廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

"ジャズの街" という地味なレコード

2020年07月30日 | Jazz LP (Dawn)

Gene Quill, Charlie Rouse / Jazzville '56 ( Vol.1 )  ( 米 Dawn DLP 1101 )


Dawnレーベルには他レーベルでは聴けないようなタイプの音楽が何気に残っていて、マイナーレーベルとしての存在感が際立っている。 "ジャズの街" と
題された4枚のアルバムも地味ながらも地に足が着いた演奏が刻まれていて、じわじわと良いレコードだなという想いが湧いてくる。

この第一作にはチャーリー・ラウズとジュリアス・ワトキンスのグループとジーン・クイルのクインテットの演奏が半分ずつ収録されている。両方いい演奏だが、
特にジーン・クイルの演奏が抜群に良くて、他にはあまり録音が残っていないだけに、貴重な1枚だと思う。相方のディック・シャーマンはビッグ・バンドでの
活動が主だったのでリーダー作が残っておらず、一般には知られていないトランペッターだが、奥ゆかしい演奏スタイルでクイルとは適切なバランスを取る。

クイルがワンホーンで切々と歌う "Lover Man" は心に刺さる演奏で、忘れ難い。フィル・ウッズとよく似た音色で、これぞアルト・サックス、というフルトーンが
素晴らしい。リーダー作がほとんど残っていないのが本当に悔やまれる。この録音もLP片面分しか残っておらず、これだけしっかりとした演奏をしているのに、
フル・アルバムが残っていないのが不思議だ。アメリカのレコード制作は結構業界の隅々まで目が行き届いていて、無名のミュージシャンのレコードが山ほど
残っているんだけれど、なぜかこの人は網に引っかからずに漏れてしまっている。

このレコードはフラットエッジで両面とも手書きのRVG刻印があり、カゼヒキもなく、音が凄くいい。特にラウズやクイルのサックスの音が素晴らしく、
いかにもヴァン・ゲルダーらしいサウンドだ。適度な残響の中、楽器の音が輝かしく鳴り、Dawnのレコードのイメージを覆す。にもかかわらず、こういう
コンピレーション系のアルバムは人気が無く、安レコとして転がっているもんだから、ありがたく思いながら拾うことになる。


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

より外縁に近い音楽

2020年07月27日 | Jazz LP (Dawn)

Randy Weston / The Modern Art Of Jazz  ( 米 Dawn DLP 1116 )


ランディ・ウェストンを語る時にセロニアス・モンクとの類似性が出てくるのは尤もな話だ。調子外れのリズム、不協和音、へんてこりんなフレーズ、
そのどれもがモンクを彷彿とさせる。物真似をしている様子はなく、この人もモンクと同じ空間に生きているんだなという感じがする。

ただ、よくよく聴いていくと、モンクよりも中心からずっと離れた外縁部に近いところにいるように思う。モンクは意外とジャズという音楽のコアの傍にいて、
演奏面でもラグタイムなどの古いジャズがベースにあることからもそれが明確だ。それに比べて、ランディ・ウェストンはジャズというアメリカ音楽ではなく、
第三世界の土着的音楽が根っこにあるような感じで、そういう器にジャズの要素をブレンドしたような音楽を聴かせる。そういう意味では、よりラディカルと
言えるかもしれない。

初期の活動にはセシル・ペインと活動を共にし、バリトンという異色の楽器を暗い隠し味として使っているような感じで、メロディアスに歌わせることは
させなかった。スタンダードを演奏してもメロディーを美しく奏でることもなく、音楽全体が奇妙に歪んでいる。その歪みをそのまま楽しめるかどうかで、
この人への評価は変わってくるのだろう。

そういうこともあって、高名な割には人気はなく、その音楽を語られることもないけれど、意外にレコードはたくさん残っていて、当時は今よりもずっと高く
評価されていたことが伺える。白人をメインに使った作風が多いこのレーベルに、急にポツンとこの人のアルバムが出てくるのも不思議だが、彼の知性が
レーベルカラーに違和感なく溶け込んでいる。カゼヒキ盤ばかりで通常とは違う意味で中々買えない盤だが、フラットディスクのきれいなものが転がって
いたので、ようやく家で楽しんで聴けるようになった。カゼヒキもなく、値段も安かったが、こればかりは気長に待つしか手がない。


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1 / 2,000

2020年07月26日 | Jazz LP (Dawn)

Cy Coleman / S/T  ( 米 Seeco CELP 402 )


新宿で安レコが2,000枚出る、というので見に行った。枚数が多いので2回に分けて、1,000枚ずつ出すという。1回目は空振りで出ぶらで引きあげたが、
2回目に750円のこれを拾って来た。2,000枚探して、1枚。この2,000分の1という数値がこの趣味の実態を現わしている。世の中にはレコードが溢れている
けれど、実際に買うレコードはそのくらいの比率でしかないのだ。これは時たま見かけるレコードで別に珍しい物ではないけれど、値段が今まで見た中では
最安値だったので、拾って帰ることにした。

サイ・コールマンはショー・ビジネスの人という印象で、誰もジャズ・ピアニストとは思っていないだろう。そのピアノもただのカクテル・ピアノ扱いされている。
でも、実際に聴いてみると、そういうのとはちょっと違うんだなというのがわかる。しっかりとしたピアノの腕、卓越したリズム感、しっかりとフレーズが歌う
アドリブ、とジャズ・ピアノとして一級品だ。彼にしてみれば、ジャズという音楽は自分には簡単だし、カネにならないし、というので早々に引き上げたんじゃ
ないだろうか。

朗らかで、デリケートで、しなやかなピアノ・トリオで、あまりの良さに聴きながら正直驚いた。バックでピアノを支える無名のベースとドラムも上手過ぎるし、
何なんだこれは、と唸りながら、ピアノ・トリオとしての一体感に呆然としながら聴くしかなかった。

ただ上手いだけではなく、音楽にタメが効いていて、深い余韻が残る。上っ面だけで流暢に音楽が流れて行くことなく、意志を持ってコントロールされている。
自分の中で音楽が消化されて、血となり肉となって演奏されているのだと思う。

Seecoというレコード会社にはジャズをメインに取り扱うDawnレーベルがあるが、このアルバムはそちらではなくSeeco本体からリリースされているせいで、
ジャズファンの盲点になっているのは何とも皮肉なことだ。違いの判る人には、この演奏の良さがきっとわかるだろう。言うまでもなく、ジャケットのデザインは
バート・ゴールドブラッドで、このアルバムの内容に相応しい意匠だと思う。


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音質が作品を救った1枚

2020年04月07日 | Jazz LP (Dawn)

Al Cohn / Cohn On The Saxophone  ( 米 Dawn DLP 1110 )


モノラル・プレスのレコードとして、おそらくこれは最高音質を誇る1枚。ジャズの世界ではRVGブランド一強だが、RVGが絡まないアルバムとしては
これを超えるものはすぐには思い付かない。バックのピアノ・トリオに関してはそれ程目立つ音ではないが、とにかくアル・コーンのテナーの音が
尋常ではない。そして、それが難あり盤が多い Dawnレーベルだという不思議。
にもかかわらず、音質がいいと「名盤」と言われて褒められるこの世界で、このレコードは名盤と言われることがない。なぜか。

アル・コーンの実力派としての力量には疑う余地はないにもかかわらず、作品としての決定打がない。高名なテナー奏者の割には50~60年代に
演奏者としてのリーダー作があまり残っておらず、この人にとって名刺代わりになるようなアルバムが1枚もない。なぜか。

その理由は、おそらくこの人の音楽の指向性の曖昧さにある。スイングを指向しているか、モダンを指向しているのかがどうもよくわからない。
そもそもがどちらもできるし、テナー奏者としては何でも吹ける。そのせいなのかどうかはわからないけれど、彼自身がやりたい音楽が何なのか、
聴き手にはイマイチよくわからないのだ。

これでは、プロデューサーはアルバム制作がやりにくかっただろう。何をターゲットにしてアルバムを作ればいいのかがよくわからない。
本人も音楽家としてやりたいことが自分の内には明確にはなかったのかもしれない。編曲もできたから、そこに重点を置いたアルバムも
残ってはいるものの、その路線を極めようとした形跡も見られない。何でも器用に出来てしまうから、何かを成し遂げたいという欲が
希薄だったのかもしれない。

ズートにせよ、ゲッツにせよ、ペッパーにせよ、白人のサックス奏者たちはいわゆるハード・バップをやることはなかった。それは彼らの
音楽的ルーツにはなかった形式だし、そういう環境からも離れていた。それとは明確に一線を引き、自身の考えるジャズを展開した。
アル・コーンも、そういう意味では彼らと同様の状況だったのではないか。だから自身の音楽を展開すればよかったのにと思うけれど、
どうも積極的にアルバムを作ろうとした形跡が見られない。淡泊な性格だったのかな、とも思う。

そんな中で、このアルバムは貴重な1枚である。ジャズが一番ジャズらしかった50年代の、複数テナーではない数少ないアルバムの1つだ。
トロンボーンも入っているが、弱々しい演奏なので、ワンホーンに近い印象が残る。陰影の深いミディアム~スローの曲の出来が素晴らしく、
最高じゃないかと思う。ただ、そういう楽曲は少なく、あまり印象に残らないアップテンポの曲が多いので、アルバムとしての満足感は
平均点辺りで落ち着くことになる。どうも聴き手から見たこの人の良さがアルバム作りに生かされているような感じがないのが残念だ。

それでも、このアルバムの音質のクオリティーのおかげで、手放せない1枚となっている。これと同質のサウンドは他のレコードからは得られない。
ご本人には申し訳ない言い方だが、音質に救われた側面がある1枚だと思う。


コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

深夜の待合いベンチに座って

2019年09月28日 | Jazz LP (Dawn)

Zoot Sims / Goes To Jazzville  ( 米 Dawn DLP 1115 )


個人的な長年の懸案盤、諦めかけていた頃になってようやくかぜひきではないきれいなものにぶつかった。 これはかぜひきが多く、現物を確認
しないと買えないので時間がかかった。 Dawnのもう1枚の "The Modern Art Of" はどこにでも転がっているが、こちらは弾数自体が少なく、
現物を手にする機会が全然ない。 おまけに値段も安かったので、言うことなしである。

ズートはその音色と語り口が魅力なのでワンホーンで聴きたいアーティストだが、これは無名のトランペッターがおとなしい演奏で寄り添う感じなので
あまり気にせずに聴ける。 ブルックマイヤーとやったほうは古いスタイルの野暮ったい音楽で退屈な内容だが、こちらはもう少しモダンに寄った内容
なので、すっきりとしている。

この盤で面白いのは、セロニアス・モンクの "Bye Ya" をやっているところ。 ズートがモンクの曲をやっているのは、これ以外には私にはすぐには
出てこない。 録音の多い人だからどこかでやっているのかもしれないけれど、少なくとも私には他には思いつかない。 どうやら本人の音楽嗜好には
合わなかったらしく、ビッグネームとしては珍しくモンクの曲を取り上げない人だった。 "Bye Ya" の演奏もモンクの曲想を表現しようという意図は
感じられない。

全曲を通して柔らかくしなやかな質感が良く、心に残る音楽になっている。 "Ill Wind" のしんみりとした抒情感が素晴らしく、ズートのバラード
演奏の極みが聴ける。 ナロー・レンジの音場感もこの音楽の雰囲気にはよく合っていて、却って好ましい。 ジャケットの深夜の駅の待合室らしい
風景はこの音楽の雰囲気をそのまま表現していて見事だ。 演奏のために次の街へと行くミュージシャンの生活の様子がこの音楽の中から立ち現れて
くるようだ。 アナログ盤にはそういうノスタルジーを掻き立ててくれる何かがある。


コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

DAWN にも音のいいレコードがある

2018年10月10日 | Jazz LP (Dawn)

Richie Garcia / A Message From Garcia  ( 米 Dawn DLP 1106 )


若い頃に憧れたレコードの1つにズート・シムズの "The Modern Art of Jazz" があった。 当時読んでいた油井先生の名盤100選に載っていたそのアルバムは
当然ながら廃盤で、入手はおろか、現物を見たことすらなかった。 だから何年か過ぎてそのレコードを手に入れた時の嬉しさとガッカリ感はハンパなかった。 
とにかく音がこもっていて、まるで分厚いカーテンの向こうで鳴っているのを聴いているような感じだった。 結構高い値段だったにもかかわらず、すぐに
聴かなくなってしまい、早い段階で処分したように思う。 それ以来、この "DAWN" というレーベルに良い印象が無くなってしまった。

ところが、数年前に同レーベルのアル・コーンの渦巻きアルバムを聴いて、それまでの固定観念は崩壊した。 まあ、恐ろしいくらいの音が鳴るレコードで、
このレーベルにもこういう音が出る盤があるんだ、ということを知った。 誤解が氷解すれば、後はボチボチと聴いて行けばいい。

先のヴィンソン・ヒルと一緒に拾って来たこのリッチー(ディック)・ガルシアもとてもいい音で鳴る。 アル・コーンのようなこちらを脅すような音場ではなく、
もっと品が良く、それでいて豊かな残響が奥行き感と立体感をホログラムのように表出させるような感じだ。 楽器の音も明るく輝いていて、ハーモニーも
音が潰れて濁ったりすることもなく、構成音がきちんと分離して聴こえる。 音圧も高く、見事なモノラルサウンドで部屋を満たしてくれる。

白人の小粒な奏者が集まって演奏しているから、きっとサロン風の退屈な内容なんだろうなというこれまた誤った先入観で手に取ることなく来たのだが、
きちんと聴いてみるとこれが予想を覆す素晴らしい内容で、これまたビックリした。 そもそも、ビル・エヴァンスが数曲弾いているなんて知らなかった。

でも、ここでの聴き所はジーン・クイル。 涼し気で清潔な澄んだ音色が本当に美しく、初めてこの人のアルトに感動した。 今まで聴いていたルースト盤や
プレスティッジ盤は一体なんだったんだろう。 トニー・スコットと楽曲を分担しているのが惜しい。 全編クイルだったら、このアルバムの評価は
おそらく一変していただろうと思う。

どの曲も短いが繊細で清涼な雰囲気があって、それでいて軟弱ではなく聴き応えのある音楽になっているのが素晴らしい。 これは思わぬ拾い物だった。


コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする