礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

なぜ警察の不祥事が続発するのか(「畑」という悪習について)

2012-09-19 04:41:03 | 日記

◎なぜ警察の不祥事が続発するのか(「畑」という悪習について)

 最近しばしば、警察あるいは警察官の不祥事が話題になる。九月一七日の日本経済新聞の社会面には、福岡県警の汚職事件(組幹部に捜査情報を漏らした警部補を、本年七月に逮捕)を中心とした「頼れぬ警察/進まぬ暴排」という記事が載った。
 この問題を考える際に不可欠なのは、警察という組織が、そもそも、どのような経緯で成立した組織であり、どうような性格を持った組織なのかという、歴史的視野に立った考察であろう。
 結論から先に言えば、日本の警察は、町奉行など江戸時代における警察組織の体質を今に引き継ぐ、きわめて特異な組織ではないだろうか。
 一九二九年(昭和四)年に刊行された江口治著『探偵学体系』という本があるが、その本には、日本の警察が「徳川時代の探偵状況」から脱したのは「明治四十一年前後より、大正五年頃迄」と書いてある。
 このことを指摘している江口治が、永く警視庁に勤務した「前警視」であることに注意されたい。つまり、明治時代の警察が、江戸時代の警察組織の手法や体質をそのまま引き継いでいた事実は、警察関係者も認めざるをえないことだったのである。ということであれば、二一世紀の今日における警察組織にも、江戸時代の警察組織の手法や体質が残存していたとしても、それほど驚くにはあたらない。
 江口治は、「徳川時代の探偵状況」について、いくつか特徴を挙げているが、ここでは、「畑」という悪習について解説している部分(第一編第一章第一節第一款第二「見込捜査時代」一「徳川時代」(二)「畑の悪用」)を紹介する。ページでいえば、一三~一四ページである。

「はたけ」とは当時探偵家が其の活動に就て、便宜を受くる諒解のあつた地盤、即ち民間に於ける、探偵的勢力範囲とも云ふべき区域でありませう。
 野作物の収穫を多くするには、なるたけ広い肥えた畑が必要であるやうに、探偵が有効に活躍するには、其の舞台として諒解ある地盤が必用であるとの意味から、畑と云ふ名が出来たのであります。元来真面目〈マジメ〉な意味から考へても、畑は探偵家の技倆の一要素でありまして、今日に於ても無くてはならぬものですが、江戸時代のそれは、畑そのものの質が悪るい処へ持つて行つて、利用方法が不公正であつたから、堪ら〈タマラ〉なかつたのでした。
 先づ何とは無しに広く行き届いて知り合〈シリアイ〉を作り、何処〈ドコ〉にも顔の通りを善くして置き、取り分け、湯屋〈ユヤ〉、床屋、茶屋、貸座敷、飲食店、船宿〈フナヤド〉、貸席、宿屋といふやうな、人の出入〈デイリ〉の多い稼業、又は籠舁〈カゴカキ〉、馬方、人入れ稼業、屑買〈クズカイ〉、芝居者、野師〈ヤシ〉、門づけ、夜店商人、夜泣き売りなど昼夜の別なく、諸所方々を廻り歩く業体の者に、渡りを付けて万一に備へて置くといふ位迄は、至極無事で先づ必要な程度であつたと思はれますが、此時代の探慎は、更に進んで非常に悪質な方面迄畑の拡張を試み、それが広い程敏腕家としてあつたから困つたものでありました。
 此の悪質の方の畑の内容を見ますると、不良興行師、博徒〈バクト〉、浮浪者、掏摸〈スリ〉、故買者〈コバイモノ〉、夜鷹師(辻淫買の元締をしている破落戸〈ゴロツキ〉で誘拐暴行等の常習者)其の他種々の犯罪常習団体等でありました。探偵は常に是等〈コレラ〉の者を、手懐づける〈テナヅケル〉のに抜け目なく立ち廻り、目こぼしと称して、或る程度の不検挙点を設け、幾分其の罪悪を看過して存立の余地を与へ、恩威を示し之等〈コレラ〉不良群少の細鱗を駆つて〈カッテ〉、呑舟の悪魚〔大悪人〕を捕へると云ふ作戦を採りました。併し〈シカシ〉之等の陰険な策謀は、社会の公正を維持する為の犯罪検挙の手段としては、目的と余り懸け離れていた為、得る処より失ふ処の多かつたことは、想像に余りがあるのです。

 これを、かつて江戸時代の「探偵家」(警察関係者)に存在した「旧習」と捉えてはいけない。前記の日経新聞記事によれば、逮捕されたN警部補は、組幹部に情報を流した理由について、「情報を得るために恩を売りたかった」と説明しているという。
 構造はまったく変わっていない。江戸時代の警察組織の手法や体質は、おそらく今日の警察にも引き継がれている。一県警、一警官の問題と見るべきではなかろう。

今日の名言 2012・9・19

◎街を明るくしたいと思っても警察は頼れない

 北九州市小倉区の飲食店関係者の言葉。日本経済新聞9月17日の記事より。上記コラム参照。

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