廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ジャズ・ピアノとしての弱さ

2023年05月28日 | Jazz LP (Riverside)

Randy Weston / Trio And Solo  ( 米 Riverside RLP 12-227 )


お洒落なスーツにオレンジ色のシャツ、背後にはクラシック・カー、とわざわざこのアルバムジャケット用に写真を撮っている。リヴァーサイドは
カタログの初期にランディー・ウェストンのアルバムを立て続けに出していて、異例とも言える好待遇をしている。彼のレコード・デビューは
このリヴァーサイドだったようなので、キープニューズの新人発掘力の賜物だったのかもしれない。他のレーベルがまだ手を付けていない才能を
紹介するというのはレーベルにとっては大事なパブリシティーになるだろうし、当時三顧の礼をもって迎えたセロニアス・モンクとよく似た個性を
持つこのピアニストは、キープニューズの眼には大きな逸材として映ったのかもしれない。

ただ、このリヴァーサイドとの契約が終わった後はあまりパッとはしなかった。彼は長生きして、生涯ジャズ・ピアニストとして活動して
たくさんの作品を残したけれど、ジャズ・ファンからの評価とは無縁だった。モンクとよく似た間の取り方やフレーズを弾くが、あそこまで
徹底はしておらず、個性としては弱かったことは否めない。モンクが古いラグタイムやブギウギを基盤にしていたのに対して、この人の場合は
そういうリズム感の面が弱く、ジャズっぽくない。だからモンクはどんなにねじれていても常にジャズの核心に触れた音楽になっていたけど、
この人はそういう中心からは大きく離れた外縁部付近にいて、そういうところが一般的なファンには届かなかったのだろうと思う。

このアルバムはA面がブレイキーらとのトリオ、B面はソロ演奏で彼のピアノがよく堪能できる内容となっているが、流麗・闊達とは言えない
ピアニストとして弱さが浮き彫りになっている。ただ、そうは言いながらもレコード自体はこうして手元に残っているのだから、私自身は
嫌いではないということなんだろう。頻繁に聴くというわけではないにしても、たまに聴いてみるかと取り出すことがあるのだから。

録音はハッケンサックのヴァン・ゲルダー・スタジオだが、モンクのレコードと同様にRVG刻印がない。当時のリヴァーサイドのレコードは
これが標準だったのかもしれない。



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実は傑作(3)

2023年05月21日 | Jazz LP (Warwick)

V.A / The Soul Of Jazz Percussion  ( 米 Warwick W 5003 ST )


錚々たるメンバーが参加しているが、誰のリーダー作でもなく、パーカッションというキーワードを出していることから顧みられることなく、
スルーされる不幸なアルバム。メンバーはビル・エヴァンスを筆頭に、カーティス・フラー、ドナルド・バード、ブッカー・リトル、ペッパー・アダムス、
ドン・エリス、マル・ウォルドロン、フィリー・ジョー・ジョーンズ、ポール・チェンバース、アディソン・ファーマー、その他ラテン系が参加していて、
楽曲によって演奏するメンバーの組み合わせが変わるという万華鏡的スリルがある。

ラテン音楽を基調にしようとするコンセプトになっているが、実際はラテン臭さはなく、ハード・バップが主軸になったとてもいい内容だ。
ビル・エヴァンスは4曲、その他はウォルドロンが楽曲を受け持っており、ここが分水嶺となって音楽の雰囲気が少し違っている。エヴァンスは
ちょうどポートレートの頃の演奏なので一番良かった頃の彼の演奏がそのまま聴けるし、ウォルドンのほうはよりラテン風味を生かした楽曲と
なっていて、カラフルな雰囲気になっているのが好ましい。ウォルドロン作の "Quiet Temple" ではエヴァンスのピアノが真骨頂を見せ、
短いながらもまるで "Blue In Green" の世界を描き出すかのよう。

各楽曲の出来がよく、どれもラテンの哀愁感がよく出ており、音楽的な感銘も受ける。充実した管楽器の演奏も素晴らしく、満点の出来だ。
なぜこんなマイナーレーベルでここまでゴージャスで質の高いアルバムを作ることができたのかはよくわからないけれど、このレーベルは
他のアルバムも質が高いものが多く、いい音楽スタッフがいたんだろうなと思う。こういうところにジャズという音楽の底力を感じる。



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評価は一旦お預けのレコード

2023年05月14日 | Jazz LP (United Artists)

Booker Little / Bokker Little 4 & Max Roach  ( 米 United Artist UAL 4034 )


ブッカー・リトルとジョージ・コールマンの演奏が聴ける貴重な音源だが、音が良くなくて演奏の良さがさっぱりわからず興ざめする非常に残念な
レコードだ。ステレオ録音したものをモノラルへミックスダウンした際に失敗したような感じの音のこもり具合で、楽器が音が死んでいる。
ルイス・メリットという人が録音技師を務めていて、マスタリングをやったのが誰かは記載がないけれど、この人は1959年にUnited Artistから
リリースされたレコードの多くを手掛けていて、その中のサド・ジョーンズの "Motor City Scene" やセシル・テイラーの "Love For Sale" 、
ジョージ・コールマンの "Down Home Reunion" なんかもモノラルは一様に音が冴えないから、やはり何か問題があったのだろう。

だからステレオプレスが聴きたいと思って長年出会いを待っているんだけど、これが全然縁がない。中古漁りをする人にとってこの縁があるとか
ないとかいうのは本当に厄介な問題だ。

熱のこもった演奏をしているようなのでちゃんとした音で聴ければその良さを堪能できるのだろうが、これでは評価のしようがない。
ということで、これはいい/悪いの評価は一旦お預けとせざるを得ない。こういうレコードは他にもいろいろある。



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ライムライトという語感に沿う音楽

2023年05月08日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Milt Jackson / Born Free  ( 米 Limelight LM-82045 )


1966年12月の録音だが、この頃になるとハードバップは完全に蒸発してその姿は見えなくなり、ジャズ界にはまったく違う風が吹くようになる。
主にこの時代を20代として過ごした若者たちによってその新しい風は吹かされていて、30代の大人たちは何とか上手く乗り切っていたが、
ミルト・ジャクソンのような40代になるとなかなか厳しかったようだ。色々と試行錯誤していたが、根っからの新しい音楽にはなり切れなかった。
ただ、そういうニュー・タイプは難しくても、かつてやっていたメロディー重視の音楽をベースにそれを発展させるタイプになると、このアルバムの
ように独自の良さが発揮されるものも現れ始める。

盟友のジミー・ヒース、当時は期待された若者の1人だったジミー・オーウェンズをフロントに迎えて、美しいメロディーを持った曲やジャズメンの
優れたオリジナル曲を集めて、アドリブは抑えてメロディーを聴かせるスマートな演奏に徹したところがうまく成功した。音楽のタイプは少し違う
けれど、マリガンの "Night Lights" なんかと同じ方向を志向したタイプの内容で、それがイージー・リスニングに堕ちずにきちんとジャズになっている
ところがさすがの仕上がりだと思う。

このアルバムで初めて聴いた曲も多いが、中でも "We Dwell In Our Hearts" という曲がとてもいい。この曲が聴きたくてこのアルバムを手にする
ことが多いが、そういう楽曲が入っているアルバムは幸せだなと思う。

このライムライトというレーベルはマーキュリーの傍系だが、その名の通り、ソフトな音楽を提供することがコンセプトだったようだ。
かつての大物たちが数は少ないながらもアルバムを残していて、中には傑作と言っていいような出来のものもある。盤に貼られたレーベルの
左上にあるちっちゃなドラマーのデザインが可愛く、いつもこれを見るとほっこりとした気持ちになる。



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フィリー・ジョーの最高傑作

2023年05月01日 | Jazz LP (Riverside)

Philly Joe Jones / Drums Around The World  ( 米 Riverside RLP 12-302 )


フィリー・ジョー・ジョーンズはリヴァーサイドに3枚のリーダー作を残しているが、このアルバムがダントツで出来がいい。
おそらく、こんなに豪華なメンバーが集まって演奏をしたアルバムは他のどこにもないのではないだろうか。ドラマーとして多くの管楽器奏者を
支えてきたこの人のためなら、ということで集まったメンバーたちは当時のジャズ・シーンを支えていた重要なメンツばかりで驚かされる。

冒頭のリー・モーガンのソロが爆発してキャノンボールに渡すところなんてもう最高にカッコいい。このアルバムでのモーガンとキャノンボールは
最高の演奏を聴かせるが、これはやはりフィリー・ジョーのドラミングが背後から彼らを煽り立ててくるからだろう。管楽器のアンサンブルは切れ味
抜群で凄まじく、聴いていると頭がクラクラする。

ドラマーのリーダー作ということでドラミングにスポットが当たる箇所が多いが、大きくうねるような流れと強弱のバランス、フロア・タムを多用
した豊かな低音部など、飽きることなく聴かせる。こういう風にソロが鑑賞に堪えうるところがアート・ブレイキーやマックス・ローチとは全然違う。
フィリー・ジョーはブレイキーやローチなどの前時代のドラマーたちとトニー・ウィリアムスら次世代とをつなぐ架け橋をしたんだなということが
これを聴いているとよくわかる。

ベニー・ゴルソンがいるのでアンサブルのスコアもカッコよく、音楽的な充実度も素晴らしい。演奏の凄さとしっかり両立している。
"Stablemates" はマイルスの演奏とこれが双頭の出来だ。

おまけに、このアルバムは音が素晴らしい。ジャック・ヒギンズがリーヴス・スタジオで録った録音だが、楽器の音の鮮度が高く生々しいし、
ほの暗く深い残響感がニューヨークの夜を思わせる。全体を覆う管楽器の深い重層感と疾走感がジョニー・グリフィンの "Little Giants" とよく似た
雰囲気だが、こちらのほうがよりスマートで都会的な洗練さを感じる。リヴァーサイドは時たまこういう大化けするアルバムを作った。
私はジャズ喫茶が嫌いで行かないけれど、これだけはああいう大音量で聴ける環境で聴きたいと思う。



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