よみびとしらず。

あいどんのう。

春風

2020-03-30 01:42:51 | 散文
吹き上げられて揺らめいたのは
あなたの光のその影と
鏡の向こう側に立つ幼気(いたいけ)な月明かり
自らの価値に未だ気づかず
そのすみわたるほどの純真は
誰の目にも届かぬ場所にて育みて
いつしか自分でも忘れてしまう
迷い路に入りて大切な在処さえも見失い
わたしにはもうそんなものはないのだと早合点した
その真白き光はカラのなかにて輝きを放つ
どうか空(から)になる前に気づいてと
春の風はわたしを押し上げた
ひどくうららかな太陽の木漏れ日に
いたく怯える者は日の陰のすみにまぎれて目をふせる
どうか気づかれませんようにと
春風は雲の下すべてを見渡し直滑降でおりていく
大切なあなたの袂(たもと)まで
吹いた風のなかに花の香りあり
迷い路にひそんだわたしは空を仰いで風を待つ

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