廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

レーベルが変わることで印象が変わるテディー・エドワーズと共に

2023年07月29日 | jazz LP (Atlantic)

Joe Castro / Groove Funk Soul  ( 米 Atlantic Records 1324 )


ジョー・カストロはアトランティックにリーダー作を2枚残しただけなので、その実像はよくわからない。西海岸を拠点に活動していたようだが、
これといってスポットライトが当たることもなく、ひっそりとその生涯を終えたらしい。一時期、テディー・エドワーズと一緒に演奏をしていた
ようで、MetroJazzレーベルのロリンズのミュージック・インでのライヴ・アルバムの余白に収録されたテディー・エドワーズの演奏のバックで
ピアノを弾いている彼の様子が捉えられている。

私はテディー・エドワーズを聴いていると粗さを感じてしまうので好んで聴くことはないのだが、このアルバムを聴いて彼のテナーも含めた
音楽の良さに驚かされた。アップテンポの曲ではキレのよい闊達さで、ゆったりとした曲では深みのあるペーソス漂う表情で、いずれも懐の
深い音楽を展開している。このメンバーでこんなに豊かな情感が出てくるのか、というのが何よりの驚きだ。コンテンポラリー盤を聴いても
テディー・エドワーズの良さはあまりうまく捉えられていないと思うのは私だけなのだろうか。

カストロのピアノはバップの洗礼を受けていないような中道的なスタイルで、そういうところがこの音楽をありふれた雰囲気になることから
救っているような印象を受ける。テクニックを押し売りするようなところもなく、必要十分なだけの演奏で音楽を作り上げている。

ルロイ・ヴィネガーとビリー・ヒギンズの演奏もこれ以上ないくらいタイトで、この安定感があればこそ、という感じだ。特にヴィネガーのベースの
重量感のある音色が上手く録れており、全体がジャズのサウンドとして魅力的にまとまっている。アトランティックにしては珍しく音もよく、
このレーベルのモノラル盤に感じるストレスもまったくない。

こんなにいいレコードなのになぜ陽の目を見ることがないんだろう、とぼんやりと考えながら聴くけど、いつもその理由はよくわからない。



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R.I.P Tony Bennett

2023年07月23日 | Jazz LP (Vocal)

Tony Bennett / Cloud 7 featuring Chuck Wayne  ( 米 Columbia Records CL 621 )


正直、いつ訃音が届いてもおかしくはない、と思っていたから大きなショックを受けたということはないけど、それでもトニー・ベネットが
亡くなったのは残念なことだと思う。ここ数年、SNSで彼の情報は頻繁に流れていてその近況や様子などもわかっていたから、来るべき日が
来たんだな、と静かに受け止めている。

私は彼のことがとても好きで、20代の頃からずっと聴いてきた。歌手としてはシナトラなんかよりもずっと好きで、とても近しい存在だった。
コロンビアにたくさんのレコードが残っていて、その大半は聴いたと思う。ベルカント唱法をベースにしたその歌声を聴くと、私の心の中の
靄はどこかへ吹き飛んで、どこまでも透き通った青空のように晴れ渡ったものだ。そんな気持ちにしてくれたのは彼しかいなかったと思う。






コロンビアのレコードのいいところは、バックのオーケストラの演奏が素晴らしいものが多いというところだ。それ単体で聴いても聴き惚れる
ものが少なくない。特にこのラルフ・バーンズのスコアは格別の出来。そして、そのフルオーケストラのサウンドにも負けないトニーの声量の
凄まじさ。でもそういう圧倒的な迫力だけではなく、彼の歌には常にどこか寂し気で哀しげな表情があった。そういう不思議さが私の心を打つ。






彼の最高傑作はこれ。個人的な思い入れが強すぎて客観的には語れないほど好きなアルバムで、モノラルとステレオの両方を聴いている。
他にもいいアルバムはたくさんあって、すべては載せきれない。どのアルバムもアメリカ音楽の良心のようなものばかりだ。

R.I.P トニー・ベネット。あなたの歌はいつも私の心の中にあり続ける。



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抒情味に溢れる傑作

2023年07月09日 | Jazz LP (Milestone)

Thad Jones~Pepper Adams Quintet / Mean What You Say  ( 米 Milestone Records MLP 1001 )


単純なリフとアドリブだけだったビ・バップがメロディーとハーモニーを取り入れてハード・バップへ移行したように、ハード・バップもいくつかに
枝分かれしながら次のフェーズへと移行しているが、その支流の中に細々としながらもよりメロディアスで洗練された音楽へ発展したものがある。
音楽的にはこの時期の果実が実は一番甘くて美味しいのだが、レコードがあまり残されていない。おそらく、ライヴなどではそれなりに演奏されて
いたのだろうとは思うが、やはりアルバムとして発表するには向かなかったのだろう。音楽家たちはより新しい音楽を発表して生存競争に勝ち残って
いく必要があり、そのためにはそういう心地よさは後退を意味したのだろうと思う。

そういう状況の中で残されたこのアルバムは、他ではなかなか聴くことができない得難い内容を持った素晴らしい音楽を聴かせてくれる。
サド・ジョーンズは元々ゴリゴリのハード・バップからは少し離れたところにいた人で、アート・ファーマーなんかと同じように自身の穏やかな
音楽性をメインにした音楽をやっていたが、そこにペッパー・アダムスのハードボイルドな演奏とデューク・ピアソンの可憐な抒情性を加えた
なんとも洗練されて筋の通った上質な作品が仕上がった。

全編がマイルドでなめらかでメロディアスで、それでいて高度な演奏として1つにまとまっており、非常に素晴らしい。サド・ジョーンズの
フリューゲルホーンは望郷的な郷愁感が漂い、それに寄り添うアダムスのバリトンの硬質な抒情性が圧巻。そして、やはりピアソンのピアノが
よく効いていて、この人の個性が裏で音楽を1つにまとめている。出しゃばらなければロン・カーターのタイム・キープは適切で、メル・ルイスの
鉄壁のサポートで音楽は揺らぐことがない。

この時代の本流ではなくても、これは忘れらない1枚である。


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ひんやりと冷たいカナダのジャズ

2023年07月02日 | Jazz LP (Jubilee)

Moe Koffman / The "Shefferd" Swings Again  ( 米 Jubilee JGM 1074 )


カナダのマルチ・リード奏者のモー・コフマンの最高傑作はおそらくこれ。ロクに相手にされない人で、そもそもレコードが出回らないから実態が
よくわからないけど、メインがフルートというせいもあるかもしれないが、それにしてもあんまりだと思う。これも確かワンコインだったと思う。

ピアノレスでエド・ビッカードを含むカナダ人リズムセクションをバックに、A面はフルート、B面はアルト、の各々ワン・ホーンで臨んでおり、
ゆったりとしたミドル・テンポ以下の演奏が圧倒的に素晴らしい。フルートの音色は太く奥行きがあって美しく落ち着いているし、アルトは
レニー・ハンブロのようになめらかで清らか。旋律はよく歌っていて陰影のつけ方もうまく、聴いていてうっとりとさせられる。

カナダのジャズにはアメリカのように常に変化を求めるような性急さは見られず、割とのんびりとしていたんじゃないだろうか。
そう思わせるようなゆったりと穏やかに流れていくような雰囲気があり、全体的に上質な音楽となっている。

ジュビリーのレコードはJLP規格で青レーベルがオリジナルと言われているが、私がこれまで聴いてきたタイトルはどれもJGM規格の
黒レーベルのほうが盤の材質が固くて重く、音もずっといい。だから、この黒レーベルのほうを狙って拾うようにしている。
このアルバムも音質は非常によく、ひんやりとした空気感の中で楽器がクリアに鳴っている。このレーベルの中では特に好きな1枚だ。


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