Barney Bigard / S/T ( 米 Liberty LRP 3072 )
私の知る限りでは、バーニー・ビガードのリーダー・アルバムはこれ1枚だけである。このリバティー盤は1955年にリリースされているが、
この時期にこういう古いスタイルのリーダー作が出るのは珍しい。
30年代のエリントン楽団で活躍していた頃の話は語られるけれど、退団後の活動はよくわからない。ジャズと言えば、40年代後半から
始まったビ・バップからハード・バップがメインとなり、こういうオールド・ジャズは日陰の(少なくとレコード産業、ジャーナリズム、
そして一般的な聴衆にとっては)存在に周るため、この分野の人たちが何をしていたのかがよくわからなくなる。
このアルバムは、当時ビガードが一緒に演奏していた人たちを集めて、自作のオリジナルとオールド・ジャズのスタンダードを選んで
レコーディングした肝入りの内容だ。この人は文才があったようで、自伝を書いているし、このアルバムのライナーノートも自分で
書いている。
リーダー作とは言っても、自身の演奏を全面に押し出すのではなく、あくまでもグループとしての演奏に終始しているので、
ビガードのクラリネットを堪能するという感じではない。彼のクラリネットの凄さを聴くなら、エリントンのレコードの方が
向いている。後任のジミー・ハミルトンは退団後もリーダー作がいくつか残っているのに、この人のレコードがこれしかないのは、
前に出て目立とうとはしない人柄が影響していたのかもしれない。
アルバム最後に置かれた "Mood Indigo" は彼が書いた代表作。しっとりとして憂いに満ちた静かな演奏で、心に染み入る。
このアルバムを聴いていると、ルイ・アームストロングやエリントンらと共に世界を股にかけて活躍した若い日々の後、
気の合う仲間と過ごした彼の穏やかな生活が目に見えるような気がする。