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私の平均余命83.846歳(厚生労働省H28年度データ)を24時として、私の生きて来た人生は上の通りです。後残り時間は?

「思いつき、Myショートショート」#031~

2017年06月22日 22時00分00秒 | 「思いつき、Myショートショート」



         #033「怨念」



恵美から私にLINEが入って来た。
「真紀、急で悪いんだけど、今、駅前の病院に入院してるから、来てくれない?」と言っている。



私は、うそっと思いながら、すかさず返事を「どこか悪いの?」っと聞いた。
「階段から落ちて脚を骨折したの・・・」っと恵美。



わかったすぐ行くっと言って、私は病院に向かった。
しかし、駅前に病院があったのかなぁっと疑問に思いながら、行くと・・・あった。



駅前の裏手にあり、以前通った時は空き地だったが、病院が出来たんだと思った。
3階建ての小さな整形外科病院である。



私は、病院という所が嫌いである。
私は、幼いころから霊感があり、人の寿命がわかるのである。



ただし一週間以内に亡くなる人だけである。
簡単に言うと、身体が透ける・・・人の身体が薄くなり、透き通って見えるのである。



その透き通る密度により寿命がわかる・・・まったく透き通って輪郭だけになったらその日中に亡くなる・・・これは特殊能力?・・いや余計な能力と言っていいだろう。



だから、病院など亡くなる人が多い所へは、あまり行きたくないのである。
まぁ、幼いころは悩んで死にたいほどだったけど、今は慣れてしまっているが、それでもいい気分はしない。



そんな、恵美の入っている病院に着き、恐る恐る入ると・・・個人病院なので人も少ない、整形外科病院なので、死相が出ている人はいなかった。



病室は4人部屋で窓側に恵美は居た。
周りのベッドはカーテンで仕切られ、患者の顔が見えない・・・静かである。



恵美は、元気そうで「ゴメンゴメン・・悪いね・・」っと言いながら、脚を吊りながらベッドに寝ていた。


「大丈夫?・・・」っと私が聞くと、「そこの歩道橋でつまづいてね、下までズルズルと落ちたの・・・情けないものよねぇ・・・」っと、笑いながら言っている。



恵美とは友達の少ない唯一の親友で、変人と呼ばれる私にとっては大事な友達である。
一通り雑談をした私は、また来るねっと言って病院を出るのであった。



家に帰り、夕食の準備をしながらテレビを付けていると、「昨日未明、歩道橋の上から落ちた上野恵美さんが頭がい骨骨折で亡くなりました。警察では、事故と事件の両面で目撃者がいないかどうか慎重に捜査を進めています」っと報道している。



私は、フライパンを片手にテレビの前に座り込んでしまった。
「うそ・・・」っと思い、すぐさま恵美に電話をしたがつながらない・・・



とにもかくにも、すぐ家を出て、病院へ向かうのであった。
「そんなはずはない・・・だって、今会ったばかりだもん・・・」



病院に着くと・・・っと、云うよりも、病院が・・・ない!
そこは、空き地であった・・・「えぇぇぇ・・・うそ・・・さっきまで、あったのに・・なんで・・・場所間違えた?・・・」っと、夢を見ている気分であった。



周りをうろうろしながら、人に聞いても、そんな病院誰も知らないと言う・・・昔から、空き地だとしか言ってくれない。



私は、ひょっとしてと思って一駅先の恵美の家に行くことにした・・・電話は依然とつながらない。



恵美の家は、借家一人暮らしでプレハブの2階にある。
恵美の家の灯りが目に入った。



「なんだ・・居てるじゃない・・・」っと、家のそばまで行くと、いきなりドアが開いた。

知らない男の人が出て来た・・・どうも、管理人らしい。
遺族に連絡したいらしく、手がかりを捜しに入ったそうである。



私にも聞かれたが、そういえば恵美の家族の事は何も知らないでいた・・っと、今さらながら不思議に思った・・・



「やっぱり、恵美は死んだ・・・ニュースは本物だった・・でも、おかしい・・」
霊感がある私が、あの時恵美と、ちゃんと話したのだから、死んではいないハズ!」っと思うのだが・・・病院が無くなっているのは、わけがわからず、頭の中の整理がつかない。



いろいろ考えている内に、まさかの恵美からLINEが入る。
「ごめん、もう一度病院に来てくれる?・・・重大な話があるの・・」



「えっ・・・あんた誰?成りすまし?・・悪戯?・・恵美は死んだのよ・・・病院だって無いじゃない・・・」っと、やつぎばやに私



「病院あるよ・・・来て来て・・・ちゃんと説明するから・・・真紀、私を信じて…お願い・・・」っと恵美。



私は、真相を知りたいので、もう一度騙されたと思って「わかった」っと言って病院に向かうのであった。



また、空き地だろうと思って歩いていると・・・なんと、目をこすりながら、自分の目を疑った・・・「はぁぁぁ!・・・あるわ・・・な・ん・・・・で・・・」



空き地だったはずが、病院があった。
これは、やっぱり夢を見ているのだと思って、カバンからシャーペンを取り出し、腕に突き刺した・・・「痛い・・・!」血がにじんで出て来た・・・



「本物・・・」っと思いながら、病院の入口から入るのだが、なぜか駅前なのに通行人がいないのが気になった。



病院の中は普段通りに看護師や患者がいる・・・別段透き通って見えるのではなく、普通である・・・ちょっとは、ほっとしながら恵美の病室に入る。



恵美がにっこりと笑いながら、ベッドに腰かけている。
恵美は「ごめんね、驚かせてしまって・・・」と言っている。



私は、「テレビで言っていたのは、違う人だったのよね・・でも、あなたの家に行ったら管理人さんが居たけど・・一体誰なのかしら・・・」



「まぁまぁ、そこの椅子に掛けて・・座って・・・」と恵美。
私は丸椅子に腰かけながら「脚、大丈夫なの?」っと言った。



恵美の脚はギブスで固定してなくて、ブラブラとベッドに腰かけながら足を動かしている。



私は恵美をじーっとよく見ると・・・・・「うわっ、何ソレ!・・・あ・・頭が割れている・・・」っと指さした。



窓から風が恵美に吹き、髪がふわっと持ち上がったのである。
じーっと真紀を見つめる恵美・・・



恵美は顔をこわばらせ「そうよ・・・一体誰のせいなのかしら・・ね・・」っと、私に顔を近づけて来た。



私はのけぞって「やめて・・!」っと顔をそむけ、椅子をこかして、その場に立ちすくむのであった。



恵美はすかさず「あんたなんでしょ、私を突き落としたのは・・・正直に言いなさい!」
「な・・なんの・・話・・・」



「私、転げ落ちながらあなたの顔を一瞬見たのよ・・・」
私は無言で、しばらく黙っていたが・・・・



意を決して目を見開き「そうよ、私よ・・、あんたがいけないんだからね・・・私が徹の事を好きだと知っていながら、わざと付き合ってたじゃない・・どうゆう、事よ・・・」っと、語気を強めて言った。



恵美は「そうよ、わざとよ・・・まさか、真紀の自らの手で私を殺そうとするなんて、計算違いだったけどね・・・霊感が強い魔術師的なあんただったら、呪い殺すのかと思ったんだけどね・・・こんな、ベタなやり方・・・」っと、恵美が呆れている。



私は頭が混乱しながら「うるさい・・あんたが悪いんだよ・・死んで当然だよ・・・」
「ほら、本音が出た・・お前はそうゆう奴なんだよ・・・」



「私は、あなたが一番の親友だと思って、徹の事を相談したのに・・・どうして、そんなひどい事をするの?・・・ホントは・・・ほんとは、ケガさせるだけで死ぬなんて思ってもいなかったのよ・・・信じて恵美・・・」っと、私は哀願した。



恵美は、ひとしきり目をつぶり、大きく目を開けて真紀に向かって「あんたは、もう覚えていないかもしれないけど、発端は3年前、私の7歳の弟が自転車に乗っている処にぶつかっただろう・・・」っと恵美



「えっ、・・さん、ねんまえ?・・・あぁ・・思い出した・・・あれは、事故だったのよ・・・変な男に追いかけられて・・・必死で逃げたのよ・・・そしたら角から男の子の自転車が突っ込んできたのよ・・・」っと私。



「えっ、あの子恵美の弟なの・・?」
「そう、弟はとっさにあんたをかわそうと自転車の向きを変えたら車道に出てしまい・・・走って来たトラックの下敷きに・・・そしてまさかのあんたは・・逃げた・・・」と恵美。



「知らないわよ・・私だって必死で男達から逃げていたんですもの・・事故よ・・不慮の事故!」と私



「あんたは、いつもの癖で、その男達をジロジロ見て、影が薄いなんて、言ったからでしょ・・・そら、男達も怒るわ・・・」恵美



「仕方がないでしょ・・私には見えるんだから・・病気みたいなものよ・・・」
恵美は「私たちはね、早くに両親を亡くして二人だけの姉弟で一生懸命に生きて来た・・・・そんな唯一の弟を奪われ、何日も泣き崩れたわ・・・・そして逃げたあんたが許せなくて、いろいろ調べて、同じ大学に入り・・近づいたわ・・・」



「あんたが好きな徹の事は、さしずめ復讐の第一歩だったんだけどね・・・まさか、これで終わるなんて・・・死んでも死にきれないというのは、この事よ・・・」と恵美



「私は・・・私は、唯一の親友だと恵美の事を信用していた・・・あの事故は、悪かったと思っている・・・ニュースで私も落ち込んでいたのよ・・」っと、恵美を見つめる真紀・・しかし・・・



「えっ、でもあなた、死んでないでしょ・・・だって、私ちゃんと、あなたの姿が見えるもの・・・」



「そうね、現世だったらそうかもしれないけど・・・あなた、この病院、ほんとに存在すると思っているの?」



「えぇぇ・・!わ・・たし、死んでいるの・・・?」
たしかに、壁にかかっている鏡には真紀の姿が映っていない・・・



「うそだ・・・うそだ、うそだ・・」
「残念ながら、まだ生きてるよ・・・今はね・・・現世とあの世の境目の空間・・・異次元とでも言うのかしら?・・・」



「死んで初めてわかるこの世界・・・冥界の入口だけど、人は死ぬと21gの魂となって肉体から離脱・・・金色の光のシャワーが見えて、そこに吸い込まれるように入ると、成仏する・・・通常はね・・」っと、専門家のような話ぶりの恵美。



「しかし、私のように未練がある者にとって、なかなかこのままでは成仏出来ない・・・途方に暮れどうすればいいのかわからなくなると、自然と光の成仏シャワーが消えてしまう・・・限られた時間内に入らなければ、もう成仏出来ない」



「そうすると、この中途半端な空間の住民、浮遊霊が寄って来る・・・大半は危害を加えないクラゲのように漂っているのだが・・・どこの世界でもいるようにこの世界でも悪玉、悪霊が居る・・一つの魂魄じゃなくて、いくつ物魂魄が重なり混じり合って力を作っている・・・人間だけではなく猫や獣なども交じる強力な物で、存在を維持するためにエネルギーとして同じ魂魄を吸収している・・・手下に死神を備え、死にそうな人間動物などに近づき、亡くなると同時に成仏させないようにナンパする・・・宗教の勧誘みたいに・・・」



「私もいいよって来たので、親玉に会って取引をしたんだよ・・・」
「この病院の幻影を作り、あんたを・・・ハメる為に・・・」



私は「そこまでしなくても、成仏してもう一度やり直せばいいじゃない・・・」
「お前が言うな!・・・いや、私の恨みは深い・・一番大事な弟を殺されたんだから・・・もう成仏出来ないから弟にも会えない・・・あんたを闇に見送ったら、悪霊の餌になる覚悟だよ」



「ちょっと、私たち親友じゃない・・・私、まだ死にたくない・・・」っと私。
「もう、時間がない・・あなたは、死んでも成仏出来ない・・・一生、闇の・・暗闇の中で閉じ込められる事になるのよ・・・」っと、ニヤリと恵美。



すると恵美のベッド以外のベッド・・・3つのカーテンがサーっと開き、中から巨大な黒玉が出て来た・・・まるでガンツのような大きさ・・・



どんどん黒玉が膨れ、磁石に近づけた蹉跌のように盛り上がり、うごめき真紀の方に触手を伸ばすかのように近づいて行く・・・



真紀は叫ぶが、黒い蹉跌は真紀の身体を包み込みうごめいている。
すると真紀は何かを唱え始めた・・・「カンバサラ・・カンバサラ・・ミョウジンバサラ・・・」っと唱えると、蹉跌の動きが止まり、下にバラバラと落ちて行く。



真紀の顔が見えた処で、「私も伊達な呪術師ではないわよ・・・」と云うと、黒い玉から新たに蹉跌のような物が大量に飛び出し、真紀の口に押し込めるのであった。



みるみる内に真紀の身体は風船のようにパンパンになり、破裂寸前である。
やがて、スー・・・っと黒い煙となって消滅するのでありました。



最期を見届けた恵美は、やっと終わったと微笑み、だんだんと姿が薄くなり、周りの明るさと共に消えて行き、その顔は安堵に満ちていたのでした。



そして、病院も消え、普段通りの空き地に戻っていました。
ただ、空き地の隅っこに黒い大きなシミが出来ており、黒い煙のような物が一筋立ち上っておりました・・・・おわり・・・








        #032「運の悪い男・・・?」



「なぁ、滉平、聞いてくれよ・・なんか、俺おかしいんだよね」
まもるが、商店街の細い道を滉平と並んで歩いている。


「なんだよ・・」っと滉平。
「最近、記憶がなくなったり飛ぶんだよね・・・身体はどこも悪くないのに・・・それに・・」っと、まもるが滉平を見た時、右の路地から自転車が突っ込んで来て、まもる手の甲をかするのであった。


「あぶない!」っと滉平が、まもるを制した。
「うあぁ・・」っと言って、通り過ぎる自転車の方向へ目をやった。


「危ないじゃないか・・クソがき・・こら、・・止まれ・・・!」とまもるが叫んでも、自転車は、何事もなかったかのように振り向きもせずに通り過ぎるのであった。


「こら・・!」っとまもるが言っても、もう相手は見えなくなった。
「だいじょうぶか・・?」っと滉平。


「ああ・・・まあね・・」っと言いながら、手の甲をさすっているまもる。
「さっきの続きだけど・・・・・・」っと、まもる。


「なんの話だっけ・・・」っと滉平。
「なんか、俺おかしい・・っと言った件・・・」っと、まもる。


「ああ・・・で、何がおかしいの?」っと滉平。
「今、あったような事・・・」


「なになに・・自転車・・?」と滉平。
「そう、偶然とは言え、俺・・運が悪いような気がするんだよね・・・」


「飛び出し自転車ってよくある事だよ・・・」っと滉平
「お前は、会った事があるの?」っと、まもる


「いや…俺はないけど、世間ではテレビとか、よく言っているじゃない・・」
「まぁ、そうなんだけど・・・偶然かな・・・」と、まもるは、しょんぼりしながら下を向いて歩いていると、ビシャっという音がして、まもるの右肩に白い液体のような物が着いている。


「なに・・雨・・?」っと、言ってまもるは、手で肩を拭うと・・「なんじゃこれ!」っと、飛び上がりながら、上着を脱ぎ始めた。


「この白いの・・なに?・・・」っと、上着をつまんで見ている。
滉平は、「ぷすっ!」っと笑いながら、「たぶん、ハトの糞じゃない?・・・」


「なんで・・なんで・・・自転車の次・・これかよ・・!いったい、どうなってんだ!俺が何したっていうの・・?」っと、まもるは叫びながらしゃがみこんでしまう。


滉平は、ニヤニヤしながら「まぁまぁ・・そういう事もあるよ・・・長い人生には・・・」と云いながら、持っていたティッシュでまもるの上着のハトの糞を拭うのであった。


「いやぁ・・・もういいわ・・こんな人生・・・今までだって、俺ひとりだけ、ろくな事がなかったんだよ・・・ね・・・最低な人生・・・」


「まぁまぁ・・ヤケになりなさんな・・」っと滉平は、綺麗に拭きとったまもるの上着を着せてあげるのであった。


まだ少し、色が着いているが、もともと明るいグレーのジャンパーだったので、そう目立たない。


「帰ったら、一応クリーニングした方がいいよ・・」っと滉平。
「ありがとう・・で、俺たちどこへ向かって歩いてるんだっけ・・・?」っと、まもる。


「あぁ・・言ってなかったっけ・・今日、俺、面接なんだよね、終わったら飯でも食おうと思ってね、誘ったんだよ」っと滉平。


「俺も、お前といっしょで運が悪いんだよ・・この面接でちょうど10回目なんだ」
「じゃ、俺がいると余計に運が悪くなるぞ・・・」っと、まもる


「大丈夫・・お前は、俺が終わるまで、一階のロビーで待っててくれよ・・・すぐすむから・・・今日、3次面接で絶対に受かりたいから、ちょっと気合入ってるんだ」
っと滉平。


「そっか・・・お前の事だから、何でも要領よくこなすから、大丈夫だよ・・・」っとまもる。


「あそこ、あそこのビルの5階」っと滉平は、行く手のビルを指さすのであった。
二人は、ビルに入り1階のロビーで腰かけるのであった。


「けっこう大きなビルだね」っとまもる。
「雑居ビルだよ・・・ちょっと、ここで30分ほど待ってくれるかな?すぐ終わると思うから・・・」っと滉平。


「ああ、いいよ、」っと言って、まもるはロビーに置いてある新聞を取るのであった。
「悪いな・・後でおごるから」・・・っと言って、滉平はまもるの座っているソファーの背後に廻り、まもるのうなじにある赤い小さなボタンを押すのであった。


まもるは、身体の力が抜けたように、急にふにゃふにゃっとなって、目を閉じるのであった。
「よし、これでOK!・・・ちょっと待っててな・・・」っと言いながら、まもるの新聞を横に置き、腕組みをさせ顔をちょっと傾きさせ「こんなカンジかな?寝てるように見えるよね・・・」っと独り言を言っている。


「よし、おとなしく待っててね・・・でも、凄いわ!新製品の身代わりレンタルロボット・・俺の運の悪さを全て吸収して、身代わりに災難を受けてくれるロボットって・・・俺が、自転車やハトの糞に遭遇する運だったんだよね・・・おぉ・・怖!・・・これからの時代こうゆうロボットが必要やね・・・」そう言って、滉平は今度こそは落とせない面接に臨みながら、気合を入れてエレベータに乗りこむのであった。


そう、このロボット、神社とロボット工学大学が共同で開発をしたのである。
TVCMで、「あなたの災いを未然に替わって、身代わりとなるロボット・・・まもるくんです」っと流れており、大ヒット商品でレンタルも出来るというもの。


予め、まもるくんの記憶をパソコンのワードを使って書くだけで、簡単にシナリオを設定出来る優れ物。


そして、「このまもるくんは、霊験あらたかな神社で悪運を吸い寄せる祈祷してもらっているので、大丈夫!お守り代わりにお一つどうぞ!」っとCM・・・ロボット時代も異業種コラボで賑わいをみせるのでありました・・・・とさ・・・・・(^-^)


・・・・・でも、このロボットが周りの悪運をわざわざ呼び押せている?・・・かもしれないけどね?



        #031「心霊テレビ・・・?」


私は、小さな町の駅前商店街の中にある、探偵事務所を営んでいる。
仕事と云っても、迷子捜しや犬猫捜しなど、そう大した仕事はやっていない。


浮気調査なんてのは、年に一度くらいで、私にとっては大仕事みたいな物である。
私は今日、いつもより遅れて事務所に入った。


「いやぁー、いい靴が見つかったよ・・」っと、事務所に入るなり私は、華織に靴の入っている紙袋を見せるのであった。


「やすい、ほんと安いね・・あの店」っと、得意になる私である。
華織は、私の事務所にアルバイトで来ている孫の女子大生である。


「おじさん、お客さんが来ているのよ・・・」っと華織。
よく見ると、部屋の隅にある、薄汚れているソファーにポツンと背広姿の若い男性が座っている。


「いやぁー、いらっしゃい」っと、私は荷物をデスクに置き、ソファーに向かい、男性の対目に座った。


男性は、長谷川と名乗り、お菓子メーカーの営業マンだと言った。
「おニューの靴ですか?、私も仕事がら、すぐ靴がへたって、何度も買いますね、靴代も馬鹿にならないですよね」っと、さすが営業マンらしい流暢にしゃべっている。


「この間、道に捨ててあった、噛んだ後のガムを踏んづけてしまったようで、取るのに苦労しました」っと長谷川。


「今時、珍しいですよね、最近、ガムやタバコのポイ捨てをする人がいなくなって、道路も綺麗になってますからね・・」っと、私。


私は、「あーそうそう、駅前の地下の靴屋が、安いですよ、私も仕事がら、あなたと同じで靴底がペラペラになってよく買いに行くんですよ」っと、華織が持って来てくれたお茶を飲みながら、「どうぞ・・」っと長谷川にも、お茶を勧めるのであった。


長谷川が勧められたお茶を、熱そうに飲むと、「実は、私の婚約者の話なんですが、先々月、駅のプラットホームから落ちて、電車に轢かれて亡くなったんです」っと、ちょっと暗い顔をする長谷川。


「あぁ、そのお話、ここの駅ですよね、ニュースで見ました、え、・・あの時の女性の婚約者さんですか・・」


「はぁ、それはそれは、ご愁傷さまでした、ご心痛お察しします・・」


「ありがとうございます、なんとか葬儀も終えたんですが、・・私には、彼女が、自殺なんて・・・まさか・・するなんて・・・・考えられないんですよ・・・」っと、つまりながら言う長谷川。


「でも、私にはわかりませんが、よく世間では、ブルーマリッジなんて言いますからね・・・」っと私。


「で、警察はなんと言ってるんですか・・・・?」
「警察は、周りに人が居ない事から、事故か自殺じゃないかと言ってるんですが、私には、そうは思えなくて、誰かストーカーが居たのではと思って、警察に言ったんですが、ダメでした」


「なぜ、ストーカーがいると思ったんですか?」
「以前、彼女、・・・ああ、ひとみと云うんですが、帰り道で後ろに誰かいるような気がするって、言ってたんです・・・怖くて、振り向けなかったそうですが・・・」


「気のせいじゃないかと言ったんですが、事件の当日もその事で口論になって、駅前で別れたんです・・・・それが、あんな事になって・・・私・・・あの時、もうちょっと、ひとみを信じて、そばに着いていたら・・っと、悔やんでも、悔やみ切れないんですよ・・・」っと、目を潤ませながら指で、涙をぬぐって言っている。


私は、まぁまぁと言って、長谷川の肩をポンポンと叩きながら、「駅の監視カメラなんかは、どうなんですかね・・?」っと聞いてみた。


「監視カメラですか、見せてもらったんですが、プラットホームの中央にひとみが電車を待っていたんですが、ちょうど、待合室と柱が邪魔になっており、柱から線路に飛び出す瞬間しか映ってないんですね・・・夜、11時42分と、人はその時いなかったですね。」


「なにか、犯人に心当たりとかは、ないんですか・・?」
「ひとみがよく言ってたのは、家への帰り道に、暗い細い路地があるんですが、そこばっかりが気になっていたそうです・・・後ろからつけられている気がして・・・直接、声をかけられたりとか、襲われるという事はなかったんで、ついつい、私も気のせいだと言ってしまったんです。」


「一度、いっしょにひとみの家まで送って行ったんですが、なんともなくて、やはり気のせいでは・・と、思ったんです。」


「もし、ストーカーだとすると、婚約者さんとの交友関係、つまり、前にお付き合いをされていた男性とか?・・どうですかね?・・それに、プラットホームの死角を知っているとすると、よくその駅を利用する者も考えられるし、たまたま婚約者さんがその位置を選んで電車を待っていたのか?・・それとも偶然なのか?・・・不思議ですね」っと、私は、癖である短いあごひげを触りながら目を天井に向けてしゃべっている。


「ひとみの交友関係では、トラブルのあった人は聞いた事がないんで、ないとは思うんですが、あっても普通、過去の男の事は言わないでしょうね・・・」っと長谷川。


「それに、彼女がプラットホームで待つ位置なんですが、あの待合室の前が、女性車両専用の位置なんです・・・私といる時は、一般車両なんですが、一人の時は、決まって女性車両に入ると言ってました」


「そうですか、わかりました、事務所総力をあげて、解明に努めますんで・・・っと言っても、私一人なんですが・・・ハハハ・・」


「ちょっと、個人情報は絶対守りますので、この用紙にご自身と婚約者さんの住所とか、知っている範囲での情報を書き込んで頂けますでしょうか・・?」


「はい、わかりました、よろしくお願いいたします」っと、長谷川が、華織が持ってきた用紙に書き込みをしている。


そして、書き終えると一礼をして帰って行った。
なんで、うちの事務所に依頼をしたのかと聞いたら、どうも、他では断られたみたいなのと、駅前に事務所があるので、駅周辺の事に詳しいと思ったらしい。


まぁ、うちは安いからというのが本音かもしれない・・・っと、思いながら、久々の大きな仕事なんで、ちょっと珍しく意欲が湧いて来た私であります。


華織も久々の仕事に興味津々で、事務所に鍵をかけCLOSEの看板を出して、さっそく二人で調べに入った。


まず、商店街の近くの墓地に、婚約者が眠っているという事で、お墓参りに行った。
小さな墓地で100くらいの墓石の中で、真新しい墓石が見え、すぐにわかった。


二人で手を合わせ、墓石に向かって、問い聞いてはみたけど、答えてはくれない。
そうすると、うろうろと墓地の中を歩き回っている華織が、妙な物を見つけた。


華織に呼ばれて、私もそこへ行くと、それは、小さな祠であった。
別段不思議ではないんだけど、華織が言うには、祠の中にテレビが祀ってあると云うのであった。


私も、小さな祠の中を見ると、10インチくらいのブラウン管式のテレビがあり、なんだろうっと思っていたら、一瞬、映像が映ったような光が目に入った。


「えぇぇ・・今、なんか映ったよね・・・」っと私は、華織に云うと、「ほんと、見た、見た・・・映った・・・」っと華織も驚きを隠せない。


どこか、電源を引いて何か映る仕掛けになっているのではと、祠の周辺をさがしたのだけれど、それらしき、コードなどが見つからず、ちょっと、祠の中のテレビを触って調べたのだが、どうも、コードらしき物は取り外されていた。


そして、今の人は知らないと思われる、回転式のダイヤルチャンネルであった。
しかも、地デジオンリーになってからは、ブラウン管では、チューナーを替えない限り映らない。


かなり年代物で、汚く汚れて痛んでいたのだけれど、ブラウン管は、割れていない様子で、ひょっとしてブラウン管以外に、真空管が使われているレアな物かもしれない。


誰が見てもすごく気になるこのテレビ。
家電骨董価値に興味がある私にとって、依頼仕事を一時忘れて、華織が止めるのもきかずに、私はこのテレビについて、この墓地の住職のお寺に出向いて行くのであった。


住職に会って、あのテレビの事を聞くと、信じられない話を語ってくれた。
簡単に云うと、昔、あの場所(墓地)は、50年前、大量のテレビや冷蔵庫の不法投棄の場所だったらしい。


行政が、整理してサラ地にした所を、地元住民と協力をして、このお寺の墓地として買い取ったという場所であった。


そして、地元の人のお墓を建てる内に、奥深い土の中から、まだ一つのテレビが残っていたと云う。


行政で処分してもらおうと思った時に、何か人影のような物が映り、どうも毎日同じ時刻に映る事がわかり、調べてみると、当時、火事で焼け死んだ83歳のおばあちゃんの姿らしいという事がわかった。


火事に気付いたおばあちゃんが、隣の部屋に寝ていた幼い孫を助け出そうと歩き廻っている様子であった。


たまたまその孫は、トイレに行っている処で火事に会い、慌ててそのまま逃げて助かったらしい。


おばあちゃんは、その事を知らずに、火が回っている家の中を歩き廻った事で、焼け死んだそうだ。


その無念の様子が、映像として映ったのではと言われ、なぜ、このテレビに映ったのかは謎である。


ひょっとして、そのおばあちゃんの家にあったテレビかもしれないが、誰も知らない。
それから、この土地で自殺した人や、事故など無念を抱いて亡くなった人の霊が、このテレビに映るという事らしい。


全ての人が、映るとは限らないが、この50年間に住職がわかっている中で13件もの現象が確認されているという。


住職は、お寺でこのテレビを供養して、霊の集まりやすいこの墓地に祠を建てて、このテレビを祀ったと云う事である。


無念を抱いてさまよっている霊を、このテレビをたまには住職が見に来て、出来るだけ供養をしてあげるようにしている事らしい。


私は、ダメ元で、長谷川さんの婚約者の件を聞いてみたら、さすが住職も夜の11時頃は、寝ているそうなので知らないと言っていた。


「仕方がない、今夜行ってみるべ?・・」っと、華織の顔を見ると、「冗談じゃない・・、寝てるわ!」っと一喝された。


華織の母親の許可も貰わなきゃならないから、私一人で行く事にした。
午後11時ごろ、いつもだったら、風呂上がりでビール飲んで、テレビ見ながら、うだうだして、そのまま寝入ってしまう処である。


妻に先立たれた、やもめ暮らしは、誰でもこんなもんである。
でも、今日はお仕事、お仕事と思い、防寒着にカイロ、懐中電灯、カメラ機材と熱いコーヒーを携帯ポットに入れ、11時過ぎに墓地に到着した。


11時42分までちょっと時間があるが、故人のお墓と祠にお線香をあげ、お墓前と祠の前にビデオカメラをセットして、廻し続ける事にした。


商店街の一角にある墓地であるが、昼間と違い、灯りが街灯のみになり、人通りもなく、こうゆう時は、普段迷惑な酔っ払いでも親しくしたいカンジであるが、今日は残念ながらいない・・・


紙コップにコーヒーを継ぎ、フーフーしながら飲んでいると、予定の時刻が・・・・
すると、テレビ画面にスーっと一点から大きくなり、いきなり光が飛び出し、私の顔に・・・・「わぁぁ・・!」っと、大きな声をあげてしまった。


「どーしたん?・・・大丈夫?・・おじさん」っと、華織だった。
「おまえなぁ・・・」っと、私は怒鳴ろうとすると、「あれ、あれ・・見て見て・・」っと華織が、テレビ画面を指さすと、薄らと徐々に明るくなり、ちょっと暗いテレビ画面のように何かが映りだした。


画面の周りがもやもやっと黒い霧のような物に包まれているけど、女性らしき人影が、ホームに立っているのが見える。


長谷川さんから貰った写真の婚約者と同じだと、確認が出来た。
すると、スーっとひとみの背中を押す腕のような物が見えるが、身体全体がもやに包まれて誰なのかわからない。


そのまま女性は、線路に落ちて、直後に電車が通過するのが見えた。
二人は、思わず「うわぁっ!」っと言って、目をそむけてしまうが、映像はそこまでで終わってしまった。


茫然と二人は立ちすくんでいたら、華織が「おじさん、やったね!、あの坊さんのお話、ほんとうだったね・・・」と興奮が冷めないで、はしゃいでいる。


我に戻った私は、「なんで、お前ここにいるんだ?」っとにらみつけると、華織は、「いやぁ・・おじさんが気になって・・っと言うよりも、心霊研究部の私にとって、これって、大スクープでしょ・・!ツイッターで報告しよ・・・」っと、はしゃいでいる。


「馬鹿、やめろ、やめろ、そんな事をしたら、ここに大勢の人がやって来て、墓地は荒らされるわ、霊も出る者も出なくなちゃうぞ、バカ!・・・お前、こんな夜中に一人で、ちゃんと親に言ってきたのか?・・・」


「えっ、親は寝てるから大丈夫だよ・・・でも、つまんない、場所はいわないから、写真だけちょっと・・・」


「ダメダメ・・・お前、祟られるぞ・・・・」
私は、もう一度あの現象を見るため、カメラを巻き戻して見る事にした。


「おじさんだって、撮ってんじゃん・・・」
「バカ、仕事だ!・・・お前、そっちのお墓のカメラに、何か映ってないか見るくれ・・」


「やっぱり、綺麗に映っている・・・ホントにこんな事ってあるんだ!・・・あれ!、これなんだろう・・・」っと、私はカメラのモニターを静止画にしてアップにしてみた。


「これって、あれか・・?」っと言って、私は短いあごひげを触り、上を向いて立ち上がった。


「おじさん、こっちのカメラには何も映ってなかったよ・・・異常なし・・」っと華織。
「おじさん、そっちの見せて、見せて」っと言って、私からカメラを奪い、見ていた。

「すごーい、映ってる映ってる・・・これ、ユーチューブにあげたいなぁ・・・」っと、私を見上げている。


おもむろに、「華織、撤収!・・さぁ、帰るぞ、明日長谷川さんを呼んで見てもらう」っと私は、機材を片づけ始めた。


「もう、終わり?これ、貸して?」っと、華織がカメラを指さした。
「バカ、これも個人情報だぞ、お前の道楽とは違うんだから・・・帰るぞ」っと、私は言って、機材を事務所に置いて、華織を家まで送り届けるのであった。


翌日、長谷川さんに連絡を取って、この日の晩に会社帰りに寄ってもらった。
今日は、華織は大学のゼミでいない・・学校の友達に何か言いそうで、凄い気がかりだけど、もし、しゃべったら、アルバイト料をやらないと釘を刺して置いた。


長谷川さんが、訪れて来たのは午後7時頃だった。
「コーヒーでいいですか?」っと私は、ソファーに座っている長谷川さんに言った。


「ああ、お構いなく・・・で、何かわかりました?」
私は、コーヒー砂糖、ミルクを長谷川さんの前に置き、私も、コーヒーに口をつけた。


ちなみに、私はブラック党である。
「ちょっと、これを見てください」っと、言って、30インチの液晶テレビに昨日撮った映像を映し出した。


「これは、あの駅ですね・・・あっ、ひとみだ!・・・あの時の・・・」っと言って、画面に食い入るように見つめている。


「よく、監視カメラの映像が手に入りましたね」っと、動揺している様子。
「これ、監視カメラの映像じゃないんです・・・話せば、長くなるんですが・・・」っと言って、昨日の出来事を丁寧に話してみた。


半信半疑で、何を言ってるんだ!と、長谷川が心の中で叫びながら大人しく聴いていたが、映像が本物のようなので、しだいに、顔が険しくなり、冷たい汗が出て来るのであった。


汗をハンカチで拭いながら、「でも、肝心の相手の顔が映ってないですね」
「はい、でも、ここを見て下さい」と私は、画面下の相手の靴元に指さした。


画面の映像は、犯人の腕しか映ってないと思われたが、足元が、黒いもやの中から出ていたのであった。


その足元の靴を拡大すると、何か左足、前の側面に白い物が付着しているのが見える。
コンピュータソフトで映像を加工拡大してみると、どうも、ガムのような物ではないかと思われた。


そう、これは、長谷川さんが言っていた靴に噛んだガムのカスを踏んづけた話と一致したのであった。


たぶんガムを右足で踏んで、それを取ろうと左足のつま先で、こそぎ落とそうとした時に、付いたんじゃないかと思われた。


「馬鹿な、そんなガム、誰でも踏むよ、そんなの普通の仕草でしょう・・・誰でもするよ・・それに、私は、あの時ひとみと別れて、駅にはあがってないんですよ」っと額の汗を拭う長谷川。


「そうですね、あの時に改札口に入って来たお客さんは、婚約者のひとみさんを入れて6人だったんです・・・・いやぁ、・・・あの駅員に私の中学の同級生がおりまして、特別に内緒で・・・ちょっと小遣いをつかましたんですけどね・・・監視カメラ映像を見せてもらったんです。」


「一人は、ホームの長椅子で横になって、飲んで寝ていたんでしょうね、靴が片っ方脱げてましたが、ガムは着いてなかったですね、後二人は、学生風の若い男性で、ともにスニーカーを履いていました、残りの人は中年の女性で、トイレから出て来るみたいでハイヒール靴でした、・・・で、もう一人の姿が映ってないんですね・・・なぜか監視カメラの位置を知っているかのように、忽然と消えている。」


「ただ、改札口にあるのは気が付かなかった様子で、映っていました」っと、長谷川に、私は小さく指を刺した。


「その改札口の人って言うのが、これです」っと、テレビ画面に大きく映し出した。
まぎれもなく長谷川である。


拡大をして靴に、白いガムが付着している。
長谷川は、頭を低くうなだれていて、聞こえるか聞こえないかのような、か細い声で「誰が、そんな事を頼んだ・・・」っと、つぶやいていた。



その後、観念した長谷川を最寄りの交番に連れて行き、自首をさせたのであった。


翌日、華織が来て「どうだった、長谷川さん、なんか言ってた?」っと言うと、私は、朝刊を華織に見せるのであった。


「うっそー、信じられない、なんで、なんで・・・?」っと大騒ぎする華織。
「お前なぁ、いい大人なんだから新聞くらい見ろよ!」


「そこに書いてあるように結婚詐欺師だったみたいだね・・婚約者に保険を掛けて、事故に見せかけるというよくあるパターンだよ・・今回は、自殺は日が浅いから保険金が降りないので、事故か他殺を装ったんだね・・・事故で5千万、他殺で2億と欲をかいて、他殺を証明したかったんだろう・・・ストーカーも自作自演だしね・・・愚かな話だけど、

・・・・・女性も時代は変われども、イケメンには弱いんだね・・・くわばら、くわばら・・・」っとコーヒーを飲みながら、あごひげに手をやる私。


「でも、探偵料、貰えなくなったねぇ・・・」っと、私の顔を面白そうにのぞき込む華織。
「ほんと・・お前のアルバイト料も払えないわ・・・」


「ダメだよ・・・・でも、ゴメン例の映像、あの晩、事務所に機材を置いて行った時、おじさんがトイレに行っている間に、映像を盗んで家でアップしちゃった・・・たぶん、今頃、何十万回と見られて、たんまりとお金、入っちゃう・・から、安心して・・」っと、ニコニコとする華織。


「お前、あれほど言ったのに、すぐ消せ!法律違反だぞ!・・」と怒鳴った。
私は、パソコンに向かいネットを立ち上げ、華織にサイトを出させた。


華織は、しぶしぶパソコンに向かい「あれ、・・・確かにあげたのに・・・ない・・・」っと必死に探す華織。


しばらくすると、NotFound, 削除されましたの文字が出る。


「えぇぇ・・信じられない、誰が消したの・・私が投稿したのに、無断で・・・誰・・・?」っと、あちこち探し廻る華織。


私は、しばらく見ていて、真剣になっている華織に「もう、やめとけ・・」っと、キーボードを触る華織の手を押さえた。


「ホント、・・・お前、祟られるぞ!・・・・あの世のひとみさんが消したんじゃないのか?」


「えぇぇ・・・!うそ、うそ、うそ、まじ怖い、怖い・・・いやぁ・・もう、もう帰る、悪い、おじさん今日、帰るね!」っと、事務所を飛び出して行った。


「ご愁傷さま・・」っと、私はカップのコーヒーを飲み干すのであった。


例の祠のテレビには、もうひとみさんの映像は映らなくなり、私の録画した映像も、知らない内に消えていたのであった。


季節外れの怪談話みたいである。



「思いつき、Myショートショート」#028~#030

2015年08月20日 20時51分14秒 | 「思いつき、Myショートショート」
   #030 「未練・・・・?」


俺、色野あるじは、半年前に転勤してきた三賀西といっしょに、入院をしている課長の見舞いから帰る処であった。

課長は、交通事故でおととい入院、意識不明の重体である。
「まさか、まさかの事故だよなぁ・・・」っと俺。

「先輩、あれじゃ、幾日も持たないんじゃないですかね・・?」っと三賀西。
顔の一部だけが出ており、他は包帯でぐるぐる巻の状態であった。

「こんな時になんだけど、ちょっとは楽になれるかな・・?」っと俺。
そう、俺と三賀西は、この課長の下で成績が悪いと、毎日のように雷を落とされていたのであった。

仕事は、工作機械の営業で、得意先回りもクレームばかりで、売り上げが上がらず、この営業課のお荷物状態の二人であった。

毎日会社へ行くのが、辛かったのがこの課長の事故で、気が楽になった二人であった。
よく二人で課長のグチで、居酒屋で呑み潰れるのが常だった。

「おい、今日は課長の見舞いだけで、終わろ・・・直帰にしよ・・」っと俺は、ニヤニヤしながら三賀西に言うのであった。

「そうですね、先輩、・・・・行きますか・・?」っと、三賀西もよく俺の心を察している。

俺は、暗い声で、会社に直帰の電話をする。
「さぁ、いつもの処へでも行きますか?」っと、ニヤっとしながら俺が言うと、三賀西は、「あっ、俺この病院の近くに住んでるんです」

「よかったら、たまにうちで呑みませんか?」
「あっ、ホント、この辺に住んでるんだ・・・」

「そうだな、じゃー、おじゃましますか・・・」っと俺。
独身同士、歳は離れているけど、成績悪い者同士、気が合うのであった。

10分ほど歩くと、年代物の古い木造の二階建てのアパートが目に入った。
「先輩、ここです」っと、三賀西。

「これまた、年季の入ったお住まいだね・・」
「そうですね、転勤した時、お金がなくて、不動産屋に一番安い物件を頼んだんです」

「贅沢は言えません・・・」っと、笑う三賀西。
「だよね、うちの会社、他より給料安いもんね・・・」

「うちの会社、破格に安い給料物件の会社としては、ピカイチだもんね・・」
「もう、何年も新入社員入って来んもんねぇ・・・」っと、俺のいつもの台詞である。

「またまた・・・・・・」
「俺、隣のコンビニで餌買ってきますわ・・」っと、三賀西が言うと、「あっ、俺も行くわ・・・」と言って二人で、ビールやつまみ、弁当を買うのであった。

三賀西のアパートは、道を挟んで隣にあった。
「先輩、コンビニが近くだと便利ですよ・・・冷蔵庫がいらないんで、電気代も安くいけますよね・・・」っと、得意になってしゃべる三賀西。

「いっそ、トイレもコンビニで使えば、水道代も紙代も浮くよ・・」っと俺。
「ほんとだ、それ、気が付かなかったなぁ・・」

「ばかか、お前・・いくらなんでも惨めな生活だろう・・・貧乏学生じゃあるまいし・・・」っと、笑いながら、アパートに入るのであった。

アパートの外側の階段を昇って、すぐの部屋であった。
中に入ると、薄暗い陰気な部屋であった。

6畳一間で、トイレはあるけど風呂はなし、机は真ん中にあるけど、なんもなし。
テレビもなし、ただ本だけが山積みになっており、不自然に仏壇がでーんと、置いてあった。

二人で、机にコンビニから買った物を並べて、ビールを開け、まず乾杯をするのであった。

「課長には悪いですが、しばらく入院してもらいたいですよね・・・」っと、三賀西が言うと、缶ビールをグイグイっと一本開けて、俺は「だけど、あの状態なら、長くは持たんだろう・・・隣に奥さんが泣いてたなぁ・・・」っと、気の毒に思うのであった。

三賀西が、「昔、課長のせいで自殺した人がいるんですって?」と、ピーナッツを掌いっぱいに置いて、一気にほおばっていた。

「誰に聞いたの・・?うん、まぁ、ここだけの話だけど・・・噂なんだけど、2年前、君と似たような要領の悪い奴が居てな、その課長が得意先で大きなミスを犯したんよ、その課長のチョンボを極秘に尻拭いしていたら、いつのまにか、そのチョンボが自分のせいになっていたという、サラリーマン世界にはよくある話なんだけど、課長は、そいつが困っているのを見て見ぬフリをして、他の支店へ飛ばしたんよ・・・俗にいう、トカゲのしっぽ切りと云うやつやなぁ・・・」

「真面目な、あ奴は、とうとう会社をやめて実家に引きこもったらしい・・・それから半年後に、自分の部屋で首を吊ったという話・・・・あくまで、噂だけどね・・・ただ、新聞に小さな記事で、ノイローゼで自殺したと書いてあったけどね・・」っと、当時を思いながら話している。

「だから、あいつも、いくら課長に内緒でやってくれと言われても、誰かに相談するとか、はたまた、課長とのやり取りの会話の録音を残すとかして、証拠を残しておけば、また状況も変わっていたんだろうけどね・・・」

「そう、敵は、ライバル会社の営業マンでもなく、身内にいるってことなのよ・・・くわばらくわばら・・・」っと、ニヤッとしながら俺は、得意になってしゃべっていた。

「先輩も・・・あ・ぶ・な・い・・・?」っと、色野を覗き込む三賀西。
「まぁ、一番かわいいのは自分の身だから、お互いゾッコン信用しない事が、大人の世界というかサラリーマンの常識でしょう・・・ね」っと、不安がる三賀西の顔を楽しんでいる。

二人は、最初はしんみりと話をしていたが、即、話が変わって、新聞ネタ、芸能ネタに変わって、一端の評論家になってうさばらしをするのであった。

しばらくすると、ビ-ルが無くなり、「ちょっと、ビール無くなったんで、コンビニに行って来ますわ・・」っと三賀西。

「あ、俺日本酒がいいわ」っと言って、千円を三賀西に渡すのであった。
部屋で一人になった俺は、部屋の周りを見渡すと「ホント、なんもないなぁ・・」

「なんか、この仏壇だけが宙に浮いているカンジやなぁ・・・」っと俺は、仏壇の前に行き、手を合わせた。

「たしか、両親が亡くなったと言ってたからなぁ・・・」っと、手を合しながら仏壇を見ると、「あれ、位牌がない・・・・奥に黒い物があるなぁ・・・・なんやろ、石のような物かしら・・?・・怪しげなの宗教・・・?」っと、中を覗くのであったが、普通の仏壇のようで、何かが違う異様な雰囲気を持つ仏壇であった。

とりあえず、お線香でも焚こうと思い、ロウソクに火を着けようとすると、「あれ、なんか、ローソクの下の方に、字みたいな物が書いてあるなぁ・・・なんやろ・・・」っと、思ってローソクを手に持つと、5センチくらいになった短いローソクの下に、課長の名前がフルネームで縦に書いてあり、その横に交通事故死と書かれてあった。

なんの事かよく理解が出来なかった俺は、急に背筋が寒くなるのを感じた。
すると、そこへドアがバタンと開き、三賀西が「先輩、日本酒が売り切れていたんで焼酎に・・・」と言いかけた三賀西が、仏壇の前に座っている俺を見て表情が変わった。

とっさに、俺は、「チョット、悪い!俺、用事思い出したから、もう帰るわ・・・!」っと、言って、そそくさと背広の上着を着て、カバンを持ち部屋を出るのであった。

あきらかに不自然な行動である。
三賀西は、「先輩、先輩、色野先輩・・・」っと、階段から叫んでいたが、俺は見向きもせずに走り去るのであった。

もよりの駅に着いた俺は、ホームのベンチに座り、三賀西が来ていない事を確認して、ホッとため息をついて、自販機のコーヒーを買って飲んでいた。

「異様な仏壇とあの交通事故死と書かれたローソク、課長の事故・・・偶然やろ?・・あれって、あ奴の冗談と違うのかな・・?俺にビックリさせようとした・・とか?・・・それでも、冗談にしては、いくらなんでも、タチが悪い・・」もう、俺は、酔いがすっかり覚めて、マジである。

あの時、凄い悪寒を仏壇の前で感じていたのが、今は消えていた。
「なんか呪いのマジナイ・・?あの妙な不気味な石・・?いくらなんでも、課長が嫌いだとしても、殺そうとは思わんやろ・・・いくらなんでも・・・でも、三賀西は、まだ若いから俺以上に、こっぴどく課長に怒られてたからなぁ・・・でも、いくらなんでも・・・」

っと、ブツブツとつぶやいていた時に電車が来て、とりあえず、明日、また本人に聞くことにしようと、帰って何も考えずに寝る事にするのであった。

次の日、出社した俺は、三賀西を捜したが、見当たらなくて、携帯に電話をすると、現在使われていないとメッセージが帰って来た。

「ええぇぇ、あいつ解約したんかぁ・・・」と思い、しばらく待っていても出社しないので、得意先回りに出かけたのであった。

すると、会社からメールで、たった今、課長が亡くなった事を連絡して来た。
俺は、また悪寒が走り、昨日のローソクが気になり、三賀西のアパートに行ってみた。

たしか、あの古いアパートがこの場所にあったはずなのに、なぜか見当たらない。
コンビニは、ちゃんとあるのに、アパートがない。

何度か周辺を探したが、コンビニしかない。
そして、あるはずのアパートが、なぜか30基ほどの墓石が並んでいる小さな墓地に変わっていた。

体中の力が抜けて、立っているのがせいいっぱいの状態で、「そんな、あほなぁ・・・」と俺はつぶやいていた。

眼を疑いながらも、夢を見ているのだと思いもしたが現実であった。
コンビニの店員に聞いてみたら、アパートなんてなくて、終戦からずーとここは墓地だったそうである。

よくこのコンビニを利用する三賀西の事を話したら、誰も知らないという、昨日も来たのは俺だけだったというのである。

もう、俺は何がなんやら訳が分からなくなり、三賀西の存在すら幻に思えて来たのであった。

会社の事務員に電話をして、三賀西の住所を聞いたら、「そんな方は、会社にはいません」っと返って来た。

「そんなバカな、俺といっしょに得意先回りをして、よくあいつ、課長に怒鳴られていたじゃないか?」っと聞くと、「それは・・・」っと口ごもりながら、事務員は、「いつも怒られてたのは、色野さんですよ・・・怒られるのって、色野さんしかいないですよ」っと、申し訳なさそうに電話口で、話している。

「だから、いつも色野さんが社内にいらっしゃる時、誰に話しかけてられるのか、独り言をよく言っておられて、それがまた、課長の怒りを買ってらっしゃったんですよね・・・すみません、生意気な事を言って・・・」っと言って、電話を切ってしまった。

「俺は、半年間、幻の三賀西を見ていたのか・・?妄想・・・癖?・・・」っと、三賀西のアパートがあった墓地を見つめながら、茫然としていた。

よく見ると、墓地の隅っこに、墓石じゃない黒い箱のような物が見えた。
ゆっくりと墓地に入り、奥に向かうのであった。

「あっ!」っと、思わず叫んでしまった。
そう、昨日三賀西の家にあった薄気味悪い仏壇であった。

「なんで、こんなとこに・・・」
すると仏壇の後ろからすーっと黒い影が、大きくなって出て来た。

びっくりして、思わずのけ反り、こけてしまい、隣の墓石を倒す処であった。
影は次第に大きくなり人の形になって行くのであった・・・三賀西である。

「お、前・・!」っと、俺は目を大きく開きながら、恐怖におののいていた。
「先輩、バレちゃいました・・ね」と、いつものスマイルで三賀西が言う。

「お前は、一体誰なんだ・・?なんで、こんな事を・・・オレに・・俺に恨みでもあるのか・・・」と矢継ぎ早えに俺は、三賀西に質問をした。

この墓地の周りは、交通量も比較的多く、人通りも多い、時間もお昼過ぎなのに、なぜか、俺の居る処だけが、真夜中のように真っ暗であり、周囲の雑音がかき消されているのであった。

薄暗い灯りに三賀西の姿が、薄らと浮かんで見える。
沈黙の中、三賀西が、「先輩、まだわかんないんですか?・・昨日、お話してくれたじゃないですか・・?あ・や・つ・・・の三浦・・ですよ!」と、薄暗い灯りの中でぼんやりとした顔で言っている。

「どうゆう事だ、三浦は、半年前に自殺したはずだ・・・お前、俺をからかってるのか?・・・じゃ、三賀西はどこだ・・・」っと、俺。

昼なのに、辺りは暗いし、どう見ても夢だと思い込みたい俺であった。
それに、三賀西の声が耳で聞こえているのではなく、俺の頭の中から聞こえているようなカンジで、俺も口でしゃべっているカンジではない・・気がしていた・・・夢だ・・

「先輩と初めてお会いしたのは、半年前でしたよね・・・・」
「もう一度言います、先輩が、昨日お話をしていたあ奴は、私です・・・三浦です・・・・三賀西は存在しません・・・・そして、噂は、本当です・・・・その事は、一番先輩がよく知っておられたんじゃないですか・・?」

頭の中で、強い口調で入って来た。
「夢だ・・夢だ・・・」

「・・・なんで?・・・お前を自殺に追いやったのは、課長だろう・・・俺は、関係ないだろう・・・」

「関係ない・・・ほんとですか・・?」
「課長・・・さっき、病院で死んだぞ・・・お前のせいか・・?」

「あの・・・ローソク、なんなんだよ・・・お前、課長を呪い殺したんじゃないのか・・?」
「そうです、ローソクは、寿命です。ローソクに名前と死因を書くと、ローソクが無くなった時点で、命も燃え尽きます」

「なぜなんだ、どうしてそんな事をするんだ・・・お前、本当に死んでいるのか・・?」
「はい、ご存知のように意識朦朧の中、半年前に首を吊りました・・・」

「なんで、死んだ人間がここにいるんだ・・・?」
「私も、嫌な事を忘れて、成仏をしたかったんです・・・」

「自殺をして、オーブとなり、ふわふわ浮きながら、天から刺す一筋の光に向かって、吸い寄せられていたんですが、下から、黒いオーブが私を吸い寄せたんであります。」

「私は、恐怖の中、黒いオーブが話しかけて来たんです」
「お前は、まだ成仏は出来ない、未練があるだろう・・」

「たしかに、忘れようとした課長の恨みが、残っていました・・・」
「未練がある内は、成仏出来ない・・・きっちりと未練を断ち切るように精算をして来いというのです・・・」

「そして、このローソクと仏壇を渡され、奥の黒い石に、相手の魂魄を吸い取るように言われたんです」淡々と、しゃべり続ける三浦だが、哀しい顔をしていた。

「お前・・・人を殺したんだぞ・・・よく平気でいられるなぁ・・・」っと俺。
「これで、もう成仏出来るんだと思ったんですが、まだお一人居ました・・・」
っと、三浦が言うと、俺の目の前に、火の着いた一本のローソクを差し出した。

クルっとローソクの裏を俺に見せると、愕然としてしまった。
俺の名前が、・・・書いてある・・・・横に・・・凍死!

「おい、いいかげんにしろ、なんで、俺なんだ・・・俺が何をしたって言うんだ・・・」
「まだ、わからないですか・・・・先輩、あなたが、私を死に追いやったんですよ」

「私が、課長の尻拭いをする前日の晩に、あなたが課長に怒られていると思ったら、ニヤニヤしながら、私にやらせたら・・っと、聞こえてきたんですよ」

「その当時は、なんの事かわかりませんでした・・・しかし、翌日、課長から呼ばれてこの事だったのかと思いました」

「しかし、先輩には、よくしてもらっているので、何を言わず受け継ぎました」
「あなたは、自分の可愛さに、私を売ったんです・・・ゆるせない・・・もう一つの未練はこの事です」

「これで、私は成仏出来て、また、生まれ変わって一からスタートが出来ます」
「やめてくれ、助けてくれ・・俺が、悪かった・・・このローソク何とかして・・・」
俺は、ローソクを持ちながら、あたふたと取り乱していた。

「気を付けて下さい、ローソクの火が消えると、その場で終わりですよ・・・」
「そうだ、新しいローソクを・・・コンビニで売ってる・・・」

っと俺は、この墓地の前にあるコンビニに行こうとするのだが、墓地から出られない、大声で叫んでみても、人通りの多い割には誰も振り向いてはくれない。

「先輩、ここは結界がはってあるので、外の人には何も見えないし、出られないですよ・・・観念してください・・・それに、コンビニのローソクに火をついでも、意味がないですよ・・・落語のお話じゃあるまいし・・このローソクとして見えるのは、ある種の念の塊、魂魄が塗りこめられている物で、この世のものではないですよ・・・」

俺は、肩を落とし、しゃがみこんで、「もう、おれは、ダメ・・なのか?」
「・・・なんで、凍死なんだよ・・・まだ秋口だぜ・・・」とボソっと言ってみた。

「あぁ・・課長の場合は、何も考えなくて、単に、交通事故死にしたんですが、先輩には、苦しんでもらいたくないので、凍死にしました。

自然と身体が冷えて、徐々に身体の機能が損なわれ、感覚がなくなり、眠るようにして死ねるからです・・・ちょうど、雪山で遭難をして、寝てしまうと死ぬぞっというドラマがありますよね・・・あれです・・・

餓死なんかも、似たように楽して老衰みたいに死ねるんですが、これは、ちょと時間がかかるんで、凍死にしました・・・」

「お前は、もう死んでるから、のんきな事を言えるんだね・・・」
「そうですね、死んでしまえば、そんな恐怖もなくなります」

「死とは、生き物が簡単に生きる事を放棄させないように、誰かが本能としてプログラムしただけなんですね・・・それが、恐怖というモジュール化されたものなんですね」

「死んだ先が、わからないっというのも不安というプログラムが働いているからなんでしょうけどね」

「で・・・死んだらどうなんの・・・・」
「私も初めてなので、わからないですが、恐らく天の光・・・というか、天じゃなくて、地球深く、コアの部分に行くような気がするんです。」

「そこで、魂魄が再生されて、地上に田植えみたいに植えつけられるような気がするんです・・・地球もある種の生き物ですから・・・我々、生き物は地球の為に存在してるんですから・・・たぶん・・」

「じゃ、俺もお前といっしょに行けるんだね・・・・」
「それがですね、先輩はこの後、ローソクの火が消えると、この仏壇の奥の石に魂魄が吸い取られます。」

私をひっぱり下ろした黒いオーブ・・・つまり死神だと思うんですが、しばらくはこの現生で浮遊霊として漂う事になるそうです。

よくても悪くても、未練が残る魂魄はこの世で、無数に存在します。
普通は、オーブとなって念の塊なんですが、恨みとか愛しいとか念が強いと、心霊写真のように実体化するように見えます。

かなり強いエネルギーがいるので、特殊な場合だそうです。
物を動かすなんて、よっぽどの念力でもない限り、無理ですが、多数の念の塊が寄せ合って協力すると物体も動かす事が出来るそうです。

ただし、その中で親玉の霊がおるので、その指示に従わなければならないので、ほとんどの弱霊は、奴隷化して簡単には抜けられないそうです。

だから、先輩、気を付けてくださいね・・・寂しいからといって、むやみに人・・・じゃなくて親切な霊魂に騙されないでくださいね・・・・現生では、ヤクザの勧誘みたいなもんでしょうか・・ね」

「やめてくれ、俺もお前といっしょに行く・・行かしてくれ・・・あぁ・・火が消えそう・・・・」

「そろそろですかね・・・先輩、静かに暮らせればそう浮遊霊も楽だと思いますよ・・どうしても、再生したければ、高尚なお坊さんか、インチキじゃない霊能者の力を借りれば、うまく光を出してくれて成仏できると思います。」

「おーい、火が消える・・・」
「先輩、これでお別れです・・・これでやっと私は、成仏出来ます・・・ありがとう」

「あぁぁ、俺の人生・・・おわり・・か・・・嫁さんももらってないのに・・・・」

三浦の影もなくなり、仏壇も消えていた。
ひっそりと、墓地の奥の隅に背中を丸めて眠るように俺は、亡くなっていた。

夕方のニュースに、都会の片隅に、まだ暖かい季節に「謎の凍死!」として報道され、宇宙人に連れ去られたんじゃないかというタブロイ紙も出て来るしまつである。

そして、いつのまにかこの墓地、もともと30基あったお墓が二つ増えて、32基になっていたなんて、誰も知らないのでありました。













   #029 「教訓・・・」


幸男は家から飛び出すように出て行った。
「やばい、間に合わないかもしれないなぁ・・・」っと、言いながら駅に向かうのであった。
会社の早朝会議であった。

駅に着き、階段を上ろうとした時、5,6段上に、超ミニスカートの若い女性が上っていた。
「まじ、こんなミニスカートはいていたら、見えるぜ・・」っと思い、目のやり場がなく、下を向きながら上って行く幸男。

すると、その時、ズボンのポケットの携帯が震え出した。
幸男は、「なんだこの忙しい時に、メールなんか送りやがって・・・」っと言いながら、おもむろに携帯を取り出し、顔に近づけメールを見るのであった。

「もう・・・ちょっと遅れるぐらいなんだから、メールなんかするなよ・・」っとちょっと、むっとしていたら、幸男のまわりに人が集まっており、れいのミニスカの女性が、幸男に指さしているのであった。

幸男は、「えっ、えっ、・・・なんですか・・?」っと、言うと、「おまえ、その携帯であの女性を盗撮してただろう・・・」っと、幸男の腕をつかんだ。

幸男は、「誤解ですよ、違う、違う、・・・メールを見てたんです・・・ほれ・・」っと携帯のメール画面を差し出す。

しかし、まわりの男性たちは、そのメールも見ずに、「駅員室へ行こう、そこで話を聞いてもらうから・・・」っと言って、幸男の両腕を二人の男性が左右につかみ、駅員室へ連れて行くのであった。

幸男は、「違う、違う、誤解や・・信じてくれー!」っと言いながら、連れて行かれるのであった。

ミニスカの女性は、「ほんと、男って、怖い!サイテーね!」っと言って、プラットホームに停車している電車に乗り込むのであった。

その後、幸男の容疑はハレたが、大幅に遅刻して上司からから大目玉をくらった事は、言うまでもない。

教訓「駅の階段やエスカレータなどで、急に携帯電話が鳴っても出てはいけない」
by幸男










   #028 「古井戸・・」


今日は、雅弘兄さんの四十九日で、納骨を済ませて帰宅した処である。
兄雅弘、弟の私、晃明、二人兄弟である。

そして兄嫁の由美さんもいる。
兄は、自殺であった。

遺書が残されてあった。
兄が死んでから、姐さんはあまりの悲しみに、体調を崩して、四十九日の法要は、私が代わりに執り行ったのであった。

両親から引き継いだこのそば屋のお店を、兄は職人として頑張っていたのだが、父と味が違うのか、どんどんお客が減り、暇になったお店の中で、ぼんやりする事が多くなった。

姐さんは、自前の明るさで兄を励ましていたのだが、兄は、いつしかパチンコ、競馬とお決まりの借金コースを歩んで行ったのであった。

家計は苦しい中、姐さんは、夜だけちょっとした飲み屋をやり、これが評判でなんとか食べるだけの生活費は出来るのだが、兄の借金分までは程遠く、苦しい事には違いないのであった。

そんな姐さんは文句も言わず、もくもくと働くのだが、それが兄さんには余計に腹がたつのであった。

しかし、そんな兄さんも、姐さんに悪いと思っているのか、以前から入っていた5千万の生命保険証を取り出し、死んだらこの保険を使うようにと遺書を書いていたのであった。

そうゆう話を、兄から聞かされていたんだけど、まさか、本気だったとは思いもしなかったので、それが、私にとって悔やまれてならなかったのであった。

納骨は、親父の代からお世話になっているお寺さんの墓地に埋葬させてもらっている。
・・っといっても、私も、20年も前に父が亡くなってからなので、お墓の位置もわからないくらいご無沙汰であった。

しかし、今回は、兄がこんな死に方になってしまい、もう一度兄に会いたくて私は、ちょくちょくとお参りに来たのであった。

そんな私を見つけ、後ろから声をかけるお坊さんがいた。
ここの住職だろうと思い、お世話になっているお礼と、今の自分の気持ちを聞いてもらったのである。

住職は、いたく私の話に感銘されたのか、「実は、ここだけの話じゃが、あの左の林の奥に井戸があるんじゃが、わかるかな・・?」っと、指をさし始めた。

私は、指先の方に目をやると、うっすらと木陰になっている小さな井戸らしきを見つけた。
夕方なので、わかりにくいが、「あぁ・・ありますね・・・それがどうかしましたか・・?」っと聞くと、住職は、「実は、1100年前からある井戸でなぁ、閻魔さんが地獄とこの世を行き来したと言われている井戸で、あの世とこの世がつながっているとも言われているんじゃ・・・」っと真剣な顔をして言っている。

「へぇー、そんな言われがあるんですね・・」っと、世間話風に私は、相槌を打っていた。
住職は、「話は、これからじゃ、よく聞きなされ・・・満月の夜、丑三つ時・・・つまり午前2時頃じゃなぁ・・・この井戸の中に向かって、お兄さんの名前を3回呼ぶんじゃ・・・」っと私の目をじーっと見てそらさない。

思わず、私の方が、咳払いをして目をそらしてしまう。
住職は続けて「そうすれば、お兄さんと話が出来るはずじゃ・・・成仏してなければの話じゃがなぁ・・・」

「でも、そんな死に方をする人は、未練がこの世に残っており、そう簡単に成仏はしないだろう・・・」

「今度の週末が、たしか満月だと思うので、一度試されてみてはどうか・・なぁ・・」っと、妙に、微笑みながら言い出した。

私は、「はははぁ・・・怖いお話ですね」っと苦笑いをするのであった。
「まぁ、信じる信じないは、あなた次第じゃ・・・」っと住職。

どこかで、聞いた文句だと思いながら、「わかりました、ちょっと考えてみます」っと言って、住職に会釈をして、墓地の階段を降りるのであった。

墓地は、小高い丘にあって、ひな壇のようになっており、兄のお墓は上から3段目であった。
私は、墓地を降りて後ろを振り返ると、もう住職の姿がなく、「あれ、この階段以外に道はないと思ったんだけど・・・」っと不思議に思いながら、これぞまさしく階段・・・怪談・・・なーんて、おやじギャグにニヤっとしてしまうのであった。

ついでに、住職が言っていた古井戸を見に雑木林に行くと、それらしき小さな井戸が竹で編んだ蓋のような物が、上に被さっており、中ぐらいの石が数個乗せられていた。

「あぁ・・これだなぁ・・なんか、不気味だなぁ・・・」っと思ったが、せっかく今度、満月が近いのだから、騙されたと思って、来てみようかなぁ・・・っ思うのであった。

そして、数日後の満月、雨だったら止めようと思ったのだが、今日は、綺麗な立派な満月日和であった。

どこかで、狼の遠吠えが聞こえそうである。
姐さんには内緒で、家を出るのであった。

姐さんの体調もよくないので、最近は、この家に泊まり込んでいる晃明であった。
夜中の1時半、由美は寝ており、晃明一人で、家を出るのであるが、よく考えると、人気もない夜中の町中を歩くのって、泥棒か、放火魔に間違えられても不思議ではないのではっと、変に周囲を気にしながら歩いてしまうのであった。

そして、お寺の墓地に着いたのだ。
昼間のお墓はそんなに怖くはなく、ちょっとした公園くらいにしか見えなかったのが、夜の・・まして真夜中のお墓は、超・・超・・・怖えーえ!・・・懐中電灯の灯りだけが頼りであるが、満月のおかげで、いくぶん明るいのが救いであった。

晃明は、まず兄の墓前に線香をたむけ、手を合わせて「来たよ!」っと心の中でつぶやき、とっとと、井戸の方へ向かうのであった。

ここの井戸も真っ暗で、むっちゃ怖く、シーンとしており、虫の音ひとつも聞こえない無音で、草を踏む自分の足音だけであった。

「あの言い出しっぺの住職、いっしょに立ち会って欲しい」と言えばよかったと後悔をしながら、井戸に被せてある竹の蓋をとるのであった。

中は、真っ暗・・・微かに水の音が気のせいかするくらいであった。
懐中電灯で照らしても、ごつごつとした岩の古井戸で、草木が井戸の壁にからみついているのであった。

なんか、騙されたんじゃないかとも思うのだが、後のまつり・・・
とりあえず、せっかく来たのだからと思い、「石田雅弘兄~さーん、石田雅弘兄~さーん、石田雅弘兄~さーん・・・」っと住職が言っていた3回呼ぶまじないを晃明は、したのだった。

晃明は、井戸に向かって耳をじーとすませ、聴き入るのであった。
5分程じーとしていたのだが、何の変化もないので、「ほら、やっぱり、騙された・・・俺ってホント馬鹿だよなぁ・・・」っと思い、「もう・・さっさと帰って寝よ・・・」っと下に置いた井戸の蓋を取ろうとしゃがみこんだ時、井戸の方から、「ぉ・・・ぃ、おーーい」っと聞こえてきた。

「えっ・・・・まさか・・」っと思わず、井戸の中を覗き込む晃明、しかし、懐中電灯の灯りにも何も映っていなく、空耳だと思ったその時、「晃明だろう・・・おれだよ、雅弘だよ・・・お前が呼んだだろう・・・」っと井戸の中。

「兄さん・・・どこ、どこ、見えないよ・・・」っと懐中電灯で探しまくる晃明。
「ごめん、姿はない・・・まだ、オーブにも成れない・・・この声もお前にしか聞こえない念の声?・・なんだと思う・・・俺もよくわかんないんだ・・・」っと雅弘

「どこに居るの・・?」っと晃明。
「身体がないからね・・真っ暗で、泥の中にいるように、漂っている?・・・念だよ・・・じーっと集中すると、薄らとボケたカンジで物が見える・・?お前の顔を薄らと見えるよ・・・」っと雅弘。

「信じられないけど、兄さん死んだんだよね・・・なんで、勝手に逝ってしまうんだよ・・・姐さんも体調崩して、あれ以来寝込んでしまってるんだよ・・・」

「ごめん、こんな事になってしまって・・・・悪いと思っている・・・」っとポツリと雅弘が言い、そして、「晃明、ワリイ・・ちょっと紙と鉛筆・・書くもの持ってるか・・?」っと言いだした。

晃明は、「突然、なんなんだよ・・・」っとポケットの手帳を出し、「あるよ・・・どうするの・・?」っと言う。

「今からいう呪文を書いてくれるか・・?実は、成仏し損ねてしまって、この井戸の奥に書かれてある呪文が、成仏出来るようなカンジなんだよ・・・」っと雅弘。

「えぇ・・、言っている意味がよくわからないけど、とりあえず、その呪文を言ってみて・・・」

「じゃー行くよ、カンジーザイボサツ・・・」と雅弘。
「カンジーザイボサツ」っと復唱しながら書き留める晃明。

「次、レークーテシカダ・・・・」
「ツギレークーテシカダ・・・」っと晃明

「ツギはいらない、レークーテシカダだけ書け」っと怒り気味に雅弘。
「ラーカ ボージソワカ以上・・・以上はいらないで・・・」っと雅弘。

懐中電灯をアゴで加えて、手帳に必死に書き留める晃明。
「その呪文を俺の方に向かって言ってみてくれ・・・1回でいいと思う・・・」っと雅弘。

「あぁ、わかった、・・・これで本当のお別れだね・・・後の事は心配しないでいいから、生まれ変わったら今度は、長生きしてくれよ・・・兄さん・・・・準備して・・・じゃー、行くよ・・」っと晃明が、手帳に懐中電灯を当てて、井戸に向かって呪文を唱え始めた。

井戸の底から「よっしゃー!」っという雅弘の声がした。
すると、晃明の「うわぁぁーー!」っという叫び声がするのであった。

晃明が、気が付くと真っ暗で、上を見ると薄らと月の灯りが見えて、井戸に落ちたんだと思い始めた。

「兄さん、兄さん・・・どこ・・?」っと必死に井戸の底を捜しまわる晃明の上から声がし始めるのであった。

「晃明、ここだ、ここだ、・・・」っと月明かりをさえぎるように、井戸の中を覗き込む人物を晃明は見えるのであった。

その人物が、晃明そのものだと確認するのに時間をそんなに要さなかった。
何がなんだか、夢を見ているんだと思う晃明を雅弘は、「ワリイ、わりい、こうもうまく行くとは、ほんとは、信じられなかったんだけど・・・・晃明、さっきの呪文・・・あれ、ホントは、お前の魂を抜いて、俺の魂をお前の身体に宿す呪文なんだ・・・」

晃明は、「身体がない、ないない・・」とあたふたとしている。
晃明の姿は、オーブに成りかけの、薄い靄の塊になっており、たまにLEDのように青白く光を放っている状態であった。

「なんで、こんな事するんだよ・・・もとに戻してよ・・・まだ、死にたくないよ・・・兄さん・・・」と哀願するかのような晃明。

上から、「心配するな、ちょっとお前の身体を借りるだけだから、用が済めばキチンと返すから・・・安心しろ」っと微笑む雅弘。

「やっぱ、あの伝説は本当だったのかな?・・・かって明智光秀が、首実検後、この井戸へ投げ捨てられ、その後天海となったという逸話・・?・・」

「ひょっとして、源義経がジンギスカンになったと云うのもこの井戸・・か?・・・」っと、独り言を勝手にほざいている雅弘。

「もう、いいかげんにしてよ・・・早く俺の身体返してよ・・・」っと晃明。
「あぁ・・、ワリイ、ワリイ・・・3時間、いや2時間だけ貸といてよ・・・夜明けまで、満月の力がなくなる前に帰ってくるから・・・信用しろ、晃明」っとにらみつけるように言う雅弘。

・・・っといっても、雅弘にとっても、晃明は見えないのである。
「何しに、どこへ行くのよ・・・」

「いやぁ、こんな別れ方をしたので由美に、ちゃんとお別れを言わなきゃ、成仏出来ないと思ってなぁ・・・だからそんなに時間かからないよ・・・」っと雅弘。

「もし、明け方までに帰って来なかったら、俺、どうなんの・・・?」
「うーん、わからないけど、そうなったら、お前成仏してくれ、お前の代わりに第二の人生をこの身体で俺がおくるから・・・」

「まじ、やめて、やめて、ヤメーテ!」っと晃明。
「冗談だよ、ちゃーんと、無傷でお前に返すから、待ってろ!・・・・俺も、この身体じゃ困るからなぁ・・・」っと意味深にニヤっとしながら言う雅弘。

「なんで、兄きが困るんだよ・・・」っと晃明。
「おっと、ぐだぐだ言ってると、世が明けちまうわ・・!」っと言って、雅弘は、すっとんで走って行った。

「慌てて、怪我しちゃ、嫌だよ・・・俺の身体なんだから・・・」
「あー、行っちゃった・・・」

「まじかよー、ホント、大丈夫かな・・・?むっちゃ、心配・・・」
「幽霊って、こんなカンジなんだ、痛くも痒くもなく、お腹も減らないし、なぜか、軽いから、ふわふわとコツを掴めば、どこへでも飛んで行けるような気がする」

「井戸の外へ、出られるかも?・・っと思っても、兄さんが帰って来た時、妙な所に居てたら、元に戻れないかもしれないから、やめとこ!・・じっとしてよ!」っと独り言をいう晃明で、幽霊もまんざらでもない様子であった。

「いつかは、誰でも死ぬからなぁ・・・こんな体験、人に言っても信じてもらえないだろうなぁ・・・あっ、ひょっとして、俺と住職の話を兄貴の魂がふわふわとしながら聞いてたのと違うかな?・・・きっとそうだよ・・・俺が来るのも兄貴の計算の内だったんだ・・・・」っと、罠にかかった気分の晃明であった。

姐さんと最後のお別れをしたいという雅弘の言い分も納得できるので、これで、自分も姐さんもわだかまりもなく前へ進めるのでは、っと思う晃明であった。

晃明が、井戸の中でふわふわと遊んでいると、井戸の入り口が薄らと明るみ始めるのであった。

「まずい!世が明ける・・・兄さん早く、早く、間に合わないよ!・・・」っと祈る晃明。
すると息を切らして、上から「おーい、晃明、戻ったぞー!」と大声を出す雅弘。

「いいか、晃明、準備しろ・・・」
「わかった、兄さん早くやって?・・・」

雅弘は、例の呪文を唱え始めた。
すると、晃明は、高速エレベーターに乗っているかのように、ふわーっと上に昇っていくのであった。

そして、元の身体に戻り、「やった・・・俺のカラダ、あー、感覚があるー、生きてる・・・」これほど、自分が生きている喜びに感じたのは、生まれて初めてであった。

思わず、涙が溢れて来るのであった。
下から、「晃明悪かったなぁ、もうこれで、お前ともお別れだ、由美ともケリがついたし、もう思い残す事もないわ!・・・じゃー、達者で暮らしな・・・・」っと雅弘。

「兄さんありがとう、向こうに言ったら、父さん母さんによろしく伝えておいてね・・・」っと涙を拭きながら、井戸の中に向かって叫ぶのであった。

ちょっと、白々とお寺の墓地も明るくなり始めて、晃明は、トボトボと帰路に着くのであった。

晃明は、雅弘が由美との再会で何をしゃべったのか、聞くのを忘れた事に気が付いたが、まぁ、後で由美に聞けばいいと思いながら、歩いて、家の近くまで来たのであった。

すると、早朝からやけにざわざわとしており、なんと家の前には、黒だかりの人の群れがあり、パトカーやら救急車が赤色ライトをまわしており、異様な光景を目の当たりにする晃明であった。

由美の家からストレッチャーに乗せられている由美の姿を見てしまう。
慌てて晃明が、「姐さん、姐さん・・・」っと救急車に乗せられる由美に駆け寄るのであった。

由美は意識不明で血まみれであった。
救急隊員に「どいて、どいて」と言われたが、晃明は、「私の姐さんです、一体どうしたんですか・・?」っと問い詰めるのであった。

警官が、近づいてきて、「身内の方ですか?」っと言い、「暴漢に襲われたみたいなんですが・・・何か、ご存じないですか?」「お名前お聞きしていいですか?」っと続けさまに質問攻めにあう。

「姐さんは、大丈夫なんでしょうか?・・・ああ、石田晃明と言います・・一体誰がこんなひどい事を・・・」っと困惑しながら警官に言っている晃明。

すると、近所の人が、警官に向かって、「あいつです、あいつが犯人です・・・!」っと晃明を指さすのであった。

警官は、「えっ・・・」っと言いながら、晃明を見ると白いセーターがあちこちと血まみれになっているのを見つけ、「石田さん、これ、血ですか?」っと聞くと、晃明は、自分のセ-ターに初めて気が付いて、血まみれに汚れているのを知ってしまう。

「えぇ・・これ、ちがう、ちがう、オレじゃない、オレじゃない・・・」っと必死に抵抗をする晃明。

近所の目撃者は、「私、はっきりと見ました・・・犬の散歩帰りに、家に入ろうとしたら、いきなり、大きな音を立てて、この人が、この家を出て行くのを・・・・まちがいありません・・・」っと隣のおばちゃんまで指さしながら言っている。

警官は、「ちょっと、署まで来てお話を聞かせてもらってもいいでしょうか?」っとやんわりとした喋り口調の割には、晃明の腕を強く掴んでいる。

晃明は、「やばい、兄貴だ・・・なんで、兄貴が・・・俺が犯人にされてしまう・・・逃げなきゃ・・・」っと晃明は、沈痛な面持ちで、警官の手を払いのけて、ダッシュで逃げ始めたのであった。

群衆は、「ああ~・・、逃げた!」っと叫び、警官は「待ちなさい!」っと大声をあげ、追って来るのであった。

笛を吹いて周囲の警官に知らせて、晃明を追いかけるのであった。
晃明は、必死で逃げ、学生時代、体操選手でもあった事から、身のこなしが軽やかで、家と家との塀を乗り越え、迷い込んだ山猿が民家を転々と飛び回るように、晃明も逃げ通すのであった。

いつしか、晃明は、例の井戸の前に来ていた。
井戸に向かって、「おい、雅弘、どうゆうつもりだ・・・なぜなんだ・・・」っと呼び捨てで大声をあげても、すでに陽が昇り、満月の力もなくなり、雅弘は答えられないのであった。

晃明にとって、なぜ、雅弘が由美を殺そうとしたのか、まったくわからないのであった。
由美に感謝してもいいはずなのに、殺すなんて、どうしても雅弘に聞きたくて、井戸の前にへたりこんでいるのであった。

二人の中で何か、とんでもない事件でもあったんだと思うのであった。
閑静な住宅街に、ひときわパトカーのサイレンが響き渡り、気が付けば、お寺を10台ものパトカーが取り囲んで、警官が大勢こちらに寄って来るのが見えた。

「もうだめだ!」っと観念をする晃明だったが、「そうだ!」っと突然ひらめいたのか、おもむろに手帳を出し、例の呪文を唱え始めた。
すると・・・・何も起こらない・・・・

やっぱり、満月の力なくして、ダメであった。
晃明は、数名の警官にもみくちゃにされながら、パトカーに乗せられて連行されるのであった。

取調室で晃明は、一部始終を話すのであるが、予想通り、警察は信用をするはずもなかった。
何日も取り調べをされる晃明であったが、これ以上本当の事は知らないので、同じ事を言うしかないのであった。

警察では、精神鑑定の話も出てくるしまつであった。
晃明は、「もうどうでもいいわ・・・」っと思いながら、由美の容態が、意識が戻り、回復に向かっていると聞かされたので、それだけが救いだと思った。

たぶん、由美も俺が襲ったと思っているだろうし、このまま、会えない方がいいかもっと思い始めているのであった。

そんなある日、取調官から、「君が刺した石田由美が白状したよ」っと言う。
晃明は、「白状って、やっぱり、俺が刺したんじゃないって、言ってくれたんだ・・・姐さん」と目を輝かせて言う。

「まぁ、それもあるんだけど、君の幽霊話の兄さん、雅弘って云うんだったよね・・・自殺をした・・・」

「はい、石田雅弘です・・・自殺でした」
「じつは、石田由美が、夫は自殺じゃなく、自分が殺しましたと白状したんだよね。」

「えぇ・・、そんな馬鹿な、ちゃんと遺書もあり、以前から兄は自殺をほのめかしていたんですよ」

「そこなんだよ、それで我々も、司法解剖せずに、遺書もあるので自殺と断定をしたのだが、石田由美が言うには、殺害の日、睡眠薬を飲ませロープで自ら首を絞めたそうだ」

「嘘だ、そんなわけがない・・・・あんなに兄さんの事を慕っていたのに・・・」
「石田由美は、君の事が原因だと言っている・・・身に覚えがあるんじゃないか?・・・」

「えっ・・・・・・」

「石田由美は、夫がギャンブルで、仕事もしないで、借金ばかりつくって嫌だったんだろうね、そんな折、君が、夜の居酒屋を手伝ったりと明るく接してくれる事に好感を持ち始め、君と一晩共にした事が引き金になったみたいだそうだ」

「そんな事、一言も姐さんは言ってないし、聞いてもいない・・・」
「君に迷惑をかけたくないと思ったんだろうね・・・一人で悩んで事を起こし、保険金で君といっしょに居酒屋を大きくしようと思ったんだろうね」

「なんで、今になって姐さんは告白したんですか・・・?」
「それが、君の妙な供述と関係するような事を言い出したんだよね」

「何を言ったんですか・・・」
「うむ、石田由美が襲われた日、襲ったのは、主人だと言ってるんだ・・・つまり、故石田雅弘氏だよね」

「つまり、石田雅弘氏が、自分を殺した妻の石田由美を葬り去ろうと恨んで来たっと言うんだ」

「その時に、幽霊の石田雅弘氏に、君の事が好きだと言ったらしい」
「そうなんだ、それで、兄さんは俺をも恨んで、ハメたんだ・・・・」

「まぁ、そう考えると、君の話と言い、石田由美の供述ともつじつまが合うんだけど、さて、これが裁判ともなると、誰が信用するのか・・・?正直の処、我々も頭が痛い処でもあるんだがね・・・・」

数日後、僕は、釈放された・・・・・証拠不十分という理由で。
姐さんは、自白と動機もあり、殺人罪で起訴は免れないのだけど、証拠となる睡眠薬は、もう兄は火葬になっているので、わからなくなっており、幽霊騒ぎで精神鑑定という方向にも進んでおり、この先どうなるかわからない、長引きそうである。

しかし、俺だけは真実を知っているので、姐さんの力に成って行きたいと強く思っている。
もう、兄の事も恨んでおらず、また、お墓参りに俺は行っている。

満月の日には、井戸に向かって兄の名前を叫んでいるのだが、毎回、応答がないので、うまく成仏したんだなぁ・・・っと思う事にした。

ここのお寺の住職に、今までの事をお話しようとしたら、俺が会った住職とはまったく違っており、女性であった。

井戸の話をすると、まったくそんな話は知らないと、一笑にふされてしまった。
1100年前どころか、大正にこの井戸が造られたそうである。

なんか、夢のような幻を見ているようで、あの住職も、結局兄の化身だったんではと思ってしまう。

まんまと、ハメられたけど、俺も、姐さんに、よこしまな気持ちが無かったと言えば嘘になるので、兄には文句は言えないのであった。

今、俺は、会社を辞め、昼は、試行錯誤しながら、そばの練習をし、夜は姐さんの居酒屋を一人で、きりもって、帰って来るのも楽しみに待つ毎日である。










「思いつき、Myショートショート」#023~027

2015年02月26日 19時36分36秒 | 「思いつき、Myショートショート」


   #027 「夢を売る商売・・?」


「いいか、今日の心霊スポットは、山中にある、とある道場の集団自殺現場取材だから、気を引き締めていくからな!」っと、リーダーの長瀬がスタッフたちに意気込んでいる。

ワンボックスの車中内には、長瀬以下、ADの泰子、撮影の木戸、音声の土田の4人が乗っている。

彼らは、オカルト専門のDVD企画制作会社の者たちだった。
この業界は、何万という似たような会社でひしめき合って、生き残りがきびしい事は周知の事である。

それだけに長瀬は、今回が失敗すると首を言い渡される瀬戸際でもあった。
そんな泰子や他の者も、長瀬を見て転職を考えている状態であり、今回はあまり気が乗らないのである。

そんな、スタッフを見て長瀬は、気合を入れているのであった。
「どうせ、またやらせの企画なんでしょう・・・」っと泰子。

スタッフたちには、打ち合わせなし、当日知らされる企画、そしてぶっつけ本番の長瀬のやり方について行けない処があった。

「何を言ってるんだ、やらせのどこが悪いっと言ってるんだ、映画だってやらせじゃないか、映画も俺たちも夢を売っている商売だ、それをドキュメンタリー風にしているから、一部で誤解を招いているかもしれないが、大多数のお客さんは、理解している上で観てるんだ」っと、運転をしながら長瀬が、フロントガラスに唾を飛ばしながら言っている。

「私、本物の幽霊や、奇怪な現象を取材したくてこの会社に入ったんですけど、まさか、視聴者の投稿手紙やビデオまでもやらせだとは思いませんでした・・・ぶっちゃけ、初めて言いますけどね・・」っと入社1年目の泰子。

「あのな、泰子、おまえ、幽霊なんてほんとにいると思うのか?・・バカかおまえ・・子供がさぁ、サンタさんがよい子に贈り物を持って来るっていうのを信じているのと同じだよ」っと長瀬。

車は、高速を降りて、山の中の林道を走り始めている。
あたりは、夜の9時をまわり、どっぷりと暗闇に包まれ、車のライトだけが山の中で動いている。

「いいか、よく見てみろ、ふなっしーや、ゆるキャラたちは、絶対に顔を出さないだろう、質問する側も中身は人間だと知っていても、絶対にキャラ以外は聞かないだろう、誰も無理に中身をあばこうなんてしないんだよ、それは、ゆるキャラは夢があるからなんだよ、俺たちもそう、幽霊やサンタはいないんじゃなくて、夢なんだよ、みんな夢を与える商売なんだよ・・・」っと長瀬。

「サンタと幽霊をいっしょにしちゃダメでしょ・・」っとボソっとカメラを回しながら木戸が言っている。

「俺、いいこと言っているな、この部分編集で使おか・・・」っと長瀬。
「どうぞ、ご勝手に・・」っと泰子があきれ顔で言っている。

すると、突然、ガガガッ・・大きな音と共にみんなの身体が浮き上がって、天井に頭を強打するのであった。

車の後ろを見ると、大木がころがっており、どうも乗り上げたみたいであった。
数日前の台風の影響のようである。

「おい、大丈夫か?・・・いてて・・・」と長瀬。
「はい、大丈夫みたいです・・」っとスタッフ。

互いに顔を見合わせて、血が出てるよっと言っている。
額から血が出ている。

泰子は救急箱から絆創膏を取り出し、みんなに貼ってあげている。
「今日は、出直しましょうよ」っと泰子。

「いや、ここまで来たんだから根性で行くぞ!」っと、強打した頭を押さえながら意気込む長瀬。

呆れるスタッフ。
車は、また大木が転がってないか、ゆっくりと林道を進み、目的の道場の廃墟に着くのであった。

現場は、荒れ果てた廃屋で、あたりは真っ暗、懐中電灯の灯りだけが頼りである。
撮影開始と長瀬の指示で、泰子がカメラに向かって「ここが、2年前に起こった集団自殺の道場であります」っと真剣な顔で言っている泰子であるが、心の中では、「どうせ、この場所も適当に見つけた嘘の現場でしょ・・」っと思っている。

長瀬の指示でスタッフが入り、撮影が順調に進んだその時、音声の土田が悲鳴を上げた。
「ううぁぁー、誰かいる誰かいる誰かいる・・・人、ひと、ひと・・・」っとわめきだした。

カメラのライトが土田の指さす方へ向けると、一人のひげを長く伸ばした老人がぶつぶつと言いながら右手に杖を持ち立っていた。

みんなは、驚いて後ずさりをしたが、長瀬は、ゆっくりと老人に近づき「もしもし、あの・・・」っと老人に声をかけるのであった。

老人は、黒い着物姿で、顔は黒っぽく、目だけが白く、しかと見開いていた。
「お前ら、何しに来たんじゃ・・・」っと老人。

「いや、今回この場所で事件があった事の取材で来てるんです・・・でも、おじいさん、なんでこんな処にいらっしゃるんですか・・・しかも、電気もつけず真っ暗な中で・・・」っと長瀬は老人に言っている。

「わしは、この道場の家主で、若い子たちがこの道場で命を絶ってしまって、迷える魂を慰め、毎晩来て、供養しとるんじゃ・・・・お前らも、とっとと元の場所へ帰れ!」っとまた、目をつむって読経をするのであった。

長瀬は、「おじいさん、ここに住んでるんですか?ご家族の方は・・?」っと聞くのだが、老人は、目をつむって岩のように動かなくなった。

長瀬は、スタッフに「ダメだ、もう何も言わない・・・おい木戸、この老人の周囲からのカット、撮っといて、後で、編集で面白くするから・・」っと言う。

泰子は、「このままには、放っては行けないでしょう・・」
「山降りたら、警察に連絡して、保護してもらおう・・・ちょっとボケてるかもしれないけどね・・・」っと首をひねっている長瀬。

「とりあえず、もうちょっと、家の中を散策して、庭とか周囲を撮って終わりにしよう」っと長瀬も、気味が悪いのか急ぎだした。

一通り、撮影を撮り終えた長瀬たちは、老人に挨拶をして廃墟を出るのであった。
老人は、あいかわらず岩のように固まって立っている。

泰子が、「あれ、車このへんでしたよね・・・」っと懐中電灯であたりを照らしまくりながら言っている。

「そうだね、このへんだと思ったんだけど、ちょっとみんな、手分けして捜してくれるかな?」っと長瀬。

15分ほどめいめいに捜したが、見つからない。
「おかしいなぁ、まさか、盗まれた?・・こんな時間に、・・・山奥で・・」っと木戸。

「ちょっと、おれ、老人に聞いてみるわ・・?」っと、小走りで長瀬が廃墟に向かうのだった。

長瀬が戻って来て、「老人、いないんだよ・・どこへ行ったのかな・・あんなに、ガンとして動かなかったのが・・・」

「ひょっとして、俺らの車で逃げたとか・・?」っと木戸。
「まさか・・?」っと泰子。

「おれ、あの老人、なんか・・・幽霊のような気がしたんだけど・・・」っと土田。
「馬鹿な事を言うな・・っというよりもそれだったら、スクープで面白いけどな・・・」っと、ニヤっとする長瀬。

「何言ってるんですか、取りあえずこの林道を下ってみません、サイドブレーキをかけ忘れていて、車が下がってどこかでぶつかっているかもしれないし・・・・」っと泰子。

みんなは、来た道を戻って、辺りを懐中電灯で照らしながら進んで行くのであった。
「おれ、サイドちゃんとかけたけどなぁ・・・」っとひとりでぶつぶつと長瀬が言っている。

しばらくすると、例の大木が横たわっている所まで来た。
すると、土田が、「あった!あそこ、あそこ!」っと指さしている。

林道から10mくらい下の方にワンボックスカーらしき車があり、ぐっしゃとなっている。
「やべぇ、ほんとに、あれか?・・ちょっと降りてみよう・・もしそうだとしたら、助けを呼ばないとな・・」っと長瀬。

「何のんきな事を言ってんのよ、やっぱり、あんたがサイドブレーキかけてないからでしょ・・・もうどうすんのよ・・・帰れないし、野宿ジャン・・・」っと泰子は、ためグチで真剣に怒っている。

みんなは、暗がりの中、10m下の車までゆっくりと、気を使いながら降りて行き、たどり着くのであった。

土田が、「中に誰かいる!・・」っと声をこわばらせて、みんなの顔を見ながら言っている。
長瀬が、壊れたドアの隙間から覗くと、「うわぁ、誰かいる、木戸、ライトライト!」っと言っている。

木戸がカメラのライトを近づけると、血まみれの4人が折り重なるように死んでいた。
ゆっくりと4人を見ると、長瀬が叫び出した「こ、これ・・・おれたち・・!」

4人は、懐中電灯で車内を照らす。
あまりにも悲惨んな姿に嗚咽しながら、「おれたち、ここに居るよね・・」っと土田。

「これは、いったい誰・・?私たち、死んだの・・?」っと泰子。
4人は、互いに顔を見合わせ、指さしながら、「幽霊・・?・・まさか、ね・・ぇ・・」と言いながら、事故車の4人を見ている。

すると、長瀬が、車の壊れていない窓を指さしながら、「オ、オーブ」っと言いだした。
そう、ガラスに映っている4人のオーブが揺れ動いている。

お互いに直視するのは、生前の姿なのだが、鏡やガラスには本当の姿が映っているのであった。

しばらく、沈黙が流れた。


突然泰子は、大声で泣き出した「おかーさーん、私死んじゃった、これからの幸せな人生が、なくなった・・・・」

「俺わぁ、家のローンが・・」っと木戸、「子供生まれたばっかりなのに・・・」っとしゃがみこむ土田であった。

ひとり元気なのは、「やっと、本物の幽霊に出会った・・・やらせなんて言わせないぞ・・・なぁ、みんな・・・」っと長瀬だけがはしゃいでいた。

そう、長瀬たちは、あの大木に乗り上げた時、まっさかさまに落ちて、その時に全員亡くなっていたのであった。

あの老人は、4人に現実を知らせるために現れたお地蔵さんの化身であった。
あの時彼らが見たのは、岩のようなお地蔵さんであった。

やがて、観念をした長瀬以外3人は、光に包まれ成仏の道へ進んで逝ったのだが、長瀬だけが、この地の観光客やハイキング客を脅して楽しむという悪趣味に徹するのであった。

その後、悪霊と共謀し、お地蔵さんの化身である閻魔大王のさばきを受ける事になるのであった。


職業柄、地獄のレポートに奮闘する長瀬の姿が、皮肉にも現生ではなく地獄で有名になるのだが・・・・・・・DVD化はないのである・・・。







   #026 「エレベーター」


「おい、早くしろよ・・!」っと急いでテレビ局の廊下を走り、エレベーターに乗り込む笑桂亭今市。

その後を追いかけるようにして、今市の後を走る弟子の景子である。
時間は夜の6時を回っている。

「なんで、お前、大事な発表会の前に、こんなバラエティなんか入れるんだよ・・!」
っと、今市は景子に嫌味を言っている。

「すみません師匠・・」っと今市のかばんを両手で持ち、か細い声で謝っている。
今市は、関西でも有望な落語家であり、その創作落語は、オカルト風刺で大衆に人気があるのであった。

テレビラジオでも、引っ張りだこで、景子は今市の弟子でありながら、マネージャー兼かばん持ち兼運転手であった。

なかなか本業の稽古を付けてもらえなくて、しかも要領が悪く、声も小さいし暗いと来ているので、今市はよけいに景子にあたるのであった。

今市にとって、まわりの関係者にペコペコして、ストレスが溜まるのを景子にぶつけて、解消するのが好きであった。

そんな今市は、年に一度の創作落語大会に参加するのが楽しみであった。
それが、これから行く所である。

エレベーターは、地下二階の駐車場に止まり、景子は走り出して車を取りに行くのであった。
今市は、エレベーターを降りた所の乗降口で車を待ち、いらいらとしている。

景子が、車を乗降口までつけ、後部ドアを開けて、今市を車に乗せるのであった。
すぐさま、車は発進して街の中を走るのであるが、この時間帯は渋滞で止まってしまう。

「おい、間に合うのかよ!・・会場はどこや?」っと今市。
「はい、今年から千里の会場に変わりました。」っと景子。

「市内じゃないのか、あと4,50分で行けるのかよ!」っと怒鳴る今市。
「だから、こんなくだらないバラなんか入れるからや!・・・」っと苛立つ今市。

運転をしながら景子は、「はい、師匠、でも去年優勝されたんで、今回の出番はトリになりますので、1時間は時間稼ぎが出来ます」っとルームミラーを見ながら言っている。

「お前、アホか!客やないんやから、着けばいいってもんやないやろ!出る前の集中時間ってもんがあるやろ・・・アホんだらが!・・・」っと苛立ちはピークを見せていた。

「すみません・・・」っと、泣きそうになりながら運転をしている景子であった。
このバラエティを入れたのは、景子ではなく、今市のスポンサーからのお願いで、今市が勝手に安請け合いをした仕事であった。

景子は、一度今市を止めたのだが、「このスポンサーがあっての、俺や!うだうだゆうな!」っと今市は、景子に一喝した事を忘れているのであった。

車は、堺筋の大渋滞であったが、中之島公会堂、裁判所と通り過ぎ、梅新から新御堂筋に入れば、スムーズに走れるのであった。

新御堂を降りて、車は閑静な住宅を通り抜けて行く。
「師匠、もうすぐです、ホテルの裏側に参加者用のエレベータがありますので、そこまで着けます」っと言って、小高い丘の方へ車は進んで行った。

時間は、6時40分、7時から本番である。
広々とした駐車場の端の建物に車をつけ、景子は後部ドアを開け、今市に「どうぞ、この建物の中にすぐエレベーターがありますので、すぐ乗り込んでください」っと促した。

「わかった、!」っと言って、小走りで建物の中に入る今市であった。
建物のまわりは真っ暗で、ホテルにしては、灯りが寂しいっと思いつつ、あせっているので、余計な事は詮索をしないようにしている今市であった。

建物の自動ドアが開くと、6基のエレベーターが並んでいた。
後から来た景子が、「エレベーター横に名前がありますので、そのエレベーターに乗ってください」っと言う。

「へぇー、変わってるなぁ、一人ひとり専用のエレベーターかいな・・」
っと今市は、他のエレベータ横に貼ってある名前を見ているが、今日の参加者の名前がないような気がしている。

それより早く行かないとっと思い、ボタンを押すのであった。
後ろに景子がいる。

ドアが開くのだが、「えぇ、変わってるなぁ・・・」っと、今市。
自動ドアが上下に開くのであった。

今市は、「なんや、救急車にあるストレッチャーみたいなのが中に入ってるで・・?誰か忘れてるんとちゃうか?」っと、暗いエレベーター内を見渡している。

「師匠、急がないと!遅れます!」っと景子。
「あぁ、わかった!」っと言って、ストレッチャーの上に取りあえず乗りこみ、「乗るスペースないから、お前、後のエレベーターからすぐ来いや!」っと景子に言うのであった。

今市は、「なんや、これ、焦げた匂いがするし、白い粉みたいなもんが台にあるし、壁が、ゴツゴツした金属?なんちゅうエレベーターや、これ、貨物用やないのか?」っと四つん這いになりながら、ドアが閉じていくのを見ている。

「おい、真っ暗やで・・・電気、でんき・・・」


景子は、深々と頭を下げ、「師匠、いろいろとお世話になりました」っと言って、
壁についているボタンを押すのであった。

そのボタンの横には、点火っと書いてる。
轟音と共に、師匠の悲鳴が聞こえるが、それも数十秒で聞こえなくなった。


今市が、ここまで有名になり人気を博したのは、景子がすべて創作落語のネタを書いていたからであった。

何度か今市に言って、自分で発表したかったのだが、ことごとく、断られ、恨みを覚えるようになったからであった。

エレベーターと思われていたのは、台車式の火葬炉であった。
景子は、父親がここの職員でよく幼い時から、この斎場で遊んでおり、よく知っていたのであった。

エレベーター横に並んである名前は、明日葬儀を行う予定の人たちであった。

「師匠、今日のこのネタ、明日師匠に変わって、私が、僭越ながら発表させていただきます」っと言って、2時間後の骨上げの様子をネタ帳に書き写すため、ひとまず待合室に向かうのであった。

明日が大阪市内の某一流ホテルで開催される事を、今市は知らなかったのであった。
廊下の自販機でコーヒーを買い、「うん、タイトルはエレベーター!これにしよ!」っと言って、待合室でノートに書くのであった。

満月の夜空は、それを覆うかのように一筋の煙が空へ上るのであった。



翌日、景子は会場に一人で行き、今市が欠席で自分が一番弟子として代りに発表する事になりましたと告げると、担当者は、「ええ、今市師匠から聞いております、今回は一番弟子の景子様が、発表されると聞いております。」

キョトンとする景子に「なんか、ご本人様には内緒で、当日まで言わんといてくれとおっしゃてられましたね」

「ネタは、ご本人がいくつもネタを持っているので、突然言われても大丈夫だと師匠は笑っておられ、信頼してらっしゃいましたね」っと担当者が言い、「あっ、そうそう、これを預かっております」っと言って、一つの大きな箱を景子に渡すのであった。

羽織であった、今市は、この発表会で景子をデビューさせるサプライズを考えていたのであった。

景子は、それを持って黙って自分の楽屋へ入って行った。
出番が来て、今市が作った羽織を来て壇上にあがり、創作落語をするのであった。

その様子は、景子のとめどもなく涙があふれての語りぶりが、観客は、すごい迫力ととり、評判となったのはいうまでもない。





    #025「いたずら」


会社の同僚足立と二人で、俺の家近くの駅前の飲み屋で、久しぶりに飲んで盛り上がっていた。
夜も10時をまわり、店を出て帰ろうと歩いていた。

足立は、「お前がもめていた家ってどこだっけ・・?」っと酔っぱらって俺にもたれて言い寄って来た。
そう、居酒屋で酒のさかなに、俺は足立にグチをこぼしていたのであった。


それはある出勤前の朝、俺は、その問題の家の前をチャリンコで通りかかろうとした時の話である。
いきなりその家の駐車場から車が出て来て、危うく俺は轢かれそうになった事があった。

頭に来て、その家の主人らしきおっさんに文句を言ったら、逆切れしたそのおっさんは、お前が悪いみたいな事を言ったので、喧嘩をしそうになったのであった。

しかし、電車に乗り遅れるので、その場は捨てゼリフを残して駅に向かったのであった。
そうゆう話を、飲み屋で足立に俺はぶちまけたいきさつがあった。



俺は、足立に「この先の角の家だよ・・」と言った。
「おー、俺いいこと思いついた」っと足立。

「なんだよ?・・・」
「あそこに花屋があるじゃん・・」っと指さす足立。

こんな時間に、あんな所に花屋があったかなっと思いながら見ていたら、「俺、ちょっと花買ってくるわ・・」っと言いながら足立は、花屋に千鳥足で歩いて行った。

俺は、「ちょっともようしたから・・・」っと言って、線路わきの草むらに用を足したのであった。
足立が戻って来て、「これ買った!」っと言って手に菊の花数本を持っている。

「どうすんだよ、そんな物・・・」っと俺。
「これを、お前の仕返しとして、その危ないおっさんの家の前に置くんだよ・・」っと足立。

「変な事すんなよ、通報されるぞ!」っと俺。
「よく、横断歩道横に、花が添えられている風景見るだろ・・・」

「それって、その場所で誰かが死んだからなのよね・・・・」
「いつか事故を起こしそうなそのおっさんの警告の意味も含めて、ちょっとした悪戯だよ・・・」っと足立は、俺はいいことをしているみたいな顔をしてその家に向かって歩いて行った。

俺も、まんざらな気分でもなく、花を置いたくらいで捕まらないだろうっと思って足立の後をついていった。

その問題の家は、駐車場付のごくありふれた家で、その塀にそっと足立はあたりを見回しながら置くのであった。

置くと、我々は、何事もなかったようにスタコラと歩いた。
後ろを振り向くと誰もいない・・・・成功である。

翌日おっさんの顔や、その花を見た通行人の顔を想像するだけで、我々は愉快な気分に浸れるのであった。
「じゃ・・俺はここで帰るわ・・」っと足立は、駅の方へ歩いて行き、「明日、どうなったか報告しろよ・・」っと振り向きながら帰って行った。

俺もなんか、明日が楽しみに、にやにやしながらと家に着いたのであった。



翌朝、会社ですかさず俺を見つけて、「どうだった?・・・」っと足立が言い寄って来た。
「うん・・・お前、今朝のニュース見てないのか?・・・」っと俺。

「えっ、ニュース?あ、俺、朝はバタバタしてるからテレビ見ないんだけど、なんかあったん?・・・」っと足立。

「そうか・・・」っと俺は、いやな気分で、ニュースの内容と、朝現場を通った様子を足立に説明をし始めた。

「それが、夜中に事故があったらしく、二人乗りの原チャリがあの花の置いた塀にぶつかって二人とも亡くなったらしいんだ。」

「だから、夜中、パトカーや救急車で大騒ぎになったらしいんだよ」っと、ぼそぼそと俺は話していた。
顔色を変え、足立は「まさか、あの花でそうなったと思ってるのか、・・・馬鹿馬鹿しい・・偶然だ!」っと、ちょっと、むっとしながら言っている。

「いや・・・それだけじゃなくて、まだあるんだ・・・」っと足立の顔色をうかがいながら俺は続けた。
「あの親父、事故が起きたのが午前3時で、その1時間前に、遅く帰って来た息子と大喧嘩になり、息子を包丁で刺して殺してしまったらしいんだよ・・・」

「そして、その親父もその後で首を吊って死んだらしいんだよ」っとぼそぼそと俺は言った。
足立は、「えっ、・・・・そんなの偶然、偶然・・・気にする事ないよ・・・」っとさすがの足立も顔色を隠せないでいる。

「お前、あの花、ほんとに花屋で買ったのか・・?」っと俺。
「ああー、ちゃんと店で買ったやつだよ・・・」っと足立。

「む・・ん・・、今朝、駅に向かうとき、昨日のその花屋を見に行ったら・・・・」
「・・・・・なかったんだよ・・・街灯下に小さな祠があるだけなんだよね・・・」

「昨日も小便しながら、いつ花屋がここに出来たのか、不思議に思ってたんだけど・・・」
「お前、お金払って買った?・・・」っと俺が足立に問いただすと足立は、「当り前だろう・・・ちゃんと・・・・」「払・・・た・・と思うけど・・・」っと不安げになる足立。

「だって、お前だった花屋見てただろう?・・・」
「いや、俺小便してたし、灯りが点いているのは見たけど・・・あれって、街灯の灯りだったのかな・・?」っと俺も酔っ払っていたので、記憶が曖昧であった。

「じゃー、なぜ、花をおれが持ってんだよ・・・」っと言い寄る足立。
「それが、いつもあの祠に添えてある花瓶に花がないんだよ・・・いつも、近所の人が花をきらさずお供えをしてるんだけどね・・・・・」っと上目づかいに足立に俺は話を続けた。

しばらく、二人の間の冷たい空気が張り詰め、その場に立ちすくんでいた。

足立は急に「俺、今日、早退する・・・」っと言いながら、かばんを持ってバタバタしながら帰ってしまった。

俺も帰りたかったが、帰り道あの祠のそばを通らなければならない事を思えば、逆に会社に泊まってしまった。


翌日から、足立は無断欠勤が続き、・・・そして消息を絶ってしまった・・・

俺は、まだ生きていると思うが、会社の者には存在感がないらしく、ある日、俺の机の上に菊の花が添えられていた・・・・






#024「とある会社の朝礼風景」


「いやー、みんな、今回も賞を取ったぞ!」っと得意満面に言っている部長。
「この玲子君のCMがコンペで1位になり、今度で2度目の受賞になったぞ!」

「いやー、玲子君は才能があるというか、おとなしい顔してトリッキーだよね」
「トリッキー玲子と呼んじゃおうかなー!」っと玲子の方に指差し、にやにやしながら、みんなに言っている。

まわりの社員は「部長、部長、誰のことを言っているんですか?」とキョトンとしながら部長を見ている。
「誰って、ここにいる玲子君じゃないか、何言ってるんだ!」っと、ちょっとむっとしている部長。

社員のみんなは、互いに顔を見合わせながら「玲子って、2年前に過労死した山本玲子の事かな?・・」っと首をかしげながら言っている。

「なに馬鹿な事を言ってるんだ、ここに居るじゃないかっ!」と、そばにいる玲子を見ると・・・・


玲子は、「部長、トリッキーな玲子じゃなくて、私はとり憑き玲子です・・・」っと、部長の背中にすーっと入っていった・・・・・とさ。





     #023「謀反・・・?」


「おじゃまします・・・どう、元気?・・・」っと孝雄が、友達の病室に入って行った。
「やぁ、来てくれたんだね・・・大した事ないのに・・」っと友達のわたるがニコっとしながら言っている。

「あれ、その子は・・・・?」っとわたる。
「いやー、妹の子供で浩太って言うんだけど、遊園地に連れて行けって、せがまれちゃってね・・・」

「なーんだ、てことは、ここへはついでかよ?・・・」っとわたる。
「違う違う、ほんとは、前から今日はここへ来るつもりだったんだよ・・」っと慌てる孝雄。

「いいよ、無理しなくて・・・明日、内視鏡で胃の中のポリープを採るんだ。」
「切らないから、2,3時間で終わるらしいんだ・・だから、心配ないんだ」

「そうか、それはよかった・・・あっ、これ、お見舞い、食べれるようになったら食べて・・・」っと、孝雄は個人用のテレビ台の下にある引き出しに、お見舞いのフルーツゼリーを入れるのであった。

「あー、ありがとう・・・わるいネ・・」っとわたる。
浩太がすーっと、わたるのベッドに歩み寄って、小さな手でわたるの胃のあたりをさするのであった。

わたるは、浩太を見て、「そうだよ、おじちゃんの胃の中に出来物があるんだよ・・・明日それを採るんだけどね」っと笑いながら言っている。

浩太は、わたるの顔を見て、「おじちゃん、がんの手術をするの?・・・」っとつぶらな瞳でわたるに言っている。

わたるは、「えっ!がん・・・?」っとうろたえている様子。
それを見た孝雄は、「浩太、何を馬鹿な事を言ってるんだ・・・おじちゃんは、普通のおでき・・胃に出来たニキビみたいな物を採るだけなんだよ・・」っと、浩太をベッドから引き離し、浩太の顔を見て言っている。

「悪い、悪気があって言ってるんじゃないんだ、まだ、何も知らない子供だから・・・すまない・・・」っと言って、浩太の頭を持って、わたるにペコっと頭を下げる孝雄であった。

「あっ、いや・・いいんだ・・ちょっと、驚いちゃって・・・」っと、わたる。
「実は、そうなんだ、浩太君が言っているガンらしんだ・・・ただ、初期なので、心配する事じゃないらしんだけど・・・ね」

「浩太君、いくつかな・・・?」っとわたる。
浩太は、「3つです・・・おじさん・・・ガンってね、今までは普通に働いていた細胞たちなんだよ・・・それが、ある日、突然、今まで仲間だった細胞たちに刃向かってやっつけようとするんだよね・・・つまり、謀反を起こしたんだよね・・・」っと真剣なまなざしの浩太。

わたるは、「ムホン・・って、そんな言葉知っているの・・・?」
孝雄が「あぁー、この浩太、時代劇のドラマが好きで、よくテレビで見て、ぶつぶつ言ってるのを見たことがある・・なんで、本能寺で信長が殺される事になったの?・・とか・・変な事を口走ってたな」

「うん、信長が殺されたのは、信長に何か原因があったからなんだよ・・」っと浩太。
「いっしょだよ、ガンも・・・何かの原因で、自分の仕事が嫌になって、ガンになったんだと思うよ・・・普通、嫌になったら、仕事を辞めて、逃げるか、逃げられないなら、自殺をするとか・・いろいろあるよね・・・だけど、恨みを持って、今まで仲間だった友達を殺したり、自分たちの仲間にしようと増殖をするんだよね」っと真剣にわたるに言っている浩太。

「孝雄、この子、なに言ってるのかな?・・・難しい事を言ってるけど・・・凄い!」
半分あきれ顔なわたるであったが、最後まで浩太の話を聞いてみようとするのであった。

「浩太、もういいよ・・おいとましよう!・・・」っと孝雄が浩太の手を引っ張る。
すかさず、「だめだめ、ちょっと最後までこの子の話を聞こうよ・・」っとわたる。

浩太は、孝雄の渋そうな顔を見ながら、わたるの方へ振り返り、話を続けるのでありました。
「だから、謀反者のガンは、何かしら不満があって、行動に出たんだよ・・・そして、血管という街道を伝って、仲間を各地に送りこみ、そこで戦争をして増殖し、ゆくゆくは、国を統一する・・・つまり身体全体の事を制覇しようとするんだよね・・・」っと浩太。

「ちょ、ちょっと、待ってね・・・・!」すかさず、浩太が子供だと忘れて、突っ込みをいれようとするわたる。

「ガンが身体中を制覇したら、謀反を起こしたガンたちも死んじゃうじゃない・・?」
浩太は、「そう、ほとんどの人は死んじゃうんだけど・・・中には、稀に、ガン細胞だけで生きて行けるか・・・もとの姿、良性細胞にガラっと変わる・・・オセロの駒が一斉に黒から白に変わるようになるんだよね・・つまり、新しい人間もしくは、新しい生き物の誕生で、人間のフルモデルチェンジなのよね・・・その現象が多くなればなるほど、それが新人類の誕生で、地球上を支配していける事になると言われているんだよね・・」

っと得意満面の浩太であるが、大人二人は顔が引きつっている。

「浩太、大丈夫か?、この子、変わっているとは聞いていたものの、・・・・テレビの影響かな・・・」っと孝雄は首をかしげている。

「じゃー、おじさんは、どうすればいいのかな・・?」っと浩太を覗きこむようにわたるが言っている。
「ここ、胃の細胞たちの悲鳴を聞いてあげて、いたわってあげないとダメだよ・・」っと浩太。

孝雄が、「わたるは、大酒のみで、暴飲暴食だからなー・・胃が悲鳴をあげているのも無理もないんじゃないかな・・・」

わたるは、自分の胃を見つめながら、「でも仕事のストレスで、すぐ同僚と酒を飲んで、焼き肉をたらふく食うのが、ストレス解消方法なんだけどな・・・」っと、つぶやいている。

「ストレスで、胃が一番悲鳴を上げている所へ、猛毒のお酒、そして、山ほどの脂っこい焼き肉を入れられ、おまけに、タバコまで・・・これって、瀕死の人間に過酷な重労働をさせるようなものじゃない?・・・」っと孝雄。

「普通は、いたわって消化のよいお粥とか、お豆腐なんかで胃を和らげ、後は、早く寝る事じゃない・・・当たり前の話だけど」っと孝雄。

「ごもっともでございます・・・」っとしょげかえっているわたる。

浩太が、「おじさん、おじさんの身体はおじさんの指示で動いているんだよ、つまり、おじさんは車の運転手で、身体は車そのものなんだよ・・・」っと言っている。

「えっ、それってどうゆう事?」っと二人が浩太に言っている。
「おじさん自体は、魂でたまたまこの世でこの身体を任されただけにすぎないんだよ・・・だから、もし、身体が死ねば、また新しい身体・・新車がもらえるっという事なんだよ・・・ただし、記憶は全部消されるけどね・・・」っと浩太。

「ナニ言ってるの・・・?」っとちょっと、馬鹿にした様子のわたる。
「じゃー、死んでもまた新しい身体をもらって、やりなおせるって事・・・なのかしら?」っとわたる。

「そうだよ、身体と魂は別って事・・双子の赤ちゃんって、同じ環境で育っても、性格や趣味も考え方も違う事が多いよね・・・子犬だって、五匹生まれても、気の強い子もいれば、弱い子もいるよね、同じ環境なのに・・・だから、兄弟でも身体は血がつながっているけど、魂はまったくの赤の他人・・たまたま、順番で、空きの身体があったから入って来ただけの事なのよね・・・だけど、身体の中の遺伝子が作用していて、魂に影響があり、性格が似か寄る事もあるけどね・・・」っと浩太。

「へぇぇー・・・」っと感心する二人。

わたるは、「ふーん、おじさんは、雇われ会社の社長で、この身体(会社)を任されているんだよね・・胃や肝臓、腎臓なんかは、会社のそれぞれのセクションで、そこで働く何億の細胞が社員なんだね・・・社員に思いやりを持たないと、謀反を起こされガン化されるのよね・・・なんか、わかったようなわからんような・・・でも、おじさん、こいつらを大事にするよ・・」っと自分の胃をさすってニヤっと笑っている。

「浩太、お前、ただモンじゃないなぁ・・前世ってわかる?」っと孝雄。
「うん、わかるよ、僕の前世・・・つまり前の身体は・・・」っと言うと、孝雄の耳にコソコソっと言うのでありました。

「まじか・・よ!・・もういいよ、頭おかしくなるから・・・」

「おい、もうこんな時間だよ!ひらパーでジェットコースター乗るんじゃなかったのか?・・・」っと孝雄。

慌てる浩太は、「あぁぁー、忘れてる・・・早く行かないと夕方になるよ・・・」っと孝雄の服を引っ張っている。

「わかった、わかった・・・わたる、これで帰るわ!・・・こいつの事あまり気にせんといてな・・・所詮、子供のたわごとやから・・・」っと、浩太と病室を出ようとすると、「おい、浩太くん、ポリープ採ったらまた来て、今日の話の続きをしてくれよ・・・」っとわたるは、ニコニコしながら手を振る浩太に言っている。

わたるは、胃に手を置き、窓の外の景色を見ているのだが、今日の景色はいつもと違った景色に思えた。
「ジェットコースター・・・か?・・・最近のガキは、大人ぶっているのか子供なんか、ようわからん・・・」

「あれ、ジェットコースターって、身長制限があるんじゃなかった・・・け?」

「思いつき、Myショートショート」#017~022

2014年03月03日 22時10分54秒 | 「思いつき、Myショートショート」

★ 関テレの番組で「よく考えるとハッとしてキャーな話」の中で、気に入ったお話をご紹介致します。
うる覚えなので、設定など勝手に脚色したかもしれませんが、オチは合っていると思います。

危篤状態のおじいさんと幼い孫の会話。
病院のベッドの横で孫のカナが、おじいさんの手を握って涙ぐんでいる。

おじいさんが、かすかな声で「じいちゃんは、おまえを愛してるよ・・・じいちゃんが死んだら悲しんでおくれ・・・」っと言って、この世を去って逝きました。

孫のカナは、「わかった」っと言って、おじいさんの手を握って大泣きをしました。
数日後、病院の近くの池で、幼いカナの遺体が発見されたそうであります。

そう・・・カナはおじいさんの遺言を守って自殺をしたのでありました。
「じいちゃんが死んだら悲しんでおくれ・・・・・じいちゃんが死んだらカナ死んでおくれ」・・・っと、カナはそう聞こえたのでありました。




   #022 「コラージュ」

「どう、これ!凄いだろう!」っと、アキラが幸雄と幸雄の彼女の唄子、そしてアキラの彼女の亜美に言っている。

4人は、正午から24時間交通量調査のバイトに行く前に、腹ごしらえに喫茶店に入っているのであった。
アキラが、食事をしている3人の前に一枚の写真を見せている。

「うわっ、これって例の・・・・・」
「そう、心霊写真!偶然撮ってしまったのよ!」っとアキラ。

写真は、住宅街の中の一角にある、昔からの小さな墓地が写っている。
その小さな墓地の墓石の上に、5,6歳くらいの髪の毛の長い少女が、ぼんやりと写っていた。

「うそだろう・・・」っと、幸雄。
「ホント、ホント!」っとアキラは言いながら、3人が真剣に写真を覗きこんでいるのを楽しんでいる。

すると、亜美が、「なんか、コレ、おかしくない?・・」
「この少女の身体の輪郭が、背景と比べると・・・変!・・」

「これって、・・・・合成でしょ・・!」
アキラは、「いやいや、いや、もうバレました?・・・早すぎ!もうちょっと怖がってよ・・!」

3人は、「馬鹿じゃない!・・・」「アホらし・・・」っと言って、アキラに写真を突き返すのであった。
アキラは、「やっぱりフリーソフトは、それなりのもんなのよねー!」

「でも面白いでしょ!コラージュって、面白いんだよ、例えばパンダの顔に自分の顔を張り付けたりとか、自分の写っている写真の顔に有名人の顔を張り付けるとか、結構楽しめるよ!」

「アキラは、相変わらず幼稚な事が好きなのよねー」っと亜美は、アキラを馬鹿にしてコーヒを飲みながら言っている。

しかし、唄子が「私もやって、やって・・・!」っとアキラの話に飛びついた。
「じゃー、俺もやってもらおうかな?・・・」っと幸雄も言い出した。

「ああ、いいよ!」っとアキラが、嬉しそうに言っている。
唄子は、「それじゃ、紅白歌合戦のきゃりーぱみゅぱみゅのワンシーンで、私の顔を張り付けて・・・」

「俺は、北島三郎がドラゴンに乗っているシーンに、俺の顔を付けてよ・・・」っと二人は、乗り気満々である。

横で、亜美は呆れている。
「面倒臭せーな!・・・でもいいよ!・・・じゃー、ちょっと二人の顔を撮らせてよ」っとアキラが、デジカメで二人を数枚撮るのであった。

「亜美は、どう?・・」「私は、いいよ!」っと相手にしない、「そろそろ、バイトの集合時間よ」っと亜美が言うと、バタバタと身支度をして喫茶店を出る4人であった。



数日後、違う場所での交通量調査のバイトで、4人が喫茶店で集まる予定であった。
アキラが、店に入ると「あれ?亜美だけ?・・・幸雄と唄子は、まだ・・?」っと言いながら、亜美のテーブルの対目に座ろうとする。

「そうなのよ、いくら電話しても二人は出ないの・・・」
幸雄と唄子は、いっしょに暮らしている。

「じゃー、バイト休むつもりなのか?・・・いいかげんな奴らだなー!」っとアキラは、呆れている。
「でも、その方が、好都合だなー・・」

「なんで、都合がいいの?・・何か知っているの?」っと亜美。
「そうじゃないよ、あいつらの事は知らねーよ!ただ、この間のコラージュの写真・・・うまくいかなかったんだ・・・」

「二人の希望のシーンに、顔を貼り付けようとしたんだけど、これが、何度やっても、うまくいかなくて、あげくの果てには、フリーズしてしまい、もう、止めにしたんだ!」

「やっぱ、フリーソフトは、アカンわ!ちゃんとした物を買わないとね・・・」っと、メニューを見ながら、カレーを注文するアキラである。

「ふーん!・・・」っと、言いながらコーヒーを飲んでいる亜美。
「でも、この間の少女は、うまく張り付いたのに、なんでだろうね・・・」っとアキラ。

少女の写真をカバンから取り出し、テーブルの上に置いてじーっと眺めだした。
すると、亜美もその写真を見ながら、「えっ、これ、前の写真っといっしょなの?・・」

「うん、いっしょだよ・・・」っとアキラ。
「でも、この少女、手に何か持っているみたいだけど、前はなかったよね?・・」っと亜美。

「えー、そんな馬鹿な・・・」っとアキラは、じーっと目を凝らして見ている。
たしかに、少女の両手にぼんやりと、黒いもやもやしたものが付いている。

小さくてよくわからないので、携帯でその写真を撮ってみて拡大してみた。
すると、「これって、人の頭みたいな物、持ってない・・?」っと亜美。

アキラは、「まさか、そんなわけないでしょーに!・・・」っと言い、亜美と顔を見合わせるのであった。
「気のせいだよ・・」「そう、かな・・?」

二人は、食事を終え、もう一度、幸雄らに電話するのであったが、出ない。
「あいつら、休む事、ちゃんと連絡してんだろうな・・・嫌な予感・・・怒られそう!・・」っとブツブツ言いながら、亜美と二人でバイト先に向かうアキラであった。



その日の夕方のニュースで、幸雄と唄子の首なし死体が自宅マンションにて発見されたと報じていたのを、アキラと亜美は知る由もなかったのであった。





「桂枝雀のSR(ショート落語)」

枝雀が、生前、短いネタをやっていたのを思い出して、ちょっと書いてみました。
うる覚えなので、多少違うかもしれませんが、オチは合っていると思います。

ある親子が、流れ星を見ていて、お母さんが「お願い事をするなら、今でしょ!」っと子供に言っている。
「うんわかった、じゃー言うね、えーと、お父さんに早く会えますように・・・」っと手を合わせ、空に向かって願い事を子供が言っている。

すると、お母さんが「お父さんに悪いわよ、もう少し、あちらの世界で楽しませてあげましょう」っと・・・・・・




  #021 「現実にありそうなお話?・・・」

とあるオフィスビルの夕方5時、「それじゃー、お先!」っと言って祐一は、同僚の孝子に向って敬礼をして、カバンを持って退社しようとしている。

孝子は、「また、合コン行くんでしょう!」っと祐一に指差している。
「せー、かーい、じゃね!」っと祐一

「ちょっと、ちょっと、待って・・」っと飛び出して祐一の後と追う孝子。
「なんだよ、急いでるんだから・・・」

「ごめんごめん、ちょっとお願いがあるんだけど、手間取らせないから、5分だけ、いい?・・」っと孝子は、両手を合わせて、祐一にお願いしている。

祐一は、時計を見ながら、「5分だけだぞ・・・」っと仕方なさそうに言っている。
孝子は、祐一を廊下にある飲料水の自販機の前のテーブルにひっぱって行き、「実は、田舎からお母さんが出てくるのよ・・・それで、今度の日曜日、会って欲しいの・・」

「なんで、おれが、孝子のお袋に会わなきゃいけないんだよ・・・」
「違うの、実は、田舎で私の縁談があって、どうしても見合いをしろときかないのよ・・・」

「見合いなんて嫌で、フィアンセがいると、つい言ってしまったのよ・・・」
「だから、わかるでしょ?」

「知らねーよ、なんで俺が孝子のフィアンセなんだよ・・・」
「だーかーら、お芝居よ!お母さんが帰るまでの間だけだから・・・」
っと、手をこすりあわせながら、祐一にお願いをしている孝子。

「嫌だよ、お袋さんを騙すなんて、良心が痛むよ!・・・お・こ・と・わ・り!」っときっぱりと、祐一は孝子に言う。

「そう・・・・、3万出すって言ったらどうする・・・?」っと祐一に背中を向ける孝子。
「えっ、3万・・・いやいやいや、金の問題じゃない・・そんな、人を騙すなんて・・」っと祐一の目が踊っている。

孝子は、追いうちをかけるように「これは、ビジネスよ、ちょっとしたアルバイト、仕事と思えばどうよ!」

「もし、ばれても、私からお母さんにちゃんと謝るから、他人を騙すわけじゃないし・・・」っと、ニヤっとしながら祐一を見ている孝子。

「アルバイト?仕事?・・か?うーむ、孝子の家の問題だからな・・・わかった、アルバイトやってやるよ・・そのかわり、ちゃんと、3万円用意しとけよ・・」っと祐一は、自分で自分を納得させるかのように、うなずいている。

「よし、契約成立ネ!、今度の日曜日、必ず家に来てね!」っと孝子は、急いで立ち去る祐一の背中に大きな声で言っている。

日曜日、孝子の家、小さなテーブルに孝子と祐一、向いに母親が座っている。
3人は、孝子のなべ料理を食べた後で、コーヒーを飲んでいる最中であった。

けっこう、調子に乗って祐一は、孝子のフィアンセ役のお芝居をリアルに演じている。
3万円だと思えば、罪悪感もない様子ではりきっている。

しかし、そんな祐一と孝子の様子を見て、母親は、笑いながら「なんか、ぎこちないような気がするんだけど、ほんとに結婚するの?」っと祐一の顔をじーっと見ている。

「ほんとですよ、・・・なぁ、孝子」っと、言っている。
「お母さん何言ってるのよ!祐一さんに失礼じゃない・・・」っと、おどおどしている孝子。

「何か変!・・・証拠でも見せてよ?・・」っと母親。
「証拠?・・・じゃー、」っと祐一は言って、口を突き出し孝子にキスをしようとする。

孝子は、祐一を掃いながら、タンスの引き出しから書類を持って来て、「これなら、どうよ・・」っとテーブルの上にその書類を広げるのであった。

祐一は、「こ・婚姻届・・・いつのまに・・・」っと不審げな顔をしながら、祐一は、孝子の耳元で小声で言っている。

孝子は、「こゆう事もあろうかと、一応準備しておいたのよ・・・」っと孝子は、祐一に小声でこそっと囁いている。

「どう、お母さん、ここで二人で署名するから、見ててよ!・・」っと孝子は、印鑑を持ち出して、自分の欄の署名をして印鑑を押すのであった。

横でおたおたと見ていた祐一は、「おれ、印鑑持ってないよ!」と小声で言っている。
「大丈夫、あなたの印鑑も用意してあるから・・・百均だけどね・・」っと祐一の顔を見ながら孝子は、笑っている。

祐一は「あー、そう・・・」っとしか言えず、黙って署名と捺印をしている。
「まぁ、怪しいけど、認めるわ!・・・・ちゃんと、役所に必ず出しなさいよ!」っと母親が笑っている。

「もちろんよ・・・」っと孝子。
「じゃー、帰りが遅くなるといけないから、これで帰るわ・・」っと母親は、荷物を持って、玄関に行くのであった。

「気をつけてね、式の日取りが決まったら、また連絡するからね・・・」っと孝子と祐一は見送るのであった。

玄関の扉が閉まり、二人が顔を見合わせて、「終わった!」っとため息をついている。
「お前なぁ、婚姻届まで用意するなんて、ワルだなー!びっくりしたよ」

「あーでも、しなければ疑い深いうちの母親は、納得しないのよね・・・」
「じゃ、これ破いていいね・・・」っと祐一は、婚姻届を破ろうとすると「あっ、ちょっと待って、お母さんが、忘れ物とか言って戻って来るかもしれないから、家に着くまでちょっと、置いておくよ」っと祐一から婚姻届を取り上げる孝子。

「あっそー、どんな親子なんだよ・・・」っと呆れる祐一。
「じゃー、これアルバイト料」っと言って、三万円入りの封筒を祐一に渡す孝子。

「サンキュー、ちょっと後味の悪いアルバイトだったけど、もしバレたら、ちゃんと説明するんだよ・・・」と、封筒のお札を確かめている祐一。

「ほんと、助かったわ、ありがとう・・・そのお金、合コンなんかに使わないでよ・・」
「いやいやいや、今のうちに遊んどかないと、後になって後悔しても始まらないからね・・・・」っとニヤニヤしながら、「じやー、お疲れ!」っと言って孝子のマンションを出て行くのであった。

孝子は、テーブルにあったコーヒーを入れなおして、一息ついている。
そこへ、母親からの電話が入って来た。

「孝ちゃん、うまく行った?」っと母親。
「バッチリよ・・これで、祐一は私の物」と孝子が言いながら、テーブルの上の婚姻届を眺めている。

「バレたら知らないからね・・・これって、結婚詐欺よ・・・」っと母親。
「心配ないわよ、自分の戸籍ってめったに調べないから、当分わからないわよ!」

「しかも彼の自筆の署名だもの・・・彼が違うっと言っても、誰も信じないって!」
「そして、彼が不当だと言って、離婚でもしようものなら、慰謝料をガッポリと取れるもんね・・・」っと孝子。

「ホント、あんたワルだよね・・・昔からだけどね・・・」っと母親
「お母さんに似たのよ・・・」っと笑みがこぼれる孝子でありました。

祐一が、街一番の大病院の御曹司だった事を孝子は知って、入社したのでありました。



   #020 「眠たい・・・」

「ふぁぁ・・、よく寝たなぁ・・」っと和也が、橋の下の草むらの斜面からムクっと起き上がった。

和也は、くんくんと鼻で周りの空気を嗅いでいると、「なんか、焦げた変な臭いがするなぁ・・・誰か焚き火でもしているのかなぁ・・・今何時?・・うわ、もう7時じゃん」辺りは、どっぷりと暮れていている。

「受験勉強で、寝てなかったからなぁ・・」っとカバンを持ち、立ち上がろうとすると、「痛い、頭痛い・・・風邪引いたかな?・・・・こんな所でうたた寝すれば、風邪もひくよね・・・・っというよりも、早く帰らないと、また、お袋さんに怒られるわ!」というと、一目散に走って家に帰るのでありました。

「ただいま・・・」っと和也がドアを開け、家に入ると、誰もいない。
和也の家は、父親の大手電機メーカーの平屋の社宅であった。

「あれ、二人ともどこへ行ったのかな・・?」っと、部屋をあちこち捜してもいない。
でも、電灯はついている。

変だなっと思っていたら、「あっ、そうだ、今日、親父たち、銀婚式?っと言って、二人で温泉旅行に行くと言ってたよね・・・忘れてたわ・・・でも、いい気なもんよね、人が受験で苦しんでいるっというのに・・・

まぁ、いいか・・・今日は、俺一人だもんね、たまに勉強をやめて、ゆっくり羽のばそう・・・」っというと、ゴロっとソファーに寝っころがるのであった。

しかし、眠くて眠くて仕方がない和也は、自分の部屋のベッドへ向かうのでありました。
すると、両親の部屋のドアが開いていて、灯りもついており、変だと思い、中へ入るのであった。

和也が、部屋に入ると、両親のダブルベッドの上にベットリと血がついているのであった。

和也は、一瞬に目が覚め、「うわぁ・・何これ・・・、いったい、どうゆうこと・・・」と言って、その場で座り込んでしまった。

辺りをキョロキョロと見回しても、両親の姿が見えず、床に両親を引きづった後のような血のりがついている。

和也は、「親父・・・お袋・・・どこにいるんだよ・・」っと大声を上げながら、恐怖が全身を駆け巡るのを感じるのであった。

そばにあった父親のゴルフクラブを持ち、剣道のかまえのように身構えながら、家の中をジリジリと捜しまわるのであった。

しかし、両親はいない。
和也は、警察だと思い、電話をかけるのであるが、受話器から発信音がない。
「電話線を切られてる?!・・・」「くそ・・・!」っと言って、キョロキョロしながら、クラブを両手で持ち、家の外に出るのであった。

そして、父親の車がないので、犯人はその車で両親を連れ去ったのだと思うのでありました。

和也は、隣の社宅に走って行き、呼びリンを鳴らし、ドアを思いっきり叩き、「助けて、開けてください!」っと何回も叫ぶのであった。

しかし、誰も出てこない、仕方ないので、また隣の家に行き、叫ぶのであるが、誰も応答がなく出てこない。

ふと、自分が居眠りをしていた遠くにある橋のたもとを見ると、煙が出ていて、パトカーやら、野次馬などでごった返している様子が目に入った。

「み・・みんな、あそこに行って誰もいないのかなぁ・・・」っと思い、「そうだ、あそこに警官がいるんだ!」っと和也は叫び、一目散に橋へ走りかけようとすると、自分の腕が掴まれる感覚に気がつくのであった。

振り向くと、二人の男女が立っていた。
「親父、お袋、えぇぇぇ・・どうしたの?・・生きてて良かった!・・・心配したじゃん・・・」

二人の元へ駆け寄ると、両親の頭から血が流れているのを和也は、見て驚き、「血が出てる・・・早く病院に行かないと・・・」っと言うと、母親は、「もう、いいんだよ、和ちゃん」っとにっこりと微笑んでいる。

父親も「いろいろとお前も苦しんだんだよなぁ・・・もう心配いらないから、母さんたちといっしょに行こう・・・」っと言って、グイっと和也の腕も取り、母親がもう片方の和也の腕を取って、「病院へ行くの?・・・」っという和也の言葉と共に霧の中へ3人は消えていくのでありました。

翌日の朝刊の3面記事に、受験生の息子が、両親をゴルフクラブで殺害、父親の車で逃走したものの、橋の上でスリップをして、川べりに転落、その後、息子は睡眠薬自殺をはかった様子で、3人が絶命している所を通りがかりの通行人に発見されたもようであります。

息子の学校の友人は、以前から受験の事で、両親と言い争いをして悩んでいたと言っており、これが直接な原因かと警察は慎重に調べを進めているそうであります。・・・っと、小さな記事で書かれてありました。




   #019 「おみくじ」

県立第八九高校、野球部の夏合宿が始まった。
いつも県大会では、一回戦で負けている弱小野球部である。

今年も、コールド負けであった。
中学からの仲間であるキャッチャーの上田勇、ファーストの佐々木一郎、ピッチャーの野村肇の3人は、中学時代の野球部からの親友である。

今年同じ高校に進み、そして野球部に入り、ゆくゆくは、甲子園へ行く事を夢見る若者たちであった。

合宿は、一週間、山の中腹にある小学校の校庭で、練習をするのが毎年恒例であった。
宿舎は、3キロ離れた、山の麓にあるお寺の大部屋で、住職のご好意で貸してもらっている。

朝8時から、夕方4時までみっちりと体力造りと練習をするのであった。
宿舎のお寺から練習場までの3キロは、山歩きに等しいくらい坂道が多く、ランニングをして登るのは、結構つらいものがある。

そんな中、3人も今年から初参加をして、ヘトヘトの毎日であった。
ある日、練習がいつもの4時に終わり、3人は、帰り下山をしていると、空の雲行きが怪しくなり、今にも雨が降りそうな気配である。

遠くで、雷も鳴るっているみたいで、野村は、「オレ、雷、幼い時から嫌いなんだ・・」っと言っている。

上田が「まだまだ、雷の音も遠いから、大丈夫やろ」っと言って、この間DVDで観たオカルト映画を大げさに話している。

他の部員たちというと、大雨が降ると言って、走って帰ってしまっていた。
そんな事も気にしなくて軽く見ていた上田たちが、二人を脅かそうとオカルト映画のオチを大声で言おうとした時、・・・・もの凄い轟音と共に、10m先の大木が、火を吹いて倒れるのを目の当たりにするのであった。

3人は、大声で「わぁわぁ、落ちた!」っと叫んで、その場で倒れこむのであった。
すると、大粒の雨が、勢いよく地面に叩きつけるように降って来たのであった。

3人は、「ひぇー!」っと言って、慌てて走るが、前が見えないくらいの豪雨で、滝のように、上から坂道を転がるように、水が流れ出して来たのであった。

佐々木が、豪雨の中で左手に、薄らと影が見えるお堂らしき建物を発見、「あの、建物に避難しよう・・」っと言って、まっしぐらにお堂へ走るのであった。

二人も佐々木の後を追って、何度かこけながら一目散にお堂へ突き進むのであった。
なんとか、3人は小さなお堂の庇(ひさし)の中に入り、ホッと一息をつくのであったが、ずぶ濡れである。

でも、夏なので意外と気持ちがいい。
「まさか、いきなり来るとはね・・・それに、雷が落ちたの初めて見たよ」っと上田。

「まだ、震えが止まらないよ・・・のちのちトラウマになるような気がする・・・」っと、野村は、膝を抱えている。

「まぁ、夕立だから、すぐ止むよ・・しばらく様子を見よう・・・」っと佐々木。
上田が、何気なしに野村の横にある箱らしき物を見つけて、「それ、何だろう?・・・おみくじって書いてある、一回百円・・・」っと指を差している。

「ほんとだ・・」「やってみようか」「お金持ってないよ」「いいよ、いいよ、誰もみてないから・・」っと上田が言って、おみくじが入っている箱に手を入れると、野村が、「だめだよ、泥棒じゃん・・それに、バチが当たるよ・・」っと上田の腕を掴むのであった。

「硬い事言うなよ、誰も見てないよ」っと辺りをキョロキョロしながら上田が言っている。

「いいからこれ使えよ!」っと言って、野村はポケットから三百円を出して、小さな代金箱に入れるのであった。

「あっ、俺たちも出来るの?」っと佐々木、「さすが、金持ちのボンボンの野村さまだこと・・」っと上田が言って、先におみくじを一枚取り出すのであった。

そして、佐々木、野村の順でおみくじを引くと、「これって、印刷じゃなくて、手書きじゃん、それも、色がくすんだ紙で、ボロボロ・・・」っと上田。

「なんか、そこいらのガキが小遣い稼ぎで作った悪戯じゃないの?」っと佐々木も首をかしげている。

おみくじの箱は、年代物の木箱で、手が入る程度の丸く切った穴があるだけの、みすぼらしい物であった。

中味のおみくじも、厚手の和紙が名刺大の大きさの物で、一般のおみくじみたいに木に括り付けられる物ではない。

ただ、毛筆で一行、綺麗な美文字で書かれていた。
上田は、「凶・・・災難あっても運がつく・・・なんじゃコレ?」

佐々木は、「小吉、捨てる神あれば拾う神あり・・だって・・・」
「俺のも、小吉、待てば便りの日和あり・・・って、タヨリって、海路だろう・・・いいかげんだなぁ・・・」っと野村が呆れている。

「おいおい、俺だけ・・・凶・・・お前らだけ小吉で、なんで、俺だけ凶なの?・・・」
「もう一回ひくぞ・・」っと上田は、手をおみくじ箱に突っ込み、一枚のおみくじを取って、抜こうとすると・・・抜けない・・

「えぇぇ、どうなってるの、抜けないよ・・」
「手を放してみたら・・・」っと野村が言うと、上田がおみくじを放すと手が抜けた。

「やっぱり、お金を入れなきゃ取れないんだよ・・・なぜか?・・」
「わかったよ、上田のためにもう百円出してやるよ」っと野村が言って、百円を代金箱に入れると、今度は、なぜか上田のおみくじが取れたのであった。

「変なの、ようわからん・・・」
「さてさて」っと、両手で手のひらの中のおみくじをゆっくりと上田が片目で見ると、なんと・・・なんと・・・やっぱり「凶」・・・・

「なんでやねん、連荘で凶なんてありえへんやろ」っと関西弁が出てしまった。
もともと、上田は関西出身であった。

「まぁまぁ、偶然だろ、小吉も凶もそんなに、変わんないよ!」っと野村。
「そろそろ、雨も止んだ事だし帰ろうぜ」っと佐々木が言って、軒下からショルダーバッグを肩に下げ、歩いて行くと、もう日も暮れ始め、カラスが鳴き始めた。

すると、前を歩いている上田に「ピシャ」っという音がして、野村と佐々木が「あっ!」っと叫んだ。

上田が振り返ると、自分の肩のショルダーバッグにカラスのデカイ落とし物が・・・・べったりと付いている。

「うぁ・・」っと上田は、ショルダーバッグを投げ捨てるのであった。
「マジかよ・・!」

「ティッシュ!ティッシュ!」っと言って、佐々木からティッシュをもらい、気持ち悪そうに拭いている。

「当たったネ!おみくじ・・災難あっても運が付く・・・運じゃなくて、糞のダジャレ?・・・」っと野村が笑っている。

「アホらし、むっちゃ、腹立つわ!」っと拭き終わった上田がぶつぶつ云いながら、カラスの爆撃に気を使いながら、ローリングして先に歩いて行った。

ようやく、麓まで降り、小さな木の橋の近くで佐々木がつまずくのであった。
「大丈夫か?・・」っと野村。

「あぁ、何か踏んだみたい・・」っと佐々木。
「おや、あなた様も運じゃなくて、犬の糞でも踏んだんでしょうかね?・・」っとニヤニャと意地悪そうに上田が言っている。

佐々木は、踏んだ物を手に取ると「財布みたい、中に・・・・5・・54000円入っている・・・」っと驚きを隠せない様子。

上田や野村も寄って来て「ホントだ!」すかさず、上田が「山分けにしようぜ!・・・一人、18000円?」っと言うと「アホ!」っと野村に一喝されてしまう。

「お寺の近くに駐在所があるから、届けよう」っと言う。
上田は、納得がいかなくてブツブツ言っているが、佐々木は、仕方がないと思い、野村の言うとおり、駐在所に届ける事にした。

もう、午後6時半を廻っており、宿舎では晩飯の時間であった。
「俺、届けてくるから、先に晩飯やっといて・・・」っと言うと二人と別れる佐々木であった。

「ネコババすんなよ」っと上田が言っている。
その頭をコツンと叩いて「早く、帰ろうぜ」っと野村が走り出した。

しばらく歩くと「風呂、入りたいなぁ・・」っと上田が云うと、上空から落下物が・・・「ピシャ」っと上田の顔面に直撃!2回目の凶の分であった。

「もう、踏んだり蹴ったりや、絶対に、絶対に、お前ら殺してやる!」っと言って、手で大量のカラスの糞を拭うのであった。

「お前、あの時、おみくじをネコババしようとしたから、恨まれているんだよ」っと自業自得という顔をしている野村である。

「今7時前か、5時から6時半までが入浴タイムだからなぁ・・・でも、うまく行くかも?・・・」っと野村が言っている。

お寺の大広間に着くと、「先生が、お前らどこで何をしてたんだ!」っと予想していた通り怒鳴られてしまう。

二人は、ペコペコしながら、雷や豪雨、そして、佐々木がサイフを拾って届けている事を説明するのであった。

「よし、わかった、お前ら罰として、・・・」っと言うと、すかさず野村が、「風呂掃除やります!」っと答えるのであった。

先生は「よし!」っと言って、御飯を食べ始めた。
他の部員は、もう食べ終わっており、3人の分だけ残っていたのであった。

先生も、心配して、御飯に手を付けていなかったのであった。
「なっ、これで風呂が入れるだろう・・」っとニヤニヤしている野村の顔をみて、「さすが・・」っと思ってしまう上田であった。

「やっぱり、あのおみくじ、当たったなぁ、捨てる神あれば拾おう神あり、って落とし物の事だったんだなぁ」っと野村。

「うむうむ」っと夢中で食べている上田。
「でも、駐在所に届けたら、半年先だったかな?引き取り手がない場合のみ、手に入いるのと、ちゃうの?」っと上田。

「たしかに・・・」そうこうしていると、佐々木が帰って来て、「お待たせ、先生にうまく言ってくれた?」っと言って、続けて「それがさ、駐在所に言ったら、落とし主のおっちゃんが居て、駐在さんといっしょに探しに行こうとしていた処なんだって・・・」

「それで、すごく感謝されて、感謝感激雨あられって訳のわからない事を言われて、謝礼に1万円くれたんよ」っと興奮気味の佐々木。

「えぇ・・・!」っと二人。
「やっぱり、あのおみくじ本物や・・・」っと顔を見合わせている上田と野村・・・・・・。「1万円を3で割ると・・・割り切れへんなぁ・・・」

午後8時を廻って、3人は風呂場の掃除をしている。
「野村・・・お前のおみくじは、どうなったの?・・・」と佐々木。

「いやー、別に変化はないけどね・・・やっぱ、偶然の出来事だろう・・・たまたまの事件だって、気にする事ないよ・・・」っと掃除ブラシでタイルをゴシゴシとこすっている野村である。

上田は、風呂にちゃっかり入っており、手ぬぐいを頭に載せ、「お前らだけええ思いして、俺だけ2回も凶だからな・・野村にいい事があったら、俺の立場ないじゃない、可愛そうなオレちゃん・・・」っと言って、ブクブクと湯の中に沈むのである。

呆れ顔の佐々木と野村は、掃除を終えて、風呂場の電気を消して部屋に戻るのであった。
真っ暗の中「おい、ホント冷たい奴らやな、お前ら・・・」っと言って、慌てて風呂場を出る上田であった。

大広場で、20人の部員が、寝ている。
けっこういびきが響いているのであるが、みんなはぐっすりと寝ている様子である。

ただ、眠れないのは、野村だけであった。
風呂場の掃除の帰りに、メールの着信が入ったのであった。

メールの差出人は、由紀であった。
由紀とは、中学の卒業式以来の事で、当日、野村は、今までの想いを由紀に告白をしたのであった。

告白に驚いた由紀であったが、あれ以来、由紀からの連絡がなく、もう野村は、諦めていたのであった。

あれから4ヶ月である。
由紀から、野村が甲子園で投げているのと一所懸命に応援をしている自分の姿が夢の中へ出て来て、その夢が、次の日にも同じ夢を見たというのであった。

それで気になってメールをして来たというわけであった。
野村は、喜びに浸っている自分と、おみくじのせいだと、不安で頭が混乱している。

これは、由紀の本心じゃなく、いつわりの事なんだと自分を戒めているのだが、やはり、うれしい自分を感じているのであった。

あぁー、眠れない!・・・・翌朝、ぐっすりと寝た上田は、朝食時に、「今日、帰り、またあのお堂へ行ってみようぜ・・・」っとニヤついている。

「このままでは、男がすたる・・・3度目の正直や・・」っと鼻息が荒い。
野村は「嫌だよ、今度は、凶になって前の小吉がなくなったら嫌だもん」と言っている。

「でも、野村、お前、何も変化ないて言うてたやん・・・」っと上田。
「実は・・・」っと顔を赤らめながら由紀とのいきさつを話すのであった。

上田と佐々木は、あの中学校一の美人の由紀に、告白をしてたなんて、全然気がつかなかったのである。

そして、その由紀からメールが来ていた事に、こいつ信じられないっという裏切られた気持ちと怒りが重なって興奮する二人であった。

特に、上田は、「あかん、絶対もう一回引くべきや・・・」っと、野村の不幸を願っている様子である。

上田は、自分だけが不幸で不憫だと思い、人の不幸は蜜の味にしたいのであった。
「わかった、わかった、おみくじを引くのは、出来ないけど、いっしょに、ついて行くよ!」っと野村。

上田は、しぶしぶ了解するが、かわりに俺のおみくじ代を払えとセコイ事を言っている。
一方、佐々木は、「俺もやるよ!」っと言っている。

今回の小吉で、お金を貰ったから、また一から、挑戦して、今度、大吉を当てて、宝くじを当選させるよ!・・・」っとこいつも欲が出て来た一人であった。

上田と佐々木は、ダメで凶であっても、カラスの糞くらいだから、大金をもらえるチャンスの方に賭けたのであった。

3人は、練習を終えて、またあのお堂へ出向くのであった。
今日は、いい天気で青空いっぱいである。

お堂に着いた3人は、おみくじ箱の前で、一礼をして、上田が野村から貰ったお金で、まず最初にくじを引くのであった。

「うっそー!、また凶・・・」がくぜんとして倒れる上田。
次に佐々木が、引くと「うっそー!、や、やった!・・・だだ・だ・い・き・ち・・いきなりホームラン!」っとこちらも腰を抜かして倒れこむのであった。

佐々木は、ここへ来る前に宝くじを二枚だけ買っていたのであった。
一等5000万円である。

上田が佐々木のくじを覗き込み「うそやろー!なんでやねん!信じられへん・・・・
でも、5000万を3で割ると一人・・・割り切れへん・・・」

「ついて来た!・・・もう一回やるよ・・・!」っと佐々木、「えぇー、止めた方がいいよ・・危険だよ・・もともこもないよ・・」っと野村。

「一郎ちゃんってギャンブラーなのね・・・」っと羨ましくみつめている上田。
佐々木の家は、中小の部品メーカーの会社経営で、棒大手企業の液晶テレビの部品の下請けをやっており、設備投資で1億もの大金をつぎ込んでいたのであった。

目測を誤った大手電機メーカーは、下請けへの注文をストップしたため、佐々木の父親の会社は、多額の借金を背負う事になってしまったのであった。

そんな、父親の姿を見ている佐々木にとって、この上にないチャンスなんである。
「俺は、ついている、今行かなきゃ、きっと後悔する」っとふんだのであった。

もう、5000万、祈る想いで、くじをひくのであった。
上田と野村は生唾を飲んで見守っている。

すると、佐々木の血の気が引くのであった。
「大凶・・・家族ともども、一家心中あり」と書かれてあった。

佐々木は、「嘘だ!っと叫び、再びトライするのであったが、大凶が続き、同じ文言が書かれてあった」

がくぜんとする佐々木を尻目に上田も何回もチャレンジをしていた。
こちらも、いっしょで、凶のオンパレードで、ハズレくじ10枚にもなっていた。

上田は、「野村、由紀は、お前の甲子園で活躍している姿に惚れているんやろ、ここで、お前が本物かどうか、勝負してみたらどうや?・・・」っと上田が云う。

たしかに、自分の実力では、由紀の願いはとうてい叶えられそうもないのであった。
冷静な野村の心にも、自分の運にかけてみようという気にさせられるのであった。

そして、頭を垂れている佐々木を尻目に願いを込めて引くのであった。
すると、凶の文字が見え、横の大の字も書かれてあったのである。

野村は、がくぜんとするかと思い気や、意外と冷静で、なぜか、そのくじを元の箱に手を突っ込んで放すのであった。

そして、手を箱から抜くと、一枚の白紙が手のひらに残っていた。
意味がわからず、じーっとその白紙を見つめていると、あぶり出しのように、文字が浮き上がって来るのであった。

「是諸法空想(ぜしょうほうくそう)」と書かれており、般若心経の一節であった。
この世の存在の全ては実体がなく、一喜一憂も時の流れで消えて行く。

だからこそ、この瞬間瞬間を大事に一生懸命に生きてゆかなければならない。
野村は、はっと思い、佐々木に同じように、大凶のおみくじを元の箱に入れるように云うのであった。

すかさず、佐々木は野村のまねをすると、同じく白い紙が出て来て、同じ文言が浮かび上がるのでした。

大凶の呪いが解けたっと二人は思うのでありました。
それを見た上田も同じ事をしたら、なぜか、凶のおみくじが手のひらから放れずに戻ってくるのでありました。

上田は、箱に向かって「どうゆうこと・・・どうゆうこと!おれだけ、なんで・・・!」と叫ぶのでありました。

夕陽が、お堂を照らし始め、野村は、「もう、帰ろうか・・」っと言うのでありました。
野村の携帯の由紀からの着信メールが消え、佐々木も拾得物の御礼として貰った1万円も消えておりました。

3人は、帰り際にお堂を振り向くと、あのおみくじの箱は、煙になって消えておりました。

「なんか、3人で同じ夢を見てたんだね・・」っと野村、「うん、俺、アルバイトでもして、少しでも家の足しになるように頑張るよ、そして実力で、プロ選手になってみせるよ、自分の力で・・・」

「俺も、もう一度由紀に連絡してみるわ、当たって砕けるわ・・・・・・・」
「あれって、それぞれの願いをあのくじは、わかっていたんだよね・・・人の願望や、心を読んだんだ・・・」っと野村。

「お前らは、それでいいかもしれないけど、俺は、嫌やで!努力なんて大嫌いや!人間ナチュラルに生きるのが幸せなんや・・・チャンスがあれば、ものにする、どのチャンスか、人生チョイスの仕方で人生決まるんや・・・」っと上田。

「お前らしいわ、でも選択を間違うと、大変な事になるからこそ、自分のOS,基本ソフトがしっかりメンテされてないと、バッドチョイスになるんだよね・・・」っと野村。

「いつもの事やけど、おまはんの言うてる意味がようわからんわ・・・」っとすると、空に黒い影が現れ、こちらに向かって来るのであった。

「うわ、カラスの大群や・・・なんでや、呪いは消えたんやろ」っと逃げまどう上田。
「10羽いてるよ、10回凶を引いたからな、仕方ないよね・・・」っと佐々木。

「冗談やないで、絶対に、殺してやる・・・」っという上田の顔に次々と連続爆撃・・・・
そして、10羽のカラスは任務完了と大空に消えて行くのでありました。

上田の顔は、石膏で固めたように、白く固まりになっており、息をする鼻の穴だけが黒くなっており、ボーリングの玉の指を入れる穴のようにも見えるのでありました。

「上田、早く風呂を入らないと、入浴タイムアウトになるよ!」っと野村が言うと、一目散に上田は走って帰るのでありました。





   #018 「知未ちゃん・・・?」

今村真二、38歳、某中小企業の主任である。
真二は、4歳の女の子、知未といっしょにタクシーで大阪駅に向かっていた。

大阪駅西口の高架下に一台の観光バスが停まっている。
タクシーを降りた真二は、知未を連れて慌ててバスの方に走っていた。

バスの乗車口前で、同じ会社の武が、手を振って叫んでいる。
「早く早く、遅いですよ、もう出発時間をオーバーしてますよ」っと幹事の武。

今日は、年に一度の一泊二日の社内旅行で、長島温泉に行く日であった。
真二は、息を切らせながら、「悪い悪い・・・、連絡をしようにも携帯を忘れて連絡が出来なかったんだ・・はぁはぁ・」っと言っている。

知未は、ケロとしている。
その知未を武が見て、「あれ、お子さん連れの参加なんですか?・・っというよりも、主任・・・独身じゃなかったですか?・・・」

「ごめんごめん、今朝、妹から電話があって、いきなり盲腸になって、入院する事になったから、この知未、あー、妹の子供で、ともみと言うんだけど、預かる事になったんだ。旦那は、海外出張でいないらしく、仕方なく引き受ける事になったんだよ・・・」

っと言うと、バスから、数人降りてきて、「主任のお子さんですか、かわいい・・」っと女性社員、「お譲ちゃん、お名前は・・?」知未は、「はい、ともみ4歳です・・」っと左手の指を4本立てている。

「お姉さんは、24歳でしょ・・・」っと知未。
「えぇ・・なんでわかるの?・・・当たってる」すると、横にいた女性も「私は、いくつに見える?・・・」知未は、「26歳!・・・」

「うわぁ、当たっている」っと次々と聞いて来る人たちを言い当てている。
「僕は、いくつに見える」っと調子に乗って武も言うと、知未は、「29歳!・・・」っと言っている。

「あー、当たっている・・でも、お兄ちゃん、明日で30になるんだよね・・・でも、凄いね・・・」っと知未の頭をなでている。

真二は、「楽しみにしてたんだけど、そうゆう事情で、この子の面倒と、今から妹が入院をしている病院へ行かなければならないんだよ・・・すまん!・・」っと手を合わせて、幹事の武に謝っている。

「仕方ないですね、旅行費用は返金できませんのであしからず・・・でも、お土産を買って来ますよ・・」っと武は、真二に言って、車外に出ているみんなをバスの中に押し戻して、出発をするのであった。


バスの窓から、みんなが手を振って、「知未ちゃん、今度はいっしょに遊びに行こうね!」っと言っている。

真二は、手を振っているが、知未は、無言で無表情である。
見送った真二は、知未を見て、「お腹空かない?・・」っと聞いている。

朝6時に妹に呼び出され、妹の家に着いた時には、妹は、おらなくて、救急車で行ってしまい、残った知未をよろしくっとメモに書かれており、入院先の病院も書かれてあったのであった。

真二は、家に携帯を忘れたため、登録されている幹事の武に連絡が出来なくて、知未を連れてとりあえず集合場所に慌てて行ったのであった。

朝飯も食わず今になってお腹が空いてきた真二であった。
地下街の喫茶店でモーニングをとり、知未といっしょに食事をするのであった。

食べたら知未は眠ってしまい、真二も、喫茶店の新聞を読み、少しゆっくりするのであった。

1時間ほどして、真二は、知未を起こし、タクシーで妹の入院している病院へ行くのであった。

真二は、タクシーの中で、「ともちゃん、よくみんなの年がわかったね・・なんで、わかったの?・・・おじさん、いくつに見える?・・」っと、聞いてみた。

する知未は、じーっと真二の顔じゃなく、頭の上を見て、「41歳!・・」っと大きな声で言った。

真二は、「えぇー、なんでだよ、みんなは当たっていたのに、身内の俺はハズレかよ・・・」っと、ちょっとがっかりしている。

知未は、「別に、年を言ったわけじゃないもん・・」っと言いかけていると、タクシーのラジオから、「番組の途中ですが、ここで、ただ今入ったニュースをお伝えいたします。」っと言っている。

「名神高速、上り車線、天王山トンネルで事故があった模様で、トラック、観光バスを含む10台の車両が、玉突き衝突をした様子で、火災が発生しているっという情報が入いりました」っと言っている。

真二は、「トンネルで事故ったら、通行止めになるだろうし、あいつらうまく通り抜けた・・・・観光バスって言ってたな・・まさか・・・」っと言うと「運転手さん、江坂の私の自宅に変更してもらえますか?」っと真二は、病院よりも家に忘れた携帯を取りに行こうとするのであった。

「武に電話しなければ・・・思い過ごしだといいが・・・」っと、後部座席から身を乗り出しながら、ラジオに集中していると、真二の背広の袖を引っ張って知未が何か言っている。

「おじさん、あれ、年じゃなくて、死んじゃう年だよ・・・」っと、いきなり、変な事を言い出した。

真二は、知未をじーっと見つめながら、「あっ・・・まさか・・・」っと、目を大きく見開くのであった。

ラジオから、トンネルの火災で、もくもくと黒い煙と、時折、火柱が見えると言って、消防隊も近づけないと言っている。

真二は、「絶望かも・・・」っと肩を落としながら、無邪気に眠ってしまっている知未の顔をぼんやりとみつめるのであった。

「俺は、41歳?・・・後3年・・?」と、つぶやく真二であった。
タクシーは、淀川大橋で渋滞に巻き込まれているのでありました。




恐るべき未来を知る知未ちゃん、あなたのそばにもこうゆう子がいるかもしれません・・・ね





   #017 「ゾンビ襲来・・・?」


「最近、やけに警察や特別機動隊が走り廻ってるよね・・」っと武が言っている。
「そうそう、この春先になると、やけにこの町も騒々しくなるのよね・・」っと友達の勝が言っている。

「なんせ、テロ集団が襲い掛かって来ると言って、警官が、むやみやたらに襲いかかって来ると言うじゃない・・・身なり格好が、おかしいっと云うだけで、特に問題がない人を間違って捕まえていると言う噂なんだって・・・」

「ほんと、怖いよね・・出来るだけ静かに、目立たなくしている方が得策だよね・・・」
「いやな世の中になったもんだ、昭和初期の憲兵みたいや・・・」っと、二人が立ち話をしていると、そこへ、血相を変えてひろしがやって来て、

「おい、おい、大変だ!、隣町にゾンビが一般市民を襲っているらしい・・・」っと息を切らせながらひろしは、しゃべっている。

「ゾンビにやられた一般市民が、逆にゾンビ化して、わしらの町に向かっていると言うじゃない・・・」

「まじ?・・・警察は、どうしたん?・・・」
「いや、警察や機動隊も歯が立たないらしく、これまたゾンビ化しているらしい・・・そして、どうもやつら、川を渡って各地へ移動しているみたいなんだよ・・・」

「家の近くにも大川があるよね・・どうしよう、早く逃げんとやられてしまう・・・」
「国防省はどうしてるの?」

「どうも、お手上げみたいで、よそからの応援を要請して、核爆弾で全滅させようとしているみたい・・・」

「なんやて、そんな、あほな、わしらはどうなるんや・・・」
「多少の犠牲は、仕方ないという見解らしい・・」

「えぇぇぇ・・神様・・・・助けて・・・」っと慌てて3人は家に帰り、荷物を持って遠くへ逃げ出すのでありました。


「先生、私やっぱり、花粉症ですよね」っと涙目の今日子が、診察を受けている。
「はい、立派な花粉症ですよ・・・花粉症は免疫システムが過敏になる為、花粉をばい菌と間違って起こる現象なので、しゃーないですね・・・

それは、いいんですが、ところで、実は、今日子さん、検査で小さな癌がみつかりました」

「えーー!、ホントですか?・・」
「はい、ほんとです。でも安心して下さい、初期なので、放射線療法で解決出来ると思いますが、癌細胞だけでなく、正常細胞も影響を受けるので、多少辛い事もあるでしょうが、頑張りましょうね・・・」っと、医師は今日子に言っている。

今日子は、「転移は、大丈夫ですよね・・」っと言って、花粉症の涙目が、本当も涙目になっていた。

「今の処、大丈夫だと思いますよ、治療が遅れると、癌細胞が血管に入り、やっかいですからね・・・早く治療をした方がいいと思いますよ」っと医師。

今日子は、病院を出て、「えぇぇぇ・・神様・・・・助けて・・・」っと言って、慌てて家に帰り荷物を持って、入院手続きをするのでありました。

病院のベッドで、今日子はカメラに向かって言っている。
「人間って、自分だけの物っと思っていると、その中には、何兆個の細胞たちが一生懸命に真面目に働いております。」

「みんなの為にも、日ごろから身体をいたわって、仲良く健康に暮らしましょうね・・・今日子でした。」

「ハイ、OKです!、今日子さん、疲れさまでした!」





「思いつき、Myショートショート」#012~016

2013年03月26日 21時15分29秒 | 「思いつき、Myショートショート」
   #016 「GS・・・?」

「井上主任、いいとこ見つけましたよ」っと井上勝のデスクへやって来て、井上のデスクの端末を操作して、何やら検索をし始めた。

「ほら、これ・・・どう思います?・・・」っと、3年後輩の小谷徹が言っている。
大阪難波のビルにオフィスがある中古車販売の会社で、営業勤務をしている井上と小谷である。

井上28歳、小谷25歳のセールスマンである。
しかし、仕事の話だと思って、端末をよく見ると、「心霊スポット情報」であった。

「なんやねん・・・仕事の話とちゃうのん?」っと井上、「いやいや先輩、今度は本物ですよ!」っと小谷。

そう、この二人は、心霊写真を撮りたがる、心霊マニアたちであった。
そこへ、もう一人、事務の佐々木紗枝が、やって来て「まーた、油売っている・・!」っとニヤニヤしながら近寄って来た

佐々木は、小谷と同期であり付き合っている女性である。
去年、忘年会の帰りにこの3人が、酔い覚ましに、近くの神社で缶コーヒーを飲みながら休憩していた時に、境内の隅から火の玉のような灯りを目撃した時から、心霊にはまってしまった仲間でもあった。

佐々木が、井上の端末画面を見て、「あっ、これ、私も知ってる!・・今、話題の所やん・・」画面には、自殺者急増!と書いてあり、天王寺の7階建てビルから飛び降り自殺が後を絶たないらしい。

「先輩、今度行ってみません?・・今度は、イイ写真が撮れるかもしれませんよ・・・」っと小谷。

「ほんまかいなぁ・・・」っと言って、数日後、小谷と佐々木、井上の3人は、深夜11時頃、話題の雑居ビルに行くのであった。

その前に、ちょっと腹ごしらえに居酒屋に行って、心霊談義に花を咲かせてその後に、行ったのである。

雑居ビルなので、出入りが自由である。
3人は、そこの雑居ビルに入っているテナントの社員のふりをしながら、屋上で休憩するかのように、行くのであった。

ちょっと、お酒が残っている3人である。
屋上に行くと、近くに通天閣のネオンが見える。

「いゃー綺麗、こんな所から飛び降りるなんて、考えられへんわ・・」っと佐々木。
屋上には、涼しい風が吹いている。

3人は、屋上をくまなくデジカメで撮影をするのであった。
高感度カメラでフラッシュは焚かずに、絞りを全開にして、小さな三脚まで用意して撮影をしている。

ガラス窓の部分は、フラッシュを焚いて、ガラスの反射の様子を見るらしい。
1時間くらい、もそもそと撮影をしていたが、いまいち、何も映っていないカンジであるが、帰ってからパソコンで拡大して見るという楽しみにかけようとする3人であった。

屋上から帰ろうとすると、井上が「あれ、何だ!」っと言い出した。
二人は、振り返って井上の指差す方向に目を向けると、・・・・・「何がですか?・・」っと小谷。

「あれ、これって、何かの立体映像・・?」っと井上。
「何を言ってるんですか、通天閣でしょ・・・またまた、酔っ払ってるか、人を脅そうとしてるんでしょ・・・、もう、早帰りましょ、終電に乗り遅れますよ・・」っと言って、さっさとっ佐々木と小谷は、階段を降りるのでありました。

この時間になると、エレベータは止まっている。
「おい、ちょっと待ってくれよ・・・」っと言って、慌てて小谷らを追いかける井上でありました。

後から考えると、井上は、酔って幻を見たんではと、思うでありました。
翌日、お昼を食べた後、小谷と佐々木がデジカメのメモリーカードを持ってきて、井上の端末で、3人で検証するのでありました。

じっくり拡大しながら、見てもそれらしき、霊は映っていないのである。
「やっぱり、難しいのかなぁ・・」と佐々木。

しいて言えば、井上が撮った一枚だけ、屋上の隅っこに薄らと、白い影が写っているのがあり、拡大してみると、人間らしき顔が炎に包まれているような気もするが、気のせいかもしれないという写真であった。

「これって、心霊写真か、なぁ・・」っと首をかしげる小谷であった。
そうこうしている内に1時になり、小谷と佐々木は自分のデスクに戻り、「また今度、もう一度行ってみましょう」っと言っている。

井上のメモリーカードに写っていた写真よりも、あの幻がやはり気になるのでありました。

井上が見た幻とは、ビルの屋上、通天閣方面へ細い吊り橋がかかっており、下は谷底で薄暗くてよく見えないカンジであった。

吊り橋のかかっている向こう岸の崖から奥へと、一本道の小さな道であり、その先に洋館のような屋敷があるように見えたのである。

それが、通天閣のネオンの光と重なっており、よくは見えなかったが、やっぱり、あれは、本物じゃないかと疑う井上であった。

他の二人に話しても信じてもらえないので、こっそりと一人で、晩に雑居ビルに行くのでありました。

一人、雑居ビルの屋上でまわりを見渡している。
特に通天閣方面へは、双眼鏡を持ち込みじっくりと観察をしている。

やっぱり、何もない・・・まだ、時間もあるし、ちょっと、休憩しながら様子をみる事にした。

コンビニで買ったサンドイッチと200ccのワンカップ酒をチビチビとやりながら空を見ていた。

霊がダメならUFOでも見れないかなぁーっと思いながら、屋上の隅でぼんやりとしているのでありました。

最近、お酒を飲むと胃がチクチクして、あまり飲めなくなっており、この時もカップの半分位で、胃が急に痛みだした。

もう帰ろうと思った矢先、通天閣方面が異様に明るくひかり、幻だと思っていたあの光景が、井上の目の前に現れたのでありました。

「やっぱり、本当や!・・・幻ではなかったんや・・」っとおもむろにカメラを持ち出し、トクダネや!っと言いながらシャッターを切り続けるのでありました。

よく見ると、吊り橋の先が自分の目の前まで来ている事に気がつく。
触ってみると、確かに感触があり、「えぇぇ・・・」っと思っていると、ゆっくりと身体が勝手に動き、渡り始めたのでありました。

下は、黒く見えないほどの谷底、5分くらいかけてゆっくり歩いて渡り、向こう岸に着いて、ふと振り返ると、あの雑居ビルが見えている。

怖くなって引き返えそうかと思ったら、橋がスーっ消えてしまった。
「これは、夢だ!」っと思って、頬をつねったが、感触がない。

「やっぱり、夢だ!」っと思い、先を進む事にしたのであった。
しばらくすると、古い洋館が見えてきて、鉄格子の扉を開け、庭に入り、洋館の入り口に着いた。

「やっぱり、これは夢なんやなぁ」っと思う井上が見たのは、GSと書かれた電光飾の文字であった。

中に入ると、ホテルのロビーのような落ち着いた雰囲気である。
何人か、ソファーに腰掛けながらテーブルの飲み物を飲んで歓談をしている。

右手にフロントらしきカウンターがあり、井上はそちらに行くのであった。
カウンターには、グィネスパルトロウ風のちょっとタレ目美人が、井上の方を見て微笑んでいる。

「お待ちしておりました」っと女性。
「えっ、僕の事知っているんですか?」っと井上。

「ええー、井上勝様、よくいらっしゃいました・・・まぁ、よろしかったら、お酒でもいかがですか?・・」っと、カウンターごしに、グラスにお酒をつぎ、井上の前に差し出した。

井上は、カンターの席に座り、「いやぁー、今日は胃の調子が悪いんで、遠慮しときますわ・・・」っと言って、自分の胃を押さえると、痛くなくなっている。

嘘のようにキリキリと差し込んでいない。
「あれっ」っと思いながら、注がれたグラスを口にして、ちょっと飲んでみたら、何ともない。

っと言うよりも、「これ、バーボンじゃないですか?・・よく僕の好みがわかりましたね・・・」っとすると、女性はビンのラベルを井上に見せると「うわっ、アーリータイムズや!・・・なんで・・・なんで・・僕の好きなお酒、わかったんですか?・・」っと井上は驚いている。

「これは、夢やったなぁ・・」っと思っていると、「井上様の事は、なんでも知っております。今日こちらに来ていただいたのは、井上様の今後についてでございます。」っと、一礼をして話続けるのであった。

「ご存知かどうかわかりませんが、まもなく井上様は、今のお身体から離脱する事になります。つまり、胃癌で亡くなるという事でございます。」っと淡々としゃべっている。

「えぇぇー、何ですか、どうゆう事ですか?・・・ここって、一体どこなんですか?・・・」っと立て続けにわめく井上。

「落ち着いてください・・・ここは、現世から旅立たれる方への今後についてのお知らせをする案内所でございます」

「言っている意味がわからない・・・」っと、グイっとグラスのお酒を飲みほす井上。
「表の看板にGSっと書いてあったけど・・ガソリンスタンド?」っと井上。

「いいえ、油は売ってはいません、真面目に仕事をやっております。これは、ゴッド・ステーションの略であります。私は、神に仕える従業員の一人で、みなさま方の案内役を仰せつかっておりまする」

「それで、井上様は、まもなく亡くなられます」っと言って、井上のグラスにバーボンをついでいる。

「まもなくって、いつ?・・」
「正確な時間は、私には、わかりかねます・・・」

「井上様がなくなる前に、選択が出来るのです、選択とは、・・・・」っと言って、奥にある二つの扉を指差している。

「右手の黄色いドアが、即、成仏出来る扉で、左手の青い扉が、現世に通じる扉であります」

「成仏出来れば、新しいお身体をご準備しますので、待機して頂きます。しかし、現世の記憶は全て消去されてしまいますので、もう、ご家族の方とかお別れが出来ません」

「そして、もう一つの扉は、入って奥にあるトンネルを通れば、元いた場所に戻ります。ご家族に会ってお別れをする事が出来ますが、肉体の痛みや悲しみが降りかかり、最後を迎えます。」

「そして、金色の光の帯が天から降り注がれたならば、すぐにそこへ入って下さい。
途中、誰からも声をかけられても返事をせずに、まっしぐらに行ってください。」

「でないと、浮遊霊につかまり、二度と成仏出来ない恐れがあります。」っと井上の目を見て話す女性。

頭がクラクラして来た井上だったが、死を覚悟したみたいであった。
半分やけくそに、バーボンをドンドンおかわりして酔っ払うのであった。

そして、「とりあえず、家族に会ってからですね・・・」っと言って、ふらふらしながら、左の青い扉に向かうのでありました。

じーっと、井上を哀しそうに見つめる神の使いである案内役の女性に「すみません」っと声をかける女性が来て,おもわず「いらっしゃいませ!」っと笑顔で応対する女性であった。

井上は、ドアを開けると、小鳥がさえずる竹の小路が見え、「あーあ・・」っと竹やぶに腰掛けてぼんやりするのであった。

すぐそこに、トンネルが見えている。
目をつぶると走馬灯のように、家族や友達の事が目に浮かぶのであった。
目頭が熱くなり、溢れてくるのであった。

一方、雑居ビルの屋上で意識不明の男性が、救急車に運ばれ病院にかつぎこまれるのであった。

病院側ですぐさま、井上の会社の身分証明書から、会社に連絡、連絡を受け取った小谷は、井上の家族に連絡をして、佐々木と共に病院へ駆けつけるのでありました。

ベッドに横たわる井上の姿を見て、小谷と佐々木は「なんでまた、一人で行ったんや」っと突然の事に動揺を隠せないでいる。

家族も、井上の病気を突然医師に聞かされ大泣きである。
その本人の井上は、どうも竹林で眠ってしまったみたいであった。

あたりを見渡すと、竹林やトンネルがゆがんで見えるのであった。
だんだん薄くなり消えそうになるトンネルに慌てて駆け込み、現世に吸いこまれて行くのでありました。

気がつくと、真っ暗の狭い部屋にいるようである。
目も徐々に見えるようになり、指先にも血が通い始め、仮死状態の身体から生気を取り戻す井上であった。

耳も聞こえるようになり、遠くでお経に混じって泣き声が聞こえるのであった。
そして、機械的な音と共に、井上の入っている部屋が動き出した。

井上は、これが棺おけだとすぐわかり、ドンドンと天上を叩き、「俺は生きてるぞ!」っと叫ぶのでありました。

しばらくすると、ゴー!っという音に包まれるのでした・・・・

以前、井上があのビルで撮った白い影・・・・初めて撮った心霊写真が、まさか、自分の未来の姿だったとは、本人知るよしもないのでありました。



  #015 「人生は、チャラ・・?」

悟と舞は、安アパートにいっしょに住んでいる。
悟23歳、飲食店の店員でアルバイトをしている。

同じく舞も近くのスーパーで、レジ打ちをしているパートさんである。
舞22歳、二人がこの町に住んで一ケ月になるだろうか。

貧しくても、若さと信頼の絆で、日々を過ぎしているのであった。
ある日二人は、この町の氏神さんにお参りをしようと、小高い丘の上にある神宿神社に来たのだった。

舞が、おみくじを引こうと言うと、悟は、「そんなの当たらないよ、お金がもったいないよ」っという間もなく、舞は200円でおみくじを引いていた。

くじを開けると、なんと「大吉」で、望みが叶うと書かれていた。
舞は、大喜びをして、記念写真を撮ろうと言って、悟といっしょに携帯で撮るのであった。

悟も、けなしてた割には、まんざらでもなく、喜んでいる。
そして、おみくじがいっぱい結んである枝に結ぼうとすると、悟が、「これだけあると、僕らの大吉が目立たないから、どこか目立つ所がいいなー」

舞が、「あっ、いい所、見つけた」っと言って、しめ縄の張ってある御神木にくっつけようとしている。

「この樹って、やばくない・・?」っと悟。
すると「こら、お前らどこに、くっつけてるんや・・・」と、どこからともなく、聞こえて来た声に、二人は、びっくりして、「ごめんなさい」っと、キョロキョロしながら謝っている。

「こっち、お前らの目の前の樹や・・・」
二人は、樹がしゃべったっと逃げ出そうとすると、「待ちなさい・・!」と樹の主の声。

「君たち、大吉を引いたのよね・・・望みを叶えてあげようか・・・」っと樹の主。
二人は、「はい」っと言って、樹の周りをまわりながら、声の出所を探している。

「どっきりやないよ、この御神木の主なのよ、怪しいもんでもないよ、神に仕える従業員の一人よ」っと言っている。

二人は、笑いながら、「それだったら、山の手の豪邸に住みたいんだけど、願いが叶うの?」
「そして、100迄長生きして舞と二人、いや、子供たちや孫と幸せに暮したい・・・」っと悟。

「まぁ、所詮、人間の願いってそんなもんや・・・な」
「いいか、よう聞きや、ここだけの話やけど、君たち人間は、この現世で、服役している囚人なんやで・・・」っと樹の主。

「意味、わかんない」っと二人。
「あのな・・・・・・おい、そこの女、しめ縄から、勝手に中へ入るな!・・・あのな、君たちの身体の中に入っている魂が、君たちその物で、外側の肉体が、魂の自由を奪う足かせであり、鎖なんだよ」

「刑期を終わるまで、そのやっかいな肉体と共に暮らす事になっているんや」っと樹の主。

「おっしゃっている意味が、いまいち、わからないんですが、刑期って、私たち何をしたんですか?」と舞。

「それは、下々の俺の立場ではわからないし、刑期も何年かはわからない・・・」っと樹の主。

「はぁー、なんか、馬鹿馬鹿しい気がしてきた」っと悟。
「まぁ、待て、ここにいる人間全てが罪人、つまりこの地球全体が刑務所みたいなもんなんじゃ、・・・・刑期も魂の罪にもよるが、500年から1000年くらいが普通かな?・・・人間の寿命が90年くらいとして、早死にしなければ、6回から十数回生まれ変わって、服役する事になるんやね。」

「死ねば、今までの記憶を消され、成仏し、新たな人生を送り、来世から来世へと刑期満了まで続くんやね。」

「一端死ねばどこへ行くんですか・・・?」っと悟。
「おまはんが立っている、地球の奥深く、コアの部分じゃ・・・つまり地球の中心部で再生され、地表に魂として送られるんじゃな・・」

「さっき言ったように、魂がその物で、肉体は、車みたいなもんやね。」
「魂が運転手で、車が動かなくなったら廃車して、新しい車、新車に乗り換えるでしょ・・・それといっしょ!わかる?・・・そして、ある刑期の年数が終われば、晴れて足かせの肉体がとれて、魂・・念だけになり、自由となり幸せの境地に入れるんだよ・・・」っと樹の主。

「わかったようで、よくわかんないけど、でも、僕たち、今幸せですよ・・・」っと舞と顔を見合わせる悟。

「でも人生、悲しみ、苦しみ、喜びなど様々な喜怒哀楽の感情の渦の中でもがいて、結局は死という最大の悲しみの終着に達するんだよ・・・誰しも・・・」

「我々の世界での幸せとは、そうゆう煩悩や感情を超越した、無心の世界を言うんじゃよ・・・悟りに似ているかもね・・・」っと樹の主。

「もうこんな時間、悟、今晩何食べたい?」っと舞。
「おい、人の・・・神の話を聞いてなかったんか・・・っちょっと、待ちぃなぁー」っと帰ろうとする二人を必死で呼び止める樹の主。

「何ですか、もういいです、明日、朝早いからまた気が向いたら来ますよ」っと悟。
「ちゃうちゃう、ちょっとお願いがあるんや・・・」っと樹の主。

「逆でしょ、人間が神に願い事をするのが普通で、神が人間にお願いなんて、聞いた事ないっしょ!・・・」っと悟。

「いや、実はね・・・」っと樹の主。
「誰も、話し聞くとは言ってないし、話、進めないでよ・・・」っと悟。

「まぁ、そう言いなさんな、まじで、君たちの望みの豪邸をプレゼントしようやないの・・・頼みを聞いてくれたらやけど・・・どう・・・そこの綺麗なお嬢さん・・・」っと樹の主。

「気持ち悪いな・・でも、話だけなら聞いてあげてもいいかな?・・・」っと舞。
「よっしゃ、よう言った、実は、簡単な事じゃ、わしの裏に小さな砂のような入った袋があるじゃろ・・・それと、神社からくすねたお守りがあるじゃろ・・・」

「くすねた・・・?」っと悟。
「まぁまぁ、細かい事は気にせんで・・・その金色した砂粒、仏舎利をお守りに入れて、この町の人間に配って欲しいんじゃ・・・えっ・・質問は後じゃ、わしがしゃべっているから、最後まで聞け・・・えー、それでな、なんでそんな事をするんやっと言いたいんじゃろが・・・つまりこの砂粒は、発信機の役目をしていて、全ての罪人、いや人間に付けたいんじゃ、なぜかと言うと、どこに何という人間がいるのか、把握してないからなんじゃ・・・神のホストコンピュータが壊れてなぁ・・・各社寺に指令が降りて、情報収集をする事になったんよ・・・わしがやればいいんじゃが、浮遊霊を成仏させる仕事があるんで、手が廻らないんよ・・ね・・」っと樹の主。
「タスケテ・・・」

「でも、このお守りをみんなに渡しても、必ず肌身離さず付けているとは限らないと思うんですが・・・」っと舞。

「あー、大丈夫、この粒が一端、人の手に渡れば、身体に入り込み、そこから発信するから大丈夫・・・」

「これって、寄生虫?・・・」
「あほな、魂じゃぞ・・・一年しか持たないけどね・・よくお守りを一年経ったら、正月なんかに社寺へ返すでしょ・・・魂抜きをするからって・・・聞いた事ない?・・・あれといっしょ・・」

「とにかくこの地域はわしが、やる事になってるんだけど、さっきも言ったように浮遊霊を一掃しなければならんでな・・・悪い・・・」

「浮遊霊って何?・・・」っと悟。
「普通、我々のシステムでは、人間が何らかの事情で死に至って、刑期の中断が起こると、次の肉体の手配をして、古い肉体から離れた霊魂を回収して、浄化し、新たな肉体に宿す作業がある。」

「つまりこれが成仏させるっと言う事じゃな、しかし、現世に未練が残ってしまう霊魂が、たまにあり、成仏出来る光の帯に入らずに、さ迷う事が多々あるんじゃ、これが、やっかいで、一度成仏出来なかったら、自力では成仏出来ず、一生無限に現世でオーブとなってさ迷う事になるんじゃ、それだけなら、おとなしくしていればまだましじゃが、中には、恨みで死んだ魂があって、この念が強く、何も知らない浮遊霊を誘って吸収、増大なオーブとなり、すごいネルギーを発して、現世に悪影響を及ぼすんじゃ・・・これが、人間どもが恐れている呪い、怨霊というものである。」

「なんとか、悪霊を成仏させる為に、人間に宗教を覚えさせ、釈迦やキリストなどに成仏させる仕事をさせており、また一般人間にも霊媒師を配して、浮遊霊、悪霊の成仏をさせているんじゃが、まだまだ手が足りなくて、わしも忙しくて、神の人間名簿造りまで、手がまわらないんよ・・・わかってくれる?・・・」っと樹の主。

「うーん、本当に、さっきの願いを叶えてくれるの?・・・そして、100歳まで幸せに生きられる?・・・」と悟。

「あー、保証する、しかし、言っとかねばならないんだけど、世の中の現象の法則として、静止している物が動こうとすると、元に戻そうとする反発するエネルギーが生まれ、動いた分、逆に動くという法則、つまり、人生を人間界でいう富裕になると、反発して、極貧になるよっという法則、名づけて「人生、チャラ法則」プラスマイナスがゼロになるという法則なんよ。」

「今、富裕層の仲間入りをしても、来世では、極貧で苦労する。
しかし、次の来世では、富裕になるかもしれない・・・金持ちでもなく、そう貧しくもない中間層が、一番安定して幸せだと思うんやけどなぁ・・・それでも、棚ボタで豪邸が欲しい?・・・」っと樹の主。

「うーん、ちょっと考えさせて・・・この仕事終わってからでもいい?・・・」っと悟。
「あー、いいよ、よーく二人で考えて、物欲よりも、もっと大切な事に気づけば、服役終了になるかも・・よ・・・、あっ、ごめん、如来会議を忘れてた・・・ワリイ、先、行かせてもらうわ・・・それ、頼んだよ・・・」っと言って、御神木が大きく揺れると、金色をした眩しいオーブが、空高く上って行くのでありました。

「あー、言いたい事言って、行っちゃった・・よく、しゃべる神だよね・・・」
悟と舞は、夕陽が差す境内をお守りの入った箱を抱えながら、空を見上げて歩いておりました。

「舞、どう思う?・・・」っと悟。
「なんか、夢見ているカンジなんだけど、でも、あの人が言っている幸せの価値観とやらが、なんとなくわかるような気がする・・・そして、悟といっしょになったのも、前世で結ばれなかった反動かな?っという気もする・・そういう意味では、私たち今が一番幸せなのかな・・っと思ったりもする」と舞が悟を見上げながら言っている。

「じゃ、来世では、今度は結ばれない・・・って事・か?」と悟。
「そうね、反動でもっと美男でかっこいい人とめぐり合えるのかもしれないよね・・・」っと舞。

「なんでやねん」
境内を歩いている悟と舞を夕陽が照らし、長い二人の影が、御神木に重なっておりました。



  #014 「屋 敷」

介護士の資格を持つ家政婦の飯島敏子(32歳)は、アパートで二人の小学生の子供と夫と4人暮らしである。

夫は、失業中である。
家計は苦しいながらも、一生懸命に働く敏子であった。

そんな敏子が、次の仕事場へ訪問するのであった。
門の入り口から、立派な屋敷の庭を通り、ドアのチャイムを鳴らすのであった。

この古い屋敷の庭には、珍しく黒いユリが咲き乱れていた。
屋敷の中から、主人である神頭幸恵が杖をついて出て来た。

81歳の老婆である。
一人暮らしで、お手伝いさんもいない。

敏子は挨拶をして、幸恵の血圧を測り、お風呂の準備をするのであった。
二人はたわいない世間話に花を咲かせていた。

敏子は、初め幸恵の事を気難しい人だと勝手に想像していたので、ホっとしている様子であった。

しかし、幸恵は、家族については、あいまいな事しか言わないので、敏子は、あまり聞かないようにするのであった。

月日は流れ、次第に屋敷に慣れ、自由に買い物などのお金も任されるようになるのであった。

そんなある日、タンスの中を整理していたら、屋敷の登記済権利證書を見つける。
じーと権利證書を見つめる敏子、敏子は司法書士の勉強もしており、ゆくゆくは資格も取りたいと思っていたので多少の知識はあった。

敏子は、急に魔が差し、その権利證書の名義を自分に書きかえるように手続きを図るのであった。

アパートに帰り、夫や子供に、もう少しでいい家に住まわせてあげるからねっとニヤニヤする敏子であった。

そんな妙な動きの様子を幸恵は、見て黙っているのであった。
敏子は、見られているとは知らずに、幸恵の字を真似、印鑑を勝手に持ち出し、自分名義に書き終えるのであった。

すると、どうした事か、敏子は、みるみる内に老いて老婆になり、杖がないと立っていられなくなるほどに老けてしまうのであった。

ぼーぜんとしている敏子は、自分の後ろから、誰かがゆっくりと近づいて来るのがわかり、振り向くと、知らない女性が立っているのであった。

「誰!」っと敏子は、叫んだが、よく見ると、幸恵の服装の女性であった。
幸恵は、敏子に向かって「ご苦労様、大成功・・だね・・」と言った。

「この日を待ちわびたよ」っと言うと、何がなんだか、訳がわからないで、うつむいている敏子に、幸恵は、椅子に腰掛け、いきさつを話始めるのであった。

要点は、こうである。
1年前、21歳の幸恵は、この家の財産に目をつけ、夜、盗みに入った時に、ここの住人である80歳の神頭貞子に見つかり、殺害し、この屋敷の庭に埋めたのであった。

そして、ここの家の権利證書を見つけ、知人を介して、名義を変更したのであった。
すると、幸恵の姿が、80歳の貞子の身体と同じになってしまった。

自分の身体ではあるのだが、貞子の年齢と持病を引き継いでいる状態であった。
顔や姿は、老婆になり、友達にも信じてもらえず去られて行き、行方不明扱いなってしまう。

その結果、一人ぼっちの孤独な老人になってしまうのであった。
逆に、埋めた貞子は、幸恵の21歳の若さで死体の姿になってしまったのであった。

幸恵は、これはこの屋敷の呪いだと思い、誰かを身代わりにしなければと、網をはって求人広告を出したのであった。

そして、ひっかかったのが敏子であった。
敏子は、幸恵の話を半信半疑で聞いていたが、この現象で信じざるを得なかった。

敏子は、勝手な幸恵の話を聞いている内に、むらむらと怒りがこみ上げ「きっと、お前を殺してやる・・・」っと憎悪をむき出しにするのであった。

幸恵は、これで解放されたと思い、笑いながら身支度をして屋敷を出て行った。
残った敏子は、家に電話をして、夫や子供に来てもらったが、老婆の敏子を信じてもらえず、夫は帰ってしまうのであった。

途方にくれ、一人取り残された敏子は、どうする事も出来ない自分に沈みこんでしまう。
一方、屋敷を出て行った幸恵は、昔の泥棒仲間の妹分である静代に会いに行った。

1年ぶりである。
ちょっと老けた幸恵に、ピンと来なかった静代だったが、すぐに打ち解け懐かしがるのであった。

静代は、幸恵がいなくなって1年、ホームレス同然のみすぼらしい暮らしをしていたのであった。

そして、幸恵は、静代の話を聞いて愕然としてしまうのであった。
数日後、幸恵は、私に考えがあるから心配をするなっと静代に言って、もと居た屋敷へ静代と戻るのであった。

屋敷に戻ると、驚いている敏子に、幸恵は、ここであった今までの事を内緒にしてくれるならば、ここにいる22歳の静代の若さをあげるというのであった。

ホームレス同然の静代に、いい暮らしをさせてあげたいからだと言うのであった。
敏子は幸恵の話に腑に落ちない様子であったが、早く自分の家族の元に帰りたかったから、幸恵の条件を呑むのであった。

そして、敏子から渡された書類に静代はサインをすると、みるみる内に、敏子は若返り、静代は老婆と化するのであった。

それを見た幸恵は、老婆と化した静代を抱きしめ、静代の耳元へ「これでもう苦しまなくても大丈夫だよ・・・後は、別の若い身体を見つけてあげるからね・・・」っと言っている。

幸恵は、背後に近づく気配を感じ取ると背中に激痛が走るのであった。
敏子が、果物ナイフで背中から一撃で幸恵を刺したのであった。

「お前を殺してやるっと言っただろう・・・」っと若くなった分、憎しみも倍増された様子であった。

しかし、我に返った敏子は、急に怖くなって屋敷を逃げ出すのであった。
泣きじゃくる静代に抱かれながら、幸恵は「やっぱり、この屋敷は呪われているんだな・・・静代・・・ご・め・ん・・・」っと言って息を引き取るのであった。

屋敷内に、老婆になった静代の声が悲しみに響くのであった。
敏子は、真っ直ぐ家に帰ると、半信半疑の夫や子供たちが、敏子を温かく迎えてくれるのであった。

また、もとの生活に戻ったと敏子は思い、家族の幸せな日々を送るのであった・・・・
しかし、半年後、敏子は癌で亡くなるのであった。

そう、敏子は、末期の癌の静代の身体を受け継いでしまったからであった。
同じ頃、屋敷内で一人取り残された静代は、幸恵の亡骸を横に、何も食べられなくなり、衰弱し、死んでしまうのでありました。

すると、どこからともなく火が屋敷内に出て、みるみる内に全焼してしまうのであった。
消火にあたった消防団員が、焼け跡から、幸恵と静代の死体を発見し、庭のから土に埋まった白骨化した遺体、貞子の亡骸も発見するのであった。

その遺体の手には、権利證書の燃え残りを握りしめてありました。
この花壇も火がまわり、焼け焦げたが、一部残った百合の花の色が、黒から白くなって生き生きと咲いているのでありました。




  #013 「死神シンちゃん」

小山大二郎、43歳、某中小企業の営業課長職である。
この不景気で、営業部の成績が伸び悩んでおり、毎晩遅くまで、残業やら会議で身体を酷使しているのであった。

そんな大二郎の唯一の慰めはお酒であった。
会社帰りには、いつもの小さな小料理屋のカウンターで、一杯引っ掛けるのが常であった。

しかし、最近の健康診断で、肝臓の数値で引っかかり、病院で診て貰うように言われるのであった。

休肝日なしで毎晩飲んでいる大二郎にとって、耳が痛いところであったが、部下の手前仕事を抜けて、病院で再検査を受けるのは、抵抗があったが仕方がない。

数日後、再検査の結果を聞きに病院へ行くのであった。
病院で診察の順番待ちをしていると、名前を呼ばれた。

診察室へ歩き始めると、診察室から、大二郎の前の患者が出て来て、やけにニヤニヤして出て来る姿が印象的だった。

「きっと、検査結果がよかったんだろうな・・・」っと心の中でつぶやいて、自分もそうなりたいと願うのであった。

しかし、大二郎の期待もむなしく、医師から出た言葉は、凍りつくような言葉であった。
大二郎は、「ま、まっ、末期の肝臓癌ですか・・・・」っと信じられない様子。

自分でも肝臓の調子が悪い事は感じていて、慢性の肝炎かな?っと疑った事もあったが、いきなりのまさかの展開である。

医師は、静かにうなずき、MRIの検査写真に目をやり、説明をするのであった。
恐る恐る余命を聞いたら、医師の言葉は、あと半年という冷たい返事であった。

目の前が真っ暗になって、どう病院を出て、どのように自宅に帰ってきたか、全然覚えていない状態であった。

ふと気がつくと、布団の中でうずくまっている自分を感じ取っている。
目には熱いものが溢れ、枕を濡らし、ボーっと天上を眺めていると、目の大きなギョロっとした男が、大二郎の顔を覗き込んでいるのが目に入り、「うわぁぁぁー!・・」っと大声を出してしまった。

男は、貞子のような髪の毛の長さで、ボロ布をまとっており、一件、ねずみ男のような出で立ちであった。

男は、大二郎本人かを確認する為に、彼の背広の胸ポケットの運転免許証入れの中の写真を見て、何やら紙を入れているのでありました。

見るからに死神のような風貌に、大二郎は、とうとう来たか・・っと思うのであった。
そんな、大二郎の様子を見て、「あれ?・・僕の姿、見えるの?・・・」っと言って、大二郎の顔面10cmまで近寄って来た。

「希に、あるんだよねー、普通は見えないんだけど・・・私、自己紹介をすると、あなたの思っている通り、死神でありんす、シンちゃんと呼んでください」

怖い風貌とは違って、軽いノリの死神である。
「とうとうお迎えが来たのか・・・」っと、踏んだり蹴ったりの自分の人生に哀れさを覚える大二郎であった。

しかしながら、よく考えてみると「あれ、先生(医師)は、余命半年って言ってたのに、なんで・・・」っと聞き返すと、死神は、「あぁ・・、君は癌では死なないよ!」っと言っている。

「えぇー、・・・・じゃー・・誤、診なの・・・?」っと目を大きく見開いている。
「誤診・・・と言えば、そうなのかもしれないけど、君は交通事故で死ぬんだよ」っと死神。

「はぁ・・・、やっぱり死ぬんじゃないの・・・」
「でも、交通事故なら今からでも避ける事、出来るよね・・・」

死神は、「君には理解出来ないだろうけど、きまりは決まりで変更が出来ないんだよ」っとおもむろに、タブレット端末を出して、ボヨヨーンっと映像を出すのであった。

大二郎は、死神の端末から3D映像が、飛び出して来たのを見て、「うわ、近代的・・・でも、なんでローソクの映像???」

そう、飛び出した映像は、死神の持ち物で古くから知られている、あの、寿命のローソクであった、ローソクには、大二郎の名前が付いていて、もう残りわずかで消えそうである。

「うわ、・・・何とかしてよ、消えちゃうやないか・・」
「隣の長いローソクに取り替えてよ・・・昔、映画で見たよ・・はやく・・」

「あほぬかせ、そんな事出来るわけないやろ」
「昔は、こそっと寿命ローソクの小屋に行って、他の人のローソクを折って、接ぎ木みたいにした事もあったけど、今は、データ管理の時代やから、勝手に操作は出けへんのや・・・あほ」っと死神。

「なんやねん・・」「じゃ、オレにどうしろと言うんだよ・・・」っと大二郎。
「いやー、ちょっと話づらいんだけど、ここだけの話なんだけど・・・」っと急に大二郎にすり寄る死神。

「実は、さっき行った病院なんだけど、ちょっと手違いで、君のカルテと他人のカルテを間違ったみたいなんだよね」

「はぁー、どうゆうコト?・・・・!」
「むー、病院へ行った時、ほれ!君の前のニヤニヤした患者、いただろう?」

「あー、嬉しそうに帰って行ったやつね・・・いたいた!・・・」
「あいつは、小山田二郎と言って、病院が偶然に名前を読み間違えたんだよね・・・ハハハ・・」

「君の名前と似てるだろう?・・・ほれ、小山田次郎、小山大二郎・・・ね」
「なんやて、そうすると、俺の前にいたやつが・・小山田やったっけ・・・そいつが、末期癌で・・俺はどうなの?・・・」

「至って健康みたい・・・・」笑顔の死神。
「はぁーん・・・、それで、あいつはニヤニヤとしてたんやね・・・」

「それと、あんた、死神とどうかかわりがあるの・・・・」
「それやがな・・・あいつ、小山田次郎は、誤診だと気がづかずに、自分は健康だと思ってしまい、癌なのに思いっきり酒を飲みまくったのよね・・・昨夜」

「それで、急性アルコール中毒で、あっけなく死んじゃったのよね・・・」
「これが、こちらの想定外というか、スケジュール外というか・・大変な事になったのよね」

「なんで、どっちみち末期の癌で死ぬんでしょ」と大二郎。
「そうなんだけど、彼が、本当は、交通事故で死ぬ予定なんだよね・・本当は・・ね」

「予定通りに行かないと、周りの人の運命も少なからず影響が出るのよね・・・ホント」
「それに、彼はドナーカードを持っていて、移植提供者メンバーなのよね、だから、交通事故で亡くなった後は、彼の心臓を取り出して、ある大物政治家に移植をする予定になっているのよね」っと言いながら、端末を覗き込みながら、スケジュールを見ている。

「この大物政治家は、この日本を立て直す役割を背負っている大事な人なのよね・・」
「だから、上はてんやわんやの大騒ぎ・・・こんな不祥事は初めてだと・・・カンカンになっているのよね」

「まぁ、そちらの事情はわかったけど、俺には関係ないよね・・・」っと大二郎。
「いやー、ここからが本番なのよね、大二郎ちゃん・・」

「きもい・・・・近寄るな・・」
「実は、死んだ彼と君の名前もよく似ているんだけど、君の・・・つまり、心の臓も一致しているのよね・・・なぜか・・・」

「で、・・・・上は、君に目をつけ、彼のスケジュールを君に実行してもらい、事故で心臓摘出、移植という段取り・・・これで、日本も安泰じゃー、めでたし、めでたし・・・っというスケジュールに変更したんだけど、どう思う大二郎ちゃん・・・」

「あほ、なんでやねん・・・お前ら、勝手に人の運命をおもちゃにしやがって・・・・それに、なんでその死神の頭は、その政治家にこだわるねん?・・・」

「いろいろあるのよね・・・こちらの大人の事情ってものが・・・」
「それに、俺はドナーカード持ってないし、絶対、臓器提供はせえへんぞー・・・」

「こうゆう人がいるから、日本人は国際社会にとり取り残されるのよね・・・」
「なんでやねん、病院のチョンボと、ちゃんとそいつのフォローしなかった、あんたが悪いんでしょ!」

「まぁ、きつい、それを云われるとツライけど、ちゃんと大二郎ちゃんのフォローを、しに来たじゃない・・」

「なんでやねん、俺に死ねというフォローやんか・・・・フォローになってないやん・・・」
「まぁまぁ、そういいなさんな・・これからが本題やがな・・・」

「大二郎ちゃん、助けたる・・・バレたら地獄の門番させられるんだけど、事故現場と時刻を教えてあげるから、そこへは、絶対に行かないようにするんや」

「ええか、明日、・・・いや、今、深夜やから、今日やけど、朝の7時半に駅前に通じる交差点の茶髪草交差点があるじゃろ、あそこが事故現場や、右折車が、直進するオートバイに気をとられて、思わずダッシュしたら歩道を歩いているおマハンに突っ込むというスケジュール・・・」

「いくらなんでも、気づいて、歩道で立ち止まって、車をやり過ごすやろ・・・」
「いやー、甘い・・大二郎ちゃん、歩道を渡っている内に携帯がなるんやね・・これが・・・上の者が非通知無言電話をかけるんやね・・・」

「そして、ドーン!・・・救急車の中でご臨終というスケジュールでおます。」
「まぁー、手の込んだ事を・・・ようやるわ!・・・」っとあきれ顔の大二郎。

「それで、この交差点には、行かずに駅前に行く道で、遠回りになるけど、小さな交差点のある九番地交差点から駅に入ってね・・・」

「そして、お昼の12時まで、会社でじっとしていてほしい」
「なんで?・・・」

「大物政治家の移植のタイムリミットが、12時なんだよ。それを過ぎれば、もう、大二郎ちゃんの心臓は、関係ないっというワチキのもくろみでアリンス・・・」


「あんた、ナニ人や・・・・」
「でも、あんた、バレて、・・・・地獄の門番やったっけ?・・・落とされる事になるのと違うの?・・・」

「いいのよ、大二郎ちゃんのエエ歳した大のおっさんが、枕を濡らしているのを見て、気が変わったんよ・・・長生きして、残りの人生エンジョイしてな・・・」っと言うと、この死神は、涙を浮かべながら消えて行くのでありました。

どうも、死神が涙を流すと消えるみたい??・・であります。
「ありがとう、ええ死神も居てるんやね・・・感動するわ・・・あっ、地獄の門へ行く前に、俺の寿命ローソク、こっそり増やしといてね・・頼んまス・・・・」っと言って、こちらも薄らと目頭を熱くしながら、死神を見送るのでありました。

さて、大二郎は床に着いたのでありますが、失敗したら死ぬと思うと寝られなく、朝を迎えてしまいました。

そして、支度をして、家を出る大二郎でありました。
いつも通る茶髪草交差点を横目で見ながら、予定通り、路地に入り、駅の裏手にある九番地交差点に入りました。

ちょうど時間は、7時30分、・・・・っとその時、携帯が鳴り、大二郎は、電話機を鞄から取り出していると、そこへ路地から出て来た救急車が九番地交差点に飛び出し、大二郎を跳ね飛ばしてしまいました。

大二郎は、「わっ!!」っと叫びましたが、すでに遅く即死状態でありました。
救急隊員は、慌てて蘇生をしましたが、間に合わず、身元を調べるために運転免許証入れ見たら、死神が偽造したドナーカードが入っておりました。

救急車は、サイレンを鳴らしながら、町の雑踏の中へ消えていきました。
それを近くで見ていた死神は、携帯電話をかけている。

「次郎ちゃん、もう大丈夫だよ、君の心臓は、大二郎が身代わりになってもらい、おまけに、肝臓も貰えるように手配をしておいたからね。」

「安心して、お父様(大物政治家)によろしくと伝えておいてね。」
「じゃー、君の肝臓移植の段取りをするね」っと言って、死神は、携帯をしまうのでありました。

「次郎ちゃんには、末期の癌だと言ってないんだよね。」
「まぁ、何とかごまかすか・・な・・・」

「大二郎ちゃん、悪いね・・・騙してしまって・・・死神に上司なんていないのよね・・・これも、大人の事情なのよ・・・ね!」

そして、大二郎が事故にあった九番地交差点を見て、「車は急には、止まれない・・・か・・・なんちゃって・・・」っとポツリと言って消えて行きましたとさ。

ちなみに、茶髪草交差点は、逆から読むと嘘っぱちでありましたとさ・・・悪しからず!




#012 「さくらの花びら」

もう1年になるだろうか、亡くなった幸子を思い浮かべながら、浩二は幸子のブログを開いている。

幼馴染みで幼稚園からの付き合いであった。
いつもいっしょで、大学も同じで、いつしか口には出さないが、意識をしている仲であった。

そんな彼女に、突如白血病という病が襲い、昨年の春、帰らぬ人となってしまった。
浩二は、何も手がつけられないほど、泣きじゃくった。

ようやく、落ち着いて、幸子のブログをまともに見れるようになったくらいであった。
そんな幸子のブログには、二人で行った風景写真や、K君という文字が、浩二の心を締め付けるのであった。

もっと、いいたい事を口に出して言っとけばよかったと悔いを残している。
「そうだ、幸子のブログに書き込みをしよう」っと思いついた浩二は、想いをキーボードに走らせるのであった。

しばらくすると、「浩ちゃんありがとう、私も生きている内に、素直になって話しとけばよかったよね・・」っと返事が来た。

浩二は、びっくりして、「えぇー、誰か悪戯してんの・・」っと思い、「君は、誰?・・・」っと」書き込むと、「幸子よ」っと書かれている。

そう、ブログには、本名は書かれていないので、悪戯では、幸子という名前や浩ちゃんとい名前はわからないはずであった。

浩二は、「元気?そっちの様子はどう?・・・」っと恐る恐る書いてみた。
すると、「とっても穏やかでいい気持ち、ほわーっとして、ふわふわ浮いているよ」っと幸子。

浩二は、半信半疑ながら「何か、見えるの?」っと聞くと。
「霞のような薄い雲の上に、小さな笹の葉で作ったような舟の上に乗って、ゆっくりと流れているみたいなの」

「さくらの花びらがいっぱい浮かんでいて、変なんだけど上流へ流されているみたい」
浩二は、「他に誰かいるの?」っと聞くと、「話した事はないんだけど、いっぱい舟が浮かんでいて、赤い玉がその舟に乗っているの」

「たぶん、その玉がここへ来た人たちだと思うの」
「舟に乗って、どこかへ行くの?」っと浩二。

「わからない、ただ、急にその赤い玉が、舟からなくなっている時があるの」
「たぶん、もう一度人生をやり直す為に、下界へ行ったんじゃないかと思うの」

「じゃー、幸ちゃんもこっちの世界に来るかもしれないっと言う事なの?」
「たぶんそうなると思うの、でも生まれ変わる時、記憶を消されるので、浩ちゃんとわからない気がするの、もし、覚えていたら会いにいくね」

「わかった、デジャブーを期待しているよ・・・」っと浩二は、言っていた。

カーテン越しに朝日が、浩二を包み込んでいる。
浩二は、幸子のブログを開いたまま寝入ってしまったようである。

よく見ると、ブログに書き込んだはずの幸子とのやりとりが、載っていない。
「夢?・・・なんだ・・・・そうだよね」ちょっとがっかりしながらも、笑っている浩二であった。

「あっ、もうこんな時間だ、面接の支度しなきゃ」っというと、パソコンの電源を落とし、洗面所にいくのであった。

キーボードの上には、一枚のさくらの花びらが乗っているのであった。