礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

平山輝男『全日本アクセントの諸相』(1940)を読む

2023-12-10 03:15:51 | コラムと名言

◎平山輝男『全日本アクセントの諸相』(1940)を読む

 本日以降、平山輝男博士の『全日本アクセントの諸相』(育英書院、1940年6月)を紹介してみたい。
 本日、紹介するのは、同書の「はしがき」である。前後二回に分けて紹介する。

     は し が き

 一、本書は全国の小学校・中学校・女学校・師範学校等の国語教授者各位、乃至〈ナイシ〉師範学校・国語専攻の専門学校生徒諸子の参考に資する外〈ホカ〉、一般同好者が日本語アクセントの概念を得る便宜に備へようとするものである。
 二、近年全国的に国語アクセントの研究が盛になつて来た事は誠に慶賀に堪へない。標準語のアクセントに就いては明治の山田美妙斎の『日本大辞書』を始め、近くは佐久間鼎〈カナエ〉博士の『日本音声学』『国語の発音とアクセント』『国語のアクセント』、神保格〈ジンボウ・カク〉教授の『国語音声学』『国語発音アクセント辞典』(常深千里〈ツネミ・センリ〉氏と共著)、三宅武郎〈タケオ〉氏の『音声国語法』や『新辞海』に附せられたもの等数多の著書を数へ、又雑誌論文に至つては相当の数に上る。
 然るに各地のアクセントを全国的に比較考證した著書は殆どない。稍〻〈ヤヤ〉広い地方に亘るものも偶〻〈タマタマ〉無いではないが、残された地方が余りにも多く、又は理論に過ぎて挙げられる語例は甚だ少い。只ヒントに富む服部四郎氏の『アクセントと方言』(国語科学講座第三輯)や、金田一京助先生の『増補国語音韻論』の増補一や、雑誌論文では服部四郎氏の〝国語諸方言のアクセント概説〟(「方言」一巻―二巻)等重要視すべき数種のものがある外、国語アクセント研究の状況を紹介して斯学〈シガク〉を刺戟してゐるものは東條操先生の『国語学新講』雑誌論文には吉町義雄〈ヨシマチ・ヨシオ〉氏の〝内地方言アクセント境界線調査業蹟清算〟(「音声学協会々報」45)等がその主なものであり、又井上奥本氏の〝日本語調学小史〟〝日本語調学年表〟(「音声の研究Ⅱ」)や大西雅雄氏の『音声学史』(国語科学講座第九輯の中)等も大きな貢献をしてゐるであらう。
 その他各地方毎に〈ゴトニ〉その地のアクセントを記述したのも相当発表されてゐるが、調査者が違ひ、従つて調査語例やその調査方針を異〈コト〉にしてゐる場合が多く、同一地方のアクセント記述にしても異る調査者によるものである時は、その真相を適確に把握し得ない場合もある位で、それ等による全国的比較研究は不可能に近い。ましてそれ等の資料すら今尚、多くの地方に全然存せぬ現状は全く歎息の外はないのである。
 三、私は固く決意する所があつて数年来引続き教授の余暇に長きは四十余日、短きも週日に亘つて全国的行脚〈アンギャ〉調査を毎年二度試みてゐる。本書に盛る所はその成果の一部を極めて簡略に、出来る限り通俗的に纏めたものである。
 日本全国のアクセントに就いて若し遂一詳述するならば、啻に〈タダニ〉応用方面の便利ばかりでなく、学界に貢献する事も少くないのであるが、本書のやうに僅かな紙数を以てして而も全般に触れようとする為には、とても望まれぬ問題である。従つて本書に説く所は極めて概括的で啓蒙的なものでしかあり得ない。
 此の簡略なる記述は私自身本意とする所ではない。何れ本格的な記述発表は後日の機会を待つ次第である。
 本書には他の研究家諸氏の已に〈スデニ〉発表されたもののある地方でも、それを参考にはしたが、此の際全面的に観察する必要上、私自身の調査記録したものを全般的に採る事にした。【以下、次回】

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