よみびとしらず。

あいどんのう。

北風と太陽

2020-12-17 12:13:50 | 散文
太陽は部屋にこもってぶるぶると震えている
此処にいれば安全な筈に違いないと
不安な気持ちを抱えたままで
窓のない部屋のなか孵化を待つ

北風は外でびゅうびゅうと
冷たい風は熱をさらって灯火(ともしび)揺れる
揺れても消えない火のぬくもりを
北風は存外好ましく思い
精一杯の愛情を風ははらみて大空を駆ける

窓のない部屋のなか
窓の外の景色を知る太陽は
外の明るさにぎゅっと瞳を閉じた
誰にも負けない光は殻のなか
遠くではびょおびょお風が吹いている

愛に満ちたりた世界にあって北風は
愛の欠けたる場所を見つけた
窓のないその部屋のなかにある感情を
知りたくなった北風は息を大きく吸いこんだ

突如外からの暴風に
窓のない部屋は大いに揺れて
部屋の壁は壊されようとしている
外の世界は怖いのに
出たくもないのにどうしてと
誰か助けてと太陽は願い
そうして旅人は現れた

現れた旅人は着ていたコートで北風を包み
窓のない部屋の外にあった暴風はおさまった
旅人は罅(ひび)のはいった壁に手を当てて
「もう大丈夫だよ」と声をかけた
窓のない部屋のなか震えていた太陽は
「もういやだ。ひとりはこわい」と独り言(ご)つ

それを耳にした旅人は
ならば共に行こうと声をかけ
太陽を殻ごと飲みこんだ
太陽は旅人のなかのさらに殻のなか
此処ならばもう安心だと太陽は眠りについた
旅人はコートに包んだ北風を背負い旅を続ける
胸の内側の殻のなかにある太陽は
眠りについてなお熱を持ち
北風はコートのなかから強く世界に向けて愛を叫ぶ

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