#033「怨念」
恵美から私にLINEが入って来た。
「真紀、急で悪いんだけど、今、駅前の病院に入院してるから、来てくれない?」と言っている。
私は、うそっと思いながら、すかさず返事を「どこか悪いの?」っと聞いた。
「階段から落ちて脚を骨折したの・・・」っと恵美。
わかったすぐ行くっと言って、私は病院に向かった。
しかし、駅前に病院があったのかなぁっと疑問に思いながら、行くと・・・あった。
駅前の裏手にあり、以前通った時は空き地だったが、病院が出来たんだと思った。
3階建ての小さな整形外科病院である。
私は、病院という所が嫌いである。
私は、幼いころから霊感があり、人の寿命がわかるのである。
ただし一週間以内に亡くなる人だけである。
簡単に言うと、身体が透ける・・・人の身体が薄くなり、透き通って見えるのである。
その透き通る密度により寿命がわかる・・・まったく透き通って輪郭だけになったらその日中に亡くなる・・・これは特殊能力?・・いや余計な能力と言っていいだろう。
だから、病院など亡くなる人が多い所へは、あまり行きたくないのである。
まぁ、幼いころは悩んで死にたいほどだったけど、今は慣れてしまっているが、それでもいい気分はしない。
そんな、恵美の入っている病院に着き、恐る恐る入ると・・・個人病院なので人も少ない、整形外科病院なので、死相が出ている人はいなかった。
病室は4人部屋で窓側に恵美は居た。
周りのベッドはカーテンで仕切られ、患者の顔が見えない・・・静かである。
恵美は、元気そうで「ゴメンゴメン・・悪いね・・」っと言いながら、脚を吊りながらベッドに寝ていた。
「大丈夫?・・・」っと私が聞くと、「そこの歩道橋でつまづいてね、下までズルズルと落ちたの・・・情けないものよねぇ・・・」っと、笑いながら言っている。
恵美とは友達の少ない唯一の親友で、変人と呼ばれる私にとっては大事な友達である。
一通り雑談をした私は、また来るねっと言って病院を出るのであった。
家に帰り、夕食の準備をしながらテレビを付けていると、「昨日未明、歩道橋の上から落ちた上野恵美さんが頭がい骨骨折で亡くなりました。警察では、事故と事件の両面で目撃者がいないかどうか慎重に捜査を進めています」っと報道している。
私は、フライパンを片手にテレビの前に座り込んでしまった。
「うそ・・・」っと思い、すぐさま恵美に電話をしたがつながらない・・・
とにもかくにも、すぐ家を出て、病院へ向かうのであった。
「そんなはずはない・・・だって、今会ったばかりだもん・・・」
病院に着くと・・・っと、云うよりも、病院が・・・ない!
そこは、空き地であった・・・「えぇぇぇ・・・うそ・・・さっきまで、あったのに・・なんで・・・場所間違えた?・・・」っと、夢を見ている気分であった。
周りをうろうろしながら、人に聞いても、そんな病院誰も知らないと言う・・・昔から、空き地だとしか言ってくれない。
私は、ひょっとしてと思って一駅先の恵美の家に行くことにした・・・電話は依然とつながらない。
恵美の家は、借家一人暮らしでプレハブの2階にある。
恵美の家の灯りが目に入った。
「なんだ・・居てるじゃない・・・」っと、家のそばまで行くと、いきなりドアが開いた。
知らない男の人が出て来た・・・どうも、管理人らしい。
遺族に連絡したいらしく、手がかりを捜しに入ったそうである。
私にも聞かれたが、そういえば恵美の家族の事は何も知らないでいた・・っと、今さらながら不思議に思った・・・
「やっぱり、恵美は死んだ・・・ニュースは本物だった・・でも、おかしい・・」
霊感がある私が、あの時恵美と、ちゃんと話したのだから、死んではいないハズ!」っと思うのだが・・・病院が無くなっているのは、わけがわからず、頭の中の整理がつかない。
いろいろ考えている内に、まさかの恵美からLINEが入る。
「ごめん、もう一度病院に来てくれる?・・・重大な話があるの・・」
「えっ・・・あんた誰?成りすまし?・・悪戯?・・恵美は死んだのよ・・・病院だって無いじゃない・・・」っと、やつぎばやに私
「病院あるよ・・・来て来て・・・ちゃんと説明するから・・・真紀、私を信じて…お願い・・・」っと恵美。
私は、真相を知りたいので、もう一度騙されたと思って「わかった」っと言って病院に向かうのであった。
また、空き地だろうと思って歩いていると・・・なんと、目をこすりながら、自分の目を疑った・・・「はぁぁぁ!・・・あるわ・・・な・ん・・・・で・・・」
空き地だったはずが、病院があった。
これは、やっぱり夢を見ているのだと思って、カバンからシャーペンを取り出し、腕に突き刺した・・・「痛い・・・!」血がにじんで出て来た・・・
「本物・・・」っと思いながら、病院の入口から入るのだが、なぜか駅前なのに通行人がいないのが気になった。
病院の中は普段通りに看護師や患者がいる・・・別段透き通って見えるのではなく、普通である・・・ちょっとは、ほっとしながら恵美の病室に入る。
恵美がにっこりと笑いながら、ベッドに腰かけている。
恵美は「ごめんね、驚かせてしまって・・・」と言っている。
私は、「テレビで言っていたのは、違う人だったのよね・・でも、あなたの家に行ったら管理人さんが居たけど・・一体誰なのかしら・・・」
「まぁまぁ、そこの椅子に掛けて・・座って・・・」と恵美。
私は丸椅子に腰かけながら「脚、大丈夫なの?」っと言った。
恵美の脚はギブスで固定してなくて、ブラブラとベッドに腰かけながら足を動かしている。
私は恵美をじーっとよく見ると・・・・・「うわっ、何ソレ!・・・あ・・頭が割れている・・・」っと指さした。
窓から風が恵美に吹き、髪がふわっと持ち上がったのである。
じーっと真紀を見つめる恵美・・・
恵美は顔をこわばらせ「そうよ・・・一体誰のせいなのかしら・・ね・・」っと、私に顔を近づけて来た。
私はのけぞって「やめて・・!」っと顔をそむけ、椅子をこかして、その場に立ちすくむのであった。
恵美はすかさず「あんたなんでしょ、私を突き落としたのは・・・正直に言いなさい!」
「な・・なんの・・話・・・」
「私、転げ落ちながらあなたの顔を一瞬見たのよ・・・」
私は無言で、しばらく黙っていたが・・・・
意を決して目を見開き「そうよ、私よ・・、あんたがいけないんだからね・・・私が徹の事を好きだと知っていながら、わざと付き合ってたじゃない・・どうゆう、事よ・・・」っと、語気を強めて言った。
恵美は「そうよ、わざとよ・・・まさか、真紀の自らの手で私を殺そうとするなんて、計算違いだったけどね・・・霊感が強い魔術師的なあんただったら、呪い殺すのかと思ったんだけどね・・・こんな、ベタなやり方・・・」っと、恵美が呆れている。
私は頭が混乱しながら「うるさい・・あんたが悪いんだよ・・死んで当然だよ・・・」
「ほら、本音が出た・・お前はそうゆう奴なんだよ・・・」
「私は、あなたが一番の親友だと思って、徹の事を相談したのに・・・どうして、そんなひどい事をするの?・・・ホントは・・・ほんとは、ケガさせるだけで死ぬなんて思ってもいなかったのよ・・・信じて恵美・・・」っと、私は哀願した。
恵美は、ひとしきり目をつぶり、大きく目を開けて真紀に向かって「あんたは、もう覚えていないかもしれないけど、発端は3年前、私の7歳の弟が自転車に乗っている処にぶつかっただろう・・・」っと恵美
「えっ、・・さん、ねんまえ?・・・あぁ・・思い出した・・・あれは、事故だったのよ・・・変な男に追いかけられて・・・必死で逃げたのよ・・・そしたら角から男の子の自転車が突っ込んできたのよ・・・」っと私。
「えっ、あの子恵美の弟なの・・?」
「そう、弟はとっさにあんたをかわそうと自転車の向きを変えたら車道に出てしまい・・・走って来たトラックの下敷きに・・・そしてまさかのあんたは・・逃げた・・・」と恵美。
「知らないわよ・・私だって必死で男達から逃げていたんですもの・・事故よ・・不慮の事故!」と私
「あんたは、いつもの癖で、その男達をジロジロ見て、影が薄いなんて、言ったからでしょ・・・そら、男達も怒るわ・・・」恵美
「仕方がないでしょ・・私には見えるんだから・・病気みたいなものよ・・・」
恵美は「私たちはね、早くに両親を亡くして二人だけの姉弟で一生懸命に生きて来た・・・・そんな唯一の弟を奪われ、何日も泣き崩れたわ・・・・そして逃げたあんたが許せなくて、いろいろ調べて、同じ大学に入り・・近づいたわ・・・」
「あんたが好きな徹の事は、さしずめ復讐の第一歩だったんだけどね・・・まさか、これで終わるなんて・・・死んでも死にきれないというのは、この事よ・・・」と恵美
「私は・・・私は、唯一の親友だと恵美の事を信用していた・・・あの事故は、悪かったと思っている・・・ニュースで私も落ち込んでいたのよ・・」っと、恵美を見つめる真紀・・しかし・・・
「えっ、でもあなた、死んでないでしょ・・・だって、私ちゃんと、あなたの姿が見えるもの・・・」
「そうね、現世だったらそうかもしれないけど・・・あなた、この病院、ほんとに存在すると思っているの?」
「えぇぇ・・!わ・・たし、死んでいるの・・・?」
たしかに、壁にかかっている鏡には真紀の姿が映っていない・・・
「うそだ・・・うそだ、うそだ・・」
「残念ながら、まだ生きてるよ・・・今はね・・・現世とあの世の境目の空間・・・異次元とでも言うのかしら?・・・」
「死んで初めてわかるこの世界・・・冥界の入口だけど、人は死ぬと21gの魂となって肉体から離脱・・・金色の光のシャワーが見えて、そこに吸い込まれるように入ると、成仏する・・・通常はね・・」っと、専門家のような話ぶりの恵美。
「しかし、私のように未練がある者にとって、なかなかこのままでは成仏出来ない・・・途方に暮れどうすればいいのかわからなくなると、自然と光の成仏シャワーが消えてしまう・・・限られた時間内に入らなければ、もう成仏出来ない」
「そうすると、この中途半端な空間の住民、浮遊霊が寄って来る・・・大半は危害を加えないクラゲのように漂っているのだが・・・どこの世界でもいるようにこの世界でも悪玉、悪霊が居る・・一つの魂魄じゃなくて、いくつ物魂魄が重なり混じり合って力を作っている・・・人間だけではなく猫や獣なども交じる強力な物で、存在を維持するためにエネルギーとして同じ魂魄を吸収している・・・手下に死神を備え、死にそうな人間動物などに近づき、亡くなると同時に成仏させないようにナンパする・・・宗教の勧誘みたいに・・・」
「私もいいよって来たので、親玉に会って取引をしたんだよ・・・」
「この病院の幻影を作り、あんたを・・・ハメる為に・・・」
私は「そこまでしなくても、成仏してもう一度やり直せばいいじゃない・・・」
「お前が言うな!・・・いや、私の恨みは深い・・一番大事な弟を殺されたんだから・・・もう成仏出来ないから弟にも会えない・・・あんたを闇に見送ったら、悪霊の餌になる覚悟だよ」
「ちょっと、私たち親友じゃない・・・私、まだ死にたくない・・・」っと私。
「もう、時間がない・・あなたは、死んでも成仏出来ない・・・一生、闇の・・暗闇の中で閉じ込められる事になるのよ・・・」っと、ニヤリと恵美。
すると恵美のベッド以外のベッド・・・3つのカーテンがサーっと開き、中から巨大な黒玉が出て来た・・・まるでガンツのような大きさ・・・
どんどん黒玉が膨れ、磁石に近づけた蹉跌のように盛り上がり、うごめき真紀の方に触手を伸ばすかのように近づいて行く・・・
真紀は叫ぶが、黒い蹉跌は真紀の身体を包み込みうごめいている。
すると真紀は何かを唱え始めた・・・「カンバサラ・・カンバサラ・・ミョウジンバサラ・・・」っと唱えると、蹉跌の動きが止まり、下にバラバラと落ちて行く。
真紀の顔が見えた処で、「私も伊達な呪術師ではないわよ・・・」と云うと、黒い玉から新たに蹉跌のような物が大量に飛び出し、真紀の口に押し込めるのであった。
みるみる内に真紀の身体は風船のようにパンパンになり、破裂寸前である。
やがて、スー・・・っと黒い煙となって消滅するのでありました。
最期を見届けた恵美は、やっと終わったと微笑み、だんだんと姿が薄くなり、周りの明るさと共に消えて行き、その顔は安堵に満ちていたのでした。
そして、病院も消え、普段通りの空き地に戻っていました。
ただ、空き地の隅っこに黒い大きなシミが出来ており、黒い煙のような物が一筋立ち上っておりました・・・・おわり・・・
#032「運の悪い男・・・?」
「なぁ、滉平、聞いてくれよ・・なんか、俺おかしいんだよね」
まもるが、商店街の細い道を滉平と並んで歩いている。
「なんだよ・・」っと滉平。
「最近、記憶がなくなったり飛ぶんだよね・・・身体はどこも悪くないのに・・・それに・・」っと、まもるが滉平を見た時、右の路地から自転車が突っ込んで来て、まもる手の甲をかするのであった。
「あぶない!」っと滉平が、まもるを制した。
「うあぁ・・」っと言って、通り過ぎる自転車の方向へ目をやった。
「危ないじゃないか・・クソがき・・こら、・・止まれ・・・!」とまもるが叫んでも、自転車は、何事もなかったかのように振り向きもせずに通り過ぎるのであった。
「こら・・!」っとまもるが言っても、もう相手は見えなくなった。
「だいじょうぶか・・?」っと滉平。
「ああ・・・まあね・・」っと言いながら、手の甲をさすっているまもる。
「さっきの続きだけど・・・・・・」っと、まもる。
「なんの話だっけ・・・」っと滉平。
「なんか、俺おかしい・・っと言った件・・・」っと、まもる。
「ああ・・・で、何がおかしいの?」っと滉平。
「今、あったような事・・・」
「なになに・・自転車・・?」と滉平。
「そう、偶然とは言え、俺・・運が悪いような気がするんだよね・・・」
「飛び出し自転車ってよくある事だよ・・・」っと滉平
「お前は、会った事があるの?」っと、まもる
「いや…俺はないけど、世間ではテレビとか、よく言っているじゃない・・」
「まぁ、そうなんだけど・・・偶然かな・・・」と、まもるは、しょんぼりしながら下を向いて歩いていると、ビシャっという音がして、まもるの右肩に白い液体のような物が着いている。
「なに・・雨・・?」っと、言ってまもるは、手で肩を拭うと・・「なんじゃこれ!」っと、飛び上がりながら、上着を脱ぎ始めた。
「この白いの・・なに?・・・」っと、上着をつまんで見ている。
滉平は、「ぷすっ!」っと笑いながら、「たぶん、ハトの糞じゃない?・・・」
「なんで・・なんで・・・自転車の次・・これかよ・・!いったい、どうなってんだ!俺が何したっていうの・・?」っと、まもるは叫びながらしゃがみこんでしまう。
滉平は、ニヤニヤしながら「まぁまぁ・・そういう事もあるよ・・・長い人生には・・・」と云いながら、持っていたティッシュでまもるの上着のハトの糞を拭うのであった。
「いやぁ・・・もういいわ・・こんな人生・・・今までだって、俺ひとりだけ、ろくな事がなかったんだよ・・・ね・・・最低な人生・・・」
「まぁまぁ・・ヤケになりなさんな・・」っと滉平は、綺麗に拭きとったまもるの上着を着せてあげるのであった。
まだ少し、色が着いているが、もともと明るいグレーのジャンパーだったので、そう目立たない。
「帰ったら、一応クリーニングした方がいいよ・・」っと滉平。
「ありがとう・・で、俺たちどこへ向かって歩いてるんだっけ・・・?」っと、まもる。
「あぁ・・言ってなかったっけ・・今日、俺、面接なんだよね、終わったら飯でも食おうと思ってね、誘ったんだよ」っと滉平。
「俺も、お前といっしょで運が悪いんだよ・・この面接でちょうど10回目なんだ」
「じゃ、俺がいると余計に運が悪くなるぞ・・・」っと、まもる
「大丈夫・・お前は、俺が終わるまで、一階のロビーで待っててくれよ・・・すぐすむから・・・今日、3次面接で絶対に受かりたいから、ちょっと気合入ってるんだ」
っと滉平。
「そっか・・・お前の事だから、何でも要領よくこなすから、大丈夫だよ・・・」っとまもる。
「あそこ、あそこのビルの5階」っと滉平は、行く手のビルを指さすのであった。
二人は、ビルに入り1階のロビーで腰かけるのであった。
「けっこう大きなビルだね」っとまもる。
「雑居ビルだよ・・・ちょっと、ここで30分ほど待ってくれるかな?すぐ終わると思うから・・・」っと滉平。
「ああ、いいよ、」っと言って、まもるはロビーに置いてある新聞を取るのであった。
「悪いな・・後でおごるから」・・・っと言って、滉平はまもるの座っているソファーの背後に廻り、まもるのうなじにある赤い小さなボタンを押すのであった。
まもるは、身体の力が抜けたように、急にふにゃふにゃっとなって、目を閉じるのであった。
「よし、これでOK!・・・ちょっと待っててな・・・」っと言いながら、まもるの新聞を横に置き、腕組みをさせ顔をちょっと傾きさせ「こんなカンジかな?寝てるように見えるよね・・・」っと独り言を言っている。
「よし、おとなしく待っててね・・・でも、凄いわ!新製品の身代わりレンタルロボット・・俺の運の悪さを全て吸収して、身代わりに災難を受けてくれるロボットって・・・俺が、自転車やハトの糞に遭遇する運だったんだよね・・・おぉ・・怖!・・・これからの時代こうゆうロボットが必要やね・・・」そう言って、滉平は今度こそは落とせない面接に臨みながら、気合を入れてエレベータに乗りこむのであった。
そう、このロボット、神社とロボット工学大学が共同で開発をしたのである。
TVCMで、「あなたの災いを未然に替わって、身代わりとなるロボット・・・まもるくんです」っと流れており、大ヒット商品でレンタルも出来るというもの。
予め、まもるくんの記憶をパソコンのワードを使って書くだけで、簡単にシナリオを設定出来る優れ物。
そして、「このまもるくんは、霊験あらたかな神社で悪運を吸い寄せる祈祷してもらっているので、大丈夫!お守り代わりにお一つどうぞ!」っとCM・・・ロボット時代も異業種コラボで賑わいをみせるのでありました・・・・とさ・・・・・(^-^)
・・・・・でも、このロボットが周りの悪運をわざわざ呼び押せている?・・・かもしれないけどね?
#031「心霊テレビ・・・?」
私は、小さな町の駅前商店街の中にある、探偵事務所を営んでいる。
仕事と云っても、迷子捜しや犬猫捜しなど、そう大した仕事はやっていない。
浮気調査なんてのは、年に一度くらいで、私にとっては大仕事みたいな物である。
私は今日、いつもより遅れて事務所に入った。
「いやぁー、いい靴が見つかったよ・・」っと、事務所に入るなり私は、華織に靴の入っている紙袋を見せるのであった。
「やすい、ほんと安いね・・あの店」っと、得意になる私である。
華織は、私の事務所にアルバイトで来ている孫の女子大生である。
「おじさん、お客さんが来ているのよ・・・」っと華織。
よく見ると、部屋の隅にある、薄汚れているソファーにポツンと背広姿の若い男性が座っている。
「いやぁー、いらっしゃい」っと、私は荷物をデスクに置き、ソファーに向かい、男性の対目に座った。
男性は、長谷川と名乗り、お菓子メーカーの営業マンだと言った。
「おニューの靴ですか?、私も仕事がら、すぐ靴がへたって、何度も買いますね、靴代も馬鹿にならないですよね」っと、さすが営業マンらしい流暢にしゃべっている。
「この間、道に捨ててあった、噛んだ後のガムを踏んづけてしまったようで、取るのに苦労しました」っと長谷川。
「今時、珍しいですよね、最近、ガムやタバコのポイ捨てをする人がいなくなって、道路も綺麗になってますからね・・」っと、私。
私は、「あーそうそう、駅前の地下の靴屋が、安いですよ、私も仕事がら、あなたと同じで靴底がペラペラになってよく買いに行くんですよ」っと、華織が持って来てくれたお茶を飲みながら、「どうぞ・・」っと長谷川にも、お茶を勧めるのであった。
長谷川が勧められたお茶を、熱そうに飲むと、「実は、私の婚約者の話なんですが、先々月、駅のプラットホームから落ちて、電車に轢かれて亡くなったんです」っと、ちょっと暗い顔をする長谷川。
「あぁ、そのお話、ここの駅ですよね、ニュースで見ました、え、・・あの時の女性の婚約者さんですか・・」
「はぁ、それはそれは、ご愁傷さまでした、ご心痛お察しします・・」
「ありがとうございます、なんとか葬儀も終えたんですが、・・私には、彼女が、自殺なんて・・・まさか・・するなんて・・・・考えられないんですよ・・・」っと、つまりながら言う長谷川。
「でも、私にはわかりませんが、よく世間では、ブルーマリッジなんて言いますからね・・・」っと私。
「で、警察はなんと言ってるんですか・・・・?」
「警察は、周りに人が居ない事から、事故か自殺じゃないかと言ってるんですが、私には、そうは思えなくて、誰かストーカーが居たのではと思って、警察に言ったんですが、ダメでした」
「なぜ、ストーカーがいると思ったんですか?」
「以前、彼女、・・・ああ、ひとみと云うんですが、帰り道で後ろに誰かいるような気がするって、言ってたんです・・・怖くて、振り向けなかったそうですが・・・」
「気のせいじゃないかと言ったんですが、事件の当日もその事で口論になって、駅前で別れたんです・・・・それが、あんな事になって・・・私・・・あの時、もうちょっと、ひとみを信じて、そばに着いていたら・・っと、悔やんでも、悔やみ切れないんですよ・・・」っと、目を潤ませながら指で、涙をぬぐって言っている。
私は、まぁまぁと言って、長谷川の肩をポンポンと叩きながら、「駅の監視カメラなんかは、どうなんですかね・・?」っと聞いてみた。
「監視カメラですか、見せてもらったんですが、プラットホームの中央にひとみが電車を待っていたんですが、ちょうど、待合室と柱が邪魔になっており、柱から線路に飛び出す瞬間しか映ってないんですね・・・夜、11時42分と、人はその時いなかったですね。」
「なにか、犯人に心当たりとかは、ないんですか・・?」
「ひとみがよく言ってたのは、家への帰り道に、暗い細い路地があるんですが、そこばっかりが気になっていたそうです・・・後ろからつけられている気がして・・・直接、声をかけられたりとか、襲われるという事はなかったんで、ついつい、私も気のせいだと言ってしまったんです。」
「一度、いっしょにひとみの家まで送って行ったんですが、なんともなくて、やはり気のせいでは・・と、思ったんです。」
「もし、ストーカーだとすると、婚約者さんとの交友関係、つまり、前にお付き合いをされていた男性とか?・・どうですかね?・・それに、プラットホームの死角を知っているとすると、よくその駅を利用する者も考えられるし、たまたま婚約者さんがその位置を選んで電車を待っていたのか?・・それとも偶然なのか?・・・不思議ですね」っと、私は、癖である短いあごひげを触りながら目を天井に向けてしゃべっている。
「ひとみの交友関係では、トラブルのあった人は聞いた事がないんで、ないとは思うんですが、あっても普通、過去の男の事は言わないでしょうね・・・」っと長谷川。
「それに、彼女がプラットホームで待つ位置なんですが、あの待合室の前が、女性車両専用の位置なんです・・・私といる時は、一般車両なんですが、一人の時は、決まって女性車両に入ると言ってました」
「そうですか、わかりました、事務所総力をあげて、解明に努めますんで・・・っと言っても、私一人なんですが・・・ハハハ・・」
「ちょっと、個人情報は絶対守りますので、この用紙にご自身と婚約者さんの住所とか、知っている範囲での情報を書き込んで頂けますでしょうか・・?」
「はい、わかりました、よろしくお願いいたします」っと、長谷川が、華織が持ってきた用紙に書き込みをしている。
そして、書き終えると一礼をして帰って行った。
なんで、うちの事務所に依頼をしたのかと聞いたら、どうも、他では断られたみたいなのと、駅前に事務所があるので、駅周辺の事に詳しいと思ったらしい。
まぁ、うちは安いからというのが本音かもしれない・・・っと、思いながら、久々の大きな仕事なんで、ちょっと珍しく意欲が湧いて来た私であります。
華織も久々の仕事に興味津々で、事務所に鍵をかけCLOSEの看板を出して、さっそく二人で調べに入った。
まず、商店街の近くの墓地に、婚約者が眠っているという事で、お墓参りに行った。
小さな墓地で100くらいの墓石の中で、真新しい墓石が見え、すぐにわかった。
二人で手を合わせ、墓石に向かって、問い聞いてはみたけど、答えてはくれない。
そうすると、うろうろと墓地の中を歩き回っている華織が、妙な物を見つけた。
華織に呼ばれて、私もそこへ行くと、それは、小さな祠であった。
別段不思議ではないんだけど、華織が言うには、祠の中にテレビが祀ってあると云うのであった。
私も、小さな祠の中を見ると、10インチくらいのブラウン管式のテレビがあり、なんだろうっと思っていたら、一瞬、映像が映ったような光が目に入った。
「えぇぇ・・今、なんか映ったよね・・・」っと私は、華織に云うと、「ほんと、見た、見た・・・映った・・・」っと華織も驚きを隠せない。
どこか、電源を引いて何か映る仕掛けになっているのではと、祠の周辺をさがしたのだけれど、それらしき、コードなどが見つからず、ちょっと、祠の中のテレビを触って調べたのだが、どうも、コードらしき物は取り外されていた。
そして、今の人は知らないと思われる、回転式のダイヤルチャンネルであった。
しかも、地デジオンリーになってからは、ブラウン管では、チューナーを替えない限り映らない。
かなり年代物で、汚く汚れて痛んでいたのだけれど、ブラウン管は、割れていない様子で、ひょっとしてブラウン管以外に、真空管が使われているレアな物かもしれない。
誰が見てもすごく気になるこのテレビ。
家電骨董価値に興味がある私にとって、依頼仕事を一時忘れて、華織が止めるのもきかずに、私はこのテレビについて、この墓地の住職のお寺に出向いて行くのであった。
住職に会って、あのテレビの事を聞くと、信じられない話を語ってくれた。
簡単に云うと、昔、あの場所(墓地)は、50年前、大量のテレビや冷蔵庫の不法投棄の場所だったらしい。
行政が、整理してサラ地にした所を、地元住民と協力をして、このお寺の墓地として買い取ったという場所であった。
そして、地元の人のお墓を建てる内に、奥深い土の中から、まだ一つのテレビが残っていたと云う。
行政で処分してもらおうと思った時に、何か人影のような物が映り、どうも毎日同じ時刻に映る事がわかり、調べてみると、当時、火事で焼け死んだ83歳のおばあちゃんの姿らしいという事がわかった。
火事に気付いたおばあちゃんが、隣の部屋に寝ていた幼い孫を助け出そうと歩き廻っている様子であった。
たまたまその孫は、トイレに行っている処で火事に会い、慌ててそのまま逃げて助かったらしい。
おばあちゃんは、その事を知らずに、火が回っている家の中を歩き廻った事で、焼け死んだそうだ。
その無念の様子が、映像として映ったのではと言われ、なぜ、このテレビに映ったのかは謎である。
ひょっとして、そのおばあちゃんの家にあったテレビかもしれないが、誰も知らない。
それから、この土地で自殺した人や、事故など無念を抱いて亡くなった人の霊が、このテレビに映るという事らしい。
全ての人が、映るとは限らないが、この50年間に住職がわかっている中で13件もの現象が確認されているという。
住職は、お寺でこのテレビを供養して、霊の集まりやすいこの墓地に祠を建てて、このテレビを祀ったと云う事である。
無念を抱いてさまよっている霊を、このテレビをたまには住職が見に来て、出来るだけ供養をしてあげるようにしている事らしい。
私は、ダメ元で、長谷川さんの婚約者の件を聞いてみたら、さすが住職も夜の11時頃は、寝ているそうなので知らないと言っていた。
「仕方がない、今夜行ってみるべ?・・」っと、華織の顔を見ると、「冗談じゃない・・、寝てるわ!」っと一喝された。
華織の母親の許可も貰わなきゃならないから、私一人で行く事にした。
午後11時ごろ、いつもだったら、風呂上がりでビール飲んで、テレビ見ながら、うだうだして、そのまま寝入ってしまう処である。
妻に先立たれた、やもめ暮らしは、誰でもこんなもんである。
でも、今日はお仕事、お仕事と思い、防寒着にカイロ、懐中電灯、カメラ機材と熱いコーヒーを携帯ポットに入れ、11時過ぎに墓地に到着した。
11時42分までちょっと時間があるが、故人のお墓と祠にお線香をあげ、お墓前と祠の前にビデオカメラをセットして、廻し続ける事にした。
商店街の一角にある墓地であるが、昼間と違い、灯りが街灯のみになり、人通りもなく、こうゆう時は、普段迷惑な酔っ払いでも親しくしたいカンジであるが、今日は残念ながらいない・・・
紙コップにコーヒーを継ぎ、フーフーしながら飲んでいると、予定の時刻が・・・・
すると、テレビ画面にスーっと一点から大きくなり、いきなり光が飛び出し、私の顔に・・・・「わぁぁ・・!」っと、大きな声をあげてしまった。
「どーしたん?・・・大丈夫?・・おじさん」っと、華織だった。
「おまえなぁ・・・」っと、私は怒鳴ろうとすると、「あれ、あれ・・見て見て・・」っと華織が、テレビ画面を指さすと、薄らと徐々に明るくなり、ちょっと暗いテレビ画面のように何かが映りだした。
画面の周りがもやもやっと黒い霧のような物に包まれているけど、女性らしき人影が、ホームに立っているのが見える。
長谷川さんから貰った写真の婚約者と同じだと、確認が出来た。
すると、スーっとひとみの背中を押す腕のような物が見えるが、身体全体がもやに包まれて誰なのかわからない。
そのまま女性は、線路に落ちて、直後に電車が通過するのが見えた。
二人は、思わず「うわぁっ!」っと言って、目をそむけてしまうが、映像はそこまでで終わってしまった。
茫然と二人は立ちすくんでいたら、華織が「おじさん、やったね!、あの坊さんのお話、ほんとうだったね・・・」と興奮が冷めないで、はしゃいでいる。
我に戻った私は、「なんで、お前ここにいるんだ?」っとにらみつけると、華織は、「いやぁ・・おじさんが気になって・・っと言うよりも、心霊研究部の私にとって、これって、大スクープでしょ・・!ツイッターで報告しよ・・・」っと、はしゃいでいる。
「馬鹿、やめろ、やめろ、そんな事をしたら、ここに大勢の人がやって来て、墓地は荒らされるわ、霊も出る者も出なくなちゃうぞ、バカ!・・・お前、こんな夜中に一人で、ちゃんと親に言ってきたのか?・・・」
「えっ、親は寝てるから大丈夫だよ・・・でも、つまんない、場所はいわないから、写真だけちょっと・・・」
「ダメダメ・・・お前、祟られるぞ・・・・」
私は、もう一度あの現象を見るため、カメラを巻き戻して見る事にした。
「おじさんだって、撮ってんじゃん・・・」
「バカ、仕事だ!・・・お前、そっちのお墓のカメラに、何か映ってないか見るくれ・・」
「やっぱり、綺麗に映っている・・・ホントにこんな事ってあるんだ!・・・あれ!、これなんだろう・・・」っと、私はカメラのモニターを静止画にしてアップにしてみた。
「これって、あれか・・?」っと言って、私は短いあごひげを触り、上を向いて立ち上がった。
「おじさん、こっちのカメラには何も映ってなかったよ・・・異常なし・・」っと華織。
「おじさん、そっちの見せて、見せて」っと言って、私からカメラを奪い、見ていた。
「すごーい、映ってる映ってる・・・これ、ユーチューブにあげたいなぁ・・・」っと、私を見上げている。
おもむろに、「華織、撤収!・・さぁ、帰るぞ、明日長谷川さんを呼んで見てもらう」っと私は、機材を片づけ始めた。
「もう、終わり?これ、貸して?」っと、華織がカメラを指さした。
「バカ、これも個人情報だぞ、お前の道楽とは違うんだから・・・帰るぞ」っと、私は言って、機材を事務所に置いて、華織を家まで送り届けるのであった。
翌日、長谷川さんに連絡を取って、この日の晩に会社帰りに寄ってもらった。
今日は、華織は大学のゼミでいない・・学校の友達に何か言いそうで、凄い気がかりだけど、もし、しゃべったら、アルバイト料をやらないと釘を刺して置いた。
長谷川さんが、訪れて来たのは午後7時頃だった。
「コーヒーでいいですか?」っと私は、ソファーに座っている長谷川さんに言った。
「ああ、お構いなく・・・で、何かわかりました?」
私は、コーヒー砂糖、ミルクを長谷川さんの前に置き、私も、コーヒーに口をつけた。
ちなみに、私はブラック党である。
「ちょっと、これを見てください」っと、言って、30インチの液晶テレビに昨日撮った映像を映し出した。
「これは、あの駅ですね・・・あっ、ひとみだ!・・・あの時の・・・」っと言って、画面に食い入るように見つめている。
「よく、監視カメラの映像が手に入りましたね」っと、動揺している様子。
「これ、監視カメラの映像じゃないんです・・・話せば、長くなるんですが・・・」っと言って、昨日の出来事を丁寧に話してみた。
半信半疑で、何を言ってるんだ!と、長谷川が心の中で叫びながら大人しく聴いていたが、映像が本物のようなので、しだいに、顔が険しくなり、冷たい汗が出て来るのであった。
汗をハンカチで拭いながら、「でも、肝心の相手の顔が映ってないですね」
「はい、でも、ここを見て下さい」と私は、画面下の相手の靴元に指さした。
画面の映像は、犯人の腕しか映ってないと思われたが、足元が、黒いもやの中から出ていたのであった。
その足元の靴を拡大すると、何か左足、前の側面に白い物が付着しているのが見える。
コンピュータソフトで映像を加工拡大してみると、どうも、ガムのような物ではないかと思われた。
そう、これは、長谷川さんが言っていた靴に噛んだガムのカスを踏んづけた話と一致したのであった。
たぶんガムを右足で踏んで、それを取ろうと左足のつま先で、こそぎ落とそうとした時に、付いたんじゃないかと思われた。
「馬鹿な、そんなガム、誰でも踏むよ、そんなの普通の仕草でしょう・・・誰でもするよ・・それに、私は、あの時ひとみと別れて、駅にはあがってないんですよ」っと額の汗を拭う長谷川。
「そうですね、あの時に改札口に入って来たお客さんは、婚約者のひとみさんを入れて6人だったんです・・・・いやぁ、・・・あの駅員に私の中学の同級生がおりまして、特別に内緒で・・・ちょっと小遣いをつかましたんですけどね・・・監視カメラ映像を見せてもらったんです。」
「一人は、ホームの長椅子で横になって、飲んで寝ていたんでしょうね、靴が片っ方脱げてましたが、ガムは着いてなかったですね、後二人は、学生風の若い男性で、ともにスニーカーを履いていました、残りの人は中年の女性で、トイレから出て来るみたいでハイヒール靴でした、・・・で、もう一人の姿が映ってないんですね・・・なぜか監視カメラの位置を知っているかのように、忽然と消えている。」
「ただ、改札口にあるのは気が付かなかった様子で、映っていました」っと、長谷川に、私は小さく指を刺した。
「その改札口の人って言うのが、これです」っと、テレビ画面に大きく映し出した。
まぎれもなく長谷川である。
拡大をして靴に、白いガムが付着している。
長谷川は、頭を低くうなだれていて、聞こえるか聞こえないかのような、か細い声で「誰が、そんな事を頼んだ・・・」っと、つぶやいていた。
その後、観念した長谷川を最寄りの交番に連れて行き、自首をさせたのであった。
翌日、華織が来て「どうだった、長谷川さん、なんか言ってた?」っと言うと、私は、朝刊を華織に見せるのであった。
「うっそー、信じられない、なんで、なんで・・・?」っと大騒ぎする華織。
「お前なぁ、いい大人なんだから新聞くらい見ろよ!」
「そこに書いてあるように結婚詐欺師だったみたいだね・・婚約者に保険を掛けて、事故に見せかけるというよくあるパターンだよ・・今回は、自殺は日が浅いから保険金が降りないので、事故か他殺を装ったんだね・・・事故で5千万、他殺で2億と欲をかいて、他殺を証明したかったんだろう・・・ストーカーも自作自演だしね・・・愚かな話だけど、
・・・・・女性も時代は変われども、イケメンには弱いんだね・・・くわばら、くわばら・・・」っとコーヒーを飲みながら、あごひげに手をやる私。
「でも、探偵料、貰えなくなったねぇ・・・」っと、私の顔を面白そうにのぞき込む華織。
「ほんと・・お前のアルバイト料も払えないわ・・・」
「ダメだよ・・・・でも、ゴメン例の映像、あの晩、事務所に機材を置いて行った時、おじさんがトイレに行っている間に、映像を盗んで家でアップしちゃった・・・たぶん、今頃、何十万回と見られて、たんまりとお金、入っちゃう・・から、安心して・・」っと、ニコニコとする華織。
「お前、あれほど言ったのに、すぐ消せ!法律違反だぞ!・・」と怒鳴った。
私は、パソコンに向かいネットを立ち上げ、華織にサイトを出させた。
華織は、しぶしぶパソコンに向かい「あれ、・・・確かにあげたのに・・・ない・・・」っと必死に探す華織。
しばらくすると、NotFound, 削除されましたの文字が出る。
「えぇぇ・・信じられない、誰が消したの・・私が投稿したのに、無断で・・・誰・・・?」っと、あちこち探し廻る華織。
私は、しばらく見ていて、真剣になっている華織に「もう、やめとけ・・」っと、キーボードを触る華織の手を押さえた。
「ホント、・・・お前、祟られるぞ!・・・・あの世のひとみさんが消したんじゃないのか?」
「えぇぇ・・・!うそ、うそ、うそ、まじ怖い、怖い・・・いやぁ・・もう、もう帰る、悪い、おじさん今日、帰るね!」っと、事務所を飛び出して行った。
「ご愁傷さま・・」っと、私はカップのコーヒーを飲み干すのであった。
例の祠のテレビには、もうひとみさんの映像は映らなくなり、私の録画した映像も、知らない内に消えていたのであった。
季節外れの怪談話みたいである。