今年を振り返ると、やはりコロナで動きが封じられたことが最大事でした。それは誰にも共通のことで、私は昨日書いたように、休まずやりたいことをし続けました。そのうち最重要なのが論文執筆です。今年は文末にあげたの論文を書きました。
論文を書くと言うのは実にエネルギーのかかることです。関連の文献を読み込み、研究の意義付をし、データを計算し直したり、検定したり、グラフを描いたり、なかなか大変です。原稿ができると、雑誌ごとに違う規定を読んで整えます。最近行った調査なら記憶も新鮮ですが、昔の調査だと記憶が遠ざかっていて、大変です。今年は三十年以上前の野帳とデータと格闘しました。書いているときは集中しますからカミさんから何か言われても聞こえてないことになります。
こうして原稿ができると投稿しますが、これがまた大変で、今は全てフォーマットに沿って電送ですから、勝手がわからないと立ち往生します。そしてしばらくすると査読結果が戻ってきます。今年の範囲では却下はほとんどなかったのですが、中にはあります。少し背伸びした時は「やっぱりダメか」と自分を納得させますが、それでもやはりちょっと気落ちします。却下は少なかったとはいえ、すぐに「受理です」というのもまた少なく、大抵はたくさんのコメントがあって修正を求められます。ただ、この過程は私にとっては気の重いものではなく、多くの場合は査読者が事情を知らないとか理解していないので、それを説得する感じです。コメントを読みながらアドレナリンが増える感じで、どう説得しようかと頭の中を文章がめぐります。もちろん指摘通り自分の文章が分かりにくく、素直に「ごめんなさい、ありがとうございます」もあります。こうしたやりとりの上、最終的に「受理されました」と言われた時が一番嬉しい時で、調査の時のこと、執筆中のことなどを思い出し、報われた気がします。それからしばらくするとゲラが届いて入念に校正します。それが済むと後は公開されるのを待つばかりとなります。
私の書架の一部にファイルボックスがあって、準備中、投稿中、受理と並んでいます。その中にそれぞれの原稿のファイルが入っていて、準備中のボックスから右隣の「投稿中」に移り、それからその右隣の「受理」に移動していきます。最後のゲラ校正が終わるとファイルを取り出して原稿はゴミ箱に捨て、必要なデータなどは別のコーナーに戻します。原稿をゴミ箱に捨てるときはなかなか気分の良いものです。こうしてファイルが徐々に右に移動することを繰り返しています。
研究者の中には英語で書いてこそ論文だと言う人もいます。正論なのですが、私はそうでもありません。確かに国際的な雑誌に自分の論文が掲載され、海外の研究者からリクエストがあったりすると嬉しくはありますが、それほど「世界を相手に」しているつもりもありません。個別的・記述的な論文*は日本の研究者が読んでくれればよいと言う思いもあるし、保全関係のものはむしろ行政の人に読んでもらいたいものもあるので、そういう研究は日本語で書いています。大事なのは調べっぱなしではなく、どういう形であれ、公表することです。特に学生を指導して行った調査などはその気持ちが強いです。彼ら、彼女らの努力を成果として公表してあげることこそが、その努力を無為としないことだと思います。受理の報告をして、喜んでもらえるとよかったと思います。
++++++++++++++++
++++++++ 今年書いた論文など +++++++++
1) Takada, H., Yano, R., Katsumata, A., Takatsuki, S., Minami. 2021.
Diet compositions of two sympatric ungulates, the Japanese serow (Capricornis crispus) and the sika deer (Cervus nippon), in a montane forest and an alpine grassland of Mt. Asama, central Japan. こちら Mammalian Biology, 101: 681–694.
浅間山のカモシカとシカの食性
2) Ebihara, H. and S. Takatsuki. 2021. Human effects on habitat use of Japanese macaques (Macaca fuscata); importance of forest edges. こちら Mammal Study, 46: 131-141.
ニホンザルのハビタット利用
3) Takatsuki, S. 2021.
Long-term changes in food habits of deer and habitat vegetation: 25-year monitoring on a small island.
シカ食性と群落の25年の変化
4) Takatsuki, S. and Suzuki, S. in press.
Food habits of the Japanese dormouse in the Yatsugatake Mountains, Japan.
Zoological Science, accepted Nov. 12.
ヤマネの食性
5) 高槻成紀・谷地森秀二. 2021.
高知県とその周辺のタヌキの食性 – 胃内容物分析–. こちら 哺乳類科学, 61: 13-22.
6) 宗兼明香・南 正人・高槻成紀. 2021.
長野県東部の山地帯のカラマツ林のテンの食性. こちら 哺乳類科学, 61: 39-47.
7) 高槻成紀、石川愼吾、比嘉基紀. 2021.
四国三嶺山域のシカの食性−山地帯以上での変異に着目して. こちら 日本生態学会誌, 71: 5-15.
8) 高槻成紀・大西信正. 2021.
過疎化した山村でのシカの食性 − 山梨県早川町の事例 −. こちら 保全生態学研究, 23: 155-165.
9) 高槻成紀・植原 彰. 2021.
山梨県の乙女高原がススキ群落になった理由 – 植物種による脱葉に対する反応の違いから -. こちら 植生学会誌, 38: 81-93.
10) 高槻成紀. 2021.
タヌキの独り言 - 研究者の見たタヌキの言葉.
武蔵野樹林, 7: 26-29. これは論文ではない
11) 高槻成紀・永松 大. 2021.
スギ人工林が卓越する場所でのニホンジカの食性と林床植生への影響: 鳥取県若桜町での事例. こちら 保全生態学研究,
12) 高槻成紀・釣谷洋輔. 2021.
明治神宮の杜のタヌキの食性.
「鎮座百年記念第二次明治神宮境内総合調査報告書、第2報: 91-101.
13) 高槻成紀・望月亜佑子, 印刷中.
スギ人工林の間伐が下層植生と訪花に与える影響 – アファンの森と隣接する人工林での観察例 –.
人と自然, 2021.3.25 受理
14) 高槻成紀・大貫彩絵・加古菜甫子・鈴木詩織・南 正人, 印刷中.
八ヶ岳におけるヤマネの巣箱利用 − 高さ選択に注目して −.
哺乳類科学, 2021.9.27 受理.
15) 高槻成紀. 印刷中
記載的な論文と査読のあり方について.
哺乳類科学, 2021.11.9 受理.
16) 高槻成紀・鈴木和男. 印刷中
和歌山県におけるタヌキの体重の季節変化.
哺乳類科学, 2021.12.6 受理.
17) 高槻成紀. 印刷中
植物量と草食獣の密度の関係の説明について.
植生情報, 印刷中
18) 高槻成紀(監修)
「アファンの森 生き物ガイドブック」春、夏、秋、冬
++++++++++++++++++