ブログ・Minesanの無責任放言 vol.2

本を読んで感じたままのことを無責任にも放言する場、それに加え日ごろの不平不満を発散させる場でもある。

「ノルウェイーの森」上巻

2010-01-27 16:16:56 | Weblog
順序が逆になってしまったが、「ノルウェイーの森」上巻を読んだ。
先に読んだ感想と大きな違いはない。
この本の内容から色情描写を削除すれば、それはそれなりの立派な純文学になるであろうが、このままではやはりどこまで行ってもエロ本もどきのままだと思う。
私の観念では、こういう作品が世の中にもてはやされる風潮は、それを受け入れる側に作品に迎合する、あるいは迎合したいという潜在意識、精神的な渇望としての包容力があるからだと思う。
人間の思考は、如何に立派そうに見えても、それを受け入れる大衆の側にそれを受け入れる準備が備わっていない限り、それは受け入れらないと思う。
20世紀前半にヨーロッパで共産主義というものが誕生したが、これが世界的な規模で広がったということは、その考え方を実践すればきっと我々の世の中は住みよい物になるに違いないと、心の底からそう思ってそれを受け入れた人が大勢いたからに他ならない。
この考え方を基にして形造られた国家もあるにはあったがそれはわずか75年の成功でしかなかった。
大勢の人間の中には、その考え方を心から信じていた人もいたに違いなかろうが、それを心から信じることなく、人間の基本的な欲望を信じた人も他方にいたわけで、結果としては信じた方が挫折したということだ。
ことほど左様に、この本に人気が出るということは、ここに書かれた内容に共感を覚える人が大勢いて、そういう人たちからすれば、自分もこういう生き方が出来れば躊躇なくそれを選択するに違いなかろうと、考える人が大勢いるという証しだと思う。
現実にはありえないことなので、人々は小説の中にそれを夢想して、密やかに思い描くことで満足しているのであろう。
しかし、この本の書かれている内容が、小説の中の夢想・絵空事だと認識している人はまだまともな精神の保持者であるが、中には「ああいう風でなければ時代に取り残される」と思い違いをする人も出てくるのではなかろうか。
テレビドラマを文字化してみたり、小説をテレビドラマ化するとなると、どうしても色情描写が売り物になるわけで、人々はあれが人間の当たり前の姿だと思い違いをするようになると困る。
行為そのものは普遍的なもので、人類ならば皆同じことをしているが、問題はそれを何時何処でどういう形でするかということで、犬や猫でもあるまいに、まわりの者と片っ端から交尾するでは、人間としての品位に欠けると思う。
問題はこういう品位とかモラルに対して、感性を持っているかどうかということである。
人間ならば皆同じことをしているのだから、何時何処で何をしても構わないという無神経な感受性に対して、羞恥心を持ち合わせているのかいないのかという点である。
人は羞恥心があるから、隠れて行為をするわけで、「誰でも同じことをしているのだから人前でも平気だ」では相手からバカにされるのがオチで、この感受性の欠如が品位の対極にある無粋と称されるものである。
「人間ならば皆同じところに同じように毛が生えているから隠すに及ばない」では、アマゾンの奥地の未開人と何ら変わるところがないわけで、この状態を我々は野蛮と称している。
文学的で妙味な表現方法は、ここで言うように普遍的なことと羞恥心のバランスにあるわけ、例えば若い女性の着衣の奥が見えそうで見えない、見えないからそうっと裾をまくってみる、裾をまくれば相手に気づかれて拒否されるか、それとも許してくれるか、極めて不確実で微妙な心の葛藤を修飾語で塗り固めて文字で綴った時、エロチシズムの昇華としての文学作品として結実するのではなかろうか。
それを一つ一つ名詞を羅列して、事細かに、正確に、そしてリアルに描き出して、何かの実験の報告書のように無味乾燥の文章にしてしまっては、秘め事であるべき行為が白日のもとに曝してしまうようなもので、それこそ犬や猫の交尾と全く同じということになってしまって、人間の行為としては限りなく野蛮なことになってしまう。
ところが、文化人と称する人たちは、普通の規範を普通に順守する普通の人間を限りなく軽蔑しているわけで、普通でないいわゆるアブノーマルなものに無理して価値を押し付けようとする。
だからこういう犬や猫の交尾を写実的に表現した作品に対して限りない称賛を与えるのも、自分自身にエロチシズムに対する深い洞察力に欠けるからであろう。
男と女の間の粋な心の葛藤に対する真の理解がないということなのであろう。
バカな民衆は、犬や猫の交尾にも等しい人間の交接が、人として一番進んだ進歩的なことだと勘違いするわけで、よってだんだんとモラルの低下が浸透するということになる。

いい年こいて、ビートルズの作品の中に「ノルウェイーの森」というのがあるとは、この本を読むまで知らなかった。
ああ恥ずかしい!!!
この本の題名が何処からきているのか不思議であったが、それで納得できた。