廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

満点の仕上がり

2022年08月21日 | Jazz LP (Imperial)

Harold Land / Jazz Impressions of Folk Music  ( 米 Imperial LP 12247 )


「ジャズを通して見たフォーク音楽」というタイトルでどの曲も知らないものばかりだが、確かにフォスターの「草競馬」みたいなメロディーの
曲もあったりして、どれも明るくわかりやすい曲調ばかりで非常に親しみやすい音楽になっている。着眼点がよかったのだと思う。

ハロルド・ランドのなめらかなテナーがきれいな音色で録れていて、演奏の良さがよくわかる。50年代のものよりも演奏がはるかに上手く感じるのは
わかりやすい音楽で歌い所が満載だからだろう。私が今まで聴いたこの人の演奏の中ではこれがダントツで出来がいい。フレーズも現代の奏者が
吹いていてもおかしくないような雰囲気があって、この感性の若さというか、何十年も先取りしたようなところには驚かされる。

カーメル・ジョーンズ、ジミー・ボンドを含め地味なメンツだけど、演奏は非常にしっかりとしていて、グループとしての纏まりも素晴らしい。
このレコーディングのためだけに集まったとはちょっと思えないほどの出来の良さだ。アメリカのジャズ界の層の厚さというか、体力の根本的な
違いみたいなものを感じる。

おまけに、このステレオ盤はおそろしく音がいい。インペリアルのようなマイナー・レーベルからは想像もつかないような高品質なサウンドだ。
最近の録音だ、と言われても疑うことなくそのまま信じてしまうような音質で、これにも面喰う。

演奏の圧倒的な素晴らしさ、音楽の出来の良さ、驚きのサウンド、どれをとっても満点の出来で、最近聴いて一番驚いたレコードの1つ。
他のタイトルと比較しなくても、聴いてすぐにこれがハロルド・ランドの最高傑作なんだろう、ということがわかる。
優れたアルバムというのはそういうものだと思う。



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圧巻の演奏とは裏腹に

2019年05月19日 | Jazz LP (Imperial)

Sonny Criss / Jazz - U.S.A.  ( 米 Imperial LP 9006 )


最初の1曲目から最後の曲までのどこを切り取ってもソニー・クリスが吹きまくっている、まさに金太郎飴のようなアルバム。 インペリアルには3枚の
アルバムを残したけれど、すべてが同じ作りになっている。 ワンホーンでスタンダードを短く吹き流す。 ヴィブラフォンが入っていたり、ギターが
入っていたりとアルバム毎にバックの構成の違いはあるけれど、本質的な違いはない。

ほとんどのフレーズを同じ音量でフラットに吹いていくので、そこには陰影美のようなものは感じられない。 音色は濁りのないクリアできれいな音で、
音圧も高いのでこのアルトのプレイには圧倒される。 強い顎の力や大きな肺活量がなければこうは吹けないだろうし、何より淀みなく流れるフレーズが
技術力の極みを証明している。 こんなになめらかに吹き続けられる人は他にはあまり思い付かないのではないだろうか。

ただ、そこにはパーカーやゲッツのような新しくて美しいメロディーの創造はない。 手クセ・口グセの断片をひたすら積み上げていくスタイルで、これが
音楽の金太郎飴化現象を引き起こす。 それをフラットな音量で吹き続けるので、その印象は増々強くなる。 素晴らしい演奏なのは間違いないけれど、
アルバムのすべてを聴き通す前に猛烈な満腹感がやってくる。 レコードなら片面の再生が終われば音楽は自動的に鳴り止むが、CDや配信だと再生を止める
タイミングが難しそうだなと思う。

この人の場合はそういう個性のアルトだから、2管編成くらいのほうがいい。 その時の相手は饒舌なタイプではなく、できれば口数の少ない人がいい。
そうすることで彼の素晴らしさは相対化されて、より輝くことになっただろう。 ただ、本人的にはそういうことには興味が無かったようで、その後も
似たようなアルバムが続くことになる。 全体の中でもう少しアルバムの作り方に変化があったら、もっとよかったのになと思う。

コメント (2)
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制作企画の大事さ

2014年03月29日 | Jazz LP (Imperial)

Sonny Criss / Plays Cole Porter ( Imperial LP 8084 )


ソニー・クリスはインペリアルでアルバムを作ったことが不幸の始まりだったと思います。 このレーベルに吹き込まれた3枚は企画が安易で、
明らかにプロデューサーの失敗。 ラジオを意識したのか、1曲あたり3分程度のスタンダードをワンホーンで吹き流すだけでは、ジャズとしての
創造の息吹は芽生えようがない。 インペリアルというレーベルは元々はカリフォルニアでメキシコ音楽を録音するために生まれたレーベルで、
その後の主力はファッツ・ドミノやT・ボーン・ウォーカーだったわけで、ジャズのことは全然わかっていなかった。

当時カリフォルニアに来ていたソニー・クラークを呼んだのはよかったけど、ジャンキーで心身ともにボロボロだったし、こんな企画内容では
ただバンドのバッキングをするしかなかったわけで、これなら別にピアノは誰でもよかった。

ジャズファンはインペリアルのレコードを聴いて一生懸命彼をかばおうとするものですが、別に彼をかばう必要はないのです。
彼は十分よくやっている。 それはレコードを聴けばわかります。 技術的には、彼はパーカーの次にアルトが上手い人だったと思います。
ただ、彼の孤軍奮闘な様と企画の退屈さのギャップに人々が戸惑うだけです。

レコードでしか黄金期のジャズしか接することしかできない私たちは必要以上にレコードにこだわるけど、それは仕方ないことです。
演奏内容だけでは飽き足らず、工業製品としてのレコード本体までしゃぶり尽くす。
但し、演者が素晴らしくて、初版レコードの手の込んだ意匠がどんなに素晴らしくても、制作の企画がつまらなければすべてが台無しになる。
インペリアルの録音はそのことを教えてくれます。




Sonny Criss / At The Crossroads ( Peacocks PLP 91 )


その点、このレコードはきちんとジャズ・クインテットとしての演奏を志向していて、素晴らしいと思います。 私はこれが一番好きです。
ジャケットのデザインが象徴しているような夜の雰囲気が濃厚で、これぞアメリカのジャズだと思います。

ワンホーンではすぐに食傷気味になるのですが、トロンボーンとの2管になるとアルトの良さが引き立ちます。 特に2曲目の You Don't Know~は
素晴らしいバラードになっています。 ウィントン・ケリーのピアノもみずみずしくていいです。 きちんとした企画を用意さえすれば
この人のレコードはいいものになったのに、残念ですね。 これは時々、無性に聴きたくなるレコードで、音質も抜群です。



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