さぶりんブログ

音楽が大好きなさぶりんが、自作イラストや怪しい楽器、本や映画の感想、花と電車の追っかけ記録などをランダムに載せています。

【DVD鑑賞録】ヴェルディ/歌劇 《シチリアの晩鐘(シチリアの夕べの祈り)》

2018-01-08 23:13:30 | オペラ・バレエ鑑賞
昨年の10月に所属オケでヴェルディのレクイエムをやった時、前プロとして「シチリアの夕べの祈り」の序曲を付けた。

その序曲は素晴らしく、特に途中に出て来る甘いフレーズ「ソ~♭ラ♮ラ♭シ~ドレファ~♭ミ♭ミレドド~♭シ」のところ(2ndVnは合いの手だったのでこのメロディを弾けなかったのであるが)が大好きで、このフレーズがオペラのどの部分に出て来るのか知りたくてたまらなかった。

また、自分のレパートリーとして、このオペラに出て来るソプラノのアリア「ありがとう、愛しい友よ」を練習し始めているので、その曲もオペラのどこに出て来るのか知りたかった。

あと、このオペラは実際に1282年にシチリアで起こった「シチリアの晩鐘」と呼ばれる事件(フランス王族であるアンジュー家のシャルル・ダンジューの支配に不満を募らせたシチリアの住民が、アンジュー家の兵の一団がパレルモでシチリア住民の女性に暴行したこと切っ掛けに暴徒化し、4000人ものフランス系の住民を虐殺した)を題材にしているにもかかわらず、パリ・オペラ座より、第1回パリ万国博覧会のための作曲を委嘱されている点を非常に疑問に思っていた。国威をかけて万博を開こうとしているパリの、しかも国の補助を受けているオペラ座で、自国民が虐殺されるオペラを、虐殺した側の国の作曲家が書くという信じられない構図であるが、それを可能としたのはいったいどんなオペラなんだろう・・・という興味が尽きなかったのである。

ヴェルディは、アイーダにしろ、ナブッコにしろ、史実からみれば嘘っぱちなオペラを書いて大当たりしているので、そもそもヴェルディの作品に史実を求めてはいけないのかもしれない・・と思いつつ、シチリアの晩鐘のDVDを探すが、日本で売られているのが見つからず、輸入盤の英語字幕のものを手に入れて、リージョンコードを読まない格安中国製DVDプレイヤーを使って、正月に見た。

キャストは以下の通り。

指揮:リッカルド・ムーティ(スカラ座)

エレナ公女(前シチリア王の妹):シェリル・スチューダー(ソプラノ)
アッリーゴ:(エレナに恋する若者):クリス・メリット(テノール)
モンフォルテ(シチリア総督):ジョルジョ・ザンカナーロ(バリトン)
プローチダ(独立運動の志士):フェルッチョ・フルラネット(バス)
ベテューヌ卿(フランス士官):エンツォ・カプアーノ(バス)
ヴォードモン伯爵(フランス士官):フランチェスコ・ムシヌー(バス)

・・・・・・・・・・・・・・

いやぁ~圧政を敷いていることになっている、モンフォルテ役のジョルジョ・ザンカナーロのカッコイイこと。例の序曲に出て来る甘いフレーズは、このモンフォルテが、自分と敵対するシチリア人アッリーゴに父親として名乗りを上げる部分の歌なのだ。モンフォルテがかっこよく、優しいお父さんにしか見えない。対する冷徹な独立運動の志士プローチダは、シチリア人達が反乱を起こす元気がないのを見て、フランス兵をそそのかしてシチリア女性を襲わせることまでするのである。プローチダ役のフェルッチョ・フルラネットも素晴らしい歌手であるが、役柄として気に食わないというか、専制君主を倒して自分が専制君主になるタイプのキャラにしか見えないのである。

シチリア人とフランス人の和解のために、エレナ公女とアッリーゴを結婚させてあげようとするモンフォルテ。エレナは複雑な思いながらも結婚の喜びを友人達に伝えるために「ありがとう愛しい友よ」を歌う。シェリル・スチューダーは低い声がしっかり出る重めのソプラノだ。だが結婚の鐘を合図に、シチリアの暴徒が宮殿に乱入し、モンフォルテが殺されるところで幕となる。(演出によってはアッリーゴも殺されるパターンもあるらしい。)

ということで、はっきり言ってフランス寄りですな。・・・というか、ここに書かれていることは本当の史実ではない。

フランスの劇作家のスクリーブは、以前「アルバ侯爵」というオペラの台本を書いたが、アレヴィに断られ、ドニゼッティが作曲に着手したものの未完のまま亡くなった。この台本を焼き直しし、舞台をフランドルからパレルモに移し、「ユグノー教徒」で成功した大虐殺の場面を最後につけくわえて「シチリアの晩鐘」を作り上げたのだという。う~ん、フランス人が書いたからフランス寄りになるわけだし、史実に基づくというよりも、別作の焼き直しか・・・。ヴェルディは難しい題材であること、あと異国の商習慣に疲れて、作曲を降りようとしたらしいが、ヴェルディにとって初めてのグランドオペラを苦しみながら何とか完成させたわけである。パリでの評判も決して悪くはなかったようである。

・・ということで、フランス寄りだ・・ということを認識したうえで、作品としてこのオペラを見た際、私は威厳たっぷりの素敵なお父様にしか見えないモンフォルテが最後に殺されてしまって大・大・大ショックなのである。

ジョルジョ・ザンカナーロについて調べてみると、正規の音楽教育を受けてなくて、8年間も警察官をやってて、声楽コンクールに出てオペラ歌手になった人だという。だから体格も良く、生まれながらにいい声だったのかねぇ。ちなみにこの人に歌う、椿姫の「プロヴァンスの海と陸」を聴いてみたら、これまた素敵でびっくり。私、「プロヴァンスの海と陸」って実は嫌いな歌で、この歌が始まると眠くて、早く終わって欲しいとしか思わないのであるが、ジョルジョ・ザンカナーロが歌うとピリッとしていて眠くならず、初めてこの曲をいい曲だと思ったのである。

ということで、このDVD、かなり私の中であとを引いている。あと指揮者のリッカルド・ムーティはこのDVDでは大変若くて溌剌とした指揮をしていて、今年のウィーン・ニューイヤー・コンサートとは大違い。とにかく素晴らしいDVDなので、日本語字幕じゃないっていうのが悲しいよ。


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