廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

評価は一旦お預けのレコード

2023年05月14日 | Jazz LP (United Artists)

Booker Little / Bokker Little 4 & Max Roach  ( 米 United Artist UAL 4034 )


ブッカー・リトルとジョージ・コールマンの演奏が聴ける貴重な音源だが、音が良くなくて演奏の良さがさっぱりわからず興ざめする非常に残念な
レコードだ。ステレオ録音したものをモノラルへミックスダウンした際に失敗したような感じの音のこもり具合で、楽器が音が死んでいる。
ルイス・メリットという人が録音技師を務めていて、マスタリングをやったのが誰かは記載がないけれど、この人は1959年にUnited Artistから
リリースされたレコードの多くを手掛けていて、その中のサド・ジョーンズの "Motor City Scene" やセシル・テイラーの "Love For Sale" 、
ジョージ・コールマンの "Down Home Reunion" なんかもモノラルは一様に音が冴えないから、やはり何か問題があったのだろう。

だからステレオプレスが聴きたいと思って長年出会いを待っているんだけど、これが全然縁がない。中古漁りをする人にとってこの縁があるとか
ないとかいうのは本当に厄介な問題だ。

熱のこもった演奏をしているようなのでちゃんとした音で聴ければその良さを堪能できるのだろうが、これでは評価のしようがない。
ということで、これはいい/悪いの評価は一旦お預けとせざるを得ない。こういうレコードは他にもいろいろある。



コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

木曜日のテーマ、とは何か

2021年09月04日 | Jazz LP (United Artists)

Benny Golson / & The Philadelphians  ( 米 United Artists UAL 4020 )


ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のミュージシャンが集まって作られたアルバム。パーシー・ヒースはノースカロライナ州生まれだが、
その後すぐにフィラデルフィアに引っ越したから、ギリギリセーフ。どの国でもそうだが、人は出身地にこだわるものだ。出身地を知ることで
その人となりがなんとなくわかるような気がするから不思議なものだ。フィラデルフィアはワシントンD.Cとニューヨークのちょうど中間にある
都市で、文化レベルの高い街だったから、優秀な人材が輩出されるのは不思議ではない。スタン・ゲッツもフィラデルフィア出身だった。

メンツからはバリバリのハード・バップを想像してしまうが、意外と落ち着いた雰囲気の仕上がりになっている。音を弾き過ぎず、抑制された
ピアノをレイ・ブライアントが弾いているのがこの佇まいに貢献している。この人は管のバックにいる時にこういう知的な側面を見せる。
更に "Calgary" というオリジナル曲を提供しており、これが印象に残る佳作だ。

この時期、ゴルソンはリー・モーガンと共にジャズ・メッセンジャーズに加入していて、その流れでこのアルバム制作時にモーガンを呼んでいる。
ジャズ・メッセンジャーズというユニット形式の音楽をやっていた影響があったのだろう、モーガンはその場だけのジャム・セッション時に見せる
爆発的なソロは取らず、グループの調和を優先するような抑制された演奏に終始する。デビュー時には高らかにラッパを鳴らしていたが、
そういう子供じみたスタイルからは脱却しつつある時期で、それはブレイキーのバンドの中で学んだのだろう。ベニー・ゴルソンが作った
クォリティーの高い楽曲群や優れた編曲の中で演奏することで、音楽的感性も磨かれていっただろう。

そういう風に、参加しているミュージシャン一人ひとりの個性や成長の過程がよく見えるのがこのアルバムの特徴といっていい。
ゴルソンの知性ある音楽性がベースになっているので、ここで聴かれる音楽の元々のクオリティーの高さはもちろんのことだが、
真の実力派ばかりが集まっての演奏は圧巻だ。

そして、このアルバムの魅力のコアとなっているのは "木曜日のテーマ(Thursday's Theme)" である。デューク・ジョーダンが作る曲にも
通じる孤独な哀愁漂うメロディーに、どうすればこんな魅力的なタイトルが付けられるんだろう? と感心させられる語感が素晴らしい。
ここで聴かせるレイ・ブライアントの優美で物憂げなソロは絶品で、楽曲の素晴らしさをこれ以上なく後押ししている。

果たして、木曜日のテーマとは一体何だったのか? この曲を聴いた人は、誰もが自らにそう問いかける。



コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

United Artists のステレオ盤

2020年11月01日 | Jazz LP (United Artists)

Zoot Sims / In Paris  ( 米 United Artists UAJS 15013 )


ズートのアルバムで一番好きなものがこれなので、ステレオ盤も当然聴いている。このレーベルは全般的にモノラル盤のイメージが
強いけれど、実はステレオプレスの音が良い。タイトルによって音場感はまちまちだけれど、過剰なステレオ感ではなく、
非常に自然なサウンドを聴かせて、好感度が高い。

このアルバムはズートが演奏旅行でパリに滞在していた時に録音されているので、アメリカのスタジオなどで録られたものとは空気感が
違う。全体的にノスタルジックな雰囲気が漂っていて、そこがいい。セピア調に色褪せした古いモノクロ写真を見ているような印象があり、
このムードを再生できるかどうかがカギになる。

ステレオプレスは、それが非常に上手く再現される。過剰な残響は付与されておらず、ほんのりとした奥行き感と楽器の音の立体感が
増していて、この奥ゆかしさがいい。空間表現も良くて、この名演がより素晴らしいものへとグレードアップする。
なんという自然な音場感だろう。モノラルプレスが持っていた柔らかい質感を損ねることなく、窓を開けて新鮮な空気に入れ替えたような
清々しさが心地よい。

好きなアルバムがこうして多面的に聴けるというのは、贅沢だけど幸せなことだ。このタイトルは他の選択肢があまりないので、
このステレオ盤の存在は特に重要になってくる。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

見た目はイケてないのに名盤になった作品 ~その2~

2020年03月22日 | Jazz LP (United Artists)

Art Farmer / Brass Shout  ( 米 United Artists UAL 4047 )


酷いジャケットである。あまりに酷い。なんで金粉ショーなんだ? 金管楽器が叫んでいるつもり? ファーマーのジャケットは酷いものが多いが、
これはその中でも際立っている。これじゃ、誰も買うわけない。ファーマーはツイてない。本人の能力とは関係ないところで足を引っ張られている。

でも、これはベニー・ゴルソンの劇的なアレンジを愉しむためのアルバムで、実に素晴らしい内容だ。冒頭の "Nica's Dream" のカッコよさは筆舌に
尽くし難い。ゴルソンの編曲はどうすれば原曲がより魅力的にレベルアップするかに腐心していて、彼から見て不十分に思える原メロディーの箇所に
新しい旋律で上書き補充しているようなところがある。それが原曲にダブル・ミーニングを持たせる効果をもたらしている。そういうメロディーを
最重視するスコアだから、ファーマーのようなリード奏者にはうってつけだと思う。

リー・モーガンやカーティス・フラーがリードを取る箇所もあって、豪華な顔ぶれによるジャズのフィーリングに満ち溢れたサウンドが素晴らしい。
アンサンブルにはアラも見られるけれど、常設のバンドではないんだから当たり前の話だろう。重要なのは全体を覆うマイナー・ムードである。

小編成のコンボでは決して出せない、ラージ・アンサンブルだけに許された重層的な快楽を与えてくれる。ギル・エヴァンスの抽象性とは違い、
ゴルソンのわかりやすさには普遍性があり、誰にでも受け入れられる。簡単なようで、これができる人は多くない、稀有な才能だ。

ファーマーのソロのスペースはさほど多くはないが、これはそこにこだわる必要はなく、全体観を愉しむ内容だ。ジャズが如何にもジャズらしい
雰囲気を持っていた時代の空気をたくさん吸った素晴らしい音楽が鳴り始めると、ジャケットのことは忘れてしまう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ステレオ盤が勝ち

2019年07月03日 | Jazz LP (United Artists)

The Cecil Taylor Quintet / Stereo Drive  ( 米 United Artists UAS 5014 )


やはり予想通りだった。 このアルバム、ステレオ盤のほうが音がいい。

モノラル盤は音がこもっていて、音楽が死んでいる。

ところが、このステレオ盤だと音楽が蘇る。

1958年の録音だから時代相応ではあるけれど、

それでもモノラルよりはずっといい。

モノラル盤を聴いてピンとなこければ、ステレオ盤を聴いてみよう。

何かが変わるかもしれない。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミッシング・リンクを埋めるアルバム

2019年04月13日 | Jazz LP (United Artists)

Bob Brookmeyer & Bill Evans / The Ivory Hunters  ( 米 United Artists UAL-3044 )


ボブ・ブルックマイヤーがピアノを弾いているのが珍しいけれど、特に違和感はない。 作曲や編曲ができる人だから、当然ピアノをやっていたんだろう
というのは容易に想像がつく。 ピアノは競争率が高い世界だから、プロとして喰っていくには別の道を行かなければということでバルブ・トロンボーン
なんてニッチな楽器を選んだのかもしれない。 そのおかげか、早くから名前が売れて活躍できたんだからよかったと思う。

ただ、やっぱりビル・エヴァンスと並んで弾くと、その力量の落差はあまりに大きい。 これは1959年3月の録音で、エヴァンスは "Digs" と "Portrait" の
間にあたる時期ということで、ちょうどエヴァンスのピアノスタイルは完成しようとしていた。 エヴァンスのアルバムだけを聴いていると、"Digs" と
"Portrait" の作品としての格の違いには唐突感があるけれど、そのミッシング・リンクを埋めるのがちょうどこのアルバムになるのかもしれない。

エヴァンスはもうどこから聴いても我々にはなじみ深いエヴァンスのピアノを弾いていて、コードにおける独特のハーモニー感覚もレガートなフレーズも
タメの効いたタイム感も、ピーク期に向かって駆け上がろうとしているのが手に取るようにわかる。 

ブルックマイヤーはかなりエヴァンスの弾き方に影響されていて、一聴するとどちらが弾いているのかわからないかもしれない。 でも、フレーズの処理が
至る所でやはり平凡で、簡単にネタばれする。 ただ、雰囲気はよく似ているから連弾していても全然うるさくなく、とても聴き易い仕上がりになっている
のは結果的に良かったのではないかと思う。 これで変な自己主張をしていたらバランスが崩れて聴けたもんじゃないと思うけど、その辺りの匙加減は
さすがに良くわかっていたようだ。

ピアノの感性の新しさが際立つ様子と比べて、コニー・ケイとパーシー・ヒースの上質だが保守的な演奏はやはり徐々に方向感のズレが感じられるように
なってきている。 エヴァンスが新しいパートナーたちを探したのは当然の成り行きだったのがよくわかる。 それでも、このアルバムはエヴァンスの
ことをよく知っている人が聴けば、そこかしこに深い趣きを聴き取ることができるだろう。 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

優れたプロデューサーの下で

2018年10月14日 | Jazz LP (United Artists)

Kenny Dorham / Matador  ( 米 United Artists UAJ 14007 )


ロック畑からは総じて評判の悪いアラン・ダグラスだが、独自の才能があったことは認めざるを得ない。 アンダーカレントもマネー・ジャングルも、この人が
いなければ出来上がらなかった。 ユナイテッド・アーティスツでダグラスがプロデュースした作品は、そのアーティストの作品群の中では独特の高みを極めたもの
という評価を得て残っている。 スノッブな芸術手法に頼らず、結果的に芸術点の高い作品に仕上げているのだから、まあ凄いのは間違いない。

アンダーカレントやマネー・ジャングルに共通するアルバム全体を薄っすらと覆っているある種の暗さがこのアルバムにもある。 ドーハム、マクリーン、ティモンズ
というこの顔ぶれは、他のレーベルであれば凡庸なハードバップ・セッションで終わっていただろう。 ところが、"マタドール" というキー・コンセプトを使って
異国情緒を違和感なく滑り込ませることで、このアルバムは格調の高さを帯びた作品へと持ち上がることになった。

アルバム全面をコンセプチュアルにしなかったのは賢明な判断だったと思う。 そんなことをすればジャズらしさが失われてさぞかし胡散臭い内容になっただろう。
A面の雰囲気がうまくB面にも引きずられていて、普通のハードバップの演奏にも関わらずプラスαの雰囲気が漂っている。 よく計算された設計になっていると思う。

部品1つずつを単眼的に見れば各メンバーの演奏は如何にも彼ららしい演奏をしているが、アルバム全体が普段の彼らの力量以上のものに仕上がっているのは
プロデューサーの手腕によるところが大きかったはずだ。 ただ、それでもA面でのドーハムのラッパは情感のこもった印象深いものだし、マクリーンの
"Beautiful Love" は最良のバラードとなっている。 このアルバムはケニー・ドーハムのアルバムとして見ても、ジャッキー・マクリーンのアルバムとして見ても、
エヴァンスにとってのアンダーカレントと同じような位置付け、つまり他の多くの作品たちとは少し離れたところに孤高の峰としてそびえ立ち続けるだろう。


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トム・ウィルソンの自負と苦心 ~その2~

2018年06月03日 | Jazz LP (United Artists)

Cecil Talor / Hard Driving Jazz  ( 米 United Artists UAL 4014 )


セシル・テイラーをもっと多くの人に訴求するためにトム・ウィルソンが最初に考えたのは、有名人気アーテイストの力を借りようということだった。
ジョン・コルトレーン、ケニー・ドーハムというシーンの中心にいた2人を連れてきて、"The Cecil Taylor Quintet" としてアルバムが制作された。
尚、コルトレーンは契約関係に配慮して、"blue train" という変名で表記されている。 これじゃ、聴く前からバレバレだけど。

2人のソロ演奏の背後でテイラーがコードを使ってバッキングを取る、という驚きの演奏が聴ける。 こんなセシル・テイラーが聴けるのはこのアルバムくらい
なのではないだろうか。 自身のソロ・スペースでは精一杯破壊されたコードをまき散らすけれど、演奏できる小節数が短く、本来の持ち味は出し切れない。

コルトレーンはプレスティッジからアトランティックへ移籍しようとしていた時期で、そのプレイは自信に満ち溢れて力強く、1年後の "Giant Steps" を
予感させる雰囲気がある。 演奏自体はオーソドックスなスタイルだが既に独特のムードを発散し始めていて、それがこの特異なセッションの方向性に
一応はマッチしている。

問題はドーハムで、彼だけが相変わらずの何の進歩もないバップ・トランペットを吹いている。 ウィルソンからは普段通りに演ってくれていいという指示が
あったのかもしれないけれど、それにしてももう少し何かしらの工夫があってもよかったんじゃないかと思う。 この人の音楽家としての力量の無さが
悪い形でモロに出てしまっている。

スタンダードが2曲、チャック・イスラエルが書いたパーカーの "Ah-Leu-Cha" に似たオリジナル曲、ドーハムが書いたオリジナル・ブルース、という構成で、
主流派の器の中でテイラーがどう演奏するかが試された作品だが、テイラーはその枠組みを壊そうとはせず、あくまでも法定速度を守った巡行に徹している。

正統派の管楽器とコードレスなピアノ、という対比の構図はチャーリー・ラウズがいたモンク・カルテットのそれと似ている。 その類似は形だけに留まらず、
サウンドの妙なる響きにまで及んでいるけど、常設グループとしての溶け合ったモンク・グループの音楽とは違い、この刹那的なスタジオ・セッションには
そういう纏まりはあるはずもない。 本来必要な時間的な積み重ねを無視した演奏は当然ながら中途半端な結果に終わる訳だが、それでもウィルソンは
プロデューサーとしてこのセッションが必要だと思ったのだろうし、セシル・テイラー自身も逆らうことなくそれに従っている。 この2人の間にはそういう
信頼関係があったのだろうということが偲ばれる。 だから、これを単にちぐはくな失敗作として切り捨てる既設の多くの観賞態度には感心できない。

ひとつ気になるのは、このモノラル・プレスの音場感の悪さ。 このアルバムは同じタイミングでステレオ・プレスが "Stereo Drive" というタイトルで
併行発売されていて、もしかしたらそちらの方が音はいいのかもしれない。 ちょっと興味があるので、ぼちぼちと探したいと思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トム・ウィルソンの自負と苦心

2018年06月02日 | Jazz LP (United Artists)

Cecil Taylor Trio and Quintet / Love For Sale  ( 米 United Artists UAL 4046 )


トランジション・レーベルを興したトム・ウィルソンはレーベル倒産後に一時期ユナイテッド・アーティスツ・レーベルに身を寄せたが、その時にセシル・テイラーの
レコードを2枚作っている。 自らの手でトランジションから公式デビューさせてその才能を世に問うた、彼自身思い入れのあるアーティストだ。 
ウィルソンがUAにいた時期は短かったが、その際に最も力を入れたのがテイラーのレコード制作だった。 そして、そこには何とかしてテイラーの才能を
世間に広く認知させようとした、プロデューサーとしての自負と苦心の跡が見て取れる。

ピアノトリオで演奏したコール・ポーターが書いた3つのスタンダードが収録されているが、この3曲には普通の意味でのスタンダード演奏の要素は皆無で、
一般的には何の曲を演奏しているのかはわからないだろう。 "Get Out of Town" には主題メロディーは一切出てこないし、"I Love Paris" は主題の
ワンフレーズの1/4程度、"Love For Sale" では1/2程度が辛うじて出てくるだけだ。 アルバムタイトルに "Love For Sale" が使われたのは、
おそらくこれだけが辛うじて何の曲を演っているのかがわかるからだろう。

ネイドリンガーのベースとコリンズのドラムが作る一定のリズムの上を、テイラーのピアノが流れていく。 誰も聴いたことがないであろう未知のフレーズが
きらきらと粒立ちのいい輝きを放ちながら鍵盤の上を舞い、零れ落ちていく。 何を弾いているのかはわからなくても、上手く弾けているのかがわからなくても、
そこには言葉を失いながらも聴き入ってしまう何かが宿っているのはよくわかる。 

どうせならB面もピアノトリオで演ってくれたらよかったのにと思いながらビル・バロンとテッド・カーソンの2管入りを聴くと、これはこれで良くて、
バロンとカーソンのオーソドックでノーマルでマイナー感漂う演奏が不思議とテイラーとの親和性の高さを見せる。 彼らのやや覚束ない演奏が音楽を
鈍く中和しているようなところがある。 ジミー・ライオンズのうるさく尖った演奏が苦手な人でも、これならずっと聴きやすいのではないだろうか。

レコーディングの機会にあまり恵まれなかった時期のとても貴重な記録として、現代の我々にとっては値千金のアルバムと言っていい。 
トム・ウィルソンはやはり優れたプロデューサーだったのだと思う。 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブルーノートを卒業した頃に

2017年04月09日 | Jazz LP (United Artists)

Curtis Fuller / Sliding Easy  ( 米 United Artist UAL 4041 )


裏ブルーノート、と言ってもいいこういうレコードは表側が浴びる脚光が強すぎて、ここまで光が届くことはまったくない。 カーティス・フラーがリーダーで
あること、リー・モーガンがいること、3管の憂いに満ちた分厚いハーモニーでコーティングされていること、などのすべての要素がブルーノートのムードに
包まれているにもかかわらす。

ゴルソン・ハーモニーはハード・バップの中で最も優美で洗練された様式の1つだろうと思う。 これを聴くと、例えばウェストコースト・ジャズのアンサンブルが
如何に無味乾燥でつまらないかがよくわかるし、たった3本の管楽器でエリントン楽団のハーモニーを聴いた時に感じるのと同じような深い充実感を得られる
のがとにかく不思議で仕方がない。 そして、このハーモニーのキーになっているのがカーティス・フラーの滲んだような音色で、これが無いとゴルソン・
ハーモニーは実は成立しない。 

それは例えば、同レーベルの "& The Philadelphians" を聴けばよくわかることで、こちらはトロンボーンがいない2管なので、旋律の重ね方は似ているのに
ゴルソン・ハーモニーの妖艶さがなく、それでいてハーモニーを重視するような演奏の建付けをしているので、いくら「木曜日のテーマ」が名曲だとはいえ、
音楽的には物足りない内容になっている。 

更に付け加えるとトランペットはモーガンでもファーマーでもさほどハーモニーには影響がなく、これも不思議なのだ。 "Blues-ette" も "Gone With Golson"
もトランペットはいないのに、見事なまでにゴルソン・ハーモニーになっている。 どうやら、ゴルソン・ハーモニーとはカーティス・フラーのためのハーモニー
なのだと言い切ってしまっても間違っていないのかもしれない。

そういうハーモニーに包まれながら、楽曲は進んでいく。 1曲目の "Bit Of Heaven" ではゴルソンのテナーがまるでスタン・ゲッツかと思うような
くすんだような音色となめらかでおおらかなフレーズで驚かされる。 "I Wonder Where Our Love Has Gone" ではフラーの誰かに語りかけるような
吹き方に癒される。 全体的にゴルソンの演奏がとてもいい。

ハード・バップがビ・バップを洗練させたものとして定義されるのなら、これはその完成形の1つと言っていい。 内容だけで言ったら、3大レーベルの比ではない。
音圧の高い分厚く骨太なモノラルサウンドで鳴るのもハード・バップには似つかわしい。 ブルーノートばかり有難がるのはそろそろ止めたらどうだろう。


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まるで映画の一コマ

2016年09月22日 | Jazz LP (United Artists)

Howard McGhee / Nobody's Knows You When You're Down And Out  ( 米 United Artists UAJ 14028 )


ハワード・マギーのトランペットのサウンド(特にオープンホーン)はマイルスのそれとよく似ているけれど、もちろんマギーのほうが先輩だから、お手本に
したのはマイルスのほうなんだろう。 マイルスがニューヨークに出てきて最も心酔したのはフレディ・ウェブスターだったけれど、この人は録音がまともな
形では残っていないから、そもそもどんなサウンドだったのかがよくわからない。

ビ・バップの奏者としてスタートしたけれど、ハード・バップの時代になってもニュー・ジャズの時代になっても柔軟に適応できた稀有な人で、音楽家としても
演奏家としても優秀だった。 麻薬の問題さえなければ、きっともっと大きな存在になっていただろうと思う。

それでもアルバムはポツリポツリと残っていて、私はこの作品が一番好きだ。 プロコム・ハルムのようなオルガン・サウンドを背景に、伸びやかで望郷的な音で
小品を歌い紡いていく。 秋の日の夕暮れを思わせるような切ない雰囲気に彩られた内容で、忘れ難い印象が残る。 メロディーの歌い方も上手くて、
音楽をより音楽らしく奏でることのできる人だった。 

映画会社のサントラ配給レーベルらしく、質屋のショウウィンドウをトランペットケースを持って力なく覗き込む姿はまるで映画のワンシーンのようだ。
レコードとしての意匠がジャズのそれというよりはサウンドトラックのもので、そこが他のレーベルとは違う手応えがあり、異彩を放っていると思う。
"アンダーカレント" といい、ズートのパリ録音といい、数こそ少なかったけれど優れたレコードを作ったとてもいい会社だった。



コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Zoot Sims 最後の1枚

2016年02月10日 | Jazz LP (United Artists)

Zoot Sims / In Paris  ( 米 United Artist UAJ 14013 )


私にとってズート・シムズという人は、30年前に私を廃盤マニアに本格的に引きずり込んだ因縁の人。 昭和62年の11月に寺島氏の「辛口JAZZノート」
と「ジャズ批評 No.59」が相次いで出版され、前者にはフォンタナ盤のクッキン、後者に同じくクッキンとクラブ・フランセ盤が掲載されて、それまで
当時まだ地下1FにあったDU新宿店のジャズフロアで買った中古の国内盤でのんびりとズートを聴いていた私を驚かせました。

ジャズ批評は印刷の悪いモノクロ写真でその時はあまりピンとこなかったのですが、「辛口~」のほうはカラー写真だったので印象が強かったし、
「最高作ダウン・ホームと肩を並べる」という今考えると?な謳い文句のせいで、これは聴いてみたいと思うようになり、それがきっかけで都内の
廃盤専門店に本格的に通うようになった。 結局、2年ほど経ってようやく西新宿のコレクターズにこのレコードが入り、学生の慎ましいバイト代の
すべてを使ってこれを買った。 その時は、このなけなしの金を使ってしまったら(当時付き合っていた)彼女とデートができなくなる、どうしよう、と
随分悩んだものです、アホみたいな話ですが。 それだけ、今よりもずっと真剣にジャズを欲していた。

ズート・シムズという人には、どこかそういうところがあると思います。 ジャズをようやく愉しめるようになったばかりの初心者を誘惑して、ジャズの
更なる深みに引きずり込むようなところが。 アート・ペッパーなんかもそうじゃないでしょうか。 コレクター初心者が最初に引っかかる、危険な罠。
だから、ズート・シムズやアート・ペッパーのことを語るのは未熟だった自分の姿と重なるところがあってとても気恥ずかしい。 


このアルバムは、渡仏したズートがパリにある映画スタジオでピアノのアンリ・ルノーとドラムのジャン=ルイ・ヴィアールと正体不明のベーシストと一緒に
ライヴ形式で録音したと言われていて、録音年月日もはっきりしないレコード。 尤も場所はパリのナイトクラブ "ブルーノート" だったという説もあるし、
ベーシストの名前も3人くらい候補の名前が出ている。 にもかかわらず、ここでの演奏は柔和でなめらかな上質さを誇る最高の出来です。
ブルースとゆるやかなスタンダードが交互に配置されているのに弛緩したところはなく、よく伸びるロングトーンと繊細なヴィブラートが心地よい。
この人のアルバムはほとんど聴きましたが、私にはこれ以上に心に迫ってくる演奏は他にない。 アンリ・ルノーもこの演奏が一番いいと思います。
だから、私にはズートのレコードはこれだけあればもう十分です。




Zoot Sims / In Paris  ( 英国 EMI / United Records ULP 1044 )


こちらは英国盤、EMIがプレスしている。 何か違いがあるのかと思って聴いてみましたが、値段が安いということ以外、特に何がどうということもなく。
米国盤以外では日本盤とこれしか見たことはありませんが、この人の場合はもしかしたらウルグアイ・プレスがあるかもしれません。 
パリの映画スタジオでという話やベーシストが誰だかわからないという話は、この英国盤の裏ジャケットに記載されています。


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

セントラルパークでスケートを

2014年02月22日 | Jazz LP (United Artists)
私が一番好きなビル・エヴァンスのレコードは、リヴァーサイドの諸作ではなく、これかもしれません。



Bill Evans / Undercurrent ( United Artist UAJ 14003 )


理由は簡単で、B面に収録されている Skating in Central Park が好きだからです。 ジョン・ルイスが作曲した小さな愛らしいワルツ。
エヴァンスは、こういう可愛い曲を取り入れるのがうまかったですね。

このレコードは名盤ガイドブックには必ず載る必殺の名盤なわけですが、そこで評論家が褒めるのは My Funny Valentine をアップテンポで処理した
解釈の素晴らしさやジム・ホールのカッティングの見事さばかりですが、私は初めてこのレコードを聴いたときから今日まで、それをなるほどなあ
と思ったことは全然ありません。 

このアルバムは全体を通して、まるで冬のひんやりと寒い曇り空に覆われた人気のない都会の風景を思わせる静かに透き通る寂寥感が素晴らしく、
それがこのアルバムの魅力を決定づけています。 他にも、Dream Gypsy や Romain などの名曲があり、全編通して素晴らしい。

また、このレコードはオリジナル盤が芯の太い迫力のある素晴らしい音で、これはCDでは決して再現できません。 
だから、コンディションにはかなりこだわってきれいなのを探しました。 8,400円。

この愛らしいワルツを、オリンピックで苦悩と歓喜の涙を流した浅田真央さんに教えてあげたいです。 
いつか、彼女が理不尽な重圧から解放されて、誰も知らないどこか遠くの地でこれを聴きながら、誰かのためにではなく1人静かに
スケートを楽しんでいる、そういう日がくればいいのにな、と思います。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする