礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

古在由重著『現代哲学』の「序」および「新版への序」

2020-11-20 02:47:34 | コラムと名言

◎古在由重著『現代哲学』の「序」および「新版への序」

 昨日の続きである。本日は、古在由重著『現代哲学』(三笠書房、一九四六年五月)の「序」と「新版への序」を紹介してみたい。

    序
 本書における私の目標は現代哲学の根本性格を明白にすることにあつた。しかし勿論かかる試みはこのやうな小著においては種々の不十分さをまぬかれることができない。まづ第一に現代唯物論そのものについての叙述はこれを省略しなければならなかつた。読者はこれを他の書物(たとへば本全書中の永田廣志氏著『現代唯物論』)によつておぎなはれたい。私のこの叙述はむしろこのやうな立場からの現代観念論の素描にすぎぬ。しかし人間は自己紹介の際よりも他者に対する批評の際にしばしばその本質をうかがはせる。もしこの真理がすこしでも本書に実現されてゐたとすれば幸ひである。とにかくも本書は、本籍・族称・位階等によつて名士たちを紹介する紳士録のやうに哲学者たちを羅列するにすぎないところの無味な、しかも杜撰な哲学的紳士録より以上のものであることを、ひそかに期してゐる。
 なほ本書には『註』がおほい。読者はこれにわづらはされることなく本文をよみつづけられんことをねがふ。長文の『註』はおほくは他人の文章の引用からなつてをり、本文においてのべたことをただ文献的に正確にしようと努力したにとどまる。この点、読者はよろしく取捨撰択してよまれたい。
 私は本書を炎熱の日に短期間に書きあげなければならず、なほその途中で健康状態の不良にも邪魔されねばならなかつた。いまかへりみて不本意な点が沢山あるけれども、それらの補正はこれを他日に期さう。
 最後に、助言をしてくれたり調べてくれたり図書館へ書物をうつしにいつてくれたり激励をあたへてくれたりした親しい知人たちと、私のわがままにもかかはらず日々激励をおしまれなかつた編輯の諸氏とに心から感謝の意を表したい。
    一九三七年九月         著  者

   新 版 へ の 序
 九年前にかかれたこの書を私はほとんどもとのままの姿でおくりださう。いろいろな理由から補正がむづかしかつたばかりではない。ファシズムの渦まいてゐた当時の日本思想界にもこの程度の冷静な抵抗はあつたといふ一例を、ささやかにもせよ、この書はしめすだらう。現代観念論への批判といふ形でのべられた遠慮がちな言葉のうらに、読者は唯物論的世界観の相貌を見とどけてくれるだらうか?
 わづかばかりのあらたな追加は、この書の初版のときにとりおとした二、三の引用文にとどめられてゐる。第五章の註3におけるシェリングからの、第九章の本文における黒岩涙香からの、第一〇章の註4におけるペリーからの引用、そして第一一章の本文におけるヒットラーからの引用の一部がそれにぞくする。なほ、この書にいはれてゐる世界戦争とは当然ながら第一次世界戦争のことである。そして最後に、初版発行と同時にけづりとられたところの『日本的なもの』についての二つの箇所(第四章および第八章のうち)も、この新版にはくはへられたことをいひそへておかう。
    一九四六年四月         著  者

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