さぶりんブログ

音楽が大好きなさぶりんが、自作イラストや怪しい楽器、本や映画の感想、花と電車の追っかけ記録などをランダムに載せています。

【100分de名著】三国志/陳寿

2018-01-22 23:28:50 | 読書録
毎週がんばって見ているEテレの「100分de名著」シリーズ。まだ見てなかった頃のバックナンバーに陳寿の三国志があったので、テキストを買って読んでみた。

いやぁ~買ってよかった。

中学の頃、学校の図書館で、明代に成立した三国志演義(羅漢中の作とも言われる)を学生向けに簡単にしたシリーズを夢中になって読んだ。あと受験勉強中だったが、NHK人形劇の三国志も少し見た。おおよそ小説や漫画になって親しまれているものは同じ三国志でも、正史の三国志ではなく、明代の三国志演義を元にしている。

三国志演義は、正史の三国志をもとにした娯楽小説だから、正史の三国志(魏志倭人伝なども含む)とはところどころ違っていることは昔から知ってはいたが、正史の三国志に触れる機会がなかなかなかった。それをこのように簡潔に相違点をまとめたNHKテキストと出会えてとても嬉しかった。

正史の三国志は固すぎて面白くないのかなという先入観を持っていたけれど、解説者の渡邉義浩さんの文章が分かりやすいせいか、正史は正史で読んだら面白そうである。

特に感銘を受けたのは、陳寿という人物がどういう人物であったか・・ということ。

陳寿は元蜀臣で、蜀が魏に滅ぼされたことで亡国の民となった。その後、魏を滅ぼした晋に仕え、諸葛亮(孔明)の文集である「諸葛氏集」を編纂。これが晋の初代皇帝・司馬炎に高く評価された。司馬炎は、諸葛亮による北伐(蜀の魏への侵攻)を防いだ司馬懿の孫であり、孔明を高く評価することは司馬懿も評価することにつながるからである。こうして陳寿は晋でも重んじられるようになり、三国志を書くことになったというのだ。魏の正統を引き継いだ晋の官僚という立場上、魏寄りの立場で書かざるを得ないとしても、蜀に対する思いというものを込めて書いているのである。

ということで、陳寿が蜀にも魏にも詳しいことは分かったが、呉についてもちゃんと書いているところは、個人的にすばらしいと感じた。たとえば天下三分の計というのは、孔明が唱えたものだとばかり思っていたが、実際にはもともと呉の重臣・魯粛が献策していたものだという。魯粛の思惑と孔明の思惑(最終目標)は違うのであるが、とりあえず三つ巴にしようという観点では呉と蜀の利害は一致して、それが実現する。孔明一人が唱えていたのでは決して実現しないことである。また魯粛の三分の計は、孫権が劉備に荊州を貸し与え、協力して曹操と対峙すべしという献策だったことから、そもそも劉備と孫権は対等ではなく、圧倒的に孫権の方が上であることが分かる。有名な赤壁の戦いは、劉備主体ではなく、孫権側が主体の戦であった・・・陳寿の三国志を読めば、そのようなことが分かるようである。

かくのごとく、三国志演義は、三国志に比べて猛烈に劉備びいきであるのだが、劉備なき後の劉禅に対して捧げた上奏文である「出師表(諸葛孔明が忠誠心と北伐の決意を示した名文)」は三国志と三国志演義はまったく同じだという。三国志演義の作者による脚色が不要なほど読み手への訴求力にあふれ、物語の中核として位置付けうる文章だからだろうと、テキストには書かれているが、やはりそこに陳寿の思いがしっかり込められているからだろう。

このテキストを読んでいて、学生時代にハマった中国古典文学への熱意がよみがえってきた。また色々読み返してみたいものである。

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