よみびとしらず。

あいどんのう。

鳥と魚〜5月28日

2017-05-30 10:33:46 | 散文(ぶん)
ある日の出来事。鳥と魚の店で、わたしは鳥を買い求めた。手にいれた鶏の喉の鳴る音を聞きながらその店の前にあるベンチでくつろいでいると、赤い服をきた少年がやってきて、はっきりとこう述べた。

「ぼくは魚がほしい」

けどもその店では、もう魚は扱わなくなったらしい。店主の説明する声が風のあいだから聞こえてきた。鳥と魚の店の本部より、いまある魚の在庫が尽き次第、今後の魚の取り扱いについてはおのおの店の判断に委ねると先の週にお達しがくだされ、この店ではもう、魚は取り止めることに決めた。だから今後一切、この店では魚は手に入らない。店の名前も、鳥と魚の店から鳥の店へ近々変えることになるだろう。それを聞いた少年は、やはりはっきりとした口調でこう述べた。

「だったらぼくは、ほかの店に行く」

赤い服をきた少年は、店員に魚を取り扱う近隣の店舗を教えてもらうとなんの迷いもなく、そこの店を後にした。ベンチに座ったわたしの横を少年が颯爽と通りすぎるとき、ふと昔かいだことのある懐かしい潮の匂いがした気がした。コケーッと一回、鶏が鳴いた。

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