。裁く立場からみれば、「疑わしきは被告人の利益にという刑事裁判の鉄則である。
 昨日の高裁の決定は、弁護側が出した証拠では検察の主張を崩せないという論法である。検察が主張していないことまで裁判官が推論し、有罪とする根拠を補強している。
 これでは、まるで「疑わしきは罰する」になってはいないか
 最高裁は再審でも「疑わしきは被告人の利益に」の原則があてはまると言っている(白鳥決定)。それなのに、反対の考え方で再審の扉を閉ざしたように映る。
 裁判員裁判の時代である。取り調べの可視化や、全面的な証拠の開示の必要性が叫ばれている。それは、これまでの誤った裁判の反省から出ているものである。
 今回の決定は、そうした時代の要請に逆行している。毒ぶどう酒事件から半世紀余。「自白」の偏重は一体いつまで続くのか。今の基準で考え直せないか。
 弁護団は特別抗告する。最高裁は今度こそ自判すべきである
 死刑囚は八十六歳。冤罪が強く疑われた帝銀事件の平沢貞通画伯のように、獄中死させることがあってはならない。

司法も裁かれている
 私たちメディアも反省すべきことがある。自白偏重の捜査取材に寄りかかった当時の犯罪報道だ。犯人視しない報道への努力は、不断に続けているが、奥西死刑囚を犯人視して報じたという事実は消せない。
 奥西死刑囚の獄中生活は、確定囚で二番目に長い。もしも死刑判決が冤罪であったのなら、それは国家の犯罪というほかはない。奥西死刑囚だけでなく、司法もまた裁かれていると考える。
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