ハルビンは氷祭りの最中ですが、20世紀末に氷祭りの会場で面白い光景を目にしたことがあります。
このとき、北朝鮮の軍人らしき一団が氷祭りの会場に来ていました。重火器などはもちろん持っていませんでしたし、ハルビン市民を拉致しても中国政府が米を贈ってくれるわけなどありませんから視察と言う名の旅行でしょう。
軍服の防寒服を着ていたので中国の人民解放軍が来ているのかと思いましたが、言葉が違いますし、胸には国旗が入っていました。
通訳はハルビン市内の朝鮮族の人だと思いますが、緊張した面持ちで一行にくっついていました。しかも、この一団を取り囲むように武装警察か、人民解放軍かわかりませんが中国側の一団がつかず離れずくっついているので異様な雰囲気でした。
民族性の違いか統率力の差なのか?北の一団はほとんど余計なことを喋らず、しかもものすごく横柄な態度で氷祭り会場を一団となって歩いていましたが、中国側の軍人は仲間と始終喋り続けていましたし、こちらと目が会うとにっこり微笑んできました。
松花江の土手に氷で作った滑り台がありましたが、北の一団はモクモクと順番にそれに乗って下に滑り降り、何事もなかったかのように黙って下に整列していました。屈強な軍人が滑り台と言うのも奇妙な光景ですが、楽しかったのつまらなかったのかわからないほど無表情ではかえって違和感があります。
北の一団が滑り台を立ち去ると、中国側一団もそこにやってきましたが、順番も何も数人まとめて滑り降りるし、わいわい騒いでにぎやかなことにぎやかなこと。たかが滑り台でここまではしゃぐか?と思うほどの喜びようです。滑り台の下ではこれから滑り降りる兵士に声をかけているし、先に移動した北の一団のことなど完全に忘れているような様子で、ぜんぜん職務に忠実と言う印象はありませんでした。
北と国境を接するロシアでは労働力として北朝鮮の人々が来ていますが、脱北者の問題はあまり耳にしません。ないわけではないみたいですが、ロシアでは東洋人は目立つので隠れるのも難しいでしょう。
10年ほど前のことですが、ウラジオストクでは北朝鮮のお偉いさんのご子息ご令嬢の修学旅行に出くわしたことがあります。木曜日にはピョンヤンーウラジオストク間に定期便が就航していて、たまたま私が新潟空港に帰国する日でした。
私の乗った車の前を煙幕のような煙を吐いたボロバスが走っていて目障りでしたが、空港の駐車場に入っていったので「何者だ?」と注目していました。
10-12歳くらいの少年少女が20人前後バスから降りてきました。その前後には見るからに目つきの悪いカーキ色の軍服コートを着た男たちがついており、はたしてロシアの軍人なのか北朝鮮の軍人なのか区別はつきませんでしたが、おそらくロシアに赴任してきている北朝鮮の政府関係者でしょう。近くで見ると耳たぶがつぶれていたので格闘技を相当こなしてきた人たちです。掌は手袋でわかりませんが、きっと硬いタコができているはずです。
驚いたことにこの屈強な男たちに対してガキどもの皆さんの方が偉いようで、子供たちにアゴでこき使われていました。子供にアゴでこき使われているにもかかわらず、空港の役人には強いようで、この一団が通過するまで他の搭乗手続きは全て停止させ、私など荷物を持ったまま待たされていました。また、このガキどもがこまっちゃくれて生意気なこと生意気なこと、こわもての兵士が同行していなければひっぱたいて泣かしてやりたいほどです。子供の頃からこんな育ち方をしていると将来ろくなものになりません。日本なら「親の顔を見たい!」と言ったところですが、うっかりすると子供たちの父親は同じ将軍様と言うこともありえる国です。そういえば似ていたような似ていないような・・・
事前に約束事ができていたのでしょうが、手続きも何も全てフリーパスで、マニュアルに忠実なロシア役人も黙って見ているしかなかったようです。搭乗者は子供たちと引率の大人数人だけで、屈強な北朝鮮兵たちは警護権見送りでしたが、搭乗者以外は立ち入り禁止区域内ではロシア側警備官が阻止するのも聞かず勝手に中に入って荷物を運び、子供たちのお褒めの言葉をもらって市内へと帰りました。「逮捕する!」と制止するロシア側係官をはじきとばしてしまうのですから、お国のためならそんなこと平気なんでしょう。この一団がいなくなると、ロシア側の係員たちがボロクソにけなしていました。あの横柄なロシア役人が人間的に見えたほどでした。
この先どうなるのかわからないけれど、どうにかなるのでしょうが、どうすりゃいいのか?世界が困るのは他に使い道がない屈強な男たちの行く先でしょう。