寒の戻りがあったりまた温かくなったり、体調がおかしくなるような気候が続いています。
暖気は部屋の上部に集まり寒気は足元に流れる。この特性を利用して扉の代わりに幕のようなもので暖気を逃さないようにするのが本来の暖簾(のれん)の役割だったんだそうです。意外なことに中国発祥の防寒システムだったんです。
寒気の厳しい冬の季節、商店などは店の扉を開けて起きたくても開けっ放しにはできません。かといって扉を閉めてしまえば店を営業しているのかいないのかわかりません。
そこで、店のドアを開いておいて分厚いカーテンを入り口に下げて室内に寒気が入り込むのを防ぎます。このカーテンを「暖簾(ヌァンレン)」といいます。
「暖簾」というと日本的なものに感じてしまいます。日本の商店にとっては店の魂のようなものでまさに商人にとったら武士道の刀のようなものですが、中国ではただの寒気除けです。
日本の暖簾が店の象徴として飾り物の意味合いが大きいのと違い、中国の暖簾は実用的な役割を持っていますので、地面まで届く長さを持っています。
通常よく使われているのは厚さ5mmくらいの透明なビニールのシートを幅10cmくらいに切ったすだれ状の暖簾が入り口の上部から地面まで垂れ下がっています。日本でも冷凍倉庫などでよく見かけるものです。こんなものであの強烈な寒気を防げるものだろうか?と思えてしまいますが、これが意外なほどに効果があるようです。商店にとって中の様子がうっすらでも分かる透明なビニールの暖簾は都合が良いようです。
大衆的な食堂などでもビニール暖簾越しに店の中のにぎやかさが伝わってきていいものです。人が出入りした時に暖簾の奥からの暖気が白く外に漂って、なんとなく嬉しくなって中に入ってみたくなります。出てくるときには後悔しているところなんか中国の真骨頂。
真冬に氷点下40度になるハルビンでは冬の間、駅の南側に延々広がる地下4-5Fの地下街が商店街に変わります。通りにはこの地下街に通じる通路が何ヶ所もあります。この入り口は夏の間はシャッターで閉ざされていますが、冬はそのシャッターがあるあたりにカーキ色の布地のテント生地の暖簾がかけられます。場所によってはこの布の暖簾の裏にフェルトの暖簾がつけられている場合もありました。この布のテントをくぐるとガラスを張った扉があり、二重扉の外側の役割を布のテントがはたしています。
「暖簾」は中国では防寒具を意味し、昔は布団のような綿入れの分厚いカーテンを意味していました。鎌倉時代に中国に留学した僧侶が持ち帰ったのが日本でのルーツのようです。
防寒具の綿入れ暖簾も日本はそれほど寒くないので単衣になり、地面まで下げておく必要もないので次第に短くなり、創意工夫の得意な日本人は暖簾に店の名前を入れることを思いつきます。
そして、何事にも精神的な「道」を求めてしまう日本人は「暖簾」にまで魂を吹き込んでしまいます。
中国から入ってきて日本独自の進化をしてしまった暖簾ですが、外食した時に暖簾をくぐったらこんな話でも思い出してみてください。