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私の平均余命83.846歳(厚生労働省H28年度データ)を24時として、私の生きて来た人生は上の通りです。後残り時間は?

「思いつき、Myショートショート」#023~027

2015年02月26日 19時36分36秒 | 「思いつき、Myショートショート」


   #027 「夢を売る商売・・?」


「いいか、今日の心霊スポットは、山中にある、とある道場の集団自殺現場取材だから、気を引き締めていくからな!」っと、リーダーの長瀬がスタッフたちに意気込んでいる。

ワンボックスの車中内には、長瀬以下、ADの泰子、撮影の木戸、音声の土田の4人が乗っている。

彼らは、オカルト専門のDVD企画制作会社の者たちだった。
この業界は、何万という似たような会社でひしめき合って、生き残りがきびしい事は周知の事である。

それだけに長瀬は、今回が失敗すると首を言い渡される瀬戸際でもあった。
そんな泰子や他の者も、長瀬を見て転職を考えている状態であり、今回はあまり気が乗らないのである。

そんな、スタッフを見て長瀬は、気合を入れているのであった。
「どうせ、またやらせの企画なんでしょう・・・」っと泰子。

スタッフたちには、打ち合わせなし、当日知らされる企画、そしてぶっつけ本番の長瀬のやり方について行けない処があった。

「何を言ってるんだ、やらせのどこが悪いっと言ってるんだ、映画だってやらせじゃないか、映画も俺たちも夢を売っている商売だ、それをドキュメンタリー風にしているから、一部で誤解を招いているかもしれないが、大多数のお客さんは、理解している上で観てるんだ」っと、運転をしながら長瀬が、フロントガラスに唾を飛ばしながら言っている。

「私、本物の幽霊や、奇怪な現象を取材したくてこの会社に入ったんですけど、まさか、視聴者の投稿手紙やビデオまでもやらせだとは思いませんでした・・・ぶっちゃけ、初めて言いますけどね・・」っと入社1年目の泰子。

「あのな、泰子、おまえ、幽霊なんてほんとにいると思うのか?・・バカかおまえ・・子供がさぁ、サンタさんがよい子に贈り物を持って来るっていうのを信じているのと同じだよ」っと長瀬。

車は、高速を降りて、山の中の林道を走り始めている。
あたりは、夜の9時をまわり、どっぷりと暗闇に包まれ、車のライトだけが山の中で動いている。

「いいか、よく見てみろ、ふなっしーや、ゆるキャラたちは、絶対に顔を出さないだろう、質問する側も中身は人間だと知っていても、絶対にキャラ以外は聞かないだろう、誰も無理に中身をあばこうなんてしないんだよ、それは、ゆるキャラは夢があるからなんだよ、俺たちもそう、幽霊やサンタはいないんじゃなくて、夢なんだよ、みんな夢を与える商売なんだよ・・・」っと長瀬。

「サンタと幽霊をいっしょにしちゃダメでしょ・・」っとボソっとカメラを回しながら木戸が言っている。

「俺、いいこと言っているな、この部分編集で使おか・・・」っと長瀬。
「どうぞ、ご勝手に・・」っと泰子があきれ顔で言っている。

すると、突然、ガガガッ・・大きな音と共にみんなの身体が浮き上がって、天井に頭を強打するのであった。

車の後ろを見ると、大木がころがっており、どうも乗り上げたみたいであった。
数日前の台風の影響のようである。

「おい、大丈夫か?・・・いてて・・・」と長瀬。
「はい、大丈夫みたいです・・」っとスタッフ。

互いに顔を見合わせて、血が出てるよっと言っている。
額から血が出ている。

泰子は救急箱から絆創膏を取り出し、みんなに貼ってあげている。
「今日は、出直しましょうよ」っと泰子。

「いや、ここまで来たんだから根性で行くぞ!」っと、強打した頭を押さえながら意気込む長瀬。

呆れるスタッフ。
車は、また大木が転がってないか、ゆっくりと林道を進み、目的の道場の廃墟に着くのであった。

現場は、荒れ果てた廃屋で、あたりは真っ暗、懐中電灯の灯りだけが頼りである。
撮影開始と長瀬の指示で、泰子がカメラに向かって「ここが、2年前に起こった集団自殺の道場であります」っと真剣な顔で言っている泰子であるが、心の中では、「どうせ、この場所も適当に見つけた嘘の現場でしょ・・」っと思っている。

長瀬の指示でスタッフが入り、撮影が順調に進んだその時、音声の土田が悲鳴を上げた。
「ううぁぁー、誰かいる誰かいる誰かいる・・・人、ひと、ひと・・・」っとわめきだした。

カメラのライトが土田の指さす方へ向けると、一人のひげを長く伸ばした老人がぶつぶつと言いながら右手に杖を持ち立っていた。

みんなは、驚いて後ずさりをしたが、長瀬は、ゆっくりと老人に近づき「もしもし、あの・・・」っと老人に声をかけるのであった。

老人は、黒い着物姿で、顔は黒っぽく、目だけが白く、しかと見開いていた。
「お前ら、何しに来たんじゃ・・・」っと老人。

「いや、今回この場所で事件があった事の取材で来てるんです・・・でも、おじいさん、なんでこんな処にいらっしゃるんですか・・・しかも、電気もつけず真っ暗な中で・・・」っと長瀬は老人に言っている。

「わしは、この道場の家主で、若い子たちがこの道場で命を絶ってしまって、迷える魂を慰め、毎晩来て、供養しとるんじゃ・・・・お前らも、とっとと元の場所へ帰れ!」っとまた、目をつむって読経をするのであった。

長瀬は、「おじいさん、ここに住んでるんですか?ご家族の方は・・?」っと聞くのだが、老人は、目をつむって岩のように動かなくなった。

長瀬は、スタッフに「ダメだ、もう何も言わない・・・おい木戸、この老人の周囲からのカット、撮っといて、後で、編集で面白くするから・・」っと言う。

泰子は、「このままには、放っては行けないでしょう・・」
「山降りたら、警察に連絡して、保護してもらおう・・・ちょっとボケてるかもしれないけどね・・・」っと首をひねっている長瀬。

「とりあえず、もうちょっと、家の中を散策して、庭とか周囲を撮って終わりにしよう」っと長瀬も、気味が悪いのか急ぎだした。

一通り、撮影を撮り終えた長瀬たちは、老人に挨拶をして廃墟を出るのであった。
老人は、あいかわらず岩のように固まって立っている。

泰子が、「あれ、車このへんでしたよね・・・」っと懐中電灯であたりを照らしまくりながら言っている。

「そうだね、このへんだと思ったんだけど、ちょっとみんな、手分けして捜してくれるかな?」っと長瀬。

15分ほどめいめいに捜したが、見つからない。
「おかしいなぁ、まさか、盗まれた?・・こんな時間に、・・・山奥で・・」っと木戸。

「ちょっと、おれ、老人に聞いてみるわ・・?」っと、小走りで長瀬が廃墟に向かうのだった。

長瀬が戻って来て、「老人、いないんだよ・・どこへ行ったのかな・・あんなに、ガンとして動かなかったのが・・・」

「ひょっとして、俺らの車で逃げたとか・・?」っと木戸。
「まさか・・?」っと泰子。

「おれ、あの老人、なんか・・・幽霊のような気がしたんだけど・・・」っと土田。
「馬鹿な事を言うな・・っというよりもそれだったら、スクープで面白いけどな・・・」っと、ニヤっとする長瀬。

「何言ってるんですか、取りあえずこの林道を下ってみません、サイドブレーキをかけ忘れていて、車が下がってどこかでぶつかっているかもしれないし・・・・」っと泰子。

みんなは、来た道を戻って、辺りを懐中電灯で照らしながら進んで行くのであった。
「おれ、サイドちゃんとかけたけどなぁ・・・」っとひとりでぶつぶつと長瀬が言っている。

しばらくすると、例の大木が横たわっている所まで来た。
すると、土田が、「あった!あそこ、あそこ!」っと指さしている。

林道から10mくらい下の方にワンボックスカーらしき車があり、ぐっしゃとなっている。
「やべぇ、ほんとに、あれか?・・ちょっと降りてみよう・・もしそうだとしたら、助けを呼ばないとな・・」っと長瀬。

「何のんきな事を言ってんのよ、やっぱり、あんたがサイドブレーキかけてないからでしょ・・・もうどうすんのよ・・・帰れないし、野宿ジャン・・・」っと泰子は、ためグチで真剣に怒っている。

みんなは、暗がりの中、10m下の車までゆっくりと、気を使いながら降りて行き、たどり着くのであった。

土田が、「中に誰かいる!・・」っと声をこわばらせて、みんなの顔を見ながら言っている。
長瀬が、壊れたドアの隙間から覗くと、「うわぁ、誰かいる、木戸、ライトライト!」っと言っている。

木戸がカメラのライトを近づけると、血まみれの4人が折り重なるように死んでいた。
ゆっくりと4人を見ると、長瀬が叫び出した「こ、これ・・・おれたち・・!」

4人は、懐中電灯で車内を照らす。
あまりにも悲惨んな姿に嗚咽しながら、「おれたち、ここに居るよね・・」っと土田。

「これは、いったい誰・・?私たち、死んだの・・?」っと泰子。
4人は、互いに顔を見合わせ、指さしながら、「幽霊・・?・・まさか、ね・・ぇ・・」と言いながら、事故車の4人を見ている。

すると、長瀬が、車の壊れていない窓を指さしながら、「オ、オーブ」っと言いだした。
そう、ガラスに映っている4人のオーブが揺れ動いている。

お互いに直視するのは、生前の姿なのだが、鏡やガラスには本当の姿が映っているのであった。

しばらく、沈黙が流れた。


突然泰子は、大声で泣き出した「おかーさーん、私死んじゃった、これからの幸せな人生が、なくなった・・・・」

「俺わぁ、家のローンが・・」っと木戸、「子供生まれたばっかりなのに・・・」っとしゃがみこむ土田であった。

ひとり元気なのは、「やっと、本物の幽霊に出会った・・・やらせなんて言わせないぞ・・・なぁ、みんな・・・」っと長瀬だけがはしゃいでいた。

そう、長瀬たちは、あの大木に乗り上げた時、まっさかさまに落ちて、その時に全員亡くなっていたのであった。

あの老人は、4人に現実を知らせるために現れたお地蔵さんの化身であった。
あの時彼らが見たのは、岩のようなお地蔵さんであった。

やがて、観念をした長瀬以外3人は、光に包まれ成仏の道へ進んで逝ったのだが、長瀬だけが、この地の観光客やハイキング客を脅して楽しむという悪趣味に徹するのであった。

その後、悪霊と共謀し、お地蔵さんの化身である閻魔大王のさばきを受ける事になるのであった。


職業柄、地獄のレポートに奮闘する長瀬の姿が、皮肉にも現生ではなく地獄で有名になるのだが・・・・・・・DVD化はないのである・・・。







   #026 「エレベーター」


「おい、早くしろよ・・!」っと急いでテレビ局の廊下を走り、エレベーターに乗り込む笑桂亭今市。

その後を追いかけるようにして、今市の後を走る弟子の景子である。
時間は夜の6時を回っている。

「なんで、お前、大事な発表会の前に、こんなバラエティなんか入れるんだよ・・!」
っと、今市は景子に嫌味を言っている。

「すみません師匠・・」っと今市のかばんを両手で持ち、か細い声で謝っている。
今市は、関西でも有望な落語家であり、その創作落語は、オカルト風刺で大衆に人気があるのであった。

テレビラジオでも、引っ張りだこで、景子は今市の弟子でありながら、マネージャー兼かばん持ち兼運転手であった。

なかなか本業の稽古を付けてもらえなくて、しかも要領が悪く、声も小さいし暗いと来ているので、今市はよけいに景子にあたるのであった。

今市にとって、まわりの関係者にペコペコして、ストレスが溜まるのを景子にぶつけて、解消するのが好きであった。

そんな今市は、年に一度の創作落語大会に参加するのが楽しみであった。
それが、これから行く所である。

エレベーターは、地下二階の駐車場に止まり、景子は走り出して車を取りに行くのであった。
今市は、エレベーターを降りた所の乗降口で車を待ち、いらいらとしている。

景子が、車を乗降口までつけ、後部ドアを開けて、今市を車に乗せるのであった。
すぐさま、車は発進して街の中を走るのであるが、この時間帯は渋滞で止まってしまう。

「おい、間に合うのかよ!・・会場はどこや?」っと今市。
「はい、今年から千里の会場に変わりました。」っと景子。

「市内じゃないのか、あと4,50分で行けるのかよ!」っと怒鳴る今市。
「だから、こんなくだらないバラなんか入れるからや!・・・」っと苛立つ今市。

運転をしながら景子は、「はい、師匠、でも去年優勝されたんで、今回の出番はトリになりますので、1時間は時間稼ぎが出来ます」っとルームミラーを見ながら言っている。

「お前、アホか!客やないんやから、着けばいいってもんやないやろ!出る前の集中時間ってもんがあるやろ・・・アホんだらが!・・・」っと苛立ちはピークを見せていた。

「すみません・・・」っと、泣きそうになりながら運転をしている景子であった。
このバラエティを入れたのは、景子ではなく、今市のスポンサーからのお願いで、今市が勝手に安請け合いをした仕事であった。

景子は、一度今市を止めたのだが、「このスポンサーがあっての、俺や!うだうだゆうな!」っと今市は、景子に一喝した事を忘れているのであった。

車は、堺筋の大渋滞であったが、中之島公会堂、裁判所と通り過ぎ、梅新から新御堂筋に入れば、スムーズに走れるのであった。

新御堂を降りて、車は閑静な住宅を通り抜けて行く。
「師匠、もうすぐです、ホテルの裏側に参加者用のエレベータがありますので、そこまで着けます」っと言って、小高い丘の方へ車は進んで行った。

時間は、6時40分、7時から本番である。
広々とした駐車場の端の建物に車をつけ、景子は後部ドアを開け、今市に「どうぞ、この建物の中にすぐエレベーターがありますので、すぐ乗り込んでください」っと促した。

「わかった、!」っと言って、小走りで建物の中に入る今市であった。
建物のまわりは真っ暗で、ホテルにしては、灯りが寂しいっと思いつつ、あせっているので、余計な事は詮索をしないようにしている今市であった。

建物の自動ドアが開くと、6基のエレベーターが並んでいた。
後から来た景子が、「エレベーター横に名前がありますので、そのエレベーターに乗ってください」っと言う。

「へぇー、変わってるなぁ、一人ひとり専用のエレベーターかいな・・」
っと今市は、他のエレベータ横に貼ってある名前を見ているが、今日の参加者の名前がないような気がしている。

それより早く行かないとっと思い、ボタンを押すのであった。
後ろに景子がいる。

ドアが開くのだが、「えぇ、変わってるなぁ・・・」っと、今市。
自動ドアが上下に開くのであった。

今市は、「なんや、救急車にあるストレッチャーみたいなのが中に入ってるで・・?誰か忘れてるんとちゃうか?」っと、暗いエレベーター内を見渡している。

「師匠、急がないと!遅れます!」っと景子。
「あぁ、わかった!」っと言って、ストレッチャーの上に取りあえず乗りこみ、「乗るスペースないから、お前、後のエレベーターからすぐ来いや!」っと景子に言うのであった。

今市は、「なんや、これ、焦げた匂いがするし、白い粉みたいなもんが台にあるし、壁が、ゴツゴツした金属?なんちゅうエレベーターや、これ、貨物用やないのか?」っと四つん這いになりながら、ドアが閉じていくのを見ている。

「おい、真っ暗やで・・・電気、でんき・・・」


景子は、深々と頭を下げ、「師匠、いろいろとお世話になりました」っと言って、
壁についているボタンを押すのであった。

そのボタンの横には、点火っと書いてる。
轟音と共に、師匠の悲鳴が聞こえるが、それも数十秒で聞こえなくなった。


今市が、ここまで有名になり人気を博したのは、景子がすべて創作落語のネタを書いていたからであった。

何度か今市に言って、自分で発表したかったのだが、ことごとく、断られ、恨みを覚えるようになったからであった。

エレベーターと思われていたのは、台車式の火葬炉であった。
景子は、父親がここの職員でよく幼い時から、この斎場で遊んでおり、よく知っていたのであった。

エレベーター横に並んである名前は、明日葬儀を行う予定の人たちであった。

「師匠、今日のこのネタ、明日師匠に変わって、私が、僭越ながら発表させていただきます」っと言って、2時間後の骨上げの様子をネタ帳に書き写すため、ひとまず待合室に向かうのであった。

明日が大阪市内の某一流ホテルで開催される事を、今市は知らなかったのであった。
廊下の自販機でコーヒーを買い、「うん、タイトルはエレベーター!これにしよ!」っと言って、待合室でノートに書くのであった。

満月の夜空は、それを覆うかのように一筋の煙が空へ上るのであった。



翌日、景子は会場に一人で行き、今市が欠席で自分が一番弟子として代りに発表する事になりましたと告げると、担当者は、「ええ、今市師匠から聞いております、今回は一番弟子の景子様が、発表されると聞いております。」

キョトンとする景子に「なんか、ご本人様には内緒で、当日まで言わんといてくれとおっしゃてられましたね」

「ネタは、ご本人がいくつもネタを持っているので、突然言われても大丈夫だと師匠は笑っておられ、信頼してらっしゃいましたね」っと担当者が言い、「あっ、そうそう、これを預かっております」っと言って、一つの大きな箱を景子に渡すのであった。

羽織であった、今市は、この発表会で景子をデビューさせるサプライズを考えていたのであった。

景子は、それを持って黙って自分の楽屋へ入って行った。
出番が来て、今市が作った羽織を来て壇上にあがり、創作落語をするのであった。

その様子は、景子のとめどもなく涙があふれての語りぶりが、観客は、すごい迫力ととり、評判となったのはいうまでもない。





    #025「いたずら」


会社の同僚足立と二人で、俺の家近くの駅前の飲み屋で、久しぶりに飲んで盛り上がっていた。
夜も10時をまわり、店を出て帰ろうと歩いていた。

足立は、「お前がもめていた家ってどこだっけ・・?」っと酔っぱらって俺にもたれて言い寄って来た。
そう、居酒屋で酒のさかなに、俺は足立にグチをこぼしていたのであった。


それはある出勤前の朝、俺は、その問題の家の前をチャリンコで通りかかろうとした時の話である。
いきなりその家の駐車場から車が出て来て、危うく俺は轢かれそうになった事があった。

頭に来て、その家の主人らしきおっさんに文句を言ったら、逆切れしたそのおっさんは、お前が悪いみたいな事を言ったので、喧嘩をしそうになったのであった。

しかし、電車に乗り遅れるので、その場は捨てゼリフを残して駅に向かったのであった。
そうゆう話を、飲み屋で足立に俺はぶちまけたいきさつがあった。



俺は、足立に「この先の角の家だよ・・」と言った。
「おー、俺いいこと思いついた」っと足立。

「なんだよ?・・・」
「あそこに花屋があるじゃん・・」っと指さす足立。

こんな時間に、あんな所に花屋があったかなっと思いながら見ていたら、「俺、ちょっと花買ってくるわ・・」っと言いながら足立は、花屋に千鳥足で歩いて行った。

俺は、「ちょっともようしたから・・・」っと言って、線路わきの草むらに用を足したのであった。
足立が戻って来て、「これ買った!」っと言って手に菊の花数本を持っている。

「どうすんだよ、そんな物・・・」っと俺。
「これを、お前の仕返しとして、その危ないおっさんの家の前に置くんだよ・・」っと足立。

「変な事すんなよ、通報されるぞ!」っと俺。
「よく、横断歩道横に、花が添えられている風景見るだろ・・・」

「それって、その場所で誰かが死んだからなのよね・・・・」
「いつか事故を起こしそうなそのおっさんの警告の意味も含めて、ちょっとした悪戯だよ・・・」っと足立は、俺はいいことをしているみたいな顔をしてその家に向かって歩いて行った。

俺も、まんざらな気分でもなく、花を置いたくらいで捕まらないだろうっと思って足立の後をついていった。

その問題の家は、駐車場付のごくありふれた家で、その塀にそっと足立はあたりを見回しながら置くのであった。

置くと、我々は、何事もなかったようにスタコラと歩いた。
後ろを振り向くと誰もいない・・・・成功である。

翌日おっさんの顔や、その花を見た通行人の顔を想像するだけで、我々は愉快な気分に浸れるのであった。
「じゃ・・俺はここで帰るわ・・」っと足立は、駅の方へ歩いて行き、「明日、どうなったか報告しろよ・・」っと振り向きながら帰って行った。

俺もなんか、明日が楽しみに、にやにやしながらと家に着いたのであった。



翌朝、会社ですかさず俺を見つけて、「どうだった?・・・」っと足立が言い寄って来た。
「うん・・・お前、今朝のニュース見てないのか?・・・」っと俺。

「えっ、ニュース?あ、俺、朝はバタバタしてるからテレビ見ないんだけど、なんかあったん?・・・」っと足立。

「そうか・・・」っと俺は、いやな気分で、ニュースの内容と、朝現場を通った様子を足立に説明をし始めた。

「それが、夜中に事故があったらしく、二人乗りの原チャリがあの花の置いた塀にぶつかって二人とも亡くなったらしいんだ。」

「だから、夜中、パトカーや救急車で大騒ぎになったらしいんだよ」っと、ぼそぼそと俺は話していた。
顔色を変え、足立は「まさか、あの花でそうなったと思ってるのか、・・・馬鹿馬鹿しい・・偶然だ!」っと、ちょっと、むっとしながら言っている。

「いや・・・それだけじゃなくて、まだあるんだ・・・」っと足立の顔色をうかがいながら俺は続けた。
「あの親父、事故が起きたのが午前3時で、その1時間前に、遅く帰って来た息子と大喧嘩になり、息子を包丁で刺して殺してしまったらしいんだよ・・・」

「そして、その親父もその後で首を吊って死んだらしいんだよ」っとぼそぼそと俺は言った。
足立は、「えっ、・・・・そんなの偶然、偶然・・・気にする事ないよ・・・」っとさすがの足立も顔色を隠せないでいる。

「お前、あの花、ほんとに花屋で買ったのか・・?」っと俺。
「ああー、ちゃんと店で買ったやつだよ・・・」っと足立。

「む・・ん・・、今朝、駅に向かうとき、昨日のその花屋を見に行ったら・・・・」
「・・・・・なかったんだよ・・・街灯下に小さな祠があるだけなんだよね・・・」

「昨日も小便しながら、いつ花屋がここに出来たのか、不思議に思ってたんだけど・・・」
「お前、お金払って買った?・・・」っと俺が足立に問いただすと足立は、「当り前だろう・・・ちゃんと・・・・」「払・・・た・・と思うけど・・・」っと不安げになる足立。

「だって、お前だった花屋見てただろう?・・・」
「いや、俺小便してたし、灯りが点いているのは見たけど・・・あれって、街灯の灯りだったのかな・・?」っと俺も酔っ払っていたので、記憶が曖昧であった。

「じゃー、なぜ、花をおれが持ってんだよ・・・」っと言い寄る足立。
「それが、いつもあの祠に添えてある花瓶に花がないんだよ・・・いつも、近所の人が花をきらさずお供えをしてるんだけどね・・・・・」っと上目づかいに足立に俺は話を続けた。

しばらく、二人の間の冷たい空気が張り詰め、その場に立ちすくんでいた。

足立は急に「俺、今日、早退する・・・」っと言いながら、かばんを持ってバタバタしながら帰ってしまった。

俺も帰りたかったが、帰り道あの祠のそばを通らなければならない事を思えば、逆に会社に泊まってしまった。


翌日から、足立は無断欠勤が続き、・・・そして消息を絶ってしまった・・・

俺は、まだ生きていると思うが、会社の者には存在感がないらしく、ある日、俺の机の上に菊の花が添えられていた・・・・






#024「とある会社の朝礼風景」


「いやー、みんな、今回も賞を取ったぞ!」っと得意満面に言っている部長。
「この玲子君のCMがコンペで1位になり、今度で2度目の受賞になったぞ!」

「いやー、玲子君は才能があるというか、おとなしい顔してトリッキーだよね」
「トリッキー玲子と呼んじゃおうかなー!」っと玲子の方に指差し、にやにやしながら、みんなに言っている。

まわりの社員は「部長、部長、誰のことを言っているんですか?」とキョトンとしながら部長を見ている。
「誰って、ここにいる玲子君じゃないか、何言ってるんだ!」っと、ちょっとむっとしている部長。

社員のみんなは、互いに顔を見合わせながら「玲子って、2年前に過労死した山本玲子の事かな?・・」っと首をかしげながら言っている。

「なに馬鹿な事を言ってるんだ、ここに居るじゃないかっ!」と、そばにいる玲子を見ると・・・・


玲子は、「部長、トリッキーな玲子じゃなくて、私はとり憑き玲子です・・・」っと、部長の背中にすーっと入っていった・・・・・とさ。





     #023「謀反・・・?」


「おじゃまします・・・どう、元気?・・・」っと孝雄が、友達の病室に入って行った。
「やぁ、来てくれたんだね・・・大した事ないのに・・」っと友達のわたるがニコっとしながら言っている。

「あれ、その子は・・・・?」っとわたる。
「いやー、妹の子供で浩太って言うんだけど、遊園地に連れて行けって、せがまれちゃってね・・・」

「なーんだ、てことは、ここへはついでかよ?・・・」っとわたる。
「違う違う、ほんとは、前から今日はここへ来るつもりだったんだよ・・」っと慌てる孝雄。

「いいよ、無理しなくて・・・明日、内視鏡で胃の中のポリープを採るんだ。」
「切らないから、2,3時間で終わるらしいんだ・・だから、心配ないんだ」

「そうか、それはよかった・・・あっ、これ、お見舞い、食べれるようになったら食べて・・・」っと、孝雄は個人用のテレビ台の下にある引き出しに、お見舞いのフルーツゼリーを入れるのであった。

「あー、ありがとう・・・わるいネ・・」っとわたる。
浩太がすーっと、わたるのベッドに歩み寄って、小さな手でわたるの胃のあたりをさするのであった。

わたるは、浩太を見て、「そうだよ、おじちゃんの胃の中に出来物があるんだよ・・・明日それを採るんだけどね」っと笑いながら言っている。

浩太は、わたるの顔を見て、「おじちゃん、がんの手術をするの?・・・」っとつぶらな瞳でわたるに言っている。

わたるは、「えっ!がん・・・?」っとうろたえている様子。
それを見た孝雄は、「浩太、何を馬鹿な事を言ってるんだ・・・おじちゃんは、普通のおでき・・胃に出来たニキビみたいな物を採るだけなんだよ・・」っと、浩太をベッドから引き離し、浩太の顔を見て言っている。

「悪い、悪気があって言ってるんじゃないんだ、まだ、何も知らない子供だから・・・すまない・・・」っと言って、浩太の頭を持って、わたるにペコっと頭を下げる孝雄であった。

「あっ、いや・・いいんだ・・ちょっと、驚いちゃって・・・」っと、わたる。
「実は、そうなんだ、浩太君が言っているガンらしんだ・・・ただ、初期なので、心配する事じゃないらしんだけど・・・ね」

「浩太君、いくつかな・・・?」っとわたる。
浩太は、「3つです・・・おじさん・・・ガンってね、今までは普通に働いていた細胞たちなんだよ・・・それが、ある日、突然、今まで仲間だった細胞たちに刃向かってやっつけようとするんだよね・・・つまり、謀反を起こしたんだよね・・・」っと真剣なまなざしの浩太。

わたるは、「ムホン・・って、そんな言葉知っているの・・・?」
孝雄が「あぁー、この浩太、時代劇のドラマが好きで、よくテレビで見て、ぶつぶつ言ってるのを見たことがある・・なんで、本能寺で信長が殺される事になったの?・・とか・・変な事を口走ってたな」

「うん、信長が殺されたのは、信長に何か原因があったからなんだよ・・」っと浩太。
「いっしょだよ、ガンも・・・何かの原因で、自分の仕事が嫌になって、ガンになったんだと思うよ・・・普通、嫌になったら、仕事を辞めて、逃げるか、逃げられないなら、自殺をするとか・・いろいろあるよね・・・だけど、恨みを持って、今まで仲間だった友達を殺したり、自分たちの仲間にしようと増殖をするんだよね」っと真剣にわたるに言っている浩太。

「孝雄、この子、なに言ってるのかな?・・・難しい事を言ってるけど・・・凄い!」
半分あきれ顔なわたるであったが、最後まで浩太の話を聞いてみようとするのであった。

「浩太、もういいよ・・おいとましよう!・・・」っと孝雄が浩太の手を引っ張る。
すかさず、「だめだめ、ちょっと最後までこの子の話を聞こうよ・・」っとわたる。

浩太は、孝雄の渋そうな顔を見ながら、わたるの方へ振り返り、話を続けるのでありました。
「だから、謀反者のガンは、何かしら不満があって、行動に出たんだよ・・・そして、血管という街道を伝って、仲間を各地に送りこみ、そこで戦争をして増殖し、ゆくゆくは、国を統一する・・・つまり身体全体の事を制覇しようとするんだよね・・・」っと浩太。

「ちょ、ちょっと、待ってね・・・・!」すかさず、浩太が子供だと忘れて、突っ込みをいれようとするわたる。

「ガンが身体中を制覇したら、謀反を起こしたガンたちも死んじゃうじゃない・・?」
浩太は、「そう、ほとんどの人は死んじゃうんだけど・・・中には、稀に、ガン細胞だけで生きて行けるか・・・もとの姿、良性細胞にガラっと変わる・・・オセロの駒が一斉に黒から白に変わるようになるんだよね・・つまり、新しい人間もしくは、新しい生き物の誕生で、人間のフルモデルチェンジなのよね・・・その現象が多くなればなるほど、それが新人類の誕生で、地球上を支配していける事になると言われているんだよね・・」

っと得意満面の浩太であるが、大人二人は顔が引きつっている。

「浩太、大丈夫か?、この子、変わっているとは聞いていたものの、・・・・テレビの影響かな・・・」っと孝雄は首をかしげている。

「じゃー、おじさんは、どうすればいいのかな・・?」っと浩太を覗きこむようにわたるが言っている。
「ここ、胃の細胞たちの悲鳴を聞いてあげて、いたわってあげないとダメだよ・・」っと浩太。

孝雄が、「わたるは、大酒のみで、暴飲暴食だからなー・・胃が悲鳴をあげているのも無理もないんじゃないかな・・・」

わたるは、自分の胃を見つめながら、「でも仕事のストレスで、すぐ同僚と酒を飲んで、焼き肉をたらふく食うのが、ストレス解消方法なんだけどな・・・」っと、つぶやいている。

「ストレスで、胃が一番悲鳴を上げている所へ、猛毒のお酒、そして、山ほどの脂っこい焼き肉を入れられ、おまけに、タバコまで・・・これって、瀕死の人間に過酷な重労働をさせるようなものじゃない?・・・」っと孝雄。

「普通は、いたわって消化のよいお粥とか、お豆腐なんかで胃を和らげ、後は、早く寝る事じゃない・・・当たり前の話だけど」っと孝雄。

「ごもっともでございます・・・」っとしょげかえっているわたる。

浩太が、「おじさん、おじさんの身体はおじさんの指示で動いているんだよ、つまり、おじさんは車の運転手で、身体は車そのものなんだよ・・・」っと言っている。

「えっ、それってどうゆう事?」っと二人が浩太に言っている。
「おじさん自体は、魂でたまたまこの世でこの身体を任されただけにすぎないんだよ・・・だから、もし、身体が死ねば、また新しい身体・・新車がもらえるっという事なんだよ・・・ただし、記憶は全部消されるけどね・・・」っと浩太。

「ナニ言ってるの・・・?」っとちょっと、馬鹿にした様子のわたる。
「じゃー、死んでもまた新しい身体をもらって、やりなおせるって事・・・なのかしら?」っとわたる。

「そうだよ、身体と魂は別って事・・双子の赤ちゃんって、同じ環境で育っても、性格や趣味も考え方も違う事が多いよね・・・子犬だって、五匹生まれても、気の強い子もいれば、弱い子もいるよね、同じ環境なのに・・・だから、兄弟でも身体は血がつながっているけど、魂はまったくの赤の他人・・たまたま、順番で、空きの身体があったから入って来ただけの事なのよね・・・だけど、身体の中の遺伝子が作用していて、魂に影響があり、性格が似か寄る事もあるけどね・・・」っと浩太。

「へぇぇー・・・」っと感心する二人。

わたるは、「ふーん、おじさんは、雇われ会社の社長で、この身体(会社)を任されているんだよね・・胃や肝臓、腎臓なんかは、会社のそれぞれのセクションで、そこで働く何億の細胞が社員なんだね・・・社員に思いやりを持たないと、謀反を起こされガン化されるのよね・・・なんか、わかったようなわからんような・・・でも、おじさん、こいつらを大事にするよ・・」っと自分の胃をさすってニヤっと笑っている。

「浩太、お前、ただモンじゃないなぁ・・前世ってわかる?」っと孝雄。
「うん、わかるよ、僕の前世・・・つまり前の身体は・・・」っと言うと、孝雄の耳にコソコソっと言うのでありました。

「まじか・・よ!・・もういいよ、頭おかしくなるから・・・」

「おい、もうこんな時間だよ!ひらパーでジェットコースター乗るんじゃなかったのか?・・・」っと孝雄。

慌てる浩太は、「あぁぁー、忘れてる・・・早く行かないと夕方になるよ・・・」っと孝雄の服を引っ張っている。

「わかった、わかった・・・わたる、これで帰るわ!・・・こいつの事あまり気にせんといてな・・・所詮、子供のたわごとやから・・・」っと、浩太と病室を出ようとすると、「おい、浩太くん、ポリープ採ったらまた来て、今日の話の続きをしてくれよ・・・」っとわたるは、ニコニコしながら手を振る浩太に言っている。

わたるは、胃に手を置き、窓の外の景色を見ているのだが、今日の景色はいつもと違った景色に思えた。
「ジェットコースター・・・か?・・・最近のガキは、大人ぶっているのか子供なんか、ようわからん・・・」

「あれ、ジェットコースターって、身長制限があるんじゃなかった・・・け?」

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