#011 「ロッキー」
「まただね、母さん、今日も来てるよ」
小学生の弟、秀行が玄関を覗きながら言っている。
「ロッキーも尻尾を振って、喜んでいるね」っと、中学生の兄、薫が弟の背中越しに犬のロッキーを見ている。
母の町子も「父さん、あの拾って来た犬を可愛がっていたからね」っと言っている。
「よっぽどの未練があるんだよね。あの事故さえなければ・・・・」っと秀行。
家族4人で、車で旅行中、父親の芳一が運転を誤って、崖から車ごと転落。
湖に沈んだのであった。
芳一は、転落の衝撃で気絶をして動かない。
他の3人は、沈み行く車の中でもがき、水中へ脱出、父親を助けようとするが、車は水中深く沈んで行き、間に合わず、3人は浮上するのであった。
あれから、1ケ月、毎日のように、芳一の霊が家に来て、可愛がっていた愛犬ロッキーの相手になるのであった。
ロッキーも、その気配を悟っているのか、時折芳一に向かって吼えているのであった。
「もう、父さんの死体が見つからなけりゃ、保険金も出やしない」っと町子。
「誤算だったね」っと薫。
「今度は、うまくいくと思ったのにね」っと町子。
そう、この事故この町子と子供二人で、父親を殺し、保険金を狙っていた犯行であった。
子供たちは、町子の連れ子で、再婚であった。
車での旅行中、運転をする芳一にドライブインで、睡眠薬入りのドリンク剤を飲ませ、町子が運転、助手席に芳一を乗せ、町子が、子供たちとタイミングをはかり、湖に転落したのであった。
ちなみに、この親子は、水泳は大の得意で、こっそりと、下見にこの湖に来た事もあるくらいであった。
完璧であったはずが、保険金がおりない。
とうとう、毎日来る芳一の霊に、「あんた、ほんと、いったい、どこでくたばってるんだい」っと町子は、言うが、芳一は、すーっと仏壇の間に行き、手を合わせて拝むのであった。
町子は、「ちょっと、あんた・・・」っと言うと同時に、芳一は、「まだ、わかってないようだね・・町子、俺が、お前らのたくらみを知らないとでも思っているのか」っと芳一が、町子の方へ向かって言うのであった。
「覚えてないのか、あの水中での車内の事を・・・お前が、運転を代わり、俺が助手席にいて、湖に突っ込んだ時、俺は、別のキーでドアロックをしたのを・・・・」
「前もって、俺は、助手席の下に、窓ガラスを内破る道具を隠して置き、お前らより、いち早く車外に出て、お前たちを車外に出さないように、ギリギリまで押し戻していた事を・・・」と、怖い顔でにらみつけながら、町子や子供たちに言うのであった。
「まだ、わからないのか、死んだのはお前たちだ・・・!」
「しかも、一昨日の話だ。どうやって、お前たちがここへ来ているのか知らないが、観念して成仏しろ!・・」っと強い口調で言うのであった。
町子や子供たちは、やっと思い出して、我に返り、自分たちが霊であることを知るのでありました。
弟の秀行は、「どうりで、お腹すかないなーっと思ってたんだよね」っとポツリと言っている。
そばで、鬼の形相をした町子は、「呪ってやる!!」っと芳一の肩を引っ張り、上着が脱げると、町子の驚きと悲鳴が聞こえるのでありました。
芳一の身体には、魔よけのお札が、ぎっしりと隙間なく貼られているのでありました。そして、よく見ると、顔や手足など皮膚が出ている所には、お経が書かれており、町子が近づけないようにしてあるのでありました。
悲鳴ともつかない町子の唸り声に、芳一は、「早く成仏して楽になれ、お前たちの保険金は、俺がありがたくもらってやるから・・・」っと笑いながら、顔を覆う町子に言うのであった。
すると、そばにいた愛犬のロッキーが、いつものように、ご主人様に愛嬌をふりに、近づくのであった。
芳一は、「ロッキー、これから二人でいい生活をしよう・・な!」っと言うと、ロッキーは、ペロリと芳一の首筋をなめるのでありました。
すると、お経の字が・・・・。
芳一の悲鳴と共に、首が仏壇の前に転がるのでありました。
町子と子供たちの姿が徐々に薄くなり、消えて行き、その顔は微笑んでいるようでもありました・・・・とさ。
「耳なし芳一」の変形バージョンでした。
#010 「ハムスター」
浅田あさ子27歳、プログラマーである。
小さな10人くらいのソフトハウスで働いて5年である。
某銀行のND社のシステムで、プロジェクトの中の末端グループを一括で請け負っている仕事をやっている。
同僚の前嶋正と二人で、200本のプログラムのデバッグと単体テストを行っているのであった。
あさ子たちは、難しい大きなプログラムは自分で組むが、大方は、主婦たちのアルバイトのプログラムである。
それだけに、デバッグはそう簡単には行かなくて、ロジックを理解するのに一苦労であり、自分で組んだ方が、早い場合もあり、大幅に遅れているのであった。
マシンも自分の会社にはないので、大手コンピュータ会社の汎用コンピュータルームを貸し切るのである。
コンピュータ室のレンタルームみたいなものである。
しかし、あさ子たちは、朝から晩のゴールデンタイムは他の会社で予約が詰まっており、使えるのは夜10時から朝8時までしか開いていないのであった。
あさ子たちは、夜中働いて、朝になると会社が借りているマンスリーマンションに帰るのが日課であった。
マンションに帰っても、自分の担当のプログラムやら、デバッグ完にならなかったエラー潰しや、進捗状況の報告書など、する事は山積みであった。
そんな生活も数ヶ月続いており、ある日、マンションで同僚の正が、おかしくなって、自分の足の裏を叫びながらハサミで何度も突き立て、血だらけになり救急車で運んで入院する事となってしまった。
あさ子は、正の身体の事も心配だったが、彼の仕事の分まで自分がやらなければならない事に憤りを感じていたのであった。
小さな会社では、他に補充人員も出せないと言われている。
この時から、この仕事が終わったら辞めてやる!っと決心するあさ子であった。
あさ子は、正の分まで頑張り、毎日2時間くらいしか仮眠を摂らないで必死で働いたのである。
そんなあさ子の心を和ませたのが、このコンピュータルームの受付で飼っている一匹のハムスターであった。
誰もがこのハムスターが、いつから、なぜここにいるのか知らないのである。
しかし、とってもかわいいので、受付の女性たちが、小さなプラスチックの虫かごにキッチンペーパーをひいて、餌を上げて飼っているのであった。
夜中は、このハムスターとあさ子だけなので、虫かごを机の隅に置いて、よく話しかけるのであった。
机の上で放し飼いにしても、逃げなくて、あさ子が持ってきたビスケットを大人しく食べているのであった。
このハムスターは、大きな目なので、あさ子はキョロっと呼んでいる。
そんなあさ子は、キョロに励まされ、頑張って、数本の単体テストでこの仕事も終了である。
ある日、いつものように、キョロを放し飼いにして、端末に向かって仕事をしていると、キョロが、あさ子が飲んでいる紙コップのお茶をひっくり返すのであった。
お茶は、左側にあるテーブルタップにかかり、机の上を流れるのであった。
その瞬間、バチバチっと火花が散り、あさ子はギャっと言って手を、机の上に流れているお茶に触ってしまい感電してしまうのであった。
あさ子は、気を失い床に上向きで倒れこむのであった。
どのくらいたったのか、あさ子は、ボーっとしながら、起き上がると、周りは真っ暗である。
しかし、目の前にマンホール大の穴が開いており、光が差し込んでいる。
あさ子は、その穴を覗き込むと、下に女性が机のそばで、床に仰向けで寝ている姿が見えるのであった。
あさ子は、はじめ誰なのかわからなかったが、それが自分であると気づくのに、そう時間はかからなかった。
天上から、下を見ている状態である。
あさ子は、「これって、私は死んだ・・・・の?」
「ええー、なんで、なんで・・・」っと叫んでいる。
しばらく、ぼーっと見ているあさ子は、ふと、下にいるあさ子の鼻が膨らんだり閉じたりと動いているのに気がつくのである。
「私、死んでない!・・・・生きてる、気を失っているだけなんだ!」
「えっ、そしたら、ここにいる私は・・・誰?」
「これって、幽体離脱???・・・」
その時、暗闇の中にいるあさ子の右方向に、光の柱が見え始めた。
そして、あさ子の身体は、光の柱に吸い寄せられている。
「まずい、このままだと、本当に死んじまうよ!」
「あさ子、起きろ、目を覚ませ!」っとあさ子は、下のあさ子に向かって叫ぶが、聞こえてそうもない。
光の柱は、どんどん迫って来ている。
必死になるあさ子は、倒れているあさ子の横の机の上にキョロがこちらを見ているのに気がつくのである。
「キョロ、私が見えるの?」っと言うと、キョロはうなずいたようにあさ子には見えた。
「キョロ、私を早く起こして、起こすのよ・・・・」っと叫ぶと、キョロは、机の右手にある缶ジュースの上にひょいと飛び乗り、今度は右側にあるコンセントに、缶ジュースをこぼしてショートさせるのであった。
そのジュースは、机の上から流れて下にいるあさ子の顔にかかるのであった。
あさ子の身体が急に振るえ出すと同時に、キョロはあさ子の顔の上に飛び乗り、感電してしまうのである。
キョロは、衝撃で飛ばされ、あさ子の横で上向きになっている。
上から見ていたあさ子は、「うあぁぁぁーー!!」っと叫ぶと、急に意識がなくなり倒れこむのであった。
しばらくすると、あさ子は気がつき、天上の蛍光灯が目に入るのであった。
あさ子は、頭痛がしながらも、コンピュータ室に戻ったとホッとするのであった。
横を向くと、大きな顔が目に入った。
キャー!っと叫ぶが、その顔に見覚えがある。
「えっ、私・・・」っとあさ子は、頭痛の中、状況が飲み込めないでいる。
そして自分の腕や身体を見ると毛むくじゃらである。
そうすると、目の前のあさ子がしゃべり出した。
「初めまして、あなたがいつも呼んでいるキョロであります」
「あなたは、今から、ハムスターに生まれ変わったんであります」
あさ子は、ハムスターを両手でかかえながら、そっと虫かごに入れるのでありました。
「長かったなぁー、この時を来るのをどれほど待ちわびた事か・・・・」
「二年もハムスターをやっていたんだよ」
あさ子は、虫かごの取っ手を持って受付の部屋に入るのである。
「君もきっと、人間に戻れるチャンスが来るよ!僕のように・・・ね」っと言って、部屋を出るのであった。
廊下を歩きながら「あれ、ハムスターって何年生きれるんだっけ・・・・」
虫かごの中で、ハムスターあさ子は、ビスケットをかじっている。
その目には、うっすらと潤んでいるのでありました。
#009 「なんでやねん」
慶子は、駅から降りて足早に家路に向かっていた。
人気も少なく、辺りは暗くなって来ている。
慶子の背後から、コツコツと足音が聞こえてくるのであった。
怖くて後ろを見れないが、確かに人の気配を感じる。
小走りになるとヒールのかかとが折れ、倒れてしまった。
すぐ振り返ると、大きな男が立っていた。
思わず「きゃー!」っと叫ぶと、男は胸ポケットから銃を取り出し、慶子に向けるのであった。
慶子は、「お願い、殺さないで!」と、半泣きになりながら手を合わせている。
男は、慶子のこめかみに向かって引き金を引くのであった。
大きな銃声に、目撃した人が「人殺し!!」っと大声を上げ、携帯で警察に通報するのであった。
1分位で、巡回をしていたパトカーが駆けつけ、男は逮捕され、慶子は救急車で運ばれるのであった。
取調室で刑事に向かって男が叫んでいる。
「だから、何度も言ってるだろ、アレは、俺の造ったロボットだって・・・・」
刑事白木は、不審な顔つきで男を見つめている。
男は、「あいつ、最近勝手に出歩いて、俺のクレジットカードをバンバン使っているみたいなので、後をつけてたんだよ」っと言っている。
白木は、鑑識のメモを見ている。
確かに人間ではなく精巧なロボットのようであった。
白木は、「その事は、わかった、だがなぁ、その銃は違法だろう、銃刀法違反だ」
男は「だから、その銃は俺が造った特殊な銃なんだよー」っと言っている。
白木は「いずれにしろ、今晩は帰れないぞ」
「明日、あらためて取り調べるから、泊まってけ・・・」っと言っている。
男は「冗談じゃ・・・ないよ」っと言って、留置所に入れられるのであった。
男は、留置場のベッドに腰掛けながら「何なんだよ、くそー・・・・」っと頭をかかえている。
「慶子にAIを組み込んだ時、人間らしさを覚えさせる為に、テレビを見せたのが悪かったのかな・・・そう言えば、「デスパレートの妻たち」をよく観ていたなぁ」
「いずれにしろ、こんな所で長いは、してられねー」っと男は言い、留置場の金属のオリに手を掛け、叫びながら、オリを曲げてしまった。
男の声に異変を感じた白木は、留置場に駆け寄るのだった。
その無残な留置場の光景を見た白木は、「お前もロボットじゃないのか、こんなの人間わざじゃねー」っと男に指をさしている。
男は「バーカ、あんなチンケなロボットといっしょにするな、俺は人間だ、ちょっと、機械じかけだけどな」っと笑っている。
そう、男はサイボーグであった。
白木は「近づいたら撃つぞ」っと拳銃を取り出し、男に向けている。
「人口皮膚の俺に、そんな9mmくらいの銃じゃ貫通しないぜ」っと男が白木に近づいて来ている。
白木は「誰か来てくれ」っと大声で叫ぶと、二人の刑事が走って来た。
「どうしたんですか、白木さん」
「あー、こいつサイボーグらしい、オリをへし曲げちまいやがった」っと白木。
二人の刑事は、顔を見合わせながら「あれ、白木さん、まだサイボーグに改造してなかったんですか?」っと言っている。
「なんだって・・・」っと白木。
「僕たちは、去年、改造して、人間を卒業しましたよ」
「やだなぁ、最後の人間だよ白木さん、すぐに改造してもらいましょう」っと二人の刑事は、白木を抱きかかえようとするのでありました。
「お前ら・・・」っと言って、白木は二人の刑事からスルリと身をかわして廊下を一目散に逃げるのでありました。
後から、二人の刑事が、「心配しなくても、大丈夫ですよ、白木さん」っと言って追いかけている。
白木は「大声で、誰か助けてくれ・・・・」っと叫んでいるのでありました。
その白木の大きく開けた口に、to be continuedの文字が・・・・・
「あーぁ、もー、いい所で終わったやないの」
寝巻き姿の美知子とひろしは、ソファーで、大画面でレンタルビデオを観ていた。
「ちょっと、ひろし、この続き借りてきてよ」っと美知子。
「えー、こんな時間に・・・外へ行きたくないよ」
「それに、この次の巻を誰か借りてるかも知れへんし」っとひろし。
「もう、このままやと、気になって寝られへんわ、いつもの所が借りられへんかったら、隣町まで行って来てよ」っと美知子。
頭があがらないひろしは「もう、わかったよ、行くけど、その前に腹ごしらえしてからやで」っと言ったひろしは、おもむろに、自分のお尻からコードを引っ張り出しコンセントに突っ込むのでありました、充電・・・・・。
#008 「花の首飾り」
この物語は、近未来、女性だけしかいないコロニーの・・とある出来事である。
いきなり余談でありますが、元来、どんな生き物でも雄と雌の二種類が標準でありますが、大もとは、雌が主流ですよね。
雄は雌の副産物で、交尾で子孫に影響するしか役目はないのであります。
よく知られている話で、蜘蛛やカマキリなどは、雌の産卵に必要な栄養源として、一部の雄は、自ら身体を与え、雌は雄を頭から、むしゃむしゃとかぶりく映像は見た人も多いでしょう。
人間の雄、男、世の中でエラそうにしておりますが、女の変形バージョンで、一時しのぎで簡単に造られた気が致します。
その痕跡が、「乳首」であります。
男にとって、何の価値もない「乳首」が残っております。
女が先に生まれ、神様は思いつきで男を造り、性器は改造しても「乳首」はめんどくさかったのか、そのままにしてあります。
神様にとって、男は単なるその場だけの一時の生き物だと思われたのでしょうか?
それとも、男の進化(バージョンアップ)で、将来的に男にも授乳が出来るように意図的に残したのかもしれません。
染色体にしても、テレビ番組で見たのでありますが、女性はXX、男性はXY、女性はX遺伝子が傷ついても、もう一つあるので発病しないですが、男性は一個しかないので、致命的になります。
男性のYは、X比べれば小さく、ちんけな物で、あってもなくてもいいような物であります。
子孫繁栄とは言え、なんで二種類の物を掛け合わせなければならないのか、強い遺伝子を残す為?じゃー、3種類、4種類と多くの種類を掛け合わせたらいいじゃないのとか、単体で分裂増殖ではダメなのか、強い遺伝子を残して、最終的にどうゆう世界になるのか、神様は、どう思ってこの地球に生き物を造ったのか、考えてしまいます。
こんな、結論の出ない話を考えるとまた眠れなくなる今日この頃であります。
こんな話はさておき、元に戻って、とあるコロニーのお話であります。
今のお話は、前振りでも何でもありません。
単なる思い付きで書いただけであります。
あしからず・・・。
コロニーの中で、光子は保育所で働いている。
幼児の数も多いので、毎日がてんてこまいである。
同僚の八千代も光子同様に、毎日が戦争状態である。
二人は、シフト勤務で終わったら、よく八千代の家で食事をする
「もう、やってられないわ!子供たちはどんどん増えるし、面倒見る私たちの数は、減る一方・・・上は、どうゆうつもりなんかなー」っと、いつものぼやきを光子が、八千代にこぼしている。
八千代は、また、いつもの愚痴を言っていると思いながら「敵から私たちを守るために、兵隊さんがいくらでも必要だから、この職場からも人事異動させられちゃうのよね」っと言っている。
「八千代は、前、食料調達係りをやってたんだって?」っと光子。
「うーん、そうだよ、ちょっと、仕事中にサボって、野原の花を集めていたら、見つかっちゃって、ここへ来る事になったけど、軍部でなくてよかったと思っている」っと八千代。
「あっ、首にある小さな花のネックレス、それのこと?」
「そうそう、かわいいでしょ、気に入ってるんだ」っと、のんきに話す八千代であった。
その時、校内放送で「巨大生物接近、各自、持ち場について戦闘体制を整えろ!そして、このコロニーと子供たちを守れ!」っと叫んでいる。
「えええー、何、なに・・巨大生物って・・・」っと光子。
「とにかく、逃げよー!」っと二人は部屋の外へ飛び出すのであった。
すると、急に地面が揺れ出して、二人はその場で倒れてしまう。
起き上がって、二人が目の前で見えた光景は、ざっくりと地面が割れていて、洞穴のようになっている。
夢でも見ているかのようであった。
サイレンと共に、軍部が総動員して、怪物に立ち向かうが、敵に歯が立たない様子である。
慌てて逃げ出す光子と八千代の前に、白い煙が覆いつくすのであった。
意識が遠のき、二人はその場で倒れてしまうのであった。
「母さんや、今日はいい物が手に入ったぞ」っと、武は獲物を高く上げて我家に入って来た。
子供たちも寄って来て、「うわー、おいしそう!」っと歓声を上げている。
核戦争後、配給も止まり、自給自足の生活で、久々の蛋白源である。
「すごい大きな蜂の巣やね、今日はお腹いっぱい食べれるね・・」
「わーい、わーい」っと子供たち。
料理が出来上がり、一家団欒の楽しい食卓である。
「蒸し焼き、佃煮、炊き込みご飯、どれもおいしいねぇー」
子供の一人が、箸でつまんで言っている。
「あれー、この蜂、首に小さな花が付いてる、珍しいね・・・」・・・っと。
#007 「銀河」店
「銀河」店の店長、天野川は、アルバイト店員の滉平に「おーい、滉平、注文が入ったから出荷準備してくれー」と叫んでいる。
「いいか、白200万、黒100万、黄色30万だ、大量注文だから、間違うなよー」っと言っている。
滉平は、「はーい」っと言って、(やった、大量だ、これで、正社員の道も夢ではない・・)っと気持ちも弾むのであった。
一方、ここ居酒屋「まいど」で、ヒラ社員同士、会社帰りにいつのも店で、ぐだぐだ世間話をしている山田と堀内が居る。
「ここ最近、平和だとつくづく思うよ、テロや紛争もなくなり、犯罪も激減、病気で死ぬ人も減ったと言うじゃない」っと口をモグモグと、食べながら話している山田。
「ウーん、専門家によると、ここ最近、気候も安定して、大きな災害もほとんど世界各地でなくなり、住みやすく、経済も安定、争う理由がなくなったからではと言ってるよね。それに、豊作続きで食糧難もどこ吹く風やらで、逆に、全員がメタボって言うじゃない。」っとビールの泡を口につけている堀内。
「こうゆう状態って・・・、そう言えば、数年前から黄砂のように、不思議なんだけど、空が黄色っぽくなって以来からかな?・・・・まぁ、いずれにしろ理想の社会、ストレスもなく、平和だけど退屈な毎日に乾杯!!・・・・」っと二人はうなずき合っている。
すると、居酒屋のテレビで臨時ニュースを目にするのであった。
アメリカ、ロサンゼルスからのライブ中継で、無数の円盤らしき物体から、黄色い光線を地上に向けて放っている光景が映っている。
よくみると、小さな黒い点のような物が、光の中で集まって、円盤に吸い寄せられている。
レポーターは、驚愕の光景を「人が光の中で浮き上がっています」っと叫んでいる。
中継が変わり、アフリカ、ヨーロッパと同じ光景をリレー中継している。
「ええー、まじかよ、これって、映画かドラマじゃないの?」
「何が、起こったんだよ」っと二人。
この居酒屋がシーンとなるくらい、客たち店員もテレビに釘づけである。
ざわざわとする客たちに、テレビ中継は、ソウルと東京のライブ映像に切り替わるのであった。
「えええー!」っと客たちは総立ちである。
そうすると、居酒屋の外から眩しい光の洪水に、客たち全員呑み込まれるのであった。
銀河店では、「おーい、滉平まだかよー」っと店長。
「もう少しですー!」っと滉平は、帰ってきた円盤からチューブのような光の管で、黄色いガスの入った容器に吸い取っているのであった。
「これで、終わりっと」っと言って、容器のラベルに黄色人種30万と書いている。
白人200万、黒人100万の容器もそばにある。
滉平は、容器を持って光転送装置にセットしてボタンを押すのであった。
「これでよし!」っと、そして、「もっと、地球人を太らせ、増殖した方がいいスよね」っと独り言を言って、透明の水槽のような容器にガスが充満している中で地球が浮かんでいるのを見つめて、黄色いガスを地球に送り込んでいるのでありました。
地球の左隣の水槽は、「金星」と書かれている、その隣は「水星」、右隣は、「火星」、「木星」「土星」と水槽が並んでいる。
店長は、「地球人の注文が多くなりそうだから、滉平、火星に水と空気を送り込んで、第二の地球環境を造って、地球人を培養してくれないか」っと言っている。
「火星人が不人気なのは、ごつごつしていて固いんだろうな、地球人は水分があって滑らかで、柔らかくて美味しいんだろう、よし、地球人培養プロジェクトを起こして、大量生産するぞ!」っと、店長は意気込んでいるのでありました。
#006 「冬眠」
良太と平太、兄弟は安アパートで暮らしている。
仕事は、コソドロで生活をつないでいる。
しかし、気の弱い弟の平太は、この仕事で不眠症になっている。
二人は、アパートの近くに、いつも灯りがついていない古い一軒家に目をつけていた。
生活資金も底が見え始めたので、ここらで一発仕事をしようと兄の良太がいい、平太といっしょにこの家に忍び込むのであった。
夜中の2時である。
勝手口からこっそりと忍び込むと、芳香剤のきつい森林浴のような匂いが充満していた。
緊張しながら、忍び込んだ二人だったが、この香りに安らぎを覚え、大きく息をするのであった。
「兄ちゃん、よっぽどトイレか、家が臭いんだろうね」っと平太。
「誰もいないようだから、とっとと仕事を済まして帰ろうぜ!」っと良太が言うのだった。
畳敷きの部屋で、襖や障子で区切られている昔ながらの家であった。
真っ暗な中、良太が障子を開け部屋に入り進むと、何かにつまづきこけてしまうのであった。
「あっ」っと叫び、思わず口に手で蓋をする良太。
後ろから、小声で平太が「どうしたんだ!」と、LEDの小さな懐中電灯で良太を照らしている。
平太は、「人がいる!・・」っと灯りで指し示すのであった。
そこには、中年らしい男性がお腹をかかえて丸まっている姿があった。
そして、男性のそばに水の入ったガラスコップと薬らしき錠剤が散乱しているのであった。
良太は、その男性にそっと触ってみると、冷たい、息も脈もないのである。
「死んでる・・・自殺や・・・」「どうしよう!・・」っと良太。
思わない展開に頭が廻らない。
「今日は、辞めよう、人殺しにされたら、たまらんで・・・・」っと良太、「うん、そうしよう」っと平太。
「ちょっと待って、これって睡眠薬だよね?」っと散乱している錠剤を手にとって、薬ビンに詰めっ込んでいる。
「何やってんだよ、そんな気持ちの悪いもの捨てろよ!」っと良太。
二人は、慌てて、この家を出るのでありました。
平太は、しっかりと薬ビンを持っている。
翌日、アパートでニュースや新聞を見ていたが、昨晩の死体の事は何も報道されていなかった。
ほっとしたのか、やたらとお腹が空き、御飯、ラーメン、スナック菓子など安い物で、お腹いっぱい食べる二人であった。
しかし、夕方、テレビのニュースであの家の死体の話が出ていた。
「あっ」っと叫んだ二人であったが、ちょっと様子がおかしい。
死んでいたと思ったあの男は、病院で治療中と報じている。
報道によると、あの男性は、とある大学の教授でリスなどの実験動物から、冬眠をテーマに自ら実験台になり、研究していたのであった。
リスは、冬眠中でも途中起きて蓄えていた食糧を食べる習性があるという。
良太たちが慌てて逃げた時の扉が開けっぱなしになっていて、近所の人が教授を見つけ、通報したのであった。
しかし、死んだと思われていた教授が、病院で息を吹き返したらしいのである。
「なんだ、人騒がせな、自殺じゃなかったんだ、馬鹿馬鹿しい」
「平太、今度はちゃんと仕事をするから、今のうち寝とけよ」っと良太は言うのでありました。
その日の晩、もう一軒、目ぼしい屋敷に目をつけていたのがあり、そこへ行こうとするのでありました。
老人と住み込み女中だけがいる事をリサーチしていた二人は、こっそりと屋敷に忍び込むのでありました。
今回も午前2時である。
金目の物を探し、応接間やリビングなどを物色している内に、二人はなんだか睡魔に襲われるのであった。
「あれ、おかしいなぁ、むちゃくちゃ眠くなって来た」っと良太。
平太も例の睡眠薬を飲んでないのに、意識が遠のき、猛烈な睡魔に襲われる二人でありました。
外に出ようと思っても身体が思うように行かず、二人はリビングで倒れるように眠り込むのでありました。
平太のポケットから、睡眠薬のビンが落ちテーブルの上に錠剤が転がるのでありました。
しばらくすると、この家の前に一台のワゴン車が着くのであった。
中から男二人出て来て、作業着姿で泥が服に付いている。
家に入り、リビングのソファーにドスンと腰掛ける二人であった。
この男たち、この家の主人の義理の息子たちであった。
彼らは、実の母親が病死したのは、この家の主人である義父が、殺したと思っており、恨んでいたのであった。
そして、今晩、計画通り、義父を殺し、山に埋め帰って来た処であった。
たばこをふかす兄の雅夫は、「これで、この屋敷も俺たちのものだな・・」と弟の和夫に顔を向け言うのであった。
しかし、和夫の顔がこわばっている。
「兄貴、ここに・・・誰か倒れている・・・」そう、良太と平太が、テーブルの下でリスのようにお腹をかかえて丸まっているのでありました。
「こいつら、誰なんだ」っと驚き大声を出す雅夫。
足で二人をこづくが動かない。
そっと、顔を近づけるが息をしていない、手は冷たいし、脈もなさそうである。
テーブルの上の散乱する錠剤を見て、「なんなんだよ、こいつら、人の家で自殺かよ!」「信じられない!!」
和夫は、「どうする」っと心配そうに兄を見ている。
「警察なんかに言えるわけないし・・・・しかたない・・・」っというと、二人をワゴン車の荷台に運ぶのでありました。
「和夫、そこのテーブルの薬、トイレで流してしまえよ」っと雅夫は言っている。
慌てて、和夫は薬をトイレの便器に投げ込み、車に駆け寄るのでありました。
4時間後、二人は家に戻って来た。
もう、朝である。
まさかの出来事に、倍の穴掘りを強いられた二人は、くたくたである。
家に戻り、ソファーにバタンと倒れるように寝転がった二人は、爆睡状態である。
二人は気がつかなかったが、便器から、ぶくぶくと炭酸入浴剤のような泡が出ていて、家中、匂いが充満しているのでありました。
一時間後、二階から住み込みの女中が降りて来て、このもの凄い匂いにすぐに窓を開け、換気し、お腹をかかえて丸まっている雅夫と和夫を発見するのでありました。
翌々日、雅夫と和夫の葬式が行われている。
父親は行方不明で、二人は不審死、親族も気味悪がっているのでありました。
火葬場で、二人の煙が立ち昇る中、火葬場の周りに匂いが広がっているのでありました。
「なんか、いい匂いね、町の中なのに、森林浴みたいに森の香りがするなんて・・・」っと口々に参列者が、眠たそうに言うのでありました。
#005 「松竹梅」
石田秀行57歳、アパレルメーカーの社長である。
そして、隣にいるのは、副社長の橋本優一、同じく57歳である。
幼馴染みで、無二の親友でもある二人は、よくこのホテルのカウンターバーを利用している。
「最近、美也子の様子がおかしいだよね。」っと石田がグラスを見つめながら橋本に言っている。
「ホストクラブで、金はバラらまくし、帰りは遅いし、家では暴れるし・・・どうしたもんかねー、こんなひどい女とは思わなかったんだけどねー・・・」。
美也子28歳、スナックで石田に見初められて、石田の後妻になり、一年である。
「お前が、かまってやらないからじゃないか・・・」っと橋本が言っている。
「この分だと財産、食いつぶされそうな気がする」っと石田。
「いっそ、始末しちゃう?」と軽く橋本が言う。
「えっ!」っと石田の驚いた顔を見ながら、「冗談、冗談、」っと橋本。
「でも、まんざらな話でもないんだよね」
意味深な顔つきに変わる橋本。
「聞いた話では、死神代行っという組織があって、代わりに殺人をやってくれるそうで、ドラマみたいな話だけど、実際あるんだって・・・・」っと、石田の耳元でささやくように言っている。
石田は、「死神代行って、マンガのBLEACHじゃあるまいし・・・」っと突っ込む。
「でも、ホント、あいつには飽き飽きしてる・・・・・」っと疲れ顔の石田。
「それって、ちなみに、いくら?・・・」っと、半信半疑で石田は橋本に聞いている。
橋本は、身を乗り出して「松竹梅、とコースがあって、松は一番高くて、1億、でも相手に尊厳を込めて楽に逝ってもらう為の安楽死の薬があり、見た目は普通の心臓麻痺で、絶対にわからない。竹コースは、5千万、交通事故死か、転落死、水死など、状況に応じて始末をするというコース、そして、最後は、梅コースで、500万」と続きを言う間に石田が、「えっ、メチャ安い・・・なんで・・」
「まぁ、慌てなさんな、この梅は、手間もかからず、ターゲットを誘拐して、生きたまま棺おけに入れ、山に埋めるという簡単コース」
「血も見なくて済むし、やる方も不慣れな初心者でも出来るらしい」っと橋本が廻りに気を使いながら言っている。
「なんだ、初心者でもって、生き埋めだろう、一番えぐい殺し方じゃないのか・・」っと石田。
「なんで、お前がそんな事を知ってるの?」
「社長・・・!」目配せしながら、「例のY組系の、取引先のアレよ・・」っと、ニヤつきながら橋本は言っている。
「あー、あっ・・」っと納得した石田は、しばらく考えている。
すると、「一度は、生涯夫婦の約束をしたんだから、高いけど、松にしよう・・・」と決心した石田であった。
事は、トントンと運び、石田が広島に出張に行っている間にっと言う事で、アリバイ造りであった。
秘書の山本和子に、二泊三日の急な出張だと言い、後をよろしくっと、山本の目を見つめるのであった。
この秘書、35歳の美人系で何やら石田と関係がありそうな雰囲気である。
石田は、広島の取引先で商談をまとめて、ホテルに帰ろうとした時、黒づくめの男二人が、石田の背後から襲い、目隠しをして車に押し込み、走り去るのであった。
石田は、何が起こったのかわからず、叫んでみても、猿轡をされており、唸るばかりであった。
男二人は、たどたどしい日本語で、わめいている。
「ナニ人や!・・・」と思っている内に、車から出され、何やら箱の中に入れられるのであった。
これは、誘拐だと思い、「誰がこんな事を・・・」っとライバル会社など頭をめぐらす石田であった。
しばらくすると、二人組みが、石田の入った箱を持ち上げ、下に降ろしている。
そして、箱の上から土をかけているのであった。
その事に気がついた石田は、「これは、誘拐じゃない、う・・梅(埋)ッコースだ・・・・」
翌日の夕方、会社近くの公園前で、石田の車の運転席に秘書の山本が乗っている。
後部座席から、橋本が、「山本君、これ・・」っと分厚い封筒を渡している。
「わかりました副社長、確かに振り込んで置きます」っと言っている。
「でも、いくらなんでも、梅はひどすぎやしないか・・・・」と橋本。
橋本の隣に座っている美也子は、「あんなヤツ、500万でも、もったいないくらいよ!」っとはき捨てるように言っている。
そして3人は、お互い目を合わせて、バラバラに家に帰るのであった。
橋本は、何か気が重く後ろめたさを感じながら、家で酒を呑んで、寝入ってしまうのであった。
夜中の3時ごろ、石田邸の住み込み女中からの電話が、鳴り響いている。
橋本は、うつろな頭で電話を取ると、顔の血の気が引くのであった。
美也子が心臓麻痺で亡くなったっという知らせであった。
「しまった、石田の美也子への依頼をキャンセルしてなかった・・・!」っと頭をかかえる橋本であった。
っとその時、橋本の家に侵入して来た二人組の男に、頭を鈍器で殴られ、気絶するのであった。
橋本が、気がついたら真っ暗の中で、なにやら狭い場所のようであった。
ライターで灯りを灯すと、箱の中であった。
すぐに、その状況を察知した橋本は「これは、美也子の梅コースか・・・なんて、やつだ・・・・」と言い、箱の上では、二人の外人がカタコトの日本語でしゃべりながら、土をかけているのであった。
数ヵ月後、一人の女性が、石田邸の門をくぐろうとしていた。
秘書であった山本である。
その姿は、大きなお腹をかかえている姿であった。
#004「夢」
目覚ましが鳴り、ひろしは眠い目をこすりながら、学校へ行く支度をしている。
家を出て、幹線道路を渡り、公園内を通れば中学校である。
交通量の多い幹線道路を、5歳くらいの男の子が、走って渡ろうと飛び出すのであった。
とっさに、ひろしは「危ない!」っと叫び、子供を追いかけ抱きかかえるのであった。
しかし、運悪くそこへダンプが急ブレークを掛けながら二人を跳ね飛ばすのであった。
周りの人は、悲鳴をあげ、騒然となる・・・とその時、ひろしはベッドの上で目覚ましが鳴っているを止めている。
ひろしは、「はぁ、はぁ、ゆ、夢・・・よかったー、凄いリアルな夢!」っと胸をなでおろしながら、ベッドから降り、学校へ行く支度をするのであった。
この事を学校の友達にネタとして話そうとニヤニヤしながら、家を出て学校へ行くのであった。
幹線道路の横断歩道を見ながら、「ここだ」っと思っていると、夢に出て来た男の子が、道路へ飛び出して来た。
ひろしは、「嘘だろう」っと思い、「これって、正夢?・・・」っとちゅうちょしていると、ダンプが男の子に近づきとっさに、ひろしは男の子を助けに飛び出すのであった。
ダンプは、急ブレーキをかけ、二人の前でギリギリ停まるのであった。
ダンプの運転手が、大声で喚いている。
ひろしは、運転手にペコペコ謝りながら、公園に男の子を連れて行った。
「なんで、飛び出すんだよ、危ないじゃないか」「怪我ないか?」その男の子は、「一人じゃ寂しいから、お兄ちゃんといっしょに行こうと待っていたの」っと言う。
なんの事かわからないひろしは、「どこへ行こうと言うんだよ、それに、俺、君の事知らないよ」と言うと、「いいから、こっちへ来て」っと男の子は、公園の中を走り出した。
「こっち、こっち・・」っと男の子。
ひろしは、「いいよ、学校に遅れるから・・」
「もうー、ちょっとだけだよ」っと言って、男の子を追いかける。
そうすると、目の前の男の子が、光に包まれ、やがて男の子を追いかけるひろしにも光が襲い、ひろしは、「わぁー、まぶしい!・・・」と叫んだ。
とある病院の一室。
「ご愁傷様です、午後4時32分」っと言って、医者がひろしの脈から手を離すのであった。
ひろしは、ベッドに横たわっている。
ひろしの胸に顔を埋めて、母親が泣き叫んでいる。
母親の横に立っている父親は、「お前だけでも、助かると思ったのに、なんで急に・・・・」っと涙を浮かべて言っている。
そう、ダンプに跳ねられた二人は、男の子は即死、ひろしは、運良く公園の木々に落ちて、軽傷であった。
しかし、意識がなかったのであった。
病室の窓からまぶしいほどの夕陽が、差し込んでいる。
窓の外で、子供の声がしている。
「こっち、こっち・・・」
#003「チーちゃん」
雅夫は、酔っ払って自宅へ帰って来た。
「うぃー、ヒック、よう呑んだなー、全然覚えてないわ!」
「でも、ちゃんと家には帰って来てるもんね・・・」っとごきげんな様子。
雅夫は玄関に靴を放り出し、リビングに入って来た。
よっぽど呑んでいて、電柱にでもぶつけたのか、頭から、血がにじんでいる。
リビングに居るセキセイインコのチーちゃんに雅夫は話しかけている。
チーちゃんは、インコにしては結構よくしゃべる鳥で、「おはよう」「ただいま」、「おやすみ」など挨拶はもちろん、「愛してるわ」とか日常会話までも覚えて話すのである。
雅夫は、インコが「愛してるわ」っと言っているのを聞き、「あいつ、何をアホな事を覚えさせてるねん」っと笑って、自分も「アホか・・」っと突っ込みを覚えさせようと何回もするのだが、チーちゃんはそっぽを向いたままである。
「あれ、あんなに俺に懐いてたのに・・無視かよ・・」「酒臭いからやね・・」っと雅夫。そうしたら、チーちゃんは、「ケンジ好きよー」っと妻の声マネをしている。
雅夫は、「えっ、ケンジって誰やねん!!」そして「ケンジ、はやく・・・」っとだめ押しで言っている。
「あいつ、俺に隠れて浮気してるんかぁ・・・」っとその時、妻の咲子とケンジが玄関から入る音が聞こえてきて、とっさに雅夫は、クローゼットに隠れるのであった。
扉を少し開けて覗いてみると、リビングで妻の咲子が「ケンジ好きよー」っと声をあげ、ケンジに抱きついている。
二人がいちゃついているのを見た雅夫は、頭に来て、バーンっとクローゼットの扉を開け、二人に駆け寄り、「お前ら、どういう事や、人の家で何をさらしとるんじゃー」っとまくしたてるのであった。
しかし、二人は雅夫の声が聞こえなかったかのように、ケンジは、抱きつく咲子の腕を降ろして、「うまく行ったけど、あの男を轢いて、フロントガラスがボロボロになったから、ちょっと、車、隠してくるわ!」っと部屋を出て行った。
「早くしてね、祝杯のシャンパンを買ってあるから、待ってるわ」っと咲子は、雅夫の身体を通り抜けてキッチンへ行くのであった。
#002「進化?」
地元に久々に帰ってきた俺は、高校の同級生だった一郎と6年ぶりに居酒屋で呑む事になった。
「やぁー、待たしたね」っと、一郎が入って来た。
「いやー、年末は忙しくって、猫の手も借りたいくらいだよ」っと一郎。
そう、一郎は、高校を卒業後、父親の跡を継いで八百屋をやっているのであった。
しばらく、呑んで食べながら高校時代の話に花を咲かしているのだった。
「そう言えば、佳代ちゃん、末期だった乳がんが治ったんだって?」っと俺。
「むー、奇跡に近いと医者が言ってたんだって」っと一郎。
一郎のコップにビールをつぎながら「最近、癌にかかる人も多くなったけど、結構、治る人も多くなったね」っと俺。
ぐいっとコップの中のビール全部呑みながら「医学の進歩かな」っと一郎。
そして、じっと俺の顔を見つめて、「実は、お前にも言ってなかったんだけど、半年前、俺も肝臓癌で末期だと言われたんだよね。」
「えー、・・・・知らなかった・・・でも、大丈夫?・・」
「あー、それが、先月、原因不明の熱で一晩うなされて、翌日、目が覚めると、あれほど痛かった肝臓がなんともなくなっていたんだよね」
「その日に医者で診てもらったら、癌が消えているって言うじゃない」
肝臓癌の割には、よく呑むやっちゃと内心俺は思った。
「俺も驚いたけど、医者も驚いて、何回か検査をしても、完全になくなっているんだって」
「俺は、逆にこの医者が誤診だと思ったんだけど、やっぱり癌が治ってたみたいなんだよね」と手酌でビールをコップにそそぐ一郎。
そんな一郎の話を半信半疑に聞きながら、「むー、いや、癌って、正常細胞の氾濫でなると言われ、遺伝子が傷ついて癌化するとか言うじゃない。」
「ある説によると、癌って、生物が進化する時の新細胞に移行する最中の過程だと言うんだけど・・・・つまり、生物って、古代、魚が陸に上がり、エラ呼吸から肺呼吸に成る時、何回か失敗して死んだんだと思うのよね。
細胞がえらから肺に変わるんだからね、一回では無理でしょう。そう、何十何百年かかったんでしょうね。」
「だから、人も、ひょっとしてその進化の過程に入っているんじゃないかっ?・・・と言われているんだよね」っと俺。
「え、・・じゃー人間は何に進化すると言うんだよ」
「願いが強いと身体が変化する?・・・・・かな?」っといい加減事を言っている俺。
「佳代ちゃん、そう言えば、予知能力が芽生えたとか、おかしな事を言ってたな・・」っと一郎。
「佳代ちゃんって、高校時代、教室で、確か占い好きの少女で、みんなの運勢を占っていたよね・・・たしか・・」っと俺。
「思いが叶ったのか?・・・・」
「じ、じゃー、俺は、どうなんだよ・・・全然変化がないんだけど、相変わらず、忙しいだけで、なんか、損をした気分・・・」っと一郎。
「まぁー、噂みたいなもんだからね、でも、いつかは、お前にも・・・・」
っと、一郎を見ると、一郎の背中から細い、毛むくじゃらの棒のような物がいくつも出ている。
「お、お前、背中、背中・・・」
「背中がどうしたんだよ・・・」っと一郎は、目の前のガラス窓に映る自分の姿を見ると、凄い数の腕が背中から出ているのが見えている。
「ひやー、!」っと一郎。
「お前、忙しいから猫の手も借りたいと言ってたよね」
一郎は、うなずき「俺は、猫の千手観音か・・・」っとポツリと一言。
#001「わがままな子ねぇ」
まもるは、小学5年生。
学校から家に着くなり、「腹減った、かあーさん、ご飯まだー?」とランドセルを下ろしている。
母親は、「まだ、早いじゃない、支度している最中よ。すぐだったら、目玉焼きぐらいしか出来ないわよ」
まもる「あーん、それで取り合えずいいよ!ご飯の上に乗せといてね。早くして、死にそう!」
母親「オーバーねぇ、じゃ、すぐ造るわ」
まもるは、DSゲーム機を取り出し、テーブルの上でゲームをやり続けている。
しばらくすると、まもるがゲームをしているテーブルの上に、まもるのお茶碗がコンと置かれ湯気が上がっている。
まもるは、いい匂いにつられ、ゲーム機から目を離して、お茶碗を取ろうとしたら、「わぁー!」っと大声を上げ、椅子から転げ落ちるのであった。
「これ、なにー!」っとまもる。
母親は、「目玉焼きよ」っと一言。
まもるのお茶碗には、二つの目ん玉が乗っている。
焼かれて黒目が白くなっている。
まもるは、お茶碗から目を離して、母親を見ると、母親の目が大きく穴が開き、黒くなっている。
「すぐ出来るのって、これしかないのよ!もう、わがままな子ねー」っと母親は言い、手探りでまもるのお茶碗を探して、片付けているのであった。
「まただね、母さん、今日も来てるよ」
小学生の弟、秀行が玄関を覗きながら言っている。
「ロッキーも尻尾を振って、喜んでいるね」っと、中学生の兄、薫が弟の背中越しに犬のロッキーを見ている。
母の町子も「父さん、あの拾って来た犬を可愛がっていたからね」っと言っている。
「よっぽどの未練があるんだよね。あの事故さえなければ・・・・」っと秀行。
家族4人で、車で旅行中、父親の芳一が運転を誤って、崖から車ごと転落。
湖に沈んだのであった。
芳一は、転落の衝撃で気絶をして動かない。
他の3人は、沈み行く車の中でもがき、水中へ脱出、父親を助けようとするが、車は水中深く沈んで行き、間に合わず、3人は浮上するのであった。
あれから、1ケ月、毎日のように、芳一の霊が家に来て、可愛がっていた愛犬ロッキーの相手になるのであった。
ロッキーも、その気配を悟っているのか、時折芳一に向かって吼えているのであった。
「もう、父さんの死体が見つからなけりゃ、保険金も出やしない」っと町子。
「誤算だったね」っと薫。
「今度は、うまくいくと思ったのにね」っと町子。
そう、この事故この町子と子供二人で、父親を殺し、保険金を狙っていた犯行であった。
子供たちは、町子の連れ子で、再婚であった。
車での旅行中、運転をする芳一にドライブインで、睡眠薬入りのドリンク剤を飲ませ、町子が運転、助手席に芳一を乗せ、町子が、子供たちとタイミングをはかり、湖に転落したのであった。
ちなみに、この親子は、水泳は大の得意で、こっそりと、下見にこの湖に来た事もあるくらいであった。
完璧であったはずが、保険金がおりない。
とうとう、毎日来る芳一の霊に、「あんた、ほんと、いったい、どこでくたばってるんだい」っと町子は、言うが、芳一は、すーっと仏壇の間に行き、手を合わせて拝むのであった。
町子は、「ちょっと、あんた・・・」っと言うと同時に、芳一は、「まだ、わかってないようだね・・町子、俺が、お前らのたくらみを知らないとでも思っているのか」っと芳一が、町子の方へ向かって言うのであった。
「覚えてないのか、あの水中での車内の事を・・・お前が、運転を代わり、俺が助手席にいて、湖に突っ込んだ時、俺は、別のキーでドアロックをしたのを・・・・」
「前もって、俺は、助手席の下に、窓ガラスを内破る道具を隠して置き、お前らより、いち早く車外に出て、お前たちを車外に出さないように、ギリギリまで押し戻していた事を・・・」と、怖い顔でにらみつけながら、町子や子供たちに言うのであった。
「まだ、わからないのか、死んだのはお前たちだ・・・!」
「しかも、一昨日の話だ。どうやって、お前たちがここへ来ているのか知らないが、観念して成仏しろ!・・」っと強い口調で言うのであった。
町子や子供たちは、やっと思い出して、我に返り、自分たちが霊であることを知るのでありました。
弟の秀行は、「どうりで、お腹すかないなーっと思ってたんだよね」っとポツリと言っている。
そばで、鬼の形相をした町子は、「呪ってやる!!」っと芳一の肩を引っ張り、上着が脱げると、町子の驚きと悲鳴が聞こえるのでありました。
芳一の身体には、魔よけのお札が、ぎっしりと隙間なく貼られているのでありました。そして、よく見ると、顔や手足など皮膚が出ている所には、お経が書かれており、町子が近づけないようにしてあるのでありました。
悲鳴ともつかない町子の唸り声に、芳一は、「早く成仏して楽になれ、お前たちの保険金は、俺がありがたくもらってやるから・・・」っと笑いながら、顔を覆う町子に言うのであった。
すると、そばにいた愛犬のロッキーが、いつものように、ご主人様に愛嬌をふりに、近づくのであった。
芳一は、「ロッキー、これから二人でいい生活をしよう・・な!」っと言うと、ロッキーは、ペロリと芳一の首筋をなめるのでありました。
すると、お経の字が・・・・。
芳一の悲鳴と共に、首が仏壇の前に転がるのでありました。
町子と子供たちの姿が徐々に薄くなり、消えて行き、その顔は微笑んでいるようでもありました・・・・とさ。
「耳なし芳一」の変形バージョンでした。
#010 「ハムスター」
浅田あさ子27歳、プログラマーである。
小さな10人くらいのソフトハウスで働いて5年である。
某銀行のND社のシステムで、プロジェクトの中の末端グループを一括で請け負っている仕事をやっている。
同僚の前嶋正と二人で、200本のプログラムのデバッグと単体テストを行っているのであった。
あさ子たちは、難しい大きなプログラムは自分で組むが、大方は、主婦たちのアルバイトのプログラムである。
それだけに、デバッグはそう簡単には行かなくて、ロジックを理解するのに一苦労であり、自分で組んだ方が、早い場合もあり、大幅に遅れているのであった。
マシンも自分の会社にはないので、大手コンピュータ会社の汎用コンピュータルームを貸し切るのである。
コンピュータ室のレンタルームみたいなものである。
しかし、あさ子たちは、朝から晩のゴールデンタイムは他の会社で予約が詰まっており、使えるのは夜10時から朝8時までしか開いていないのであった。
あさ子たちは、夜中働いて、朝になると会社が借りているマンスリーマンションに帰るのが日課であった。
マンションに帰っても、自分の担当のプログラムやら、デバッグ完にならなかったエラー潰しや、進捗状況の報告書など、する事は山積みであった。
そんな生活も数ヶ月続いており、ある日、マンションで同僚の正が、おかしくなって、自分の足の裏を叫びながらハサミで何度も突き立て、血だらけになり救急車で運んで入院する事となってしまった。
あさ子は、正の身体の事も心配だったが、彼の仕事の分まで自分がやらなければならない事に憤りを感じていたのであった。
小さな会社では、他に補充人員も出せないと言われている。
この時から、この仕事が終わったら辞めてやる!っと決心するあさ子であった。
あさ子は、正の分まで頑張り、毎日2時間くらいしか仮眠を摂らないで必死で働いたのである。
そんなあさ子の心を和ませたのが、このコンピュータルームの受付で飼っている一匹のハムスターであった。
誰もがこのハムスターが、いつから、なぜここにいるのか知らないのである。
しかし、とってもかわいいので、受付の女性たちが、小さなプラスチックの虫かごにキッチンペーパーをひいて、餌を上げて飼っているのであった。
夜中は、このハムスターとあさ子だけなので、虫かごを机の隅に置いて、よく話しかけるのであった。
机の上で放し飼いにしても、逃げなくて、あさ子が持ってきたビスケットを大人しく食べているのであった。
このハムスターは、大きな目なので、あさ子はキョロっと呼んでいる。
そんなあさ子は、キョロに励まされ、頑張って、数本の単体テストでこの仕事も終了である。
ある日、いつものように、キョロを放し飼いにして、端末に向かって仕事をしていると、キョロが、あさ子が飲んでいる紙コップのお茶をひっくり返すのであった。
お茶は、左側にあるテーブルタップにかかり、机の上を流れるのであった。
その瞬間、バチバチっと火花が散り、あさ子はギャっと言って手を、机の上に流れているお茶に触ってしまい感電してしまうのであった。
あさ子は、気を失い床に上向きで倒れこむのであった。
どのくらいたったのか、あさ子は、ボーっとしながら、起き上がると、周りは真っ暗である。
しかし、目の前にマンホール大の穴が開いており、光が差し込んでいる。
あさ子は、その穴を覗き込むと、下に女性が机のそばで、床に仰向けで寝ている姿が見えるのであった。
あさ子は、はじめ誰なのかわからなかったが、それが自分であると気づくのに、そう時間はかからなかった。
天上から、下を見ている状態である。
あさ子は、「これって、私は死んだ・・・・の?」
「ええー、なんで、なんで・・・」っと叫んでいる。
しばらく、ぼーっと見ているあさ子は、ふと、下にいるあさ子の鼻が膨らんだり閉じたりと動いているのに気がつくのである。
「私、死んでない!・・・・生きてる、気を失っているだけなんだ!」
「えっ、そしたら、ここにいる私は・・・誰?」
「これって、幽体離脱???・・・」
その時、暗闇の中にいるあさ子の右方向に、光の柱が見え始めた。
そして、あさ子の身体は、光の柱に吸い寄せられている。
「まずい、このままだと、本当に死んじまうよ!」
「あさ子、起きろ、目を覚ませ!」っとあさ子は、下のあさ子に向かって叫ぶが、聞こえてそうもない。
光の柱は、どんどん迫って来ている。
必死になるあさ子は、倒れているあさ子の横の机の上にキョロがこちらを見ているのに気がつくのである。
「キョロ、私が見えるの?」っと言うと、キョロはうなずいたようにあさ子には見えた。
「キョロ、私を早く起こして、起こすのよ・・・・」っと叫ぶと、キョロは、机の右手にある缶ジュースの上にひょいと飛び乗り、今度は右側にあるコンセントに、缶ジュースをこぼしてショートさせるのであった。
そのジュースは、机の上から流れて下にいるあさ子の顔にかかるのであった。
あさ子の身体が急に振るえ出すと同時に、キョロはあさ子の顔の上に飛び乗り、感電してしまうのである。
キョロは、衝撃で飛ばされ、あさ子の横で上向きになっている。
上から見ていたあさ子は、「うあぁぁぁーー!!」っと叫ぶと、急に意識がなくなり倒れこむのであった。
しばらくすると、あさ子は気がつき、天上の蛍光灯が目に入るのであった。
あさ子は、頭痛がしながらも、コンピュータ室に戻ったとホッとするのであった。
横を向くと、大きな顔が目に入った。
キャー!っと叫ぶが、その顔に見覚えがある。
「えっ、私・・・」っとあさ子は、頭痛の中、状況が飲み込めないでいる。
そして自分の腕や身体を見ると毛むくじゃらである。
そうすると、目の前のあさ子がしゃべり出した。
「初めまして、あなたがいつも呼んでいるキョロであります」
「あなたは、今から、ハムスターに生まれ変わったんであります」
あさ子は、ハムスターを両手でかかえながら、そっと虫かごに入れるのでありました。
「長かったなぁー、この時を来るのをどれほど待ちわびた事か・・・・」
「二年もハムスターをやっていたんだよ」
あさ子は、虫かごの取っ手を持って受付の部屋に入るのである。
「君もきっと、人間に戻れるチャンスが来るよ!僕のように・・・ね」っと言って、部屋を出るのであった。
廊下を歩きながら「あれ、ハムスターって何年生きれるんだっけ・・・・」
虫かごの中で、ハムスターあさ子は、ビスケットをかじっている。
その目には、うっすらと潤んでいるのでありました。
#009 「なんでやねん」
慶子は、駅から降りて足早に家路に向かっていた。
人気も少なく、辺りは暗くなって来ている。
慶子の背後から、コツコツと足音が聞こえてくるのであった。
怖くて後ろを見れないが、確かに人の気配を感じる。
小走りになるとヒールのかかとが折れ、倒れてしまった。
すぐ振り返ると、大きな男が立っていた。
思わず「きゃー!」っと叫ぶと、男は胸ポケットから銃を取り出し、慶子に向けるのであった。
慶子は、「お願い、殺さないで!」と、半泣きになりながら手を合わせている。
男は、慶子のこめかみに向かって引き金を引くのであった。
大きな銃声に、目撃した人が「人殺し!!」っと大声を上げ、携帯で警察に通報するのであった。
1分位で、巡回をしていたパトカーが駆けつけ、男は逮捕され、慶子は救急車で運ばれるのであった。
取調室で刑事に向かって男が叫んでいる。
「だから、何度も言ってるだろ、アレは、俺の造ったロボットだって・・・・」
刑事白木は、不審な顔つきで男を見つめている。
男は、「あいつ、最近勝手に出歩いて、俺のクレジットカードをバンバン使っているみたいなので、後をつけてたんだよ」っと言っている。
白木は、鑑識のメモを見ている。
確かに人間ではなく精巧なロボットのようであった。
白木は、「その事は、わかった、だがなぁ、その銃は違法だろう、銃刀法違反だ」
男は「だから、その銃は俺が造った特殊な銃なんだよー」っと言っている。
白木は「いずれにしろ、今晩は帰れないぞ」
「明日、あらためて取り調べるから、泊まってけ・・・」っと言っている。
男は「冗談じゃ・・・ないよ」っと言って、留置所に入れられるのであった。
男は、留置場のベッドに腰掛けながら「何なんだよ、くそー・・・・」っと頭をかかえている。
「慶子にAIを組み込んだ時、人間らしさを覚えさせる為に、テレビを見せたのが悪かったのかな・・・そう言えば、「デスパレートの妻たち」をよく観ていたなぁ」
「いずれにしろ、こんな所で長いは、してられねー」っと男は言い、留置場の金属のオリに手を掛け、叫びながら、オリを曲げてしまった。
男の声に異変を感じた白木は、留置場に駆け寄るのだった。
その無残な留置場の光景を見た白木は、「お前もロボットじゃないのか、こんなの人間わざじゃねー」っと男に指をさしている。
男は「バーカ、あんなチンケなロボットといっしょにするな、俺は人間だ、ちょっと、機械じかけだけどな」っと笑っている。
そう、男はサイボーグであった。
白木は「近づいたら撃つぞ」っと拳銃を取り出し、男に向けている。
「人口皮膚の俺に、そんな9mmくらいの銃じゃ貫通しないぜ」っと男が白木に近づいて来ている。
白木は「誰か来てくれ」っと大声で叫ぶと、二人の刑事が走って来た。
「どうしたんですか、白木さん」
「あー、こいつサイボーグらしい、オリをへし曲げちまいやがった」っと白木。
二人の刑事は、顔を見合わせながら「あれ、白木さん、まだサイボーグに改造してなかったんですか?」っと言っている。
「なんだって・・・」っと白木。
「僕たちは、去年、改造して、人間を卒業しましたよ」
「やだなぁ、最後の人間だよ白木さん、すぐに改造してもらいましょう」っと二人の刑事は、白木を抱きかかえようとするのでありました。
「お前ら・・・」っと言って、白木は二人の刑事からスルリと身をかわして廊下を一目散に逃げるのでありました。
後から、二人の刑事が、「心配しなくても、大丈夫ですよ、白木さん」っと言って追いかけている。
白木は「大声で、誰か助けてくれ・・・・」っと叫んでいるのでありました。
その白木の大きく開けた口に、to be continuedの文字が・・・・・
「あーぁ、もー、いい所で終わったやないの」
寝巻き姿の美知子とひろしは、ソファーで、大画面でレンタルビデオを観ていた。
「ちょっと、ひろし、この続き借りてきてよ」っと美知子。
「えー、こんな時間に・・・外へ行きたくないよ」
「それに、この次の巻を誰か借りてるかも知れへんし」っとひろし。
「もう、このままやと、気になって寝られへんわ、いつもの所が借りられへんかったら、隣町まで行って来てよ」っと美知子。
頭があがらないひろしは「もう、わかったよ、行くけど、その前に腹ごしらえしてからやで」っと言ったひろしは、おもむろに、自分のお尻からコードを引っ張り出しコンセントに突っ込むのでありました、充電・・・・・。
#008 「花の首飾り」
この物語は、近未来、女性だけしかいないコロニーの・・とある出来事である。
いきなり余談でありますが、元来、どんな生き物でも雄と雌の二種類が標準でありますが、大もとは、雌が主流ですよね。
雄は雌の副産物で、交尾で子孫に影響するしか役目はないのであります。
よく知られている話で、蜘蛛やカマキリなどは、雌の産卵に必要な栄養源として、一部の雄は、自ら身体を与え、雌は雄を頭から、むしゃむしゃとかぶりく映像は見た人も多いでしょう。
人間の雄、男、世の中でエラそうにしておりますが、女の変形バージョンで、一時しのぎで簡単に造られた気が致します。
その痕跡が、「乳首」であります。
男にとって、何の価値もない「乳首」が残っております。
女が先に生まれ、神様は思いつきで男を造り、性器は改造しても「乳首」はめんどくさかったのか、そのままにしてあります。
神様にとって、男は単なるその場だけの一時の生き物だと思われたのでしょうか?
それとも、男の進化(バージョンアップ)で、将来的に男にも授乳が出来るように意図的に残したのかもしれません。
染色体にしても、テレビ番組で見たのでありますが、女性はXX、男性はXY、女性はX遺伝子が傷ついても、もう一つあるので発病しないですが、男性は一個しかないので、致命的になります。
男性のYは、X比べれば小さく、ちんけな物で、あってもなくてもいいような物であります。
子孫繁栄とは言え、なんで二種類の物を掛け合わせなければならないのか、強い遺伝子を残す為?じゃー、3種類、4種類と多くの種類を掛け合わせたらいいじゃないのとか、単体で分裂増殖ではダメなのか、強い遺伝子を残して、最終的にどうゆう世界になるのか、神様は、どう思ってこの地球に生き物を造ったのか、考えてしまいます。
こんな、結論の出ない話を考えるとまた眠れなくなる今日この頃であります。
こんな話はさておき、元に戻って、とあるコロニーのお話であります。
今のお話は、前振りでも何でもありません。
単なる思い付きで書いただけであります。
あしからず・・・。
コロニーの中で、光子は保育所で働いている。
幼児の数も多いので、毎日がてんてこまいである。
同僚の八千代も光子同様に、毎日が戦争状態である。
二人は、シフト勤務で終わったら、よく八千代の家で食事をする
「もう、やってられないわ!子供たちはどんどん増えるし、面倒見る私たちの数は、減る一方・・・上は、どうゆうつもりなんかなー」っと、いつものぼやきを光子が、八千代にこぼしている。
八千代は、また、いつもの愚痴を言っていると思いながら「敵から私たちを守るために、兵隊さんがいくらでも必要だから、この職場からも人事異動させられちゃうのよね」っと言っている。
「八千代は、前、食料調達係りをやってたんだって?」っと光子。
「うーん、そうだよ、ちょっと、仕事中にサボって、野原の花を集めていたら、見つかっちゃって、ここへ来る事になったけど、軍部でなくてよかったと思っている」っと八千代。
「あっ、首にある小さな花のネックレス、それのこと?」
「そうそう、かわいいでしょ、気に入ってるんだ」っと、のんきに話す八千代であった。
その時、校内放送で「巨大生物接近、各自、持ち場について戦闘体制を整えろ!そして、このコロニーと子供たちを守れ!」っと叫んでいる。
「えええー、何、なに・・巨大生物って・・・」っと光子。
「とにかく、逃げよー!」っと二人は部屋の外へ飛び出すのであった。
すると、急に地面が揺れ出して、二人はその場で倒れてしまう。
起き上がって、二人が目の前で見えた光景は、ざっくりと地面が割れていて、洞穴のようになっている。
夢でも見ているかのようであった。
サイレンと共に、軍部が総動員して、怪物に立ち向かうが、敵に歯が立たない様子である。
慌てて逃げ出す光子と八千代の前に、白い煙が覆いつくすのであった。
意識が遠のき、二人はその場で倒れてしまうのであった。
「母さんや、今日はいい物が手に入ったぞ」っと、武は獲物を高く上げて我家に入って来た。
子供たちも寄って来て、「うわー、おいしそう!」っと歓声を上げている。
核戦争後、配給も止まり、自給自足の生活で、久々の蛋白源である。
「すごい大きな蜂の巣やね、今日はお腹いっぱい食べれるね・・」
「わーい、わーい」っと子供たち。
料理が出来上がり、一家団欒の楽しい食卓である。
「蒸し焼き、佃煮、炊き込みご飯、どれもおいしいねぇー」
子供の一人が、箸でつまんで言っている。
「あれー、この蜂、首に小さな花が付いてる、珍しいね・・・」・・・っと。
#007 「銀河」店
「銀河」店の店長、天野川は、アルバイト店員の滉平に「おーい、滉平、注文が入ったから出荷準備してくれー」と叫んでいる。
「いいか、白200万、黒100万、黄色30万だ、大量注文だから、間違うなよー」っと言っている。
滉平は、「はーい」っと言って、(やった、大量だ、これで、正社員の道も夢ではない・・)っと気持ちも弾むのであった。
一方、ここ居酒屋「まいど」で、ヒラ社員同士、会社帰りにいつのも店で、ぐだぐだ世間話をしている山田と堀内が居る。
「ここ最近、平和だとつくづく思うよ、テロや紛争もなくなり、犯罪も激減、病気で死ぬ人も減ったと言うじゃない」っと口をモグモグと、食べながら話している山田。
「ウーん、専門家によると、ここ最近、気候も安定して、大きな災害もほとんど世界各地でなくなり、住みやすく、経済も安定、争う理由がなくなったからではと言ってるよね。それに、豊作続きで食糧難もどこ吹く風やらで、逆に、全員がメタボって言うじゃない。」っとビールの泡を口につけている堀内。
「こうゆう状態って・・・、そう言えば、数年前から黄砂のように、不思議なんだけど、空が黄色っぽくなって以来からかな?・・・・まぁ、いずれにしろ理想の社会、ストレスもなく、平和だけど退屈な毎日に乾杯!!・・・・」っと二人はうなずき合っている。
すると、居酒屋のテレビで臨時ニュースを目にするのであった。
アメリカ、ロサンゼルスからのライブ中継で、無数の円盤らしき物体から、黄色い光線を地上に向けて放っている光景が映っている。
よくみると、小さな黒い点のような物が、光の中で集まって、円盤に吸い寄せられている。
レポーターは、驚愕の光景を「人が光の中で浮き上がっています」っと叫んでいる。
中継が変わり、アフリカ、ヨーロッパと同じ光景をリレー中継している。
「ええー、まじかよ、これって、映画かドラマじゃないの?」
「何が、起こったんだよ」っと二人。
この居酒屋がシーンとなるくらい、客たち店員もテレビに釘づけである。
ざわざわとする客たちに、テレビ中継は、ソウルと東京のライブ映像に切り替わるのであった。
「えええー!」っと客たちは総立ちである。
そうすると、居酒屋の外から眩しい光の洪水に、客たち全員呑み込まれるのであった。
銀河店では、「おーい、滉平まだかよー」っと店長。
「もう少しですー!」っと滉平は、帰ってきた円盤からチューブのような光の管で、黄色いガスの入った容器に吸い取っているのであった。
「これで、終わりっと」っと言って、容器のラベルに黄色人種30万と書いている。
白人200万、黒人100万の容器もそばにある。
滉平は、容器を持って光転送装置にセットしてボタンを押すのであった。
「これでよし!」っと、そして、「もっと、地球人を太らせ、増殖した方がいいスよね」っと独り言を言って、透明の水槽のような容器にガスが充満している中で地球が浮かんでいるのを見つめて、黄色いガスを地球に送り込んでいるのでありました。
地球の左隣の水槽は、「金星」と書かれている、その隣は「水星」、右隣は、「火星」、「木星」「土星」と水槽が並んでいる。
店長は、「地球人の注文が多くなりそうだから、滉平、火星に水と空気を送り込んで、第二の地球環境を造って、地球人を培養してくれないか」っと言っている。
「火星人が不人気なのは、ごつごつしていて固いんだろうな、地球人は水分があって滑らかで、柔らかくて美味しいんだろう、よし、地球人培養プロジェクトを起こして、大量生産するぞ!」っと、店長は意気込んでいるのでありました。
#006 「冬眠」
良太と平太、兄弟は安アパートで暮らしている。
仕事は、コソドロで生活をつないでいる。
しかし、気の弱い弟の平太は、この仕事で不眠症になっている。
二人は、アパートの近くに、いつも灯りがついていない古い一軒家に目をつけていた。
生活資金も底が見え始めたので、ここらで一発仕事をしようと兄の良太がいい、平太といっしょにこの家に忍び込むのであった。
夜中の2時である。
勝手口からこっそりと忍び込むと、芳香剤のきつい森林浴のような匂いが充満していた。
緊張しながら、忍び込んだ二人だったが、この香りに安らぎを覚え、大きく息をするのであった。
「兄ちゃん、よっぽどトイレか、家が臭いんだろうね」っと平太。
「誰もいないようだから、とっとと仕事を済まして帰ろうぜ!」っと良太が言うのだった。
畳敷きの部屋で、襖や障子で区切られている昔ながらの家であった。
真っ暗な中、良太が障子を開け部屋に入り進むと、何かにつまづきこけてしまうのであった。
「あっ」っと叫び、思わず口に手で蓋をする良太。
後ろから、小声で平太が「どうしたんだ!」と、LEDの小さな懐中電灯で良太を照らしている。
平太は、「人がいる!・・」っと灯りで指し示すのであった。
そこには、中年らしい男性がお腹をかかえて丸まっている姿があった。
そして、男性のそばに水の入ったガラスコップと薬らしき錠剤が散乱しているのであった。
良太は、その男性にそっと触ってみると、冷たい、息も脈もないのである。
「死んでる・・・自殺や・・・」「どうしよう!・・」っと良太。
思わない展開に頭が廻らない。
「今日は、辞めよう、人殺しにされたら、たまらんで・・・・」っと良太、「うん、そうしよう」っと平太。
「ちょっと待って、これって睡眠薬だよね?」っと散乱している錠剤を手にとって、薬ビンに詰めっ込んでいる。
「何やってんだよ、そんな気持ちの悪いもの捨てろよ!」っと良太。
二人は、慌てて、この家を出るのでありました。
平太は、しっかりと薬ビンを持っている。
翌日、アパートでニュースや新聞を見ていたが、昨晩の死体の事は何も報道されていなかった。
ほっとしたのか、やたらとお腹が空き、御飯、ラーメン、スナック菓子など安い物で、お腹いっぱい食べる二人であった。
しかし、夕方、テレビのニュースであの家の死体の話が出ていた。
「あっ」っと叫んだ二人であったが、ちょっと様子がおかしい。
死んでいたと思ったあの男は、病院で治療中と報じている。
報道によると、あの男性は、とある大学の教授でリスなどの実験動物から、冬眠をテーマに自ら実験台になり、研究していたのであった。
リスは、冬眠中でも途中起きて蓄えていた食糧を食べる習性があるという。
良太たちが慌てて逃げた時の扉が開けっぱなしになっていて、近所の人が教授を見つけ、通報したのであった。
しかし、死んだと思われていた教授が、病院で息を吹き返したらしいのである。
「なんだ、人騒がせな、自殺じゃなかったんだ、馬鹿馬鹿しい」
「平太、今度はちゃんと仕事をするから、今のうち寝とけよ」っと良太は言うのでありました。
その日の晩、もう一軒、目ぼしい屋敷に目をつけていたのがあり、そこへ行こうとするのでありました。
老人と住み込み女中だけがいる事をリサーチしていた二人は、こっそりと屋敷に忍び込むのでありました。
今回も午前2時である。
金目の物を探し、応接間やリビングなどを物色している内に、二人はなんだか睡魔に襲われるのであった。
「あれ、おかしいなぁ、むちゃくちゃ眠くなって来た」っと良太。
平太も例の睡眠薬を飲んでないのに、意識が遠のき、猛烈な睡魔に襲われる二人でありました。
外に出ようと思っても身体が思うように行かず、二人はリビングで倒れるように眠り込むのでありました。
平太のポケットから、睡眠薬のビンが落ちテーブルの上に錠剤が転がるのでありました。
しばらくすると、この家の前に一台のワゴン車が着くのであった。
中から男二人出て来て、作業着姿で泥が服に付いている。
家に入り、リビングのソファーにドスンと腰掛ける二人であった。
この男たち、この家の主人の義理の息子たちであった。
彼らは、実の母親が病死したのは、この家の主人である義父が、殺したと思っており、恨んでいたのであった。
そして、今晩、計画通り、義父を殺し、山に埋め帰って来た処であった。
たばこをふかす兄の雅夫は、「これで、この屋敷も俺たちのものだな・・」と弟の和夫に顔を向け言うのであった。
しかし、和夫の顔がこわばっている。
「兄貴、ここに・・・誰か倒れている・・・」そう、良太と平太が、テーブルの下でリスのようにお腹をかかえて丸まっているのでありました。
「こいつら、誰なんだ」っと驚き大声を出す雅夫。
足で二人をこづくが動かない。
そっと、顔を近づけるが息をしていない、手は冷たいし、脈もなさそうである。
テーブルの上の散乱する錠剤を見て、「なんなんだよ、こいつら、人の家で自殺かよ!」「信じられない!!」
和夫は、「どうする」っと心配そうに兄を見ている。
「警察なんかに言えるわけないし・・・・しかたない・・・」っというと、二人をワゴン車の荷台に運ぶのでありました。
「和夫、そこのテーブルの薬、トイレで流してしまえよ」っと雅夫は言っている。
慌てて、和夫は薬をトイレの便器に投げ込み、車に駆け寄るのでありました。
4時間後、二人は家に戻って来た。
もう、朝である。
まさかの出来事に、倍の穴掘りを強いられた二人は、くたくたである。
家に戻り、ソファーにバタンと倒れるように寝転がった二人は、爆睡状態である。
二人は気がつかなかったが、便器から、ぶくぶくと炭酸入浴剤のような泡が出ていて、家中、匂いが充満しているのでありました。
一時間後、二階から住み込みの女中が降りて来て、このもの凄い匂いにすぐに窓を開け、換気し、お腹をかかえて丸まっている雅夫と和夫を発見するのでありました。
翌々日、雅夫と和夫の葬式が行われている。
父親は行方不明で、二人は不審死、親族も気味悪がっているのでありました。
火葬場で、二人の煙が立ち昇る中、火葬場の周りに匂いが広がっているのでありました。
「なんか、いい匂いね、町の中なのに、森林浴みたいに森の香りがするなんて・・・」っと口々に参列者が、眠たそうに言うのでありました。
#005 「松竹梅」
石田秀行57歳、アパレルメーカーの社長である。
そして、隣にいるのは、副社長の橋本優一、同じく57歳である。
幼馴染みで、無二の親友でもある二人は、よくこのホテルのカウンターバーを利用している。
「最近、美也子の様子がおかしいだよね。」っと石田がグラスを見つめながら橋本に言っている。
「ホストクラブで、金はバラらまくし、帰りは遅いし、家では暴れるし・・・どうしたもんかねー、こんなひどい女とは思わなかったんだけどねー・・・」。
美也子28歳、スナックで石田に見初められて、石田の後妻になり、一年である。
「お前が、かまってやらないからじゃないか・・・」っと橋本が言っている。
「この分だと財産、食いつぶされそうな気がする」っと石田。
「いっそ、始末しちゃう?」と軽く橋本が言う。
「えっ!」っと石田の驚いた顔を見ながら、「冗談、冗談、」っと橋本。
「でも、まんざらな話でもないんだよね」
意味深な顔つきに変わる橋本。
「聞いた話では、死神代行っという組織があって、代わりに殺人をやってくれるそうで、ドラマみたいな話だけど、実際あるんだって・・・・」っと、石田の耳元でささやくように言っている。
石田は、「死神代行って、マンガのBLEACHじゃあるまいし・・・」っと突っ込む。
「でも、ホント、あいつには飽き飽きしてる・・・・・」っと疲れ顔の石田。
「それって、ちなみに、いくら?・・・」っと、半信半疑で石田は橋本に聞いている。
橋本は、身を乗り出して「松竹梅、とコースがあって、松は一番高くて、1億、でも相手に尊厳を込めて楽に逝ってもらう為の安楽死の薬があり、見た目は普通の心臓麻痺で、絶対にわからない。竹コースは、5千万、交通事故死か、転落死、水死など、状況に応じて始末をするというコース、そして、最後は、梅コースで、500万」と続きを言う間に石田が、「えっ、メチャ安い・・・なんで・・」
「まぁ、慌てなさんな、この梅は、手間もかからず、ターゲットを誘拐して、生きたまま棺おけに入れ、山に埋めるという簡単コース」
「血も見なくて済むし、やる方も不慣れな初心者でも出来るらしい」っと橋本が廻りに気を使いながら言っている。
「なんだ、初心者でもって、生き埋めだろう、一番えぐい殺し方じゃないのか・・」っと石田。
「なんで、お前がそんな事を知ってるの?」
「社長・・・!」目配せしながら、「例のY組系の、取引先のアレよ・・」っと、ニヤつきながら橋本は言っている。
「あー、あっ・・」っと納得した石田は、しばらく考えている。
すると、「一度は、生涯夫婦の約束をしたんだから、高いけど、松にしよう・・・」と決心した石田であった。
事は、トントンと運び、石田が広島に出張に行っている間にっと言う事で、アリバイ造りであった。
秘書の山本和子に、二泊三日の急な出張だと言い、後をよろしくっと、山本の目を見つめるのであった。
この秘書、35歳の美人系で何やら石田と関係がありそうな雰囲気である。
石田は、広島の取引先で商談をまとめて、ホテルに帰ろうとした時、黒づくめの男二人が、石田の背後から襲い、目隠しをして車に押し込み、走り去るのであった。
石田は、何が起こったのかわからず、叫んでみても、猿轡をされており、唸るばかりであった。
男二人は、たどたどしい日本語で、わめいている。
「ナニ人や!・・・」と思っている内に、車から出され、何やら箱の中に入れられるのであった。
これは、誘拐だと思い、「誰がこんな事を・・・」っとライバル会社など頭をめぐらす石田であった。
しばらくすると、二人組みが、石田の入った箱を持ち上げ、下に降ろしている。
そして、箱の上から土をかけているのであった。
その事に気がついた石田は、「これは、誘拐じゃない、う・・梅(埋)ッコースだ・・・・」
翌日の夕方、会社近くの公園前で、石田の車の運転席に秘書の山本が乗っている。
後部座席から、橋本が、「山本君、これ・・」っと分厚い封筒を渡している。
「わかりました副社長、確かに振り込んで置きます」っと言っている。
「でも、いくらなんでも、梅はひどすぎやしないか・・・・」と橋本。
橋本の隣に座っている美也子は、「あんなヤツ、500万でも、もったいないくらいよ!」っとはき捨てるように言っている。
そして3人は、お互い目を合わせて、バラバラに家に帰るのであった。
橋本は、何か気が重く後ろめたさを感じながら、家で酒を呑んで、寝入ってしまうのであった。
夜中の3時ごろ、石田邸の住み込み女中からの電話が、鳴り響いている。
橋本は、うつろな頭で電話を取ると、顔の血の気が引くのであった。
美也子が心臓麻痺で亡くなったっという知らせであった。
「しまった、石田の美也子への依頼をキャンセルしてなかった・・・!」っと頭をかかえる橋本であった。
っとその時、橋本の家に侵入して来た二人組の男に、頭を鈍器で殴られ、気絶するのであった。
橋本が、気がついたら真っ暗の中で、なにやら狭い場所のようであった。
ライターで灯りを灯すと、箱の中であった。
すぐに、その状況を察知した橋本は「これは、美也子の梅コースか・・・なんて、やつだ・・・・」と言い、箱の上では、二人の外人がカタコトの日本語でしゃべりながら、土をかけているのであった。
数ヵ月後、一人の女性が、石田邸の門をくぐろうとしていた。
秘書であった山本である。
その姿は、大きなお腹をかかえている姿であった。
#004「夢」
目覚ましが鳴り、ひろしは眠い目をこすりながら、学校へ行く支度をしている。
家を出て、幹線道路を渡り、公園内を通れば中学校である。
交通量の多い幹線道路を、5歳くらいの男の子が、走って渡ろうと飛び出すのであった。
とっさに、ひろしは「危ない!」っと叫び、子供を追いかけ抱きかかえるのであった。
しかし、運悪くそこへダンプが急ブレークを掛けながら二人を跳ね飛ばすのであった。
周りの人は、悲鳴をあげ、騒然となる・・・とその時、ひろしはベッドの上で目覚ましが鳴っているを止めている。
ひろしは、「はぁ、はぁ、ゆ、夢・・・よかったー、凄いリアルな夢!」っと胸をなでおろしながら、ベッドから降り、学校へ行く支度をするのであった。
この事を学校の友達にネタとして話そうとニヤニヤしながら、家を出て学校へ行くのであった。
幹線道路の横断歩道を見ながら、「ここだ」っと思っていると、夢に出て来た男の子が、道路へ飛び出して来た。
ひろしは、「嘘だろう」っと思い、「これって、正夢?・・・」っとちゅうちょしていると、ダンプが男の子に近づきとっさに、ひろしは男の子を助けに飛び出すのであった。
ダンプは、急ブレーキをかけ、二人の前でギリギリ停まるのであった。
ダンプの運転手が、大声で喚いている。
ひろしは、運転手にペコペコ謝りながら、公園に男の子を連れて行った。
「なんで、飛び出すんだよ、危ないじゃないか」「怪我ないか?」その男の子は、「一人じゃ寂しいから、お兄ちゃんといっしょに行こうと待っていたの」っと言う。
なんの事かわからないひろしは、「どこへ行こうと言うんだよ、それに、俺、君の事知らないよ」と言うと、「いいから、こっちへ来て」っと男の子は、公園の中を走り出した。
「こっち、こっち・・」っと男の子。
ひろしは、「いいよ、学校に遅れるから・・」
「もうー、ちょっとだけだよ」っと言って、男の子を追いかける。
そうすると、目の前の男の子が、光に包まれ、やがて男の子を追いかけるひろしにも光が襲い、ひろしは、「わぁー、まぶしい!・・・」と叫んだ。
とある病院の一室。
「ご愁傷様です、午後4時32分」っと言って、医者がひろしの脈から手を離すのであった。
ひろしは、ベッドに横たわっている。
ひろしの胸に顔を埋めて、母親が泣き叫んでいる。
母親の横に立っている父親は、「お前だけでも、助かると思ったのに、なんで急に・・・・」っと涙を浮かべて言っている。
そう、ダンプに跳ねられた二人は、男の子は即死、ひろしは、運良く公園の木々に落ちて、軽傷であった。
しかし、意識がなかったのであった。
病室の窓からまぶしいほどの夕陽が、差し込んでいる。
窓の外で、子供の声がしている。
「こっち、こっち・・・」
#003「チーちゃん」
雅夫は、酔っ払って自宅へ帰って来た。
「うぃー、ヒック、よう呑んだなー、全然覚えてないわ!」
「でも、ちゃんと家には帰って来てるもんね・・・」っとごきげんな様子。
雅夫は玄関に靴を放り出し、リビングに入って来た。
よっぽど呑んでいて、電柱にでもぶつけたのか、頭から、血がにじんでいる。
リビングに居るセキセイインコのチーちゃんに雅夫は話しかけている。
チーちゃんは、インコにしては結構よくしゃべる鳥で、「おはよう」「ただいま」、「おやすみ」など挨拶はもちろん、「愛してるわ」とか日常会話までも覚えて話すのである。
雅夫は、インコが「愛してるわ」っと言っているのを聞き、「あいつ、何をアホな事を覚えさせてるねん」っと笑って、自分も「アホか・・」っと突っ込みを覚えさせようと何回もするのだが、チーちゃんはそっぽを向いたままである。
「あれ、あんなに俺に懐いてたのに・・無視かよ・・」「酒臭いからやね・・」っと雅夫。そうしたら、チーちゃんは、「ケンジ好きよー」っと妻の声マネをしている。
雅夫は、「えっ、ケンジって誰やねん!!」そして「ケンジ、はやく・・・」っとだめ押しで言っている。
「あいつ、俺に隠れて浮気してるんかぁ・・・」っとその時、妻の咲子とケンジが玄関から入る音が聞こえてきて、とっさに雅夫は、クローゼットに隠れるのであった。
扉を少し開けて覗いてみると、リビングで妻の咲子が「ケンジ好きよー」っと声をあげ、ケンジに抱きついている。
二人がいちゃついているのを見た雅夫は、頭に来て、バーンっとクローゼットの扉を開け、二人に駆け寄り、「お前ら、どういう事や、人の家で何をさらしとるんじゃー」っとまくしたてるのであった。
しかし、二人は雅夫の声が聞こえなかったかのように、ケンジは、抱きつく咲子の腕を降ろして、「うまく行ったけど、あの男を轢いて、フロントガラスがボロボロになったから、ちょっと、車、隠してくるわ!」っと部屋を出て行った。
「早くしてね、祝杯のシャンパンを買ってあるから、待ってるわ」っと咲子は、雅夫の身体を通り抜けてキッチンへ行くのであった。
#002「進化?」
地元に久々に帰ってきた俺は、高校の同級生だった一郎と6年ぶりに居酒屋で呑む事になった。
「やぁー、待たしたね」っと、一郎が入って来た。
「いやー、年末は忙しくって、猫の手も借りたいくらいだよ」っと一郎。
そう、一郎は、高校を卒業後、父親の跡を継いで八百屋をやっているのであった。
しばらく、呑んで食べながら高校時代の話に花を咲かしているのだった。
「そう言えば、佳代ちゃん、末期だった乳がんが治ったんだって?」っと俺。
「むー、奇跡に近いと医者が言ってたんだって」っと一郎。
一郎のコップにビールをつぎながら「最近、癌にかかる人も多くなったけど、結構、治る人も多くなったね」っと俺。
ぐいっとコップの中のビール全部呑みながら「医学の進歩かな」っと一郎。
そして、じっと俺の顔を見つめて、「実は、お前にも言ってなかったんだけど、半年前、俺も肝臓癌で末期だと言われたんだよね。」
「えー、・・・・知らなかった・・・でも、大丈夫?・・」
「あー、それが、先月、原因不明の熱で一晩うなされて、翌日、目が覚めると、あれほど痛かった肝臓がなんともなくなっていたんだよね」
「その日に医者で診てもらったら、癌が消えているって言うじゃない」
肝臓癌の割には、よく呑むやっちゃと内心俺は思った。
「俺も驚いたけど、医者も驚いて、何回か検査をしても、完全になくなっているんだって」
「俺は、逆にこの医者が誤診だと思ったんだけど、やっぱり癌が治ってたみたいなんだよね」と手酌でビールをコップにそそぐ一郎。
そんな一郎の話を半信半疑に聞きながら、「むー、いや、癌って、正常細胞の氾濫でなると言われ、遺伝子が傷ついて癌化するとか言うじゃない。」
「ある説によると、癌って、生物が進化する時の新細胞に移行する最中の過程だと言うんだけど・・・・つまり、生物って、古代、魚が陸に上がり、エラ呼吸から肺呼吸に成る時、何回か失敗して死んだんだと思うのよね。
細胞がえらから肺に変わるんだからね、一回では無理でしょう。そう、何十何百年かかったんでしょうね。」
「だから、人も、ひょっとしてその進化の過程に入っているんじゃないかっ?・・・と言われているんだよね」っと俺。
「え、・・じゃー人間は何に進化すると言うんだよ」
「願いが強いと身体が変化する?・・・・・かな?」っといい加減事を言っている俺。
「佳代ちゃん、そう言えば、予知能力が芽生えたとか、おかしな事を言ってたな・・」っと一郎。
「佳代ちゃんって、高校時代、教室で、確か占い好きの少女で、みんなの運勢を占っていたよね・・・たしか・・」っと俺。
「思いが叶ったのか?・・・・」
「じ、じゃー、俺は、どうなんだよ・・・全然変化がないんだけど、相変わらず、忙しいだけで、なんか、損をした気分・・・」っと一郎。
「まぁー、噂みたいなもんだからね、でも、いつかは、お前にも・・・・」
っと、一郎を見ると、一郎の背中から細い、毛むくじゃらの棒のような物がいくつも出ている。
「お、お前、背中、背中・・・」
「背中がどうしたんだよ・・・」っと一郎は、目の前のガラス窓に映る自分の姿を見ると、凄い数の腕が背中から出ているのが見えている。
「ひやー、!」っと一郎。
「お前、忙しいから猫の手も借りたいと言ってたよね」
一郎は、うなずき「俺は、猫の千手観音か・・・」っとポツリと一言。
#001「わがままな子ねぇ」
まもるは、小学5年生。
学校から家に着くなり、「腹減った、かあーさん、ご飯まだー?」とランドセルを下ろしている。
母親は、「まだ、早いじゃない、支度している最中よ。すぐだったら、目玉焼きぐらいしか出来ないわよ」
まもる「あーん、それで取り合えずいいよ!ご飯の上に乗せといてね。早くして、死にそう!」
母親「オーバーねぇ、じゃ、すぐ造るわ」
まもるは、DSゲーム機を取り出し、テーブルの上でゲームをやり続けている。
しばらくすると、まもるがゲームをしているテーブルの上に、まもるのお茶碗がコンと置かれ湯気が上がっている。
まもるは、いい匂いにつられ、ゲーム機から目を離して、お茶碗を取ろうとしたら、「わぁー!」っと大声を上げ、椅子から転げ落ちるのであった。
「これ、なにー!」っとまもる。
母親は、「目玉焼きよ」っと一言。
まもるのお茶碗には、二つの目ん玉が乗っている。
焼かれて黒目が白くなっている。
まもるは、お茶碗から目を離して、母親を見ると、母親の目が大きく穴が開き、黒くなっている。
「すぐ出来るのって、これしかないのよ!もう、わがままな子ねー」っと母親は言い、手探りでまもるのお茶碗を探して、片付けているのであった。