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『名もなき毒』

宮部みゆき、2009、『名もなき毒』、光文社カッパノベルズ

最近の無差別殺傷事件やイジメやクレーマーなどを題材にして、平凡な日常がちょっとしたことで破壊されていく様子を描く。
宮部みゆきの結末は、ある種むくわれて結末を迎えるというか、わずかながらも光明が射して終わるので、まだよいとおもえる。とんでもない善人がいて、それが、いろいろ巻き込まれるなかでなんとか生き延びていく。また登場人物のなかで、救いを感じさせる人物が登場する。救いのない状態で読者を放り出さないという意味で、この著者はとてもいいのではないか。
本書の主人公を取り巻く関係は、一見、事件を呼びそうであるのだが、たとえば、結婚した相手の父親が主人公が現在つとめる大会社の会長であるし、結婚相手は妾腹の娘ではある。経済的にも子供にも恵まれていている。しかし、財産争いや会社での権力争いに巻き込まれそうな人物なのだが、本人はいたって、普通にそれを回避している。完全無欠な人物とはいえないものの、破綻がない人物と想像される。彼を取り巻く人物たちは、事件の当事者も含めて、何らかの理由があって問題が生じていることが示唆される。もちろんそのことが悲劇を生むことになるのだが、同時に、そのことは救済の根拠でもある。
「現実は小説よりも奇なり」とはいうものの、最近の現実におこる事件の理解不明さに比べると、救いのない現実に対して、ありそうもない小説世界の方がむしろ「小説は現実よりも奇なり」、つまりは、本書のように光明がさすように思えてしまうのは、実に奇妙なことではある。本書で描かれる唯一理解が苦しいのは狂言回しの「原田いずみ」であろうか。現実世界は「原田いずみ」ばかりといえば、あまりにシニカルであろうか。

名もなき毒 (カッパ・ノベルス)
宮部みゆき
光文社

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2009-08-19 16:50:55 | 読書 | コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


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