廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

今年の収穫の1枚(2)

2022年12月30日 | Jazz LP (Columbia)

Thelonious Monk / Underground  ( 米 Columbia CS 9632 )


これは680円で買った。ユニオンのレギュラー盤(国内盤メイン)の新入荷のエサ箱で平日に見つけた。眼にした時はさすがに手が震えたけど、
すぐに冷静になって「どうせ盤質が悪いんだろう」と思って検盤したら、盤は傷一つなくピカピカで、ジャケットもトラックシートに書き込みが
あるけど破損とかもない。どこかに落とし穴があるのでは?と色々と探ってみたけど、瑕疵は見つからなかった。普通にセールにかかれば
2~3万円くらいのタイトルなので、きっと何か手違いがあったのだろう。

コロンビアのレコードにはステレオ期のタイトルでラジオ局向けにプロモーション用に配布されたものがあり、タイトルによってはこのプロモ盤
だけにモノラルプレスが存在するものがある。ジャズの場合はこのモンクの "Underground" とマイルスの "Nefertiti" が Promo Only "Mono" として
高値が付く。マイルスの方は2年に1回くらいの頻度で見るけど、どれも状態が悪いものばかりだったが、これはそもそも現物自体を初めて見た。
だから、手にした時に震えたのである。

音質はどうかというと、元々の録音がいいのでもちろん良好な音質だけど、特にプロモだから、という感じはない。家にある普通のステレオ盤と
聴き比べてみても、これが特に高音質だとは感じられない。67~68年にかけて録音されたものだから当然ステレオ録音で、モノラル盤はミックス
ダウンされているということだけど、それによる音質劣化はなく、ステレオ盤に近い音場感だ。

ロックの世界ではプロモ盤はとにかく有難がられるし、SNSなどでも高音質だと騒がれているけれど、ジャズに関して言えばプロモ盤が
特別に音がいいと感じたことは私自身はこれまでに1度もない。だから、この手の話はレコードを売る側が少しでも高く売りたいがために
仕掛けた話であって、それにコレクター側が踊らされているだけなのでは?と私自身は懐疑的だ。ただ、この Promo Only "Mono" は弾数が
少ないという稀少性が高値の根拠となっていて、裏を返せば単なるイレギュラーなバージョンに過ぎないということでしかないけれど、
それについては蒐集の世界固有の特殊な常識としてある程度は理解できる。

ただ、そういう既定路線とはまったく別の処にこのレコードが転がっていて、それに邂逅したというこの趣味の1番の醍醐味を味わうことができた
というところに他では代替の効かない価値があった。中古レコードは探すことが1番楽しいのである。予め用意されたリストに載っているものを
買う、というのとは楽しさの質が根本的にまったく違う。



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今年の収穫の1枚

2022年12月28日 | Jazz LP (Prestige)

Teddy Charles / Evolution  ( 米 Prestige LP 7078 )


自分の中での今年の収穫の1枚はこれだった。40年ジャズを聴いているが、ちゃんと聴いたのはこれが初めてだった。主要なジャズのレコードは
あらかた聴いてしまった、などと穿ったことを普段から言っているが、こうして間隙を縫って初めて聴くレコードというのは襲ってくる。
特に目当てもなくパタパタしている時にまるで新品のようなあまりにもきれいなものが出てきたので、それだけの理由で試聴してみたら、
これが試聴機の前でのけ反ることになった。まだこんな経験ができるんだなあと自分でも驚いた。

このレコードには1953年の西海岸での録音と1955年の東海岸での録音が収められている。53年にロサンゼルスに滞在していた時にレーベルを興して
間もないボブ・ワインストックに請われて現地ミュージシャンと録音したものはさほど面白いわけではないが、55年のヴァン・ゲルダー・スタジオで
録音されたJ.R.モンテローズ、ミンガスとのワン・ホーン・セッションにガツンとやられたのだ。

ここでのミンガスとの共演が縁で、半年後にDebutレーベルでマイルスの "Blue Moods" が作られる。あのアルバムのまったくマイルスらしくない
音楽の雰囲気はミンガスの依頼でテディー・チャールズが音楽監督をしたからだが、あのムードと共通するものがこのアルバムにもある。

モンテローズはテナー奏者としては一流とは言えないが、このアルバムではそれがよかった。音楽全体の暗く冷たいムードをぶち壊すことなく、
ひっそりと付けるオブリガートが非常に効果的。短いソロもテナーらしい魅力的な音色を最大限に効かせて音楽を邪魔しない。この絡み具合が
何ともいい塩梅なのだ。バリバリと吹くだけがジャズではない、とでも言いたげに、テディー・チャールズの世界観に沿った演奏をする。
よく聴いてると所々スタン・ゲッツがやりそうな演奏にも思える瞬間もあったりして、たどたどしいながらも強く印象に残る。

一聴してすぐにミンガスとわかるベースの音色がリズムをリードする中で生まれる音楽の空間は、ヴァン・ゲルダーの冷たく濡れたような音場感
の後押しもあって、誰の心の中にもあるであろう暗く静かな心象風景を見ているような気分になる。これはとてもいいアルバムだと思った。



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若き日のシナトラとクリスマス

2022年12月24日 | Jazz LP (Vocal)

Frank Sinatra / Christmas Songs by Sinatra  ( 米 Columbia CL 6019 )


クリスマス・レコードは夏に拾うことが多い。暑い夏の日に自宅のレコードを整理していると「こんなのいらないな」という気分になるのかも
しれない。そういうのを拾ったはいいけど、やっぱりすぐに聴く気にはなれないのでこちらも冬が来るまで寝かせておき、寒さが本格的に
なってくるとゴソゴソと取り出してきて聴き始める。

シナトラはコロンビア在籍時にSP録音で、キャピトル在籍時にモノラル録音でそれぞれクリスマス・ソングを歌っている。キャピトル盤は
ゴードン・ジェンキンス指揮による私の長年の愛聴盤だが、こちらはアクセル・ストーダルが指揮をしている。コロンビア時代のシナトラは
キャピトル時代とはまるで別人のような歌い方で、まだ個性は確立されていない。曲によっていろんな人の影響が感じられる。

ここでの"White Cheistmas" なんてビング・クロスビーの影響が顕著で、発声の仕方から声のトーンまでそっくりだ。おそらくこのままで
いっていたら彼は途中で消えていたかもしれないが、レーベルを移って別人へと変貌する。

そんなまだ若い頃の控えめな青年の歌が収められたこの10インチは何から何までノスタルジックだ。アクセル・ストーダルのスコアは
クリスマスのイメージに忠実で、程よく荘厳でたっぷりとノスタルジー。短い楽曲の中で、シナトラは原曲のメロディーをストレートに歌う。
ただそれでけでこんなにもクリスマスのムードが溢れるのだから、クリスマス楽曲というのは偉大だ。だから、そのレコードもノスタルジーで
あればあるほどよく、他には何もいらない。そういう意味ではこれはクリスマス・アルバムのお手本のようなレコードだ。



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セシル・ペインとデューク・ジョーダン(4)

2022年12月16日 | Jazz LP

Cecil Payne / S/T  ( 米 Signal S1203 )


セシル・ペインとデューク・ジョーダンがレコード上で共演し始めたのはこの辺りからか。この2人が組んだ演奏には独特の翳りがあって、
そこにどうしようもなく惹かれる。それはレーベルが違っても変わることはないから、どのレコードを聴いても愉しいのである。

ジョーダンと組む前はランディ・ウェストンと組んでいたが、そこでもウェストンの一癖ある音楽性に上手く合わせていたから、
このバリトン奏者は自身の個性を前に出すというよりは、共演相手とうまく融和しながら音楽を展開する方が得意だったのだろう。
おそらくはそのせいでリーダー作が少なかったのだろうと思う。こういうアーティストをキャッチアップするのがうまかったリヴァーサイド
あたりがリーダー作を残してくれていればよかったのだが、そこからも漏れてしまったのは何とも運が悪いというか。

デューク・ジョーダン、トミー・ポッター、アート・テイラーという趣味の良いトリオをバックに、ワン・ホーンとケニー・ドーハムとの二管で
臨んだ演奏は、覇気と憂いが絶妙にブレンドされた傑作に仕上がっている。バリトンという重厚な楽器をデフォルメすることなく、まるで
クラリネットやアルトを吹いているかのように、とてもナチュラルに吹いていく。

バックのピアノ・トリオの演奏の優美さが際立っていて、それがこのアルバムを一流の内容に格上げさせている。ジョーダンがバックでつける
ハーモニーは美しく、それが管楽器奏者のイマジネーションを大きく膨らませているのがよくわかる。ペインのアドリブラインが豊かなのは
ジョーダンのハーモニーが場を先導することで演奏できる空間が大きく拡がるからだろう。そして、アート・テイラーのこれ以上ないくらい
適切な音数のドラミング。アップテンポでも音楽がうるさくないのは、偏にこのトリオのおかげだ。

ドーハムが加わると音楽の雰囲気はパッと明るく華やかになる。ドーハムの音色がきれいで、バリトンもそれに釣られるかのように朗らかになる。
演奏に波があるドーハムだが、ここでの演奏は素晴らしい。落ち着いたタンギングでフレーズのリズム感が安定していて、演奏に覇気がある。
それでいてペインの演奏を邪魔することなく、自分の立ち位置を明確にした演奏で、誰もがベストな演奏でペインを支えているのだ。
こんなにいいレコードが作れて、セシル・ペインもさぞうれしかっただろう。



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セシル・ペインとデューク・ジョーダン(3)

2022年12月11日 | Jazz LP

Cecil Payne / "The Connection" Composed By Cecil Payne And Kenny Drew  ( 米 Charlie Parker Records PLP-806 )


前衛ミュージカル "The Connection" のオリジナル・スコアを書いたのはフレディ・レッドだったが、このミュージカルが再演された際に
セシル・ペインとケニー・ドリューが新たなスコアを書きおろした。その新たな楽曲をペイン、クラーク・テリー、ベニー・グリーンの
セクステットで録音したのがこのアルバムで、私の知る限りではこれらの楽曲バージョンはこのアルバムでしか聴けない。
麻薬がテーマのこの演劇の音楽を最初に演奏したメンツが本物のジャンキーたちだったことから、そのイメージを払拭するためのリ・スコア
だったのかもしれない。

劇中音楽であることから各楽曲はメロディーラインがしっかりとしていて、音楽としての纏まりがよく、聴いていて楽しい。フレディー・レッドの
楽曲ほどキャッチーではないけれど、どの楽曲も表情が豊かで朗らかなムードに溢れている。私はこのミュージカルを観たことはないのでどういう
あらすじなのかは知らないが、これらの演奏を聴いた限りはどうやら暗い話ではないようである。

バリトン、トランペット、トロンボーンという重奏は厚みと重みがあってとても聴き応えがある。ピアノはドリューではなくデューク・ジョーダン
が担当していて、ここでも彼の音色の魅力が一役かっている。ドリューの無味無臭のピアノではこういうコクのような味わいはなかっただろう。

ペインのバリトンはキレが良く勢いがあって、素晴らしい演奏だ。他の2名の管楽器とは一枚も二枚も上手の存在感を放つ。これらのスコアは
こうやって演奏するんだぞ、とでも言うかのように、しっかりと自身の手のうちに収まった確信に基づいた演奏であることを感じる。

映画「危険な関係」の劇中音楽の正当な権利をアート・ブレイキーの手から取り戻すために、このレーベルでデューク・ジョーダンらの演奏で
アルバムを作ったように、ドリス・パーカーはこの音楽の権利を守るために先手を打ってセシル・ペインに演奏させたのだろう。ジャケットの
裏面には彼女の執筆した短文が載せられていることからも、このアルバムは彼女の肝入りだったようだ。製作者のミュージシャンへの愛と
演奏者の音楽への想いが詰まったとても良いアルバムに仕上がっている。


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セシル・ペインとデューク・ジョーダン(2)

2022年12月03日 | Jazz LP

Cecil Payne / Performing Charlie Parker Music ( 米 Charlie Parker Records PLP-801 )


ここではクラーク・テリーを加えたクインテットでパーカーが好んでやっていた楽曲を取り上げている。ロン・カーターがベースを担当していて、
アルコをやったりソロをとったりと存在感が他のベース奏者とは違いがある。クラーク・テリーの演奏が冴えなくて全体の足を引っ張っているが、
ペインとジョーダンは変わらず闊達な演奏をしている。このレーベルとは切っても切れないパーカーの音楽をかつての共演者がやるという、
企画としては当然の流れからくるアルバムだ。

ペインはバリトンだとは思えないくらい軽快な演奏をしていて、他のバリトン奏者たちとの個性の違いを見せている。元々はピート・ブラウンに
師事してアルトを吹いていたそうだから、なるほどと腑に落ちる演奏だ。ビ・バップでもハード・バップでも難なくこなせるのは立派だ。

このアルバムはこのレーベルにしては珍しいことに音質があまり良くないが、そんな中でもデューク・ジョーダンのピアノの音色は彼らしい
琥珀色のような凛とした色彩を帯びていて、印象に残る。裏ジャケットのライナー・ノートはペインのかつての盟友であるランディ・ウェストンが
書いているが、その中で彼はジョーダンのピアノのことを「彼の音色は、まるで雲間から陽が差して鳥たちが歌い出す中降り始める天気雨の
雨だれを想わせる」と形容していて、そのピアノが心象風景を想起させるというデューク・ジョーダンという人の特性を見抜いている。

音楽家たちがこうしてパーカーの音楽集をやるのは珍しくはないが、それはパーカーは演奏力だけに長けていたわけではなく、そこには豊かな
音楽性も兼ね備えられていたということであり、それがパーカーが人々の心の中にいつまでも残り続ける理由なのだろう。その音楽の価値を
守るためにわざわざこのレーベルが未亡人によって立ち上げられて、そこの主要な専属契約としてセシル・ペインとデューク・ジョーダンが
選ばれたのは最適な人選だったのだと思う。他のレーベルでは決して味わえない、滋味深い音楽を聴くことができる。



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