シカの頭骨標本の整理に東大の博物館に通っています。長い作業になり、ついこの前、寒々としていたキャンパスのケヤキが芽吹き、新緑の季節になりました。写真は植物学教室で、あの牧野富太郎が研究生活を送った教室です。
固い話で恐縮です。
しばらく前に、かつての教え子である辻大和さん(現在、石巻専修大学)の研究の一環でインドネシアに連れて行ってもらいました。パンガンダランという保護区でルサジカというニホンジカほどの大きさのシカの食性を調べました。その論文が公表されました。こちら
こういう結果が出ましたが、最初の、この場所の特徴に戻ってみます。浦和は半世紀の間に開発が進んで雑木林や農地が減り、タヌキには住めない場所が広がって白幡沼の近くに閉じ込められるような形で生き延びています。典型的な「都市ダヌキ」ですが、都市としては1)学校の近くで人はほとんど来ない、2)沼に隣接する、という点で特徴的です。
糞分析の結果は、1)果実が多かったが、種類は少なくムクノキ、エノキ、カキノキなどに限定されていた、2)ザリガニやヒキガエルなど水生動物が食べられていた、3)人工物が多かったの3点に特徴がありました。1)は小さい林で、学校らしい管理がされているために、普通の雑木林とは違い、キイチゴ、ヒサカキなどの低木はなかったという点でユニークでした。2)と3)はこの場所を反映しています。生息地の中で良い食物を探し、環境が変化すればそれなりのものを探して食べるというタヌキの融通の効く性質がよく反映された結果だと思います。
こういうことをまとめて論文にし、日本哺乳類学会の「Mammal Study」に投稿し、最近受理されました。
動物の食べ物の内訳を表現するには占有率が使われますが、普通はその平均値で表現されます。しかし、例えば同じ平均値50%でも、半分の試料が 100%を占めていて、残りの半分が0% でも、平均値50%になりますし、全てのサンプルが 50%を占めていても 平均値 同じ50%です。同じ50%でもこの二つは意味が違います。そこで私は「占有率順位曲線」という表現方法を開発しました。これはサンプルごとに 占有率の大きいものから小さいものへ順番に並べたものです。これを使う 平均値だけでは表現できなかった内容が表現できるのです。今回の浦和のタヌキの場合の曲線を説明します。
カーブの形として特徴的なのは果実、種子でほぼ直線的に下がっています。これはほとんどのタヌキが果実を食べたということで、最高値はほぼ100%です。Dの植物の支持組織は茎や枝などで、L字型ですが、これは一部のタヌキはたくさん食べたが、多くのタヌキは少ししか食べていないということで、春に一部のタヌキが好んで食べるようです。Bの昆虫もL字型ですが、最高値は低めです。昆虫はどこにでもいるのですが、小さいのでまとまった量は食べられないのだと思います。Eの作物と人工物はLというよりIに近い形で、出現頻度が低いことを示しています。これらは供給が限られ、見つかれば好んで食べますが、そういう事例は少ないことを示しています。その他のものは最高ちも低く、頻度も低いのであまり重要な食物とは言えないものです。ただしDの葉は頻度はかなり高く、供給量は多いがタヌキが好んでは食べないことを示しています。
このように占有率-順位曲線でわかることがありました。
「人工物」としたものにはこのように雑多なものがありました。これらは消化されないので、糞での占有率は食べたものよりは過大評価されることになります。ポリ袋や輪ゴムは大抵の場所で出てきますが、スニーカーの紐と思われるものが割合高頻度で出てきたので、高校生のスニーカーをかじるのではないかと思いました。人工物の割合は他の場所より少ないという結果でした。
動物の骨としては、ヒキガエルが特徴的でした。甲殻類はアメリカザリガニがほとんどでしたが、少しカニも出ました。
昆虫は夏を中心に増えました。そのほかムカデなどもありました。
こうして毎月タヌキの糞が届くようになりました。最初に結果を紹介しましょう。
タヌキの糞組成
タヌキの糞に含まれていた食べ物の月変化を見ると、全体で一番多かったのは果実・種子です。特に秋から冬にかけては独占的でした。これは関東地方の他の場所でも同じです。哺乳類の毛は少なく、夏に少し出ましたが、これは行く時期なので、子ダヌキの体を舐めたせいかなと思います。ユニークなのはカエルの骨とザリガニがあったことで、特に春から初夏にかけて増えました。これはタヌキが白幡沼に行って水生動物を食べているということで、これまであまり報告がなかったことです。夏を中心に昆虫が増えるのは、他の場所に共通なことでした。葉は春に多く、葉が伸びて硬くなるまでは食べるようで、それ以降は好んで食べるわけではないようです。人工物というのはポリ袋や輪ゴムなどですが、2月に20%を超えましたが、全体には少ないという結果でした。