礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ソ連パルチザンと火焔ビン戦術

2013-09-29 06:38:43 | 日記

◎ソ連パルチザンと火焔ビン戦術

 ここのところ、荒垣秀雄編『現代用語辞典』(河出新書、一九五六)に載っている言葉の中から、今日、すでに「死語」になっているものを紹介している。

栄養分析表 二十七年春、日本共産党が出した非合法軍事組織の為の秘密文書。「大衆の創意と各種科学者の研究を結集、武器に関するもののみを集録した」と前文に書かれている通り、時限爆弾、ラムネ弾、火焔手榴弾、タイヤパンク器、速燃紙の五種類の武器製造法が書かれている。偽装のために栄養分析表という表紙がつけられている。
エントツ 円タクが、メーター表示器を立てたままで(空車の標示のまま)、客を乗せて走るところからこの名がおこった。もちろん、不正手段だが、運転手は歩合のほかにポケットマネーが入るわけだし、客はふつうの料金の半分ぐらいですむので、不景気の今日、相変らず流行している。大阪ではニョキッと立った空車標示器がじゃまだというので、帽子をこれにかぶせるところから、シャッポと呼んでいる。自動車会社も、エントツを運転手にあまりやかましくいうと、「ではべース・アップしろ」ということになり、ヤブヘビとなるので、うるさくいわぬようだ。
お富さん 歌舞伎脚本「与話情浮名横櫛」〈ヨワナサケウキナノヨコグシ〉(通称、切られの与三〈ヨサ〉)にヒントを得て出来た流行歌。昭和二十九年後半の日本を風靡、約五十万枚のレコード(キング)が売れた。歌手、春日八郎、作曲、渡久地政信〈トクチ・マサノブ〉、作詞、山崎正〈タダシ〉。イキな黒ベイ、見越しの松……の軽快なリズム、手拍子メロディが喜ばれた。
オンリー Only パンパンでも、特定の相手一人だけを相手としているもの。慕末明治初年に「らしゃめん」と呼ばれたのと同じ。第三十回(昭和二十八年下半期)の芥川賞候補に上った作品に、広池秋子の「オンリー達」がある。
火炎ビン 牛乳ピン、ラムネビン等の中に硫酸、塩素酸カリ、ガソリン等をつめたもの。ソ運映画「若き親衛隊」の中で占領ドイツ軍に抵抗するバルチザンが、これをつかっている。日共が昭和二十六年十月の五全協で決定した「武装の準備と行動」の実践として、各地に小事件をおこして、これを投げたものがある。判例によると、硫酸、塩素酸カリは、ガソリンの点火に役立つだけで爆発性があるとは認められないから爆発物取締罰則にいう爆発物ではない、ということになった。爆発物であれば、単に所持しているだけで処罰される。この問題について最高検察庁は上告を申立てたが、最高裁判所も、上告を棄却した。

 ドイツ占領下のソ連で、パルチザンが火炎ビンを使っていたとは知らなかった。映画「若き親衛隊」は、残念ながら、まだ鑑賞したことがない。ちなみに、映画「プライベートライアン」(一九九八年公開)でも、火炎ビンを投げるシーンがあったと記憶する。
 紹介したい死語は、まだたくさんあるが、これだけを続けても飽きられそうなので、明日はいったん、話題を変える。

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