よみびとしらず。

あいどんのう。

コケ・クコ氏とコケ・クケ氏〜5月30日

2017-06-01 14:33:51 | 散文(ぶん)
コケ・クコ氏とコケ・クケ氏はとても親しく、この世にふたりで分け与えられないものは何一つ無いという間柄だった。
コケ・クコ氏はコケ・クケ氏に言った。
「五月は緑が美しく、風が心地よく、本当に良い季節だねえ。ああ僕の人生に、五月が二回あればいいのに」
それを聞いたコケ・クケ氏はコケ・クコ氏にこう言った。
「私は五月よりも六月が好きだね。しとしと雨が降るだろう。濡れた土や葉のなんと瑞々しくいつくしきことか。私は六月が二回欲しいな」
「だったら僕の六月を君にあげるから、君の五月を僕にくれないかい?」
「おお、それは良い考えだ。それじゃあ私の五月を君に贈り、君の六月を私が戴こう」

こうしてコケ・クコ氏の六月は無くなり五月が二回繰り返されることとなり、コケ・クケ氏の五月は無くなり六月が二回繰り返されることになった。
コケ・クコ氏は五月と五月の間じゅう、毎日のように散歩に出掛けては爽やかな風に揺れる新緑の木々を楽しみ、コケ・クケ氏は六月と六月の間じゅう、家のなかで雨の音に耳をすませ窓にできる雨粒模様を眺めてはそれらを心からいとおしく思った。そしてコケ・クコ氏は五月の暖かい日だまりを、コケ・クケ氏は六月の雨に濡れた花弁を大切にポケットにしまいこむと、こんどコケ・クケ氏(コケ・クコ氏)に会った時にきっと渡そうと、やさしく微笑んだ。

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