振り返って振り返らないでその先へ遡(さかのぼ)る道の険しさを魚の体は教えてくれた行きは良い良い帰りは怖いと口ずさんだのは先達(せんだつ)の教えからそれに背を向けて迷子になったわたしたちはどちらが先方(さきがた)か分からずに立つ逆立ちをしたままで翻(ひるがえ)りお日様の帰り道は地球の裏側後ろの正面であなたを待った目の前にあるこの先の道を引き返しながらわたしは揺らめきコワイコワイ帰り道に息を吐(つ)く . . . 本文を読む
暴力と同じかたちした優しさで突き離した先にあるものはただ煌々と月明かりひとつそれを淡色の雲に包み込んで隠したままどうかわたしには触れないでと誰かが言ったそんな笑顔で語りかけられるほどの善良なんかじゃまるでない本当のわたしに本当は触れてほしいわたしは最(いと)も容易く嘘を吐くそうして同じ姿を保ったままのあなたは柔らかく微笑み空を見つめて「その雲の向こう側に月は、ある?」と有るか無しかの賭けに出た . . . 本文を読む
なんかもう言葉が言葉が言葉が足りなくて本当は本当は本当はただの嘘だった横たわりながらいつも駆け巡っていたのは曖昧になった夢の後先前後の不覚も相まって私は怖がって後ろを向いたその先にある光はこっちが前だと示してた流して流して流された話も涙も何もかも全部はもうこの掌の中にぎゅっとしてぎゅっとしたら音楽はあふれ出すこんな風にして産まれてきたのは私以外の私の為当たった光に砕けた春は青空の彼方で笑いあうその . . . 本文を読む
ふたつに分かれたその末尾に待ちわびたのは間違いだったよと正しさの塊はそう断言したもう疾(と)うに砕け散った塊は幻想の淡い月明かりのなかで未だ塊のフリをした樹海も眠って沈んだままの夜の町は平気な顔して火花を飛び散らすそれはまるで美しいあなたのようだと豪快に笑った男は血の色の正体をばら撒いてたくさんの欠片がわたしたちの夜を構築する頃明け方を放棄した明烏(あけがらす)ひとつ昨日を目指してカアと鳴く明る日 . . . 本文を読む
逆さまに落ちていった許されるはずもなく犯した罪を嘲笑う雨はふりやむことのない快晴の空のしたその青色に水を差したのは誰の陰口か紅の色にも染まらぬ口先に手を伸ばして離れたぬくもりは涙に濡れていた雨で誤魔化して 誰が為に雨はふりやまず透明な水の滴りは傘に落ちて音を奏でるぱちぱちとばちばち爆ぜる水の明かりにわたしは今にして思わばあなたの残した柔らき月明かり灯るその空のアオはみどり色のトリを青い鳥だと言い . . . 本文を読む
350度の熱水もごちゃ混ぜにされたただの冷たい海水に嫌な気性は荒ぶったそして海は長い時間をかけて穏やかにその毒素すらも生きる糧として許容したその度に良しと悪しとはくるくると反転し短気なわたしはいつも苛立ち何も分からなくなって途方に暮れる帰っておいでの囁きに耳を傾けるのは悪いことだと誰かが云った福はうち鬼はそとというその理も良しと悪しとはくるくると海の内側で全てを覆われた夜と似たような景色のなかにい . . . 本文を読む