よみびとしらず。

あいどんのう。

青い鳥

2020-03-22 11:14:11 | 散文
「苦しい」と伝えないことが英断だと思った
あの頃のまま大きくなった僕たちは
いまも青い鳥の在処を知らずにいる
お伽話を否定することで救われたつもりになっていた

今なお続く「誰か助けて」その声に
耳をすますでもなく傾けるでもなく
聴こえないふりをして瞳をそらした
いつか誰かがどうにかするさと
どこまでも無責任なまま蔑(ないがし)ろにされた
良心はぼろぼろの姿でかそけくも呟く
「誰か助けて」となけなしの勇気をふりしぼり

その手を差し伸べたのが悪の手先であったなら
それを打ち砕くのが正義であると
現れたヒーローをわたしは睨(にら)んだ
睨んだこの瞳は悪に染められた証だと
とりつく間も無く打ち砕かれた
なにが正義か分からないまま
わたしは受け継がれていき目眩(めくるめ)く
光など消えてしまえと誰かが囁(ささや)いた

勇気をふりしぼったその先に
救うことすらできないことが定めとならば
その称号には一体なんの意味があるのかと
あの日こぼれ落ちた涙を知る者はない
憧れのヒーローの姿からはほど遠く
あなたを救えずしてなにがヒーローだと
ヒーローは自らを否定して光など消えてしまえと囁いた

すべての意思は引き継がれ
思い出は忘れ去られて根拠は闇に包まれた
願いは叶い光はついえた
そのなかにある悲しみは
誰の手にも届かずその誰もが善と悪とを合わせ持つ
涙のわけを知らずに泣いて
暗闇に落とされた本音は今なお黙して胸に秘められる
産まれた間際からずっと知っている悲しみに
青い鳥は常に寄り添いて歌を奏でる

青い鳥なんかどこにもいないと呟いて
ごまかし方ばかりを学んでそれも上手くいかず
僕たちは受け入れる恐怖をどこで学んだのか
大切なことはいつもすぐに忘れて保身に走る
お伽話を否定することで救われたつもりになっていた
僕たちはヒーローなんかどこにもいないと知っていて
だけど求めずにはいられない
いつか現れるはずのヒーローを

いびつな影はいつもわたしのそばにあり
その歪さの理由は暗闇に隠された日の当たらない場所
日の出を待ちわびるわたしの耳に
暗闇のなかからかすかな鳥の音が聴こえた気がした

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