廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

チャーリー・マリアーノの好演

2023年06月25日 | Jazz LP (Capitol)

Frank Rosolino / Frankly Speaking !  ( 米 Capitol Records T-6509 )


私はウェストコースト・ジャズが嫌いでほとんど聴くことがないけれど、これは例外的に良くて、時々ターンテーブルに載せる。

フランク・ロソリーノは非常に上手いトロンボーン奏者で、ビッグ・トーンでスライドさばきも音程も正確無比ですごいと思う。ここでもその上手さは
炸裂していて、こんなにメリハリの効いたトロンボーン・ジャズはあまりない。トロンボーンは人気がない楽器だけど、これはそういうことを
意識することなく聴けるアルバムだろうと思う。

ただ、このアルバムのハイライトはチャーリー・マリアーノの好演だ。アルト特有の艶やかで輝かしく美しい音色がとにかく素晴らしい。
紡ぎだされるフレーズが音楽を先導するように疾走する様子が見事。マリアーノの好演が聴けるアルバムはあまり数が多くないので、
そういう意味でもこのアルバムは貴重な存在だと思う。

ウエストコーストの演奏家たちは音楽に深みを持たせるようなことには興味がなかったようで、ノリが良ければそれでOKみたいな感じで
演奏をしていたんだと思うけど、だからこそ演奏の出来で音楽が左右されるところがあって、演奏家が最高の演奏をすればそのままその音楽は
一級品になった。そういう意味でこのアルバムは若きマリアーノの美しく素晴らしい演奏のおかげで一級品に仕上がっている。

バックで支えるのはウォルター・ノリス、マックス・ベネット、スタン・リーヴィーだが、この3人も闊達な演奏をしていて、特にノリスの
ピアノは日陰者のイメージのある彼が実は上手いピアニストだったことを教えてくれる。能天気なジャケットに騙されてスルーなどしていては
いけない、よく出来たアルバムだ。


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素晴らしいピアノ・アルバム

2023年06月19日 | Jazz LP

Roger Kellaway / A Jazz Portrait Of Roger Kellaway  ( 米 Regina Records LPR-298 )


Reginaレーベルのこの "Portrait In Jazz" シリーズはジャケットの趣味が悪く、まったく手に取る気になれないものばかりだけど、これは聴けば
驚く傑作。新しい才能に出会った時に感じるあの独特の興奮が脳内を駆け巡る。

硬質なタッチと斬新なフレーズで構成される演奏は素晴らしく、耳を奪われる。自作の楽曲が多いがどれもセンスがよく、音楽的な才能も十分。
その高いレベルのピアニズムには鮮やかな輝きがあり、ピアノ音楽の愉楽がぎっしりと詰まっている。

ピアノ・トリオ、ジム・ホールが加わったカルテット、ソロのバリエーションがあり、飽きることがない。ベースとドラムの記載がなく、公式には
誰が演奏しているかは不明だが、ベン・タッカーやスティーヴ・スワロウ、デイヴ・ベイリーの名前が挙がっている。デイヴ・ベイリーは違うんじゃ
ないかなと思うが、ベースの2人はどうもそれっぽい。それくらいベースの存在感が強い。

シドニー・ベシェの古い楽曲を取り上げたり、ロック・テイストの曲もあったりと音楽の振れ幅も大きく、単純なジャズ・ピアノではないところが
ミソで、それらが浮き上がることなく上手くブレンドされている。硬派な切れ味と抒情性のバランスもよく、とにかく圧倒される。

これがデビュー作で、以降たくさんの作品を残しているがあまりパッとしなかったのは残念。でも、このアルバムの出来の良さがそういうところを
帳消しにしてくれる。ピアノ・トリオの名作の系譜に残る作品だ。







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コロナ禍があけて最初のコンサート

2023年06月11日 | ライヴ鑑賞



コロナ禍があけてようやくコンサートが観れるようになったのはうれしい。海外からもアーティストが多く来日するようになった。
そんな中、英国からお気に入りのエリアス弦楽四重奏団が初来日して、ベートーヴェン・サイクル(最近はドイツ語表記はしないらしい)を
やるというので観に行った。本当は全日程観に行きたいけれど、平日メインの日程なのでそこは泣く泣く諦めて、全16曲の中でも最も好きな
第12番と第14番をやる6/7(水)と6/10(土)の2日のみ観に行った。

会場はサントリーホールのブルー・ローズで、ここは音響が今一つよくない室内楽向けホールなのであまり好きではなく、そこがちょっと
惜しかったが、そんなことは言ってられない。弦楽四重奏団を聴くのは何といってもカザルス・ホールが最高だったけど、経営難から取り壊しに
なってしまったのは本当に残念だ。

現行メンバーは結成時から第1ヴァイオリンとヴィオラ奏者が変わっていて、最初の頃のドラマチックな演奏からオーセンティックな演奏へと
変わっているが、それでも英国のカルテットの良き伝統の血を引いた筋のいい演奏を聴かせてくれる。

水曜日が第5番、9番、14番、土曜日が第12番と7番、というプログラムで、彼女らはリンゼイ弦楽四重奏団からの影響でチクルスの際は初期・中期・
後期から1曲ずつセレクトするというスタイルをとる。どの曲も見事な演奏だったが、特に14番は白眉だったと思う。1番好きな第12番は往年の
名カルテットらの演奏とは違い柔らかく演奏していて、上手く演奏をするのが1番難しいと言われるこの曲をしっかりと克服して自分たちのものに
しているところが素晴らしかった。

これからも来日して、違う作曲家の演奏を聴かせて欲しいと思う。次はぜひバルトークの全6曲をやって欲しい。もしそうなれば、万難を排して
観に行くんだけど。






2004~2005年にロンドンのウィグモアホールで行われたベートーヴェン・チクルスの様子を収めたCD。こういうマイナーな分野はすぐに廃盤に
なるから、全部揃えるのはかなり骨が折れた。



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管楽器との相性の良さ

2023年06月04日 | jazz LP (Atlantic)

John Lewis / The Wonderful World Of Jazz  ( 米 Atlantic 1375 )


誰からも褒められることのない典型的な安レコだが、これがなかなか聴かせるいいレコードで、結構気に入っている。
1960年に行われた3つの異なるセッションの寄せ集めで、楽器の構成も演奏者もバラバラというアルバムとしての不統一さに何か偏見がある
のかもしれないが、でも実際に聴いてみるとジョン・ルイスという個性が1本のスジを通しており、不思議とまとまりがいい。

ジョン・ルイスという人はインタビューを読むと非常に真面目な人だったことがわかる。音楽のことを真摯に考え、グループの運営に心を砕き、
どうすれば観客を楽しませることができるかに心を寄せていた。そういう真面目さが良くも悪くもその音楽に色濃く反映されていて、それが
賛否両論を引き起こすようなところがある。だから、何だか切ないな、と思うこともある。想いはなかなか伝わらない。

"Afternoon In Paris" は5管編成で、アルトはドルフィーが吹いている。この日の収録はこの曲だけで、この1曲のためだけにわざわざ呼ばれた。
短いながらもドルフィーらしいソロが聴ける。"Body And Soul" はゴンザルヴェスとポメロイの2管、その他はジム・ホールを入れたカルテット、
という魅力的な構成で選曲もいい。こういうメンバーでこういう選曲をしてもハード・バップにはならない、というのはよく考えると不思議な
ことかもしれない。それだけジョン・ルイスという個性は強固で音楽を支配する力が強かった。

管楽器が入る楽曲があるおかげでピアノ主体のアルバムよりも外に開かれたオープンな雰囲気が漂い、音楽の表情はいつもより朗らかだ。
パシフィック・ジャズの "Grand Encounter" なんかもそうだが、案外管楽器との相性は良かったのかもしれない。最後に置かれた "I Remenber Clifford"
が意外な選曲だが、感傷的にはならずに穏やかな表情で弾いているのが印象的だ。いいアルバムだったな、という心地よい余韻を残して終わる。



コメント (4)
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